ペリーのちょんまげ ペリーのちょんまげ

掲載2008年01月10日

『新鞍馬天狗 夕立の武士』
小堀明男のまじめ&シリアス天狗様
宝田明、左卜全の悪役ぶりにもご注目。

(しんくらまてんぐ ゆうだちのぶし) 1955年

掲載2008年01月10日

正義の志士鞍馬天狗(小堀明男)は、二条城から千両箱が運び出されるという不穏な動きを目撃。あやしい山伏を追跡するが、邪魔が入って見失う。その翌日、古井戸から空っぽの千両箱と御金蔵番・手代木(沢村宗之介)の死体が発見される。この裏には、水戸家の御落胤・松平善三郎(土屋嘉男)を担ぎ出して、金を奪おうとする陰謀があったのだ。
 鞍馬天狗といえば、嵐寛寿郎の当り役として知られるが、原作者・大仏次郎は「人を斬りすぎ」とアラカン版に不満を抱き、自ら制作に関わって、本作を発表したのであった。よって、雰囲気はかなりシリアス。アラカンが「天狗のおじさん」として親しみを見せたのに対して、小堀天狗は、正義のヒーローに徹しようとしたイメージ。
 共演者は吉兵衛の藤原鎌足が渋い盗賊ぶりを見せれば、事件を見守る老武士の志村喬は貫禄を見せる。面白いのは、悪役陣で、最近ではミュージカルなどでもユニークな存在感を出す宝田明が嫌味かつ陰険な二枚目に。黒澤映画でも活躍した土屋嘉男が困ったわがまま殿様に。あやしい山伏のひとり左卜全の最後のセリフはたまらない。また、天狗と知り合う謎の女・おさん(北川弘子)、桂小五郎の恋人幾松(塩沢登代路)の美しさも光る。塩沢登代路が後にあけすけトークおばさま塩沢ときになるとは、とても信じられませんよ!

掲載2007年10月11日

『心中宵庚申』義理の息子を溺愛する母の鬼気迫る姿!近松女優喜和子VS信子の芸術祭大賞作品。

(しんじゅうよいごうしん) 1984年

掲載2007年10月11日

宵庚申とは、庚申待ちをする日の宵のこと。庚申待ちは、庚申(かのえさる)の日の夜、「この日に眠ると三戸の虫が災いして命を短くする」という迷信があり、仏家では帝釈天や青面金剛を、神道では猿田彦の神を祭って、徹夜で語り明かす風習があった。作者の近松門左衛門は、大坂の八百屋の養子・半兵衛が妻のお千代と心中した実際の事件を題材に脚色。作者最後の世話浄瑠璃となった。
 舞台は大坂の八百屋。半兵衛(滝田栄)は、伊右エ門(佐藤慶)おつや(乙羽信子)夫婦の養子となり、妻のお千代(太地喜和子)との仲もよく、商売に励むまじめ人間だ。しかし、愛嬌がよく明るいお千代に、おつやは何かとつらく当る。お千代が集金先でたまたま前夫(林与一)と再会したことを聞いたおつやは、半兵衛の留守にお千代を実家へ帰してしまう。その裏には、女として半兵衛を思うすさまじいおつやのゆがんだ愛情が…。
 険しい顔で「あれ(お千代)は店へ出さん方がよろし」「顔も見とうない」と言いながら、半兵衛には「私はもういっそ狂った方が!!」と迫ってくるおつやは怖すぎ!! 苦しむに決まっているお千代を再び半兵衛に預ける老父(辰巳柳太郎)の「娘ひとり死んだと思い…」という言葉には泣かされる。
 名脚本家・秋元松代の磨かれたセリフと鬼才和田勉演出による芸術祭大賞受賞作。

掲載2007年09月13日

『清左衛門残日録 仇討ち!播磨屋の決闘』清左衛門のもとに親友から果たし状が。気になる美人女将みさの消息は…。

(せいざえもんざんじつろく あだうち はりまやのけっとう) 1995年

掲載2007年09月13日

家督を息子に譲り、悠々自適の隠居生活かと思われた、元側用人の三屋清左衛門(仲代達矢)だったが、実際は、現役を離れたさびしさを実感し、藩内の争いごとや人間関係から生じるささいな事件にしばしば悩まされることになった。楽しみは親友の奉行・佐伯熊太(財津一郎)と、美人女将みさ(かたせ梨乃)の店で酒をくみかわすことだったが、みさは嫁ぐことになり、町を離れた。
 ある日、清左衛門のもとに友人の安富源太夫(室田日出男)から果たし状が届く。わけもわからず斬り合いになるが、それを救ったのは、みさと縁続きの類(浅丘ルリ子)だった。その数日後、源太夫は高札場で切腹して果てる。彼は何を訴えたかったのか。
 藤沢周平が初老の武士の暮らしとほろ苦い心を描いて人気になったシリーズ。このSP版では、清左衛門と友人たちの過去と武士として生きるしかない切なさが伝わってくる。浅丘ルリ子は独特の謎めいた雰囲気で、最後まで秘密を明かさない。清左衛門と互いに憎からず思いあっていたみさの消息は…。
 冒頭、激しい立ち回りで息を切らす清左衛門と源太夫。仲代達矢ご本人は「本当に息が切れるほど大変だった」という。室田日出男は、白いものがまじったヒゲ顔で、愛憎と哀愁を表現。大ベテラン森繁久弥の渋い演技もお見逃しなく。

ペリー荻野プロフィール
ペリー荻野

1962年愛知県生まれ。大学在学中よりラジオのパーソナリティ兼原稿書きを始める。 「週刊ポスト」「月刊サーカス」「中日新聞」「時事通信」などでテレビコラム、「ナンクロ」「時代劇マガジン」では時代劇コラムを連載中。さらに史上初の時代劇主題歌CD「ちょんまげ天国」シリーズ全三作(ソニーミュージックダイレクト)をプロデュース。時代劇ブームの仕掛け人となる。

映像のほか、舞台の時代劇も毎月チェック。時代劇を愛する女子で結成した「チョンマゲ愛好女子部」の活動を展開しつつ、劇評・書評もてがける。中身は"ペリーテイスト"を効かせた、笑える内容。ほかに、著書「チョンマゲ天国」(ベネッセ)、「コモチのキモチ」(ベネッセ)、「みんなのテレビ時代劇」(共著・アスペクト)。「ペリーが来りてほら貝を吹く」(朝日ソノラマ)。ちょんまげ八百八町」(玄光社MOOK)「ナゴヤ帝国の逆襲」(洋泉社)「チョンマゲ江戸むらさ記」(辰己出版)当チャンネルのインタビュアーとしても活躍中。