藤沢周平の傑作長篇小説を、時代劇専門チャンネルとBSフジのタッグによりドラマ化した藤沢周平 新ドラマシリーズ「三屋清左衛門残日録」。東北の小藩のお家騒動を物語の下敷きとした第一作(2016年2月放送・BSフジ)と、その結末を描いた第二作「完結篇」(2017年2月放送・BSフジ)は、多くのお客様に大好評を博しました。さらにこの度、新作を望む藤沢周平ファン・時代劇ファンの声にお応えすべく、北大路欣也ほか主要キャストと制作スタッフが三度集結。「三屋清左衛門残日録 三十年ぶりの再会」を制作することとなりました。
原作の中から、前2作では描けなかったエピソードを集めた本作は、時系列的に第一作と第二作の間に位置するもので、藩内の政争が焦臭さを増していく頃、清左衛門が長年の時を経て再会した旧知の人々との思い出や、それぞれの人間模様などを、繊細かつ鮮やかに描き出します。
藤沢周平ならではの人間愛にあふれる本作は、前2作とはまた異なる味わいを持つ、もうひとつの「残日録」です。
隠居生活の慰みにと、川釣りを始めた清左衛門。釣友であり、かつて中根道場の同朋だった安富源太夫の言葉に動かされ、親友の町奉行・佐伯熊太や小沼惣兵衛ら道場仲間を集めて三十年ぶりの旧交を温める。若かりし頃の話に花が咲き、楽しい一夜を過ごした清左衛門だったが…。
またある時、清左衛門が江戸詰めの頃に訳あって世話を焼いたことがある松江が屋敷を訪ねてくる。国許での縁談が決まったという報告に喜ぶ清左衛門だが、嫁ぎ先の家の良からぬ噂話を知って心配し、事の真偽を確かめるべく動き出す。
さらに清左衛門は、道場主の中根弥三郎から、とある果たし合いの立会人を頼まれることに。
老いを感じつつも、旧友たちとのつきあいなど
日々を忙しく過ごす清左衛門。
夜ごと『残日録』に綴るその心の内は…。
「日残リテ昏ルル二未ダ遠シ—」
藩を揺るがす大事件がやがて起きようとしている頃、
清左衛門の周りを穏やかな時間が静かに流れていた。
日本映画放送株式会社 執行役員・編成制作局局長。「時代劇専門チャンネル」「日本映画専門チャンネル」の開局(1998年)から編成、企画を担当。映画、時代劇プロデューサーとして、2011年からオリジナル時代劇「鬼平外伝シリーズ」「新・御宿かわせみ」「池波正太郎 時代劇スペシャル 顔」「藤沢周平 新ドラマシリーズ」など全18作品の企画・プロデュースを担当。主な劇場映画として「最後の忠臣蔵」(10年)、「LIAR GAME TheFinal Stage」(10年)、「リップヴァンウィンクルの花嫁」(16年)など。プロデュース最新作は仲代達矢主演「海辺のリア」(17年)。
数多くの時代小説を残し、時代を超えて今なお愛され続ける藤沢周平。下級武士の哀歓を題材にした〝武家もの〟や、江戸の庶民たちのひたむきな人生を描いた〝市井もの〟に代表される藤沢文学の世界は、その巧みな物語展開と、普通に生きる人間たちへの情にあふれる描写により、深い滋味と温かさを読者の心に生み出しています。
全国の文学館などで生誕90年を記念した「藤沢周平展」が催されるほか、出版社による「藤沢周平フェア」の開催、そして藤沢周平の世界を辿る新たな出版物も刊行されています。 映像の世界においても、時代劇専門チャンネルが2015年から「藤沢周平新ドラマシリーズ」として「三屋清左衛門残日録」前2作を含むオリジナル時代劇5作品を製作。さらに2017年には「藤沢周平新ドラマシリーズ 第二弾」として名作短篇集『橋ものがたり』から、味わいの異なる3篇を映像化しました。2018年も本作「三屋清左衛門残日録 三十年ぶりの再会」のほか、映画やテレビで藤沢作品を映像化する企画が進められるなど、今後も様々な形で藤沢文学の魅力を味わえる機会が広がりつつあります。
現代にも通じる〝人間の思い〟が、多くの人々の共感を呼ぶ藤沢文学。時代劇専門チャンネルは、ドラマを通じてその魅力を発信し、藤沢周平の世界を幅広い世代の皆さまに味わっていただきたいと願っています。
京都の東映撮影所に着くと、スタッフの皆さん全員が「三屋清左衛門残日録」とプリントされた揃いのTシャツを着て出迎えてくれました。この作品ほど制作チームに愛されたドラマを私は知りません。山下智彦監督、スタッフ、出演者の皆さんが一丸となり、その熱量は回を重ねるたびに熱く、大きくなるのを肌で感じる現場でした。
何よりも主演の北大路欣也さんが、清左衛門への思いを回を重ねるごとに強くして演じて下さり、本当に嬉しく感激しました。
北大路さんと共演の伊東四朗さんは大変親しい間柄とお聞きし、自然なやりとりは、本当の友情から生まれ、お二人にしか出来ないものなのだと知り、尊敬と羨望の眼差しで拝見していました。気がつけば、「三屋清左衛門残日録」の映像化は三作目。苦労を苦労と思わずに良いものを作りたい、その気持ちを大切に一心に取り組めば必ず見る人に伝わると感じられる現場でした。
父が生きていたら2018年で90歳。心から父に観てもらいたかったと思う一作です。
遠藤展子(えんどう・のぶこ)
1963年東京都出身。藤沢周平 長女。藤沢周平に関わる
仕事や、エッセイストとして活動。