下級武士を題材にした“武家もの”、江戸の町民のひたむきな人生を描いた“市井もの”、実在した人物や出来事に深く迫る“伝記小説”など、数多くの時代小説を残し、没後20年となる現在でも全く色褪せることなく、時代を超えて愛され続ける藤沢周平の世界。
2015年、時代劇専門チャンネルは、藤沢周平の時代小説を映像化する一大プロジェクト “藤沢周平 新ドラマシリーズ“の制作を始めました。これまでに5作品が誕生し、いずれも社会の傍流にいる人々の切なさや儚さを描く藤沢周平の世界観を見事に表現して、時代劇ファン、そして藤沢周平ファンからの熱い支持を集めました。なかでも仲代達矢主演「果し合い」は、ニューヨーク・フェスティバル ドラマスペシャル部門において金賞を受賞し、藤沢周平の描いた世界が国境を越えて世界に通じることを示しました。
そして2017年。藤沢周平没後20年、生誕90年となるこの節目の年に、時代劇専門チャンネルはスカパー!とタッグを組み、藤沢周平 新ドラマシリーズ第二弾として藤沢周平の“市井もの”の原点である名作短篇集『橋ものがたり』を映像化します。
藤沢周平は自作『橋ものがたり』について以下のように語っています。
「人と人が出会う橋、反対に人と人が別れる橋といったようなものが漠然と頭にうかんで来て、そういうゆるやかなテーマで何篇かの話をつくることなら出来そうに思えたのである。
それが、「橋ものがたり」の連作を引きうけたことで、はじめて集中的に市井小説を書く結果になり、書きおわったときには、どうにか自分のスタイルの市井小説を確立出来た感じがしたのであった。そういう意味では、十篇の小説は、出来、不出来を越えて、いずれも愛着のある作品になったと言っていいかと思う。」(新潮文庫『ふるさとへ廻る六部は』所収「『橋ものがたり』について」より)
江戸はかつて水の都でした。縦横に張り巡らされた川や水路は、人や物を運ぶ重要なルートであり、そこには、町と町とを結ぶ無数の「橋」が架かっていました。人々は「橋」を渡って町を行き来し、「橋」を目当てに待ち合わせました。また、「はし」とは、本来つながっていない端と端とをつなぎ合わせることを意味し、そうした「間」の場所のことでもあります。
藤沢周平が江戸市民の生活にとって馴染み深い存在だった「橋」に着目し、人々の間を時につなぎ時に隔てる、そんな「橋」を舞台に紡いでいった、出会いと別れ、定めと絆の物語が『橋ものがたり』なのです。
また、藤沢周平は、市井小説は普遍的な人間性をテーマにしたものであり、現代にヒントを得ながら書いている、とも語っています。「橋ものがたり」は、江戸の「橋」を舞台に藤沢周平が現代人の心に架けた物語でもあるのです。
原作『橋ものがたり』は10篇からなる短篇集。その中から「小さな橋で」「吹く風は秋」「小ぬか雨」の3篇を映像化します。「小さな橋で」は家族、「吹く風は秋」は老年、「小ぬか雨」は若者と、各作品は物語の中心となる世代がそれぞれ異なり、色合いの違った3つの物語を通して人生における様々な出会いと別れのドラマを描きます。
キャストは、「小さな橋で」は松雪泰子と江口洋介、さらには田中奏生、藤野涼子という若き才能を抜擢。「吹く風は秋」は橋爪功と臼田あさ美。そして「小ぬか雨」は北乃きいと永山絢斗と、ベテランから若手まで実力派の豪華キャストが集結しました。
演出は、日本を代表する3人のベテラン監督が手がけます。
国民的ドラマ「北の国から」シリーズをはじめ、ドラマ性豊かな演出で感動を生み出し続ける杉田成道。
「HERO」など数々の大ヒットドラマを世に送り出しているヒットメーカー・鈴木雅之。
市川雷蔵・勝新太郎などの伝説的スターを演出し、現在も俳優たちからのラブコールが止まらない名匠・井上昭。
3人の名監督が三者三様の想いのもと、藤沢周平の世界を映像化していきます。
慣れぬ博打が元で父・民蔵が姿を消し、十歳の少年・広次は母・おまき、姉・おりょうと3人で暮らしている。飲み屋で懸命に働きながらも自分の元を去った父に恨み言をこぼす母。広次はそんな母を複雑な思いで見つめていた。
