ペリーのちょんまげ ペリーのちょんまげ

掲載2007年10月18日

『但馬屋のお夏』太地喜和子×秋元松代×和田勉の近松ドラマ 女の純情と強さ、怖さを詰め込んだ秀作

(たじまやのおなつ) 1986年

掲載2007年10月18日

享保12年5月、播磨国宝津(兵庫県御津町)は、恒例のあやめ祭で賑わっていた。加茂神社の舞殿では、華やかな金糸仕立ての衣装を身にまとったお夏(太地喜和子)が。突風に飛ばされたお夏の扇子に、とっさに自分の白扇子を投げて救った水野与一郎(名高達郎)は、以来、彼女のことが気になって仕方ない。本来、遊女が踊る舞をピンチヒッターとはいえ、商家の娘が踊ったことで、お夏は母お志津(渡辺美佐子)から小言を言われるが、もともと京都の公家に奉公して、里帰り中のお夏はケロリとしている。お夏の眼中には、義理の兄十兵衛(中村嘉葎雄)しかなかった。兄が嫁お菊(いしだあゆみ)をもらうのが辛くて奉公に出たお夏。しかし、兄はお菊と別れていた。その事情とは…。
 お夏にいきさつを聞かれたいしだあゆみが恐ろしい顔で「兄様にたんねてみなはれ!!」と言う姿には、すでに悲劇の予感が。「よう帰った」とお夏を迎えるもの柔らかな兄は、淋しげな背中だけで男の哀しみを表現。名手・秋元松代は近松門左衛門の原作を大胆に脚色。ラストシーンの意外さも見逃せない。
 加茂神社で完全に再現された祭り風景の美しさや、剣一筋の与一郎を見守る父織部役の植木等、物語の語り部的存在でもある清六役の佐藤慶など、和田勉ドラマらしい絶妙なキャスティングでつづられる人間ドラマ。

掲載2007年08月02日

『丹下左膳餘話 百萬兩の壺』愛すべきチャンバラキャラクター左膳見参! 山中貞雄監督のセンスが光る名作

(たんげさぜんよわ ひゃくまんりょうのつぼ) 1935年

掲載2007年08月02日

伊賀の柳生家では有事に備え、百萬両もの隠し金を蓄え、そのありかを家宝「コケ猿の壷」に潜ませていた。しかし、当代当主は、事実を知らず、コケ猿の壷を弟・源三郎の婿入り道具として送りつけてしまう。貧相な壷を見た源三郎は、「こんなものを」とくず屋に売り払う。そのくず屋が、金魚の入れ物にと少年チョビ安に渡されて…。一方、矢場の女主おふじ(喜代三)の亭主兼用心棒といえば、隻眼隻手の剣の達人・丹下左膳(大河内傳次郎)。不思議な縁でチョビ安の面倒を見ているうちに、壷の争奪戦に巻き込まれていく。
 柳生家では強欲な家臣が「百萬両といえば、殿は日本一の大金持ちですぞ」「ここはひとつ源三郎様をうまくだまして」などと密談。その弟の源三郎は「あのケチな兄上が壷を返せというのはおかしい」などと怪しむ。腹の探りあいのおかしさはほとんど喜劇。
 また、「腹のへったこどもを泣かせるとは」と亭主らしくおふじに強気に出るものの、「こんな子を連れてきて!」と言い返されて口ごもるなど、“怒りっぽいが根はいいおじさん”左膳のキャラクターも味がある。あまりに原作者の意図に反したキャラゆえに「餘話」と付いたというのもこの時代らしい。林家木久蔵のモノマネでもおなじみの大河内傳次郎独特のセリフ回しが、夫婦喧嘩にのって、軽妙にさえ聞こえるから面白い。

掲載2007年07月12日

『天を斬る』栗塚旭・島田順司・左右田一平の極秘捜査 人の心を大切にする結束脚本が光る。

(てんをきる) 1969年

掲載2007年07月12日

幕末動乱の京都。幕府の密命を受けた江戸講武所頭取の牟礼重蔵(栗塚旭)、京都西町奉行所与力の権田半兵衛(左右田一平)、京都東町奉行所の桜井四郎(島田順司)。彼らの仕事は京に潜む不逞の輩の探索、取り締まりだが、幕府の命令を公に出さないのが条件だった。三人は、京都無宿の浪人に身をやつし、女好きで謹慎中の京都西町奉行所同心・大沢孫兵衛(香月涼二)、大工棟梁の万五郎(小田部通麿)、百太郎(多くの時代劇で悪役を演じている西田良。若い!)と協力して、京の闇にうごめく悪を追い詰める。
 栗塚・左右田・島田はご存知、「新選組血風録」で人気を得た三人組。ここでは、初めて「幕府直属」として活躍することになる。もっとも、栗塚さんご本人は、「それまで武士になりたいと願った新選組や浪人などを演じてきたので、もともと幕府側である人間を演じるのには少し戸惑いがあった」と語っている。
 三人とその協力メンバーがずらりと並ぶと、いかにも「男のドラマ」。「血風録」でもキレのいい脚本を書いた結束信二のオリジナル世界だが、大きな特徴は、ただ男たちが戦うだけでなく、その妻や娘、奉公する女中など周囲の女性たちの心も大切にしていること。
時代のうねりの中で、「俺たちは正しいことをしているのか」重蔵の問いかけがドラマを深くする。

ペリー荻野プロフィール
ペリー荻野

1962年愛知県生まれ。大学在学中よりラジオのパーソナリティ兼原稿書きを始める。 「週刊ポスト」「月刊サーカス」「中日新聞」「時事通信」などでテレビコラム、「ナンクロ」「時代劇マガジン」では時代劇コラムを連載中。さらに史上初の時代劇主題歌CD「ちょんまげ天国」シリーズ全三作(ソニーミュージックダイレクト)をプロデュース。時代劇ブームの仕掛け人となる。

映像のほか、舞台の時代劇も毎月チェック。時代劇を愛する女子で結成した「チョンマゲ愛好女子部」の活動を展開しつつ、劇評・書評もてがける。中身は"ペリーテイスト"を効かせた、笑える内容。ほかに、著書「チョンマゲ天国」(ベネッセ)、「コモチのキモチ」(ベネッセ)、「みんなのテレビ時代劇」(共著・アスペクト)。「ペリーが来りてほら貝を吹く」(朝日ソノラマ)。ちょんまげ八百八町」(玄光社MOOK)「ナゴヤ帝国の逆襲」(洋泉社)「チョンマゲ江戸むらさ記」(辰己出版)当チャンネルのインタビュアーとしても活躍中。