ペリーのちょんまげ ペリーのちょんまげ

掲載2001年10月19日

「雨あがる」 山本周五郎の名作を、黒澤明の心を受け継ぐスタッフが見事に映像化。

(あめあがる) 2000

掲載2001年10月19日

1999年第56回ヴェネチア国際映画祭において、“未来を担う映画”緑の獅子賞を受賞。
さらに第24回日本アカデミー賞で驚異の8冠獲得。国内外問わず評価された作品として記憶に新しい。
剣の腕は立つが、世渡りの巧くない三沢伊兵衛(寺尾聰)とその妻たよ(宮崎美子)の物語。夫は貧しい生活が妻を不幸にしていると思い、出世してもっと楽な生活を送らせてあげたいと齷齪する。妻はそのままの生活に満足しており、むしろ無理をする夫を見ていることのほうが辛い。仕官の口を求める旅の途中、雨に降られ川が氾濫したために木賃宿に逗留することになる。宿は、やはり雨に降りこめられた貧しい旅人でいっぱいであった。長雨のため、逗留費がかさみ、次第に心が荒んでゆく旅人達を元気づけようと、伊兵衛は禁じられた賭け試合をして得たお金で皆に振舞う。翌日、とある喧嘩を仲裁したことから、それを見ていた和泉守に呼ばれ、御前試合をすることになる。伊兵衛、念願の仕官は果たして成就するのか。
原作は山本周五郎の同名短編小説。伊兵衛はじめ妻のたよの凛とした生き方、素朴でひたむきな旅人たちなど、人物造形は山本周五郎ならでは。また、久々の晴れ間に解き放たれた人々の開放感は見ているものにも伝わってくるようであった。黒澤監督が遺した未完のシナリオを、その遺志を継いだ黒澤組が総力をあげ監督の創作ノートをもとに完成させた。「見終わって、晴々とした気持ちになるような作品にすること。」という巨匠の遺した言葉どおり、見ているものを幸せにする近年まれに見る秀作。

掲載2001年09月21日

「江戸の渦潮」 息子・古谷一行を見守る、小林桂樹大活躍。

(えどのうず) 1978

掲載2001年09月21日

 時代劇には、よく「父と息子」モノが出てくる。有名なところでは、勝海舟とその父の「父子鷹」や、人気の池波作品「剣客商売」、「子連れ狼」だって、父と息子が主人公。この「江戸の渦潮」は、同心親子を中心にした、いわば痛快親子捕物帳だ。
 江戸北町奉行所の元同心(小林桂樹)は、推理力も剣の腕もたつ、快老人。その父を募うのが、現役若手同心の古谷一行だ。暴走しがちな息子を案じながら、自慢の剣と人脈を駆使して、何気なく手助けする父。親子は、岡っ引きチームとの協力で、江戸の難事件に挑む。露口茂の渋い岡っ引きや左とん平、小野ヤスシ、小松政夫といった手練のお笑い系役者がレギュラーなのも楽しい。植木等、横内正、小林千登勢、緑魔子らゲストも個性派が揃っている。
 「江戸の渦潮」は、加山雄三を中心にヒットした「江戸の疾風」から始まった「江戸シリーズ」の一本で、やがて「江戸の疾風」の続編や「江戸の朝焼け」に続いていく。
 小林桂樹は、後にNHKの「宝引の辰捕者帳」で、今度は引退した岡っ引きとして登場。その跡をついだ息子は小林薫であった。役の上とはいえ、時代劇で古谷一行と小林薫を息子にした俳優は、まずいないはず。最近、体調を崩してNHKの新時代劇を途中降板したという。タフな快老人として、一日も早い時代劇復帰を願いたい。

掲載2001年08月03日

映画「東海道四谷怪談」数ある四谷怪談の中でも傑作中の傑作!

(えいが「とうかいどうよつやかいだん」) 1959

掲載2001年08月03日

日本の夏といえば、怪談。その中でも最も有名な鶴屋南北原作の「東海道四谷怪談」を、ぜいたくなキャスト、スタッフが制作したのがこの作品。
 備前岡山の浪人・民谷伊右衛門は、素行の悪さから、お岩との仲を裂かれる。その恨みから、お岩の父を殺し、江戸に逃げて所帯を持つが、暮らしは貧しい。ある時、裕福な伊藤家の娘・お梅を助けた伊右衛門は、お梅に見初められてしまう。養子縁組と仕官の野心から、邪魔になったお岩を殺し、お梅と祝言をあげようとするが...。
 監督は、怪奇映画の名人・中川信夫。昨年、若い世代からの声に応えて、作品がリバイバル上映されるなど、その評価は今も高まっている。その名人が自ら代表作と認めた本作は、人間の醜さ、浅はかさ、女の悲しみ、恨みをひたひたと描きつつ、斬新な音楽や明暗の使い分けで見事に表現している。毒を盛られ、顔が崩れ果てたお岩の顔、泥の水のおどろおどろしさ、戸板返し、按摩宅悦の恐ろしい形相...こうして文章にしているだけでも恐ろしい!!
 主演は天知茂。苦み走った顔が、恐怖と苦悶でゆがむ様は、この人にしか出せない。この人を伊右衛門に選んだことが、監督の眼力であった。お岩役の若杉嘉津子も、一途で哀れな女を情感たっぷりに見せ、怖さを増している。可憐な娘・お梅に池内淳子が扮しているのにも注目。日本の怪談の最高傑作で、涼しいひと夜を!

ペリー荻野プロフィール
ペリー荻野

1962年愛知県生まれ。大学在学中よりラジオのパーソナリティ兼原稿書きを始める。 「週刊ポスト」「月刊サーカス」「中日新聞」「時事通信」などでテレビコラム、「ナンクロ」「時代劇マガジン」では時代劇コラムを連載中。さらに史上初の時代劇主題歌CD「ちょんまげ天国」シリーズ全三作(ソニーミュージックダイレクト)をプロデュース。時代劇ブームの仕掛け人となる。

映像のほか、舞台の時代劇も毎月チェック。時代劇を愛する女子で結成した「チョンマゲ愛好女子部」の活動を展開しつつ、劇評・書評もてがける。中身は"ペリーテイスト"を効かせた、笑える内容。ほかに、著書「チョンマゲ天国」(ベネッセ)、「コモチのキモチ」(ベネッセ)、「みんなのテレビ時代劇」(共著・アスペクト)。「ペリーが来りてほら貝を吹く」(朝日ソノラマ)。ちょんまげ八百八町」(玄光社MOOK)「ナゴヤ帝国の逆襲」(洋泉社)「チョンマゲ江戸むらさ記」(辰己出版)当チャンネルのインタビュアーとしても活躍中。