ペリーのちょんまげ ペリーのちょんまげ

掲載2007年08月16日

『人情紙風船』山中貞雄監督の最後の作品。暗さの中に不思議なパワーがあふれる

(にんじょうかみふうせん) 1937年

掲載2007年08月16日

舞台は江戸深川の貧乏長屋。そこで老侍が自ら命を絶つ。腹を切ろうにも、生活のために刀は売り払い、首を吊ったのである。
しかし、長屋の連中は、悲しむどころか、「どうもこうも朝から嫌なもんを見ちまった」だの、「侍のくせにこんな死に方を」などと騒ぐばかり。弔いでも、大家のおごりだと大騒ぎを繰り広げる。まず、この勢いに驚かされる。
その長屋には、もうひとり、暮らしにつまった侍・海野又十郎(河原崎長十郎)がいた。女房のおたきが紙風船を作る内職をしてなんとかしのいでいるが、ただひとつの望みは、唯一の知人毛利様を頼って、仕官の道を開くこと。しかし、相手はなんだかんだと逃げ回る。強気で頼み込むこともできない又十郎。そんな折、遊び人の髪結い新三が、大店白子屋の娘をかどわかし、大金をせしめる。又十郎は、その一件と関わりを持ってしまった…。
 タイトルからは、人情いっぱいの物語のようだが、展開は明るくはない。公開は1937年。この映画の封切りの日に、まだ二十代だった山中貞雄監督のもとに召集令状が届き、そのまま戦地で戦病死することになった。この映画には、名もない人間の死が描かれると同時に、底辺で生きる庶民の姿が延々と出てくる。おたきの作った「紙風船」が何を暗示しているのか。戦争一色になりつつある時代に監督が何を思ったのか。余韻が残る。

掲載2007年04月20日

『忍者がえし水の城』「第五回時代小説大賞」小説の映像化作品 壮絶な忍者戦の裏には滅んだはずの豊臣が!?

(にんじゃがえしみずのしろ) 1996年

掲載2007年04月20日

福島家の世継・正勝の近習・高月彦四郎(市川染五郎)は、おおらかでりりしい若者。実はその正体は、豊臣秀吉の忘れ形見・秀頼の異母弟であった。やがて正勝が死去。彼のいる福島家の陣屋はしばしば忍者に襲撃を受ける。かといって、厳重な改築は徳川に謀反の疑いをかけられる心配が。そこで、彦四郎が考えたのは、陣屋の周囲をすべて水で囲い、地元民に田を作らせるという「水の砦」作戦だった。これなら、陣屋は丸見えだが、その分、敵もすぐに発見できる。意表をついた作戦に敵方も戸惑うが、それで引っ込む相手ではない。火矢など、大人数での攻撃は激しさを増す。生き抜くために彦四郎が立ち上がる。
 原作は第五回時代小説大賞作品の大久保智弘の「水の砦」。監督は降旗康男。激闘の中にも希望を持つ人々を描き出している。
 「ここを水の砦に」と語る染五郎は自らの育ちのよさが役柄とマッチして、適役。平幹二朗、丹波哲郎、石橋蓮司、金田龍之介などこわもての面々が、徳川VS豊臣の暗闘を盛り上げる。蟹江敬三が、忍びとして出ているのも面白い。つい先日、「鬼平スペシャル一本眉」でも大活躍した宇津井健が、熱血漢の福島正則で登場。二役もこなし、その役柄のギャップは見もの。また、独自の存在感で人気のあった田村英里子も影のある美女役で登場。田村ファンはお見逃しなく。