そんなある日、母とのいさかいが絶えなかった姉・おりょうも、妻子持ちの男と駆け落ちしてしまう。姉をも失った母は心身ともに疲れ果て、飲み屋の常連客の男にすがろうとする。そんな母の様子に、広次は嫌気がさし、家の仕事を放り出して葭原で寝転んでいると、男たちに追われている父と偶然再会する…。
自らの人生に区切りをつけるため、江戸へと戻ってきた老博徒。そこで出会ったのは、ぼんやりと夕陽を眺めるひとりの女郎。その女郎に老博徒はなぜか心を惹かれ…。
博徒・弥平を演じるのは、オリジナル時代劇「鬼平外伝老盗流転」でも主演を務めた橋爪功。老境を迎えつつあるひとりの男の諦念と矜持をベテランならではの存在感で魅せる。監督は「HERO」などの大ヒット作を生み出し続ける鈴木雅之が務め、時代劇に新たな息吹を吹き込む。
壷振り師の弥平は、親分を裏切ったほとぼりを冷まそうとしばらく江戸を離れていた。しかし老境に差しかかり、住み慣れた土地への郷愁にかられ、決死の覚悟で再び江戸へと橋を渡った。
江戸に舞い戻ったその日、弥平はとある女郎屋の前で、夕焼けを眺めるおさよという女と出会う。おさよは小間物屋を開いた夫の借金の形として自ら身を売った女だった。亡くした女房とどこか重なるおさよが気になった弥平は、後日、おさよの夫と子供が暮らすという長屋を訪ねる。だが、そこで見たのは、働きもせず博打に明け暮れる不実な夫の姿だった。
共同テレビに入社後、「世にも奇妙な物語」(90)「白鳥麗子でございます!」(93)の演出で注目を集め、94年にフジテレビに移籍。以降、「王様のレストラン」(95)、「ショムニ」(98)、「古畑任三郎」(99~)など多くの話題作を演出するヒットメーカー。99年に「GTO」で映画監督デビュー以降、「HERO」(07・15)、「プリンセス トヨトミ」(11)、最新作「本能寺ホテル」(17)など映画監督としても活躍する。
倉本聰に師事し、72年「おはよう」で脚本家デビュー。79年放送文化基金賞、97年度向田邦子賞受賞。時代劇では、「鬼平犯科帳」「剣客商売」など人気シリーズをはじめ、大河ドラマ「義経」(05)、時代劇専門チャンネルではオリジナル時代劇「鬼平外伝」シリーズ全5作、「闇の狩人 前・後篇」(14)、「池波正太郎時代劇スペシャル 顔」(16)も担当。
意思もなく決まって行く縁談。ただ過ぎて行くだけの日常。自らの人生に希望を抱くこともなかった女性に、突然の出会いが訪れる…。
監督は「眠狂四郎」や「座頭市」などを手掛け、今もなお“情念”を描き続ける88歳の名匠・井上昭。
キャストには本格時代劇初主演となる北乃きいに、永山絢斗という、人気・実力を兼ね備えたフレッシュな二人。閉ざされた空間の中で、短くも美しく燃える男女の恋物語が幕を開ける。
両親を早くに亡くしたおすみは、娘らしい華やかな思い出もないままに育った。今は、伯父に任された履物屋で一人住まいをしている。自らの意思とは関係なく、がさつな職人・勝蔵との縁談も決まり、将来に希望を抱くこともない生活を送っていた。
ある夜、おすみの家に突然若い男が逃げ込んでくる。「喧嘩をして追われているのでかくまってほしい」と言う小綺麗な身なりをしたその男は、
おすみを“お嬢さん”と呼んだ。その響きに、おすみは心の揺らぎを覚える。危険はないように思え、かくまうことにしたおすみだが、やがて男の名は新七と言い、人を殺めて追われていることを知る。
ナレーション:中村梅雀
様々な人間が日毎行き交う江戸の橋を舞台に演じられる、出会いと別れ。
市井の男女の喜怒哀楽の表情を瑞々しい筆致に描いて、絶賛を浴びた傑作時代小説。[解説・井上ひさし]
(新潮社公式HPより)
江戸に生きる人々の喜びと哀しみを描く名品十篇に、「橋ものがたり」を語るエッセイ親子競演(藤沢周平・遠藤展子)、雑誌掲載時の自筆原稿、作品の舞台を歩く江戸絵図めぐりを特別収録した愛蔵版。
(7月27日発売)
画:蓬田やすひろ 題字:遠藤浩平 協力:藤沢周平事務所 遠藤崇寿 遠藤展子/新潮社/実業之日本社/文藝春秋 製作協力:(株)松竹撮影所
制作:時代劇専門チャンネル/スカパー!/松竹株式会社