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舞台は江戸深川の貧乏長屋。そこで老侍が自ら命を絶つ。腹を切ろうにも、生活のために刀は売り払い、首を吊ったのである。 しかし、長屋の連中は、悲しむどころか、「どうもこうも朝から嫌なもんを見ちまった」だの、「侍のくせにこんな死に方を」などと騒ぐばかり。弔いでも、大家のおごりだと大騒ぎを繰り広げる。まず、この勢いに驚かされる。 その長屋には、もうひとり、暮らしにつまった侍・海野又十郎(河原崎長十郎)がいた。女房のおたきが紙風船を作る内職をしてなんとかしのいでいるが、ただひとつの望みは、唯一の知人毛利様を頼って、仕官の道を開くこと。しかし、相手はなんだかんだと逃げ回る。強気で頼み込むこともできない又十郎。そんな折、遊び人の髪結い新三が、大店白子屋の娘をかどわかし、大金をせしめる。又十郎は、その一件と関わりを持ってしまった…。 タイトルからは、人情いっぱいの物語のようだが、展開は明るくはない。公開は1937年。この映画の封切りの日に、まだ二十代だった山中貞雄監督のもとに召集令状が届き、そのまま戦地で戦病死することになった。この映画には、名もない人間の死が描かれると同時に、底辺で生きる庶民の姿が延々と出てくる。おたきの作った「紙風船」が何を暗示しているのか。戦争一色になりつつある時代に監督が何を思ったのか。余韻が残る。 ( 書き下ろし ) |
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