必殺からくり人血風編
(1976年・TVシリーズ・全11話・カラー)
 出演 山崎努/浜畑賢吉/草笛光子/ピーター/吉田日出子 他
よもやま噺
 『からくり人』が終わったらまた『からくり人』が始まった……!? それがリアルタイムで本作を観ていた視聴者の偽らざる心境だったという。
 初の1クール=全13回シリーズである『必殺からくり人』(76年)は、シリーズに新しい潮流を生んだ意欲作だった。その功績は同年のギャラクシー賞(放送批評懇談会)受賞という形で立証されている。当然、その後番組は中村主水メインの2クール=全26 回シリーズ、あるいは『助け人走る』(73年)、『必殺必中仕事屋稼業』(75年)的新機軸であると視聴者は自己内諾していた。だが予想に反して始まったのは『からくり人』、それもシリーズ初の「〜編」と銘打った「血風編」だった。後の『仕事人(V)』シリーズの「〜編」と異なり、この「血風編」は前作との関連性は一切ない。次の『からくり人』シリーズ「東海道五十三次殺し旅」のような出演者のスピンオフすらなく、シリーズの中でも特に際立った印象がある。
 それは何故か……?
 答えは簡単、本作の企画・放送が全くの想定外だったからだ。当初『必殺からくり人』の後には即『新 必殺仕置人』を放送する予定だった。ところが、中村主水役の藤田まことと中村せん役の菅井きんが出演に難色を示した。
 藤田は主役扱い(エンディングに一番最初にクレジットされるという意)としての要望故、菅井は娘のお見合いを間近に控え、“婿をイビるキツイ姑”のイメージが縁談に与える影響を配慮してのことだった。この2点をクリアするには時間が必要……そこで急遽企画・制作されたのが本作『必殺からくり人 血風編』だった。
 結果、念仏の鉄役として1年契約し、スケジュールを空けていた山崎努が主人公の土左ヱ衛門を演じることに。また、『必殺仕業人』(76年)最終回での名演が高く評価された浜畑賢吉が玉転(たまころ)がしの直次郎役を、草笛光子が女元締としてはシリーズ第二のキャラクターであるおりく役をそれぞれ演じ、さらにピーター(池畑慎之介/新之介)、吉田日出子(おいね)という個性派が周りを固めての異色のチーム編成となった。異色といえばもうひとつ。本作は全シリーズ中で最も現代に近い、幕末(1868年?)の江戸が舞台となっており、土左ヱ門は実は薩摩藩の密偵という設定。そのため不思議なリアリティと緊張感に溢れ、それは最終回、個人の愛のために散った直次郎と、使命のために愛を振り払って去って行く土左ヱ門、両からくり人の生き様の違いとなって結実する。
 なお、そんな成立過程を持つが故、本作はシリーズで初めてオリジナル主題歌及び劇中音楽を持たぬ作品となった。以降、中村主水シリーズと『からくり人』もしくは他の1クールシリーズで“同じ主題歌(歌詞的には2番を使用)と劇中音楽を共有する”というパターンが度々見受けられることとなる。確かに賛否両論あろうが、折角の名曲が僅か3か月で聞けなくなってしまうのは残念……というのもまたひとつの『必殺』ファン心理ではある。



みどころ
 薩長(薩摩・長州藩)の官軍(天皇支持の軍隊)が、倒幕のために江戸に進軍中の幕末。そんな、善悪の価値観が日替わりレベルで転倒している時勢を舞台に歴史上最後の仕置人=からくり人チームが、時代や社会に翻弄されながらも個々の価値観を守りつつ、互いに己の信じる道を行く姿は従来の『必殺』シリーズにはない味わいがある。特に山崎が念仏とはまた違うテンションで演じた土左ヱ門は地味ながら、中期『必殺』を代表する名キャラクターのひとりといえよう。

(岩佐陽一)
※文中の情報は筆者が『ザ テレビジョン』(角川書店)の記者時代に、
山内プロデュ ーサーをはじめ関係各位より直接お伺いしたものです。


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