ペリーのちょんまげ ペリーのちょんまげ

掲載2008年04月11日

『疵千両』
二枚目長谷川一夫はじめ、皆が傷だらけ!
人の運命の不思議さとはかなさを描く文芸作

(きずせんりょう) 1960年

掲載2008年04月11日

ささいなことから、所領没収となった会津加藤家。その家臣である高倉長右エ門(長谷川一夫)は、その原因について、竹馬の友である東郷茂兵ェ(河津清三郎)と口論となる。口だけで決着がつかないふたりは、ついに剣を交えることに。雷鳴の中、その戦いは壮絶で、三度立ち、三度倒れるというすさまじさ。やがてついに茂兵ェが倒れ、長右エ門は、彼の弟又八郎(小林勝彦)の仇となるが、その又八郎は、すでに高倉家の侍女すが(香川京子)と出奔していた。そのすがこそ、長年、長右ェ門が密かに恋した相手だった。
 誰のせいで藩が取り潰されたかという、いまさら口論しても仕方ない?ことで親友と命のやりとりをするのもすごいが、ここでは、その敵討ちでまたまた皆が傷だらけになるという、まさに「疵千両」と言いたいほどの戦いが繰り広げられる。又八郎と因縁の戦いでは、満身創痍になりながら、「又八郎、オレは立ったぞ!」と相手を挑発。天下の二枚目・長谷川一夫が血みどろの姿を熱演する。また、悲劇の女性を演ずる香川京子の凛とした美しさも際立っている。
 なぜ、これほどまでに戦わなければならないのか?人の運命の不思議さとはかなさが伝わる。こどもの笑顔が救いになるが、それにしても、これほどの不幸がなぜ?と問いたくなるような余韻が残る。

掲載2008年03月21日

『和宮様御留』
将軍家に嫁ぐ皇女和宮はにせモノ!?
有吉佐和子の大胆な推理と人間ドラマ

(かずのみやさまおとめ) 1991年

掲載2008年03月21日

幕末。国中が揺れ動く中、幕府は「公武合体」政策の切り札として、将軍家に皇女の降家を御所に願い出ていた。最終的に候補になった和宮(藤谷美紀)にはすでに許婚があったが、再三の幕府の申し出についに江戸への降家が決まる。納得できない和宮の母(司葉子)は、密かに和宮の替え玉を探させる。そこで選ばれたのは、公家屋敷・橋本中将(財津一郎)宅で下働きをする捨て子のフキ(斉藤由貴)だった。想いを寄せる大工の四郎(的場浩司)と祇園祭にいくのを楽しみにしていたフキはある日突然、和宮邸に呼び出され、公家の作法を仕込まれる。自由に口をきくことも、外へ出ることも許されぬまま、江戸への出立の日が近づくが、フキの表情には尋常ではない疲労が表れ始めていた…。
 私は昨年、和宮一行が旅した中山道を歩いたが、総勢三千人を越える大行列を受け入れるため、宿場は丸ごと大改造をするほどの大騒動だったという。和宮は各地で落ち葉を自分に見立てた歌を残すなど、江戸へは「落ち行く」心境だったことが覗える。このドラマでは、その和宮が替え玉だったという大胆な推理と、公家方、武家方双方の思惑から運命を変えられる少女の不幸を描く。斉藤由貴はチキチキトントンと祇園祭の歌を歌いながら、不安定になっていく娘を熱演。若き堤真一が非情の決断をする男を演じているのも見物。

掲載2008年03月14日

『神谷玄次郎捕物控』
ぐうたら同心は実は洞察力と剣の腕の持ち主
藤沢周平原作。唐沢寿明の若手同心も活躍

(かみやげんじろうとりものひかえ) 1990年

掲載2008年03月14日

北町奉行所同心・神谷玄次郎(古谷一行)は、奉行所でも評判のぐうたら者。浅草小料理屋の女将で子持ちの未亡人お津世(藤真利子)といい仲になっている。しかし、玄次郎には家族を何者かに殺されたという暗い過去があった。顔には出さないが、悪を憎む心は人一倍。鋭い洞察力と剣の腕で難事件に挑む。
 「神隠し」の回では、町で乱暴を働く旗本のひとりが殺され、以前、彼らに注意したことでケガをさせられ、妹おしな(小林かおり)も神隠しにあったという大工の庄七(平泉成)が疑われる。小間物屋の女房として夫とこどもと幸せに暮らしていたおしなに何があったのか。事件は意外な展開を見せる。
 やる気はあるが推理力はいまいちの若い同心(唐沢寿明)に「町人の暮らしを守るのが俺たちの仕事だ」と何気なく仕事の意味を教える玄次郎。旗本相手でも「うす汚ねえ野郎だ!!」と闘志満々で気持ちいい。それなのに、一件落着してお津世に会えば、途端にでれでれになるのが面白い。
 原作藤沢周平。「いい加減こぶ付き女と手を切れ!!」と口やかましい上司(加藤武)、古い資料をめくりながら「その一件は確か…」と生き字引ぶりを見せる老同心(今福将雄)、人情派の岡っ引き銀蔵(芦屋雁之助)ら、達者な脇役が玄次郎の活躍を盛り上げる。江守徹のナレーション、憂歌団の主題歌も渋い。

ペリー荻野プロフィール
ペリー荻野

1962年愛知県生まれ。大学在学中よりラジオのパーソナリティ兼原稿書きを始める。 「週刊ポスト」「月刊サーカス」「中日新聞」「時事通信」などでテレビコラム、「ナンクロ」「時代劇マガジン」では時代劇コラムを連載中。さらに史上初の時代劇主題歌CD「ちょんまげ天国」シリーズ全三作(ソニーミュージックダイレクト)をプロデュース。時代劇ブームの仕掛け人となる。

映像のほか、舞台の時代劇も毎月チェック。時代劇を愛する女子で結成した「チョンマゲ愛好女子部」の活動を展開しつつ、劇評・書評もてがける。中身は"ペリーテイスト"を効かせた、笑える内容。ほかに、著書「チョンマゲ天国」(ベネッセ)、「コモチのキモチ」(ベネッセ)、「みんなのテレビ時代劇」(共著・アスペクト)。「ペリーが来りてほら貝を吹く」(朝日ソノラマ)。ちょんまげ八百八町」(玄光社MOOK)「ナゴヤ帝国の逆襲」(洋泉社)「チョンマゲ江戸むらさ記」(辰己出版)当チャンネルのインタビュアーとしても活躍中。