ペリーのちょんまげ ペリーのちょんまげ

掲載2010年03月26日

『梟の城』
司馬遼太郎長編第一作を篠田正浩が監督
中井貴一が秀吉暗殺を狙う天才忍者に

(ふくろうのしろ) 1999年

掲載2010年03月26日

「闇に生まれ、闇に死ぬ」忍者をフクロウの如き存在と位置づけた作家・司馬遼太郎が、初めて挑んだ長編を、篠田正浩が監督。CGを駆使した都市風景、豪華絢爛な安土桃山の芸能の再現、制作費10億円、制作期間3年というスケールの大きな作品だ。
主人公は、山奥に隠棲する忍者・葛籠重蔵(中井貴一)。天正九年、織田信長軍五万の伊賀攻めによって、肉親を目の前で惨殺された重蔵は、伊賀随一の忍者だった。そこにかつての恩師が訪れ、重蔵に驚くべき仕事を持ち込む。それは今井宋久から金で請け負った「秀吉暗殺」だった。しかし、その背後には、徳川家康の影が…。京に潜入した重蔵の仲間は、軽業師として、秀吉の動きを探る。その中には、美しい女忍者木さる(葉月里緒菜)もいた。一方、重蔵の前には、謎めいた美女小萩(鶴田真由)と、伊賀の過去を捨てた元下忍の風間五平(上川隆也)が現れる。
司馬遼太郎唯一とのメロドラマとも評されるほど、ヒロインの愛と葛藤が描かれるのも見どころのひとつ。秀吉にハリウッドで活躍したマコ・イワマツ、家康に中尾彬、重蔵の父に中村敦夫、北政所に岩下志麻とキャストも充実。また、従来の忍者映画を超える実戦的なアクションをと、監督は、スーパーバイザーに元フランス外人部隊に所属した毛利元貞を起用している。

掲載2010年01月22日

『文五捕物絵図 男坂界隈』
倉本聰による「悪人が出てこない時代劇」
法と人情の板ばさみに苦しむ文五の苦悩とは

(ぶんごとりものえず おとこざかかいわい) 1991年

掲載2010年01月22日

気が優しい魚屋の熊吉は、息子加吉(中西良太)の恋人いと(洞口依子)につきまとう浪人を止めようとして、殺された。浪人は北辰一刀流の道場主・重兵衛(丹波哲郎)の三男で、重兵衛の裏工作によって、殺しはお咎めなしとなる。納得がいかない加吉は、浪人を殺害し逃亡。その探索に当たった若い岡っ引き文五(中村橋之助)は、加吉の住む長屋に不穏な空気を感じる。
倉本聰が久しぶりに手がけた時代劇作品で、テーマは「悪人が出てこない時代劇」。しかし、加吉は、逃げれば道場の連中に追われて殺され、捕らえられれば死罪という過酷な条件であり、軽々しいストーリーではない。現在のストーカーや理不尽な法整備にも通じる重さがある。
橋之助は、加吉をかばう長屋の人情と法の手先である自分の立場に悩む優等生的存在。それに対して、影を見せてうまいのが、文五の手下の丑吉(寺尾聡)。彼がなぜ、この仕事をしているのか。暗い過去とともに、人が人を恨むことはどういうことかを見せ付ける。
また、物語をぐっと引き締めるのが、長屋の元締的存在の若林豪。物静かなうちわ貼り浪人(石橋蓮司)の存在とともに、男の心意気と哀しみが、心に残る。
「俺の十手に何が出来たんだ!」と叫ぶ文五が下した決断に注目を。

掲載2010年01月01日

『幕末』
「日本を救う道はただひとつ!!」
錦之助が熱血龍馬、愛妻に吉永小百合も

(ばくまつ) 1970年

掲載2010年01月01日

坂本龍馬にほれ込んだ中村錦之助が、自ら率いる中村プロで製作。監督・脚本に伊藤大輔を招いて創り上げた意欲作。まずは、キャストを紹介したい。龍馬には錦之助、後藤象二郎に三船敏郎、中岡慎太郎に仲代達矢、お良に吉永小百合、武智半平太に仲谷昇、近藤長次郎に中村賀津雄、勝海舟に神山繁、西郷吉之助に小林桂樹、他にも江利チエミ、野坂昭如、江原真二郎など、日本を代表する俳優たちがこぞって参加している。
 土佐では、武智半平太らが「土佐勤王党」を結成し、風雲の時代に立ち向かおうとしていたが、上士と下士という独特の身分制度のあり、動きがとれない。そんな土佐を飛び出した龍馬は、勝海舟に出会い、長崎亀山社中を結成。やがて薩摩と長州を結びつけようと働く。「もっともでごわす」と了承した西郷だが、肝心の話がなかなか進まない。
「藩の面目がなんじゃ!長州がなんじゃ!滅びたければ滅べ。だが日本はどうなる!」
 錦之助は得意の豪快さを見せて、骨太の龍馬になる。一方で、愛妻お良に対しては、とても優しい。「日本を救う道はただひとつ」と後藤象二郎と船中で語り合うシーンは、錦之助、三船敏郎の貫禄たっぷり。
 近江屋で暗殺されるシーンは、仲代達矢の熱演がさえる。龍馬の生き方とともに、錦之助の生き方も感じさせる大作。

ペリー荻野プロフィール
ペリー荻野

1962年愛知県生まれ。大学在学中よりラジオのパーソナリティ兼原稿書きを始める。 「週刊ポスト」「月刊サーカス」「中日新聞」「時事通信」などでテレビコラム、「ナンクロ」「時代劇マガジン」では時代劇コラムを連載中。さらに史上初の時代劇主題歌CD「ちょんまげ天国」シリーズ全三作(ソニーミュージックダイレクト)をプロデュース。時代劇ブームの仕掛け人となる。

映像のほか、舞台の時代劇も毎月チェック。時代劇を愛する女子で結成した「チョンマゲ愛好女子部」の活動を展開しつつ、劇評・書評もてがける。中身は"ペリーテイスト"を効かせた、笑える内容。ほかに、著書「チョンマゲ天国」(ベネッセ)、「コモチのキモチ」(ベネッセ)、「みんなのテレビ時代劇」(共著・アスペクト)。「ペリーが来りてほら貝を吹く」(朝日ソノラマ)。ちょんまげ八百八町」(玄光社MOOK)「ナゴヤ帝国の逆襲」(洋泉社)「チョンマゲ江戸むらさ記」(辰己出版)当チャンネルのインタビュアーとしても活躍中。