オリジナル時代劇の最新作「新・御宿かわせみ」。
累計1000万部を超える平岩弓枝の国民的ベストセラー「御宿かわせみ」の続編である同名小説を初めて映像化する本作ですが、このドラマにはその原点とも言うべきTVシリーズ・真野響子主演「御宿かわせみ」(1980年~83年)があります。

時代小説「御宿かわせみ」は、直木賞作家・平岩弓枝の代表作にしてライフワークとも言える作品。
1973年の連載スタートから約40年に渡って、いまなお「オール讀物」(文藝春秋刊)誌上で書き続けられている連作大河小説です。
今までに何度もTVドラマ化されている「御宿かわせみ」ですが、その中でも最も名作の誉れが高く、原作ファンの支持が高いのが、今回放送する真野響子主演版のTVシリーズ。NHKで1980年から83年にかけて全47話が制作されました。

舞台は幕末を目前に控えた江戸後期。
物語は江戸・大川端の小さな旅籠「かわせみ」の女主人・庄司るい(真野響子)と、その恋人で武家の次男坊・神林東吾(小野寺昭)との身分の違いから正式に結ばれることの叶わない恋物語と、「かわせみ」の泊まり客をめぐって起こる様々な事件を軸に展開します。
事件の捜査を東吾は次男坊の気楽さで引き受け、親友の同心・畝源三郎(山口崇)や「かわせみ」の使用人である番頭の嘉助(花沢徳衛)、女中頭のお吉(結城美栄子)、東吾の兄で吟味方与力の神林通之進(田村高廣)といった、るいと東吾の二人を愛する個性豊かな面々の助けを借りながら鮮やかに解決していきます。
るいと東吾の切ないながらも一途な恋愛に加え、事件にまつわる人々の哀歓をしっとりと描いた“人情捕物帳”ともいうべき名作です。

この真野響子主演版TVシリーズの最大の魅力は、キャスト間のハーモニーです。
普段は正義感が強く「かわせみ」の女将として凛と振舞っていても東吾の前では可愛い女になってしまうるいはまさに真野響子のはまり役と言え、いかにも育ちが良く、物事にとらわれない良家の次男坊といった東吾をおおらかに演じた小野寺昭も、自身の代表作となっています。
るいと東吾のお互いに愛し合っていつつも進むに進めない恋愛関係、また東吾とその親友である畝源三郎とのお互いを知り尽くした男同士だからこその信頼関係など、登場人物間の様々な関係性がそれぞれの俳優の持つ個性と見事にマッチした形で丁寧に描かれ、絶妙の劇世界を作り上げています。

原作者・平岩弓枝の視線は、常に市井に生きる庶民たちに寄り添っており、物語の隅々に配された女性作家ならではの細やかな季節感や江戸情緒、またその豊富な江戸社会に関する知識に裏打ちされた悲喜こもごものささやかな人間模様が物語にリアリティーを与え、見る者に悲しくも愛しい“人間の生”への共感を呼び起こします。

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