ペリーのちょんまげ ペリーのちょんまげ

掲載2009年11月13日

『かげろう絵図』
松本清張の時代推理小説に雷蔵が挑む。
山本富士子の艶やか二役。大奥の秘密!?

(かげろうえず) 1959年

掲載2009年11月13日

徳川十二代家慶は、将軍ではあるものの、実権は大御所家斉(柳永二郎)に握られていた。家斉の愛妾お美代の方(木暮実千代)の養父中野石翁(滝沢修)は、幕府内で大きな勢力を誇っている。あるとき、城内吹上の庭で不幸な事故が起こった。お美代の方以上に家斉の寵愛を受け始めていた若いお多喜の方が、観桜の宴で自筆の短冊を桜の枝に結ぼうとして、台から転落。流産した上に自身も命を落としてしまったのだ。それが事故でなく、陰謀ではないかと疑った旗本・島田又左衛門(黒川弥太郎)は、登美(山本富士子)を大奥に潜入させる。登美の妹・豊春(山本二役)と同居する又左衛門の甥・新之助(市川雷蔵)も、事件に巻き込まれて行く。
原作は昭和30年代、第一次ブームとなっていた松本清張。作者は「現代の下山事件にも似ている」と語り、権力者を精密に描いている。飄々とした雷蔵の新之助と、「あたしゃ下賎の暮らしが身についているんだよ」と艶っぽい豊春と清楚な登美の二役を演ずる山本富士子のコンビは、スターの輝きでピカピカ。対する滝沢修は、不気味な大悪を悠々と演じているが、注目は木暮実千代。現代にも流行している「目が二倍に見えるくっきりメイク」で、家斉に流し目を送る妖艶さが素晴らしい。悪側のねっとりした雰囲気が、物語を盛り上げる。

掲載2009年08月28日

『転がしお銀〜父娘あだ討ち江戸日記〜』
人生はローリング・ストーン!
内館牧子脚本。父娘の面白哀しいあだ討ち譚

(ころがしおぎん〜おやこあだうちえどにっき〜) 2003

掲載2009年08月28日

時は文政。奥州高代藩の元家老・山岡網右衛門(伊東四朗)は、嫡男孝左衛門が部下の不始末の責任を負って切腹。お家断絶となり、悲嘆にくれる。しかし、娘菊(田中美里)は、「人生前向きに転がってないとお終いだよ!」とふたりで江戸へ出て、孝左衛門を切腹に追い込み、身を隠した部下を探して仇討ちしようと提案。町人に姿を変えて、八十吉、銀父娘として長屋に暮らし始めたふたり。お銀は、長屋で長患いの母を世話する美貌の青年宗太郎(武田真治)に一目ぼれするが、彼にはいろいろと事情があるようだった…。
お化け長屋には“豆腐小僧”はじめ、なぜか不思議な妖怪?たちが現れ、笑わせる。が、NHKドラマ「ひらり」「私の青空」などで、まっすぐに生きるヒロインを描きながら、現実的な毒も巧みに盛り込む名脚本家・内館牧子の作品だけに、笑えるだけで終わっていない。お銀がほれた宗太郎には、辰己芸者の梅弥(風吹ジュン)という年上の恋人がいた。やがて明かされる孝左衛門切腹の真相、悲しい別れ。最終回では、長屋のメンバー総出で恐ろしい刺客と戦うことに。舞の海がしこを踏んだり、小泉孝太郎がおっちょこちょいのお坊ちゃんで出ているのも注目。「もはや、わしは生きでいだくね」とがっくりする父に「転がり続ければ生きていける」と励ますお銀。その言葉に元気が出る。

掲載2009年08月21日

『怪談鏡ケ渕』
金と嫉妬と商品偽装が悲劇の引き金に!
じっとり湿った三遊亭圓朝六十周忌記念映画

(かいだんかがみがふち) 1959年

掲載2009年08月21日

代官の怒りを蒙り、父とともに江戸へ出てきた浪人・安次郎(伊達正三郎)は、運よく呉服商の江島屋治右衛門(林寛)に引き取られ、許婚のお菊(北沢典子)ともども夫婦養子になることになった。自分が江島屋の跡取りになれると思っていた古参番頭の金兵衛(大原譲二)と妾のお仲(浜野桂子)は深く嫉妬し、安次郎追い出しを図る。
そんな折、金兵衛に騙されて粗悪に生地で花嫁衣裳を作って、披露宴で大恥をかかされたお里(瀬戸麗子)が、「よくもこんな姿にしてくれた」と髪を振り乱して鏡ケ渕に現れる。
金兵衛はお里を殺害。鏡ケ渕に沈める。これ以降、金兵衛は、お仲の色香で治右衛門を惑わせ、残酷な殺しを続けていく。そのすべてを飲み込んだ鏡ケ渕で、ついに身の毛もよだつ出来事が…。
色と欲。複雑にからみあった人間たちが憎みあい、殺しあう。この構成力はさすが圓朝。
花嫁という幸せの絶頂から絶望したお里の表情が恐ろしい。また、金のために男をたらしこむお仲のパワフルな悪女ぶり。やはり怪談は女性の力が重要といえそう。
障子に映る女の黒髪、短刀からしたたる血潮、ゆれる火の玉、どろりとした沼の妖気。CGのない時代、じっとり湿った空気がモノクロの画面から漂ってくる雰囲気作りは、映画人たちの力の見せ所。じっとり怖いです。

ペリー荻野プロフィール
ペリー荻野

1962年愛知県生まれ。大学在学中よりラジオのパーソナリティ兼原稿書きを始める。 「週刊ポスト」「月刊サーカス」「中日新聞」「時事通信」などでテレビコラム、「ナンクロ」「時代劇マガジン」では時代劇コラムを連載中。さらに史上初の時代劇主題歌CD「ちょんまげ天国」シリーズ全三作(ソニーミュージックダイレクト)をプロデュース。時代劇ブームの仕掛け人となる。

映像のほか、舞台の時代劇も毎月チェック。時代劇を愛する女子で結成した「チョンマゲ愛好女子部」の活動を展開しつつ、劇評・書評もてがける。中身は"ペリーテイスト"を効かせた、笑える内容。ほかに、著書「チョンマゲ天国」(ベネッセ)、「コモチのキモチ」(ベネッセ)、「みんなのテレビ時代劇」(共著・アスペクト)。「ペリーが来りてほら貝を吹く」(朝日ソノラマ)。ちょんまげ八百八町」(玄光社MOOK)「ナゴヤ帝国の逆襲」(洋泉社)「チョンマゲ江戸むらさ記」(辰己出版)当チャンネルのインタビュアーとしても活躍中。