ペリーのちょんまげ ペリーのちょんまげ

掲載2019年11月29日

「輪違屋糸里 京女たちの幕末」
浅田次郎が描く新選組と彼らを巡る女たちの人間模様。
注目の演技派女優・藤野涼子が京女の心意気をきりっと魅せます!

(わちがいやいとさと きょうおんなたちのばくまつ) 出演者:藤野涼子/溝端淳平/松井玲奈/佐藤隆太/新妻聖子/石濱朗/榎木孝明/田畑智子/塚本高史 ほか  2018年

掲載2019年11月29日

 幕末の京。新選組には芹澤鴨(塚本高史)と近藤勇二人の局長がおり、組織内で対立が深まっていた。ある時、京都島原の輪違屋のトップ芸妓・音羽太夫(新妻聖子)が、芹澤に無礼討ちにされてしまう。輪違屋の芸妓「天神」の糸里(藤野涼子)は、姉とも慕う人の死に衝撃を受け、深い悲しみに沈む。やがて糸里は新選組の土方歳三(溝端淳平)と知り合う。その後、土方らが起こした芹澤暗殺事件。現場には、芹澤とともに殺された愛人・お梅(田畑智子)、腹心の平山五郎(佐藤隆太)のほかに、隊士と添い寝していた女たちがいた。なぜ、土方らは暗殺を目撃した女たちを殺さなかったのか?

 みどころは、京の人々に「疫病神」と恐れられる、新選組の男たちの人間性と恋模様だ。幼いころ貧しかった土方は「侍になりたいんだ」と糸里に本音を語り、五郎は糸里と親しい吉栄(松井玲奈)に「お前を嫁にするのにどれくらいの銭がかかる...」とつぶやく。不敵な芹澤でさえ、お梅に「あんた、尊王攘夷の金看板、重いんじゃないのかい」と見抜かれていた。

 原作は「壬生義士伝」の浅田次郎。初時代劇の藤野は、可憐な少女から、おとなの女に見事に変貌(糸里が操を捧げる相手も事件の大きなカギ)。「男はんの夢のためやったら、おなごは死んでもええのどすか!」「おぬしらは侍か。この輪違屋糸里が、踏み絵踏ませたる!」と心意気を見せる。京女たちの覚悟と気迫に注目。

掲載2019年07月05日

「若き日の唄は忘れじ-藤沢周平 作「蟬しぐれ」(文春文庫刊)より-('13年雪組 中日劇場)」
藤沢周平の「蟬しぐれ」を原作にした宝塚ミュージカル・ロマンス!
互いに思いあったふたりに降りかかる過酷な運命、忘れ得ぬ唄とは

(わかきひのうたはわすれじ-ふじさわしゅうへい さく「せみしぐれ」(ぶんしゅんぶんこかん)より-('13ねんゆきぐみ ちゅうにちげきじょう) ) 出演者:壮一帆/愛加あゆ/早霧せいな 他 2013年

掲載2019年07月05日

 東北の小藩・海坂藩下士の義父母の家で育った牧文四郎(壮一帆)は、十六歳。一本気な性格で、若いながら石栗道場でも一目置かれる剣の腕も持っていた。文四郎は、小和田逸平(早霧せいな)と島崎与之助(沙央くらま)という親友とともに学び、笑いあう日々を送るが、一方で隣家のおさななじみの娘ふく(愛加あゆ)の存在も気になっていた。七夕祭りの夜、ふくと出かけた文四郎は、将来を誓いあう。ところが、文四郎の義父が反逆の罪で切腹することになる。「罪人の子」と蔑まれ、長屋を出て貧しい暮らしを強いられる文四郎を支えようとするふくと二人の友。しかし、ふくは江戸藩邸勤めが決まり、やがて殿に見染められて寵愛を受けたというウワサが届く。

 原作は藤沢周平。初恋のふたりに降りかかる過酷な運命、友情...切ない心情を宝塚作品らしく、ミュージカル・ロマンスとして豊かな表現で描いた。まだ前髪の文四郎が、愛らしい着物のふくと笹舟に乗って互いの心を確かめるシーン。歌うふたりはさながら織姫と彦星。はにかんだり、幼さも見せる愛加を少年ながらリードする壮はりりしく男らしい。りっぱな若侍となった文四郎は、側室「おふく様」になったふくと再会することができるのか...。藩を乱し、文四郎を敵視する悪役たちの動きも際立つ。2013年、雪組作品。