掲載2006年11月30日

『菜の花の沖』江戸時代商人版の秀吉的大出世男・嘉兵衛!日焼けした竹中直人が大海原に夢を追う。

(なのはなのおき) 2000年

掲載2006年11月30日

今も多くの読者を魅了する作家・司馬遼太郎。その命日2月12日「菜の花忌」の由来ともなったのが、本作。
 1769年、淡路島の貧しい農家に生まれた高田屋嘉兵衛(竹中直人)は、故郷の菜の花畑と目の前に広がる青い海を愛していた。やがて、裸一貫で島を出た嘉兵衛は、大海原を疾走する夢を果たすために走り出す。
 度胸と商才は誰にも負けない嘉兵衛は、アクの強い先輩商人や水夫たちと渡り合い、やがて北洋の新航路を開拓。日本一の大船主となっていく。美人妻(鶴田真由)も娶って、各地に支店も置くなど、人生順風満帆かに見えたが、ロシア帝国と日本は紛争状態に。嘉兵衛も捕らわれてしまう…。
 大河ドラマ「秀吉」でも大出世を演じた竹中直人が、秀吉以上に日焼けした海の男になって登場。言葉や理屈が通じない相手にもどかんとぶつかる、その度胸と鋭い商売の勘には拍手を送りたくなる。一方で、各地を飛び回り、家庭を顧みる時間がほとんどなく、妻子とうまくいかなくなる現実。人間ドラマとしても現代に通じるところがありそう。
 いい味を出しているのが、妻を世話する女中役の藤田弓子と、豪商役の江守徹。「はい、おにぎり」とどんなピンチにものほほーんとした藤田と、プライドが高く白目で嘉兵衛をにらみつける江守。ベテランの演技がさえる。

掲載2006年01月19日

「眠狂四郎勝負」シリーズ第二作にして本当の原点。本作の裏にあった狂四郎シリーズの裏話。

(ねむりきょうしろうしょうぶ) 1964年

掲載2006年01月19日

ご存知市川雷蔵の「眠狂四郎」シリーズ第二作。
 正月でにぎわう江戸愛宕神社の境内で、狂四郎が偶然助けた勘定奉行の朝比奈伊織(加藤嘉)。朝比奈は、将軍家斉の息女・高姫(久保菜穂子)の超高額化粧料の支給停止を画策し、退廃した幕政改革に取り組む人物であった。高姫と越後堀家の用人白鳥主膳(須賀不二男)は、朝比奈を逆恨み。抹殺しようと腕のたつ刺客を放ったのであった。
 実はシリーズ第一作は、柴田錬三郎の原作をかなり忠実に再現したものであったが、狂四郎のキャラクターが描ききれていない部分が多かった。しかし、当時は人気俳優の作品は毎月のように製作されており、「狂四郎」も第一作公開以前に第二作公開が決定していたのであった。それまで時代劇の脚本の経験がほとんどなかったという星川清司は、第一作に続いて二作目も担当。一作目の反省から思い切って原作とは違う設定(狂四郎のねぐらが投げ込み寺だったりすること)を考案。原作者に激怒されることを覚悟で、これは一種の賭けだったという。が、結果的には大成功。
 細身ながらピンシャンと改革を進める一方で、虚無に生きる狂四郎とも妙に気が合う朝比奈、高慢にして妖艶な高姫など、キャラクターが活きた「勝負」は、まさにシリーズとしても「勝負」だったのだ。

掲載2004年04月02日

「女忍かげろう組《参》」多岐川裕美率いる美人忍び集団。鮎川いずみの体当たり演技と伊吹吾郎の活躍にも注目。

(にょにんかげろうぐみ) 1991年

掲載2004年04月02日

 「かげろう組」とは、表沙汰にできない陰謀を阻止すべく結成された女忍び集団。その黒幕は、大奥の実力者・春日局(藤間紫)だ。忍びのリーダーは陽炎こと多岐川裕美。他は、由美かおる、清水美砂、鮎川いずみなど、美形が揃う。
 今回は伝説の埋蔵金を目当てに、藩主(にしきのあきら)の双子の兄弟を事故に見せかけてすり替えた悪人集団と対決する。しかし、敵にはフランケンシュタインのような風貌の恐ろしい忍者(内田勝正)らがついている。どうする、かげろう組?と思ったら、出た!得意のお色気作戦。悪商人の目の前で「持病が・・・」と倒れてみせた鮎川。まんまと敵の屋敷に担ぎ込まれて、ねっとりした視線で誘惑する。そして、とどめは入浴だ!てっきり由美かおるの役割だと思っていたが、今回は鮎川が大活躍する。そして、異色なのが清水美砂。すっかり人が変わって(すり替わったのだから当然だが)美人とみると、すぐにお手つきにしようと企む悪殿様の寝所に、身代わりで潜入。捕らえられ、どんなに責めつけられても「すべては御仏のおぼしめしのままに・・・」と、ビクともしないのである。妖艶にしてタフなくノ一たち。そこに影のように登場する謎の男(伊吹吾郎)。柳生十兵衛?いえいえ、柳生十市兵衛!微妙な名前の吾郎の活躍にも、ぜひ注目を。

