ペリーのちょんまげ ペリーのちょんまげ

掲載2002年02月08日

「旅人異三郎」若き杉良太郎のカッコいい渡世人。コブシも回しまくりの正統派また旅シリーズ。

(たびにんいさぶろう) 

掲載2002年02月08日

 「大江戸捜査網」の隠密同心。「右門捕物帳」の町方同心、「水戸黄門」の助さん、「新吾捕物帳」の岡っ引き、「遠山の金さん」お奉行、「喧嘩屋右近」の浪人、最近では大河ドラマで大老も演ずるなど、時代劇であらゆる役をこなしてきた杉良太郎。やっていない大役は、「忠臣蔵」の吉良上野介くらい?と思えるほど、その役柄は幅広い。
 その杉良時代劇史の中の「最初の渡世人役」が、この「旅人異三郎」なのである。
 原作は「座頭市」でもおなじみの子母澤寛。
自分の三度笠を放り投げて自分の行き先を決めるフーテン系の若き旅人異三郎。が、宿場、宿場には悪人がいて、黙って見過ごせない。
結局、早送りか?と思えるほどの早業、無外流居合抜きでバババッと人助け。実は、単身命懸けの人助けをする理由というのがすごいのである。「泣くのはやめておくんなさいよ・・・人が泣くのは辛うござんす」と、「人が泣くのは辛うござんす」というのが動機なのだ。
 裏街道を生きる渡世人だが、どこかカラッと明るい印象なのは、異三郎が無類の歌好きだからかも。わらべ歌から民謡、盆踊りの歌まで各地でコブシを回して熱唱する。ちなみに主題歌は藤田まこと作詞、遠藤実作曲の「三度笠」。♪い〜さぶろぉおおお〜と、いっしょに歌う楽しみもある。監督マキノ雅裕、池広一夫らによる、股旅モノの正統派。

掲載2002年01月11日

「大菩薩峠」幕末、血に飢えた剣士の波乱の人生 中里介山の名作を市川雷蔵主演の三部作で。

(だいぼさつとうげ) 

掲載2002年01月11日

妖しい剣、“音無しの構え”をつかう剣士・机龍之助は、富士を遠く眺める大菩薩峠で、何の理由もなく老いた巡礼を斬り捨てる。これが、この狂った剣士の衝撃的な登場シーン。奉納試合の相手・宇津木文之丞を惨殺し、その妻お浜を奪い、江戸へ逃げる龍之助。お浜との間に子まで出来ながら、文之丞の弟・兵馬から果たし状が届くと、お浜までも斬って江戸を脱出する。京にたどりついた龍之助は、新選組に入隊するが・・・。
とにかく狂気の連続なのだが、なぜか目が離せないのは、机龍之助というダークヒーローのインパクトゆえ。新選組に入った龍之助が、不気味に笑いながら狂乱し、御簾を斬りまくる名場面でも、銀色に光る着流しを乱しながら暴れる龍之助は、美しくさえある。
その後、老巡礼の孫娘に狙われたり、龍之助が盲目になったりと流転は続く。名監督・三隅研二、森一生による、見はじめると止まらない三部作だ。
主演の市川雷蔵は、同じ大映のスターでも、皆で騒ぐの大好きな勝新太郎と正反対で、もの静かで家庭を大切にした。孤高の人のイメージが強いが、この「大菩薩峠」撮影時には野球に凝り、試合の最中、打撃不振だと「これが本当の音無し構えや」と冗談を飛ばしたというエピソードが残る。
今も若い女性にファンを増やしつづける雷蔵の狂気の演技がいい。

掲載2001年12月22日

藤十郎の恋 原作・菊池寛、監督・山本嘉次郎、助監督・黒澤明、そして主演が長谷川一夫の名作。

(とうじゅうろうのこい) 

掲載2001年12月22日

町人文化が華開いた元禄の京都。
南座の役者・坂田藤十郎は、芸に悩んだ末、師である近松門左衛門に相談する。近松は友人でもある藤十郎のために実話を基にした新作狂言「大経史昔暦」を書き上げるが、その写実的な濡れ場をどう演ずるか、藤十郎は苦悩する。その最中、かつて祇園一の歌奴と呼ばれたお梶に再会。藤十郎は、お梶に恋を打ち明け、演技のきっかけをつかむ。しかし、お梶は藤十郎の心が偽りであると悟り、悲劇が起こる・・・。
天下の二枚目・長谷川一夫が、華麗なしつらえで役者に扮し、やわらかい京風ことばで女(後に化け猫映画で一世を風靡する入江たか子)を口説く。これで落ちない女はいないでしょう・・・。とろけるような甘さでメロドラマの形をとりながら、一方ですべてを芸のためと割り切る冷徹な男の表情は、サスペンスさえ感じさせる。さすが菊池寛作品。
当時、林長二郎こと長谷川一夫は、暴漢に襲われ、顔を斬られるという“顔斬り事件”(松竹から東宝への移籍問題がきっかけといわれるが、真相はなぞのままである)に巻き込まれるが、この作品で見事復帰した。
チャンバラのない文芸時代劇もこんなに面白い、と感心する人も多いはず。原作、監督、助監督、それに主演まですべて揃ったロイヤルストレートフラッシュな名作時代劇として、一度は見ておきたい一本。

ペリー荻野プロフィール
ペリー荻野

1962年愛知県生まれ。大学在学中よりラジオのパーソナリティ兼原稿書きを始める。 「週刊ポスト」「月刊サーカス」「中日新聞」「時事通信」などでテレビコラム、「ナンクロ」「時代劇マガジン」では時代劇コラムを連載中。さらに史上初の時代劇主題歌CD「ちょんまげ天国」シリーズ全三作(ソニーミュージックダイレクト)をプロデュース。時代劇ブームの仕掛け人となる。

映像のほか、舞台の時代劇も毎月チェック。時代劇を愛する女子で結成した「チョンマゲ愛好女子部」の活動を展開しつつ、劇評・書評もてがける。中身は"ペリーテイスト"を効かせた、笑える内容。ほかに、著書「チョンマゲ天国」(ベネッセ)、「コモチのキモチ」(ベネッセ)、「みんなのテレビ時代劇」(共著・アスペクト)。「ペリーが来りてほら貝を吹く」(朝日ソノラマ)。ちょんまげ八百八町」(玄光社MOOK)「ナゴヤ帝国の逆襲」(洋泉社)「チョンマゲ江戸むらさ記」(辰己出版)当チャンネルのインタビュアーとしても活躍中。