掲載2019年03月15日

「若さま侍捕物帖 紅鶴屋敷」
大川橋蔵の当たり役、若さまがいわくつきの屋敷の事件に挑む
月形龍之介、進藤英太郎、桜町弘子、花園ひろみら黄金期スターが勢ぞろい

(わかさまざむらいとりものちょう べにつるやしき ) 出演者:大川橋蔵/月形龍之介/進藤英太郎/沢村宗之助/桜町弘子/花園ひろみ ほか  1958年

掲載2019年03月15日

 テレビ時代劇では「銭形平次」で人気を博した名優・大川橋蔵の映画全盛期の当たり役のひとつが「若さま侍」シリーズ全10作。二枚目だが茶目っ気もある若さま(大川橋蔵)が、謎の事件に挑む。その第七作「紅鶴屋敷」は、美空ひばり出演作など東映娯楽時代劇で知られる名匠・沢島忠。事件の舞台は、若さまが居候する舟宿・喜仙の寮の近くの「紅鶴屋敷」。ここには、昔、三国一の婿を望んだ姫がいて、千羽のツルを織り上げた頃、帆に紅鶴を染めた舟に乗った若殿が現れたという伝説があった。ところが、喜仙の娘おいと(花園ひろみ)と若さまが楽しみにしている舟祭りが近づく最中、この屋敷を買い取ったばかりの豪商・越後屋の勘当息子・清吉のやくざな仲間、さらに伯父清左衛門(原健策)が殺されて発見される。若さまはさっそく探索に乗り出す。屋敷の女中・お千代(桜町弘子)は何か隠しているようだが、なかなか事件の真相に近づけない。そんな中、さらに殺人が...。紅鶴の帆の舟とは何なのか。屋敷の煙の秘密とは。

 橋蔵は当たり役をのびのびと演じ、軽やか。可憐な花園、愛らしい桜町とともに網元・茂兵衛(進藤英太郎)、ワケ知りの覚全和尚(月形龍之介)など、東映の映画全盛期の名優たちが次々登場。クライマックスの若さまの殺陣も、必殺剣「一文字崩し」をはじめ、華麗な舞のようで娯楽時代劇の王道を感じさせる。

掲載2009年09月11日

『若き日の信長』
うつけ者と評判の信長を市川雷蔵が熱演
命を狙われ、理解されない悲しみを魅せる

(わかきひののぶなが) 1959年

掲載2009年09月11日

派手な身なりで腰から大きなひょうたんをぶら下げて、ひとり土手で昼寝をしたり、こどもらと遊ぶ信長(市川雷蔵)は、うつけ者と陰口をたたかれていた。しかし、それは表向き。実は、名古屋の林佐渡守が弟信行を擁して今川に降り、尾張の安泰を図ろうとしていることや、忠誠を誓っていたはずの山口父子が裏切っていることもすべて承知している。信長は病弱に信行を案じていたのだが、何をしても誤解され、悩んでもいたのだった。
原作は大仏次郎。もともと歌舞伎の尾上菊五郎劇団のために書き下ろされた戯曲で、昭和27年の初演以来、評判になった作品。監督は雷蔵との作品が多かった森一生。信長に思いを寄せるヒロインに「あの方は広い野原にたった一本立つ杉の大木でございます」と言わせて、信長の持つ明るさと理解されない悲しみをしっかりと描き出す。
面白いのは、悪役・林美作守の高松英郎。晩年は、テレビドラマ「水戸黄門」で黄門様を追い回す家老役など、時代劇やホームドラマでいい味を出していたが、ここでは暗い顔で陰謀をめぐらす。実に怖い顔。
また、みどころは信長の乱暴を諌めようとする平手中務(小沢栄太郎)覚悟の割腹。「じいだけはオレも苦手だ」と言った信長のさびしさ。はじめは線が細く見えた雷蔵の信長がしだいに大きく見える。力のこもった作品。

ペリー荻野プロフィール
ペリー荻野

1962年愛知県生まれ。大学在学中よりラジオのパーソナリティ兼原稿書きを始める。 「週刊ポスト」「月刊サーカス」「中日新聞」「時事通信」などでテレビコラム、「ナンクロ」「時代劇マガジン」では時代劇コラムを連載中。さらに史上初の時代劇主題歌CD「ちょんまげ天国」シリーズ全三作(ソニーミュージックダイレクト)をプロデュース。時代劇ブームの仕掛け人となる。

映像のほか、舞台の時代劇も毎月チェック。時代劇を愛する女子で結成した「チョンマゲ愛好女子部」の活動を展開しつつ、劇評・書評もてがける。中身は"ペリーテイスト"を効かせた、笑える内容。ほかに、著書「チョンマゲ天国」(ベネッセ)、「コモチのキモチ」(ベネッセ)、「みんなのテレビ時代劇」(共著・アスペクト)。「ペリーが来りてほら貝を吹く」(朝日ソノラマ)。ちょんまげ八百八町」(玄光社MOOK)「ナゴヤ帝国の逆襲」(洋泉社)「チョンマゲ江戸むらさ記」(辰己出版)当チャンネルのインタビュアーとしても活躍中。