掲載2004年03月19日

「日本犯科帳 隠密奉行」錦之介の出張隠密捜査!内助の功・岸田今日子との名コンビで、痛快に事件解決。

(にほんはんかちょう おんみつぶぎょう) 1981年

掲載2004年03月19日

朝比奈河内守(萬屋錦之助)は、明朗快活な人物。大目付として武家の取締りに当たるのが、表向きの仕事だが、実は「隠密奉行」という秘密の任務も命じられていた。
 ある時、寺社奉行・小笠原佐渡守が何者かに暗殺される。何やら複雑な事情ありとにらんだ朝比奈は、早速、讃岐に出張。そこで事情通の鳥追い女・お紋(野川由美子)と出会う。実は、琴平一帯は寺社領。藩の支配も、幕府の管理も及ばないことをいいことに、質の悪い連中の横暴が続いていた。しかも、まだ何か裏もある様子…。
 金比羅参りに出掛けた途端、ならず者たちにからまれた朝比奈は、牢に入れられてしまう。が、そこでめげる朝比奈ではない。潜入捜査のはずが、なぜかとても目立ってしまう、大胆不敵な隠密奉行の活躍が始まる。
 錦之介のおおらかな魅力と、潜入捜査の面白さが楽しめる作品。なぞの出張ばかりしている夫と暮らす、朝比奈の妻りん・岸田今日子の名演技にも注目したい。萬屋&岸田の組み合わせは、錦之介の“破れシリーズ”「破れ新九郎」でもいい味だった。また、共演の新克利は、やはり錦之助主演の人気作「長崎犯科帳」の奉行と部下の名コンビ。他に御木本伸介、浜田寅彦、和崎俊哉、小池朝雄ら、時代劇ではおなじみの面々が揃う。痛快時代劇の楽しさいっぱいの一本。

掲載2003年02月21日

「忍者カムイ外伝」“抜け忍”カムイに次々襲いかかる刺客。時代の空気も漂わせる白土三平の傑作アニメ。

(にんぷうかむいがいでん) 1969年

掲載2003年02月21日

 四代将軍家綱の治世。徳川の地盤もほぼ固まったかと思われる頃。人知れず厳しい掟に縛られて生きる忍びの者たち。その中で、天才的な才能を持つ忍者カムイは、非情な忍びの掟に耐えられず“抜け忍”となる。掟を破れば即、死。首領にカムイ抹殺を命じられた刺客たちと、カムイの壮絶な戦いが始まった・・・。
 いつ、どこで襲われるかもわからない極限の緊張感。自死をも恐れない驚くべき忍術の数々。その中でも人間味を失わないカムイ。毎回最終回のような哀感が漂うのに、また見たい。強烈な魅力のあるアニメだ。
 原作は64年に雑誌「ガロ」で発表された白土三平の「カムイ伝」のカムイが抜け忍になってからの物語。ちなみに「カムイ伝」は、当時の大学生たちに熱狂的に支持されたマンガであった。さらに「カムイ外伝」放送当時は、日本で学生運動の嵐が吹いた頃。荒涼とした平原にカムイに破れた忍者の軀が風にさらされる、まさに「死して屍拾う者なし」な風景は、どこか時代の空気を感じさせる。
 ナレーションの城達也、時代劇でもおなじみの俳優で、カムイの声担当の中田浩二、主題歌「忍びのテーマ」を歌うレコード大賞歌手・水原弘。彼ら「男の低音三人衆」も物語にぴったりくる。忍者アニメの傑作。

掲載2001年12月28日

年末特別企画「剣」志村喬傑作選 志村喬が、伝説の名作シリーズで見せた演技の数々。このチャンネルならではの傑作選。

(ねんまつとくべつきかく「けん」しむらたかしけっさくせん) 

