ＮＨＫ大河ドラマ第15作。周防の村医から一転して官軍総司令官となり、維新の渦中で非業の死を遂げた日本近代兵制の創始者・大村益次郎[村田蔵六]の波乱の生涯と、高杉晋作ら幕末を疾風の如く駆け抜けていった男女の群像を描く。司馬遼太郎の『花神』『峠』『世に棲む日日』等が原作。原作複数使用は第11作『国盗り物語』('73)・第14作『風と雲と虹と』('76)でも既に試みられているが、これは本作が主人公・大村益次郎の一生を追うだけでなく、群像劇として、近代の夜明けである「幕末」を重層的多角的に描くことに力点が置かれており、大河ドラマがたんなる偉人伝・英雄物語の域を超えた、現代との関わりにおける「時代」を語るドラマへと変わってきたことを示すものだといえるだろう。幕末物のジンクスを破れず視聴率的には苦戦した本作であったが、一般的にはあまり知られていなかった大村益次郎を中村梅之助が演じ、高杉晋作役には青春スターとして人気絶頂だった中村雅俊が起用されるなど新鮮な味があった。中村雅俊と田中健(天堂晋助役)は1975年に大ヒットした青春ドラマ『俺たちの旅』の主演コンビであり、大河での共演は若い視聴者の注目を集めた。