ペリーのちょんまげ ペリーのちょんまげ

掲載2009年12月18日

『ひとり狼』
おれにドスを抜かせるな!
人斬りやくざの市川雷蔵、本格股旅映画

(ひとりおおかみ) 1968年

掲載2009年12月18日

信州塩尻宿で、上松の孫八(長門勇)がであったのは、追分の伊三蔵(市川雷蔵)。助っ人もなしに用心棒とふたりのやくざを倒す伊三蔵は、まさしく人斬りの迫力だった。その伊三蔵は、木曽福島の宿外れで運命的な再会をする。かつて愛した由乃(小川眞由美)が生んだ男の子だった。郷士の娘との身分違いの恋に悩んだ末に、女が心変わりをしたと信じて出奔した伊三蔵。しかし、そこには、意外な事実が…。
「俺にドスを持たせるな。無駄な死人がまた増える」市川雷蔵、久しぶりの本格股旅もの。「縁と命があったら、まち会おうぜ!」とサラリと言いながら、どこかに影を漂わせるのは、雷蔵ならでは。長門勇が軽妙な味を添えて、全体にいいテンポを生み出している。
原作は村上元三。昭和31年に小説が発表されてから、各社から映画化の依頼が殺到。しかし、作者は「従来の股旅ものにしてほしくない」と承諾を保留し続けたという逸話が残る。それだけに原作に忠実に、物語は孫八が「本物のやくざ、伊三蔵」の激しい生き方を回想するという形をとっている。
他の共演は、由乃の母に丹阿弥谷津子、悪役、荒神の岩松に遠藤辰雄、平沢清市郎に小池朝雄など。
当時の人気歌手・ウイリー沖山の歌う主題歌と、ラストシーンも印象的。

掲載2009年12月04日

『花よりもなほ』
仇討ちだよ、全員集合! 忠臣蔵も関連物件!?
へたれ侍岡田准一と愉快すぎる長屋の面々

(はなよりもなお) 2006年

掲載2009年12月04日

シリアスタッチの映画「誰も知らない」で世界的に注目を集めた是枝裕和監督が、「次は楽しい嘘をついてみたい」と選んだのは、「自分が観客として観たい時代劇」。それも若い侍の「仇討ち」がからむという実に時代劇っぽい設定だ。が、そこは一筋縄ではいかない是枝作品。主人公の青木宗左衛門は、剣はからきしダメなへっぴり侍で、長屋でちまちま暮らす好青年。隣には魅力的な未亡人・おさえ(宮沢りえ)がいて、気になって仕方ない。他にも、長屋には思いつきでハラキリする次郎左衛門(香川照之)、そそのかしやの貞四郎(古田新太)、ふんどし出してぴょんぴょんしている孫三郎(木村祐一)などヘンな連中が大集合。
おまけに、身分を隠した赤穂浪士(寺坂吉右衛門に寺島進など)まで現れて、どうなっちゃうの?という二層、三層構造になっている。
が、二層になっているのに複雑かといえば、場面はそれぞれキレがあって、笑える。長屋の連中が、仇討ちの茶番劇を仕掛ける辺りは、ほんわかした中に庶民のたくましさがあふれて、楽しい。
長屋セットは、わざと傾斜をつけた坂道に撮影よりかなり早期に建てられ、わざと雑草やコケを生やした本格的なもの。この作品のために作られた人工池にはなぜか蛙が大発生して、捕獲が大変だったとか。肝心の仇討ちはどうなるのか? それは作品のラストで。

掲載2009年10月23日

『薄桜記』
「忠臣蔵」ヒーロー中山安兵衛・勝新太郎、
彼と関わる美男丹下典膳・市川雷蔵の明と暗

(はくおうき) 1959年

掲載2009年10月23日

中山安兵衛(勝新太郎)は、高田の馬場での決闘で一躍江戸の人気者となった。たまたまその場に出くわした旗本丹下典膳(市川雷蔵)は、相手が同門知心流のものであることを知って、その場から立ち去った。後日、典膳は、同門の者に立ち去ったことを責められ、道場を破門されてしまう。その後、典膳は野犬に襲われた娘千春(真城千都世)を救い、その縁でふたりは夫婦に。幸せな日々を過ごすが、ある日、道場の五人組に千春は乱暴されたのだった。復讐を誓った典膳は、千春を離縁。千春の兄は激怒し、典膳の片腕を斬りおとす。
一年後、かつて千春を思いながらも、堀部家の婿となっていた安兵衛は、浅野家の遺臣として討ち入りを願っていた。そして、運命の吉良家茶会の日取りを千春が知っていた…。
からみあうふたりの男の運命。隻腕となった典膳をなおも襲う悲劇。いくらなんでも、そこまですることはないだろうというくらい、知心流道場の連中の悪辣ぶりはひどい。
原作は五味康祐。脚本の伊藤大輔、監督の森一生はともにふたりの個性を知り尽くした名匠。勝新太郎は、思い込んだら一直線の安兵衛を持ち前の明るさで見せ、雷蔵は、愛と苦悩の美男を演じきる。ふたりがどちらも持ち味を存分に活かしたことで、明と暗がくっきりと現れる。

ペリー荻野プロフィール
ペリー荻野

1962年愛知県生まれ。大学在学中よりラジオのパーソナリティ兼原稿書きを始める。 「週刊ポスト」「月刊サーカス」「中日新聞」「時事通信」などでテレビコラム、「ナンクロ」「時代劇マガジン」では時代劇コラムを連載中。さらに史上初の時代劇主題歌CD「ちょんまげ天国」シリーズ全三作(ソニーミュージックダイレクト)をプロデュース。時代劇ブームの仕掛け人となる。

映像のほか、舞台の時代劇も毎月チェック。時代劇を愛する女子で結成した「チョンマゲ愛好女子部」の活動を展開しつつ、劇評・書評もてがける。中身は"ペリーテイスト"を効かせた、笑える内容。ほかに、著書「チョンマゲ天国」(ベネッセ)、「コモチのキモチ」(ベネッセ)、「みんなのテレビ時代劇」(共著・アスペクト)。「ペリーが来りてほら貝を吹く」(朝日ソノラマ)。ちょんまげ八百八町」(玄光社MOOK)「ナゴヤ帝国の逆襲」(洋泉社)「チョンマゲ江戸むらさ記」(辰己出版)当チャンネルのインタビュアーとしても活躍中。