


勝新太郎が、「座頭市」の原作と出会った時の想いである。
三味線の世界では天才ともてはやされる腕前を持ちながら、映画界への憧れを捨て切れず、大映に入った勝。しかし、長谷川一夫をマネした不似合いな役どころばかり演じさせられ、長らくヒット作に恵まれなかった。時代劇スターとしてデビュー当時から活躍していたライバル・市川雷蔵ともその差は開くばかり。不遇の状況の中、勝自身が初めて熱望した、自ら演じてみたい理想の役柄が「座頭市」だった。この「座頭市」との出会いによって、勝新太郎の存在は一変した。市川雷蔵と並ぶ、大映の看板俳優としての地位を確立し、誰もが認める日本を代表するスターとなった。
勝新太郎の役者人生を語る上で、何よりも重要なのが「座頭市」だろう。その勝新太郎が自ら制作総指揮を務め、全身全霊をかけて制作したといわれるのが、テレビ版「座頭市」だ。勝新太郎の生誕80年を迎える記念すべき11月、時代劇専門チャンネルでは、テレビ版「座頭市」4シリーズ全100話を完全放送する!しかも、この度の放送のため、全エピソードを膨大な時間をかけてHD化。ハイビジョンの迫力ある映像で新たに甦る「座頭市」を半年間にわたってお楽しみいただきたい!!
座頭市は、天保の頃の盲目の侠客。市という名前以外、本名は不明。通常は、揉み治療を渡世として関八州を歩く。博賭もすれば女も好むが、己の信条により非道を行う者には怒りの仕込み杖が襲う。子母沢寛の随筆集を原作に、勝新太郎の怪演により時代劇屈指の人気ヒーローとなった。
20作を超える一大人気シリーズとなった映画版の後に、フジテレビ系列で放送されたこのテレビ版「座頭市」は、勝新太郎自らが制作を務め、TV時代劇の枠を遥かに超えたクオリティの高さから、時代劇ファンの間では伝説となっている。春日太一の著書「天才 勝新太郎」によれば、このテレビ版「座頭市」の撮影は、現在では到底考えられないものだった。まず、完璧主義で知られる勝新太郎がテレビでの「座頭市」制作を引き受けるにあたって、当時1話あたりの相場に対して2.5倍という破格の制作費が用意されたという。大川橋蔵「銭形平次」に続き、局の看板時代劇を作ろうとしたフジテレビの「座頭市」への想いも並々ならぬものがあった。
大映時代、映画制作において様々な制約を受け、思うような作品を作れなかったことから、自身の制作プロダクションである勝プロを設立していた勝は、潤沢な制作資金を背景に、理想の制作環境を追求していった。主演だけでは飽き足らず、自ら監督や脚本を手がけるほどの入れ込みようで、仕込み杖を使った逆手の居合いや下駄履き姿など、原作にはない勝ならではのアイデアが随所にちりばめられている。驚くことに、この「座頭市」の制作現場はシリーズが進むにつれ、台本が存在しなくなっていった。「偶然生まれるものが完全なものだ」という勝の信念にもとづき、脚本は事前に準備せず、大まかな筋立てだけを用意して、あとは現場での勝の即興の演出によって試行錯誤を繰り返し、撮影していった。当然、現場は混乱を極めたが、出来あがった作品は誰もが驚くほどの完成度になっていた。今、あらためて観ても、1話1話がそれぞれ映画に勝るとも劣らないクオリティを誇っており、ある意味では、映画版以上に勝新太郎の想いが凝縮された「座頭市」の世界が繰り広げられている。
また、勝新太郎の人望もあり、盟友・石原裕次郎をはじめ、植木等、中村翫右衛門、北大路欣也、浅丘ルリ子、原田芳雄、吉永小百合、藤田まこと、原田美枝子、辰巳柳太郎といった、当時の日本映画界を代表する超豪華キャストが毎週にわたって出演した。撮影現場は混沌とし、スケジュールも無茶苦茶だったというが、「座頭市」への出演を希望する役者は後を絶たなかったという。「作品を少しでも良いものにしよう」という純粋な想いから、勝は共演者を生で見て芝居を変えていった。結果、脚本はゲストの魅力が引き立つようにアレンジされていき、それを勝が即興で演出して、最高のスタッフがそれをサポートしながら画にしていく。心ある役者なら、この現場に気持ちを動かれされないはずはない。錚々たる実力者たちが、勝の魅力に惹かれて「金よりも良い芝居がしたい。」と、スケジュールを調整して「座頭市」に出演するため、京都にやって来た。その豪華キャストと円熟味を増した勝=座頭市の演技、そして、映像京都のスタッフたちが織りなす世界の重厚感は圧倒的で、テレビ版「座頭市」は高視聴率を記録。お茶の間の視聴者を釘づけにしたのだ。
このテレビ版「座頭市」の本編ネガフィルムは、残念ながら現存していない。しかし、今回、時代劇専門チャンネルでの放送のため、唯一残されていたポジフィルムをHDテレシネし、新たにハイビジョンマスターを制作。フィルムに付着している傷を膨大な時間をかけて可能な限り修復し、ハイビジョン化によって高精細になった迫力ある映像でお届けできることになった。ぜひ、この機会に、ハイビジョンで甦った勝新太郎「座頭市」、伝説のTVシリーズ全100話をご堪能いただきたい!
参考文献:勝新太郎『俺・勝新太郎』廣済堂出版刊
春日太一『天才 勝新太郎』文藝春秋刊
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