掲載2001年12月28日

「剣」は、銘はないが切れ味はすさまじい一本の刀を主人公にした異色の時代劇。小沢栄太郎が「剣」の声を担当し、切れすぎる刀を手にした男たちの浮沈を物語る。黒澤映画を支えた脚本家(橋本忍、菊島隆三、小國英雄、井手雅人)らのオリジナル作品を、小道具にまでこだわる映画なみの予算とキャスティングで制作された伝説の名作シリーズだ。
その中でも、今回は特に「志村喬」が出演した9作品をピックアップ。志村喬といえば、1905年兵庫県に生まれ、舞台役者としてスタートしたが、トーキーの到来で映画に転向し、初期にはエキストラや悪役。黒澤映画「姿三四郎」での熱演などで、人気を得、「七人の侍」など黒澤映画には欠かせない俳優となった人。(82年没)
この「剣」のシリーズは、一話完結なので毎回役柄は違うが、たとえば「山犬ともぐら」では、粗暴な山犬(三國連太郎)と小心者のもぐら(緒形拳)が「剣」を得て、お互い奇妙な友情を感じつつ、一攫千金を狙う。志村喬はふたりをそそのかしつつ、なんとか姫を無事陣地に送り届けようとするが、それには裏がありそうで・・・というお話。最後まで緊張感にあふれ、見た後、心にしみてくる感覚は、緻密で優れた作品だけの味。志村喬のさまざまな演技を楽しめるこの年末企画は、まさにこのチャンネルならではのお楽しみといえる。

掲載2001年11月09日

「俄(にわか)=浪華遊侠伝」 司馬遼太郎の原作を、山田太一脚本、木下恵介監督でおくる浪華の痛快任侠伝

(にわか=なにわゆうきょうでん) 1970 −全13話−

掲載2001年11月09日

幕末の大阪。父親に逃げられ、貧困のどん底の母や妹を救うために、商家の丁稚からこどもながらに「無宿者」として生きる決意をした明石家万吉。殴られても蹴られても、「どつけ!どつかんかい!」と立ち上がっては銭を稼ぎ、やがては日本一の侠客に成り上がった万吉の波瀾万丈の生涯を、骨太に描く。
原作は司馬遼太郎。生粋の大阪人だけに、土地柄、人情、言葉など庶民の暮らしをリアルに描き、庶民の目から見た幕末史、維新史ともなっている。そこここにあふれる独特のユーモアも味わい深い。
その原作を脚本にしたのが山田太一。さらに監督が木下恵介。豪華スタッフが揃ったぜいたくな番組となった。
主役の万吉に林隆三、こどもの頃から万吉に目をかける芸者・小左?に藤村志保、「さあ、はった、はった。はって悪いは親父の頭」と口上も調子良いこども博打の?元に白木みのるなど、配役もユニーク。
万吉は、かなり悲惨な目にもあうが、生来の度胸とド根性と明るさで乗り越えていく。侠客の話なのに見る者を元気にしてしまうパワーがすごい。明治維新を経て、時代も大きく変わるが庶民はタフだ。江戸の武士中心の時代劇とはひと味違う清々しい関西の時代劇。地上波では再放送の機会が少なかったお宝作品のひとつ。一度見るとハマります!

掲載2001年08月10日

日本怪談名作劇場 お盆シーズン。ひんやり気分をどうぞ。

(にほんかいだんめいさくげきじょう) 1970

掲載2001年08月10日

 猛暑続きで水不足。寝苦しい夜には、特にお勧めなのが、怪談。背筋ぞくぞく、涼しさ満点のひとときをお届けする。
 今週のラインナップは、11日が「怪談夜泣き沼」駆け落ちした男を裏切り、やくざと深い仲になった旅役者の女(新藤恵美)男を殺して、やがて怨霊につきまとわれ...。怨霊も怖いが、新藤恵美の鬼気せまる演技も怖い。
 13日は、おなじみの「怪談牡丹燈籠」恋人と引き裂かれ、別の男との婚礼の夜に自害した娘・お露が毎夜、恋人のところへ尋ねてくる。物悲しい怪談。佳那晃子が思い詰めた目で、夜な夜な...。怖すