暗闇仕留人
(1974年・TVシリーズ・全27話・カラー)
 出演 藤田まこと/石坂浩二/近藤洋介/野川由美子/菅井きん/白木万理 他

よもやま噺

 「八丁堀、見たぞ証拠は!」――そう叫んで蘭学者・糸井貢こと吉岡以蔵は、愛する妻のため、生きるために仕留(置)人となった。それが本作『暗闇仕留人』のプロローグである。
 一見、地味ながらその実、シリーズ全体の大いなるターニングポイントとなった作品である事実は意外に語られない。
 ポイントは3つ。ひとつは本作がシリーズ第2弾『必殺仕置人』(73年)の純然たる続編であること。それは即ち人気キャラクター・中村主水(藤田まこと)の復活を意味していた。『仕置人』殺人事件の余波はまだ続き、タイトルに「必殺」の二文字を冠することはままならなかったものの、主水の復活は後の主水サーガへの伏線となった。
 二つ目は黒船来航の年、嘉永4年というリアルな時代設定が為された点。どちらかというとフィクションの要素が濃かったシリーズにリアリティを持たせた……というよりは史実を交えることで、ドラマにリアリズムを生む方法論を導入したことである。それは後に『からくり人』シリーズや、違う意味において『仕事人』シリーズで見事開花することとなる。
 そして三つ目。これが最大の変革なのだが、事実上の主人公が糸井貢となった点。巨匠・池波正太郎の『仕掛人・藤枝梅安』のテレビ用翻案『必殺仕掛人』(72年)を始祖とする本『必殺』シリーズは、梅安(緒形拳)を祖とする“怪力(巨漢)坊主”を主人公とするのがセオリーとなっていた。事実、『仕置人』の主人公は念仏の鉄(山崎努)であり第3弾『助け人走る』(73年)の主人公は辻丙内(中谷一郎)だった。だが、ここへきて遂にその縛りから解放された。尤も、それでも梅安や鉄の影を完全に払拭するには至らず、主人公でありながら糸井貢は計2話分、登場していない。結局全話登場したのは貢でも主水でもない、本作の怪力坊主である村雨(石屋)の大吉(近藤洋介)だった。
 腸捻転の影響(『必殺必中仕事屋稼業』よもやま噺参照のこと)でシリーズ第5弾『仕事屋稼業』(74年)後半の視聴率不振により続く第6弾『必殺仕置屋稼業』(75年)にて主水は主役キャラクターに昇格するものの、美形(二の線の)キャラクターが主役と同等かそれ以上の魅力を持たせる――という市松(沖雅也)や後の秀(三田村邦彦)、勇次(中条きよし)に継承される方法論の源泉は、明らかに本作の糸井貢にあろう。

 (※ココからネタバレありなのでご注意を!)
 その糸井貢は、第15話で最愛の妻・あやを亡くして心のよりどころを喪い、裏稼業に生きる道を見出そうとする。だが最後の最後に、諦めた筈の夢に手を出そうとして命を喪ってしまう。殺し屋になろうとして成り切れなかった幕末の若き蘭学者の物語……それが本作のエピローグだった。『必殺』シリーズでありながら、若き学者の苦悩と葛藤を描いた本作は、シリーズのターニングポイントであると同時に、蘭学者・糸井貢の束の間の一生を描いた短編小説として独特の輝きを放っている。

みどころ
 シリーズ最初にして最後の、『必殺』シリーズの設定の根幹を揺るがす存在、近代的知識層の仕置人(殺し屋)・糸井貢の設定。一方で『必殺仕置人』(73年)の正統な続編であるが故の骨太なストーリー及びドラマツルギーと、ファンにはたまらない主水、半次、おきんの再登場。そして相も変わらず健在の、村雨の大吉の“心臓掴み(潰し)”のレントゲン描写。あまつさえ、敵キャラである佐島昌軒(山本學/第13話登場)の殺し技(あばら砕き[?])にまでレントゲン描写が施される快挙……見事逆境を乗り越えたスタッフの余裕の笑みが垣間見える世界観を堪能して欲しい。

(岩佐陽一)
※文中の情報は筆者が『ザ テレビジョン』(角川書店)の記者時代に、
山内プロデュ ーサーをはじめ関係各位より直接お伺いしたものです。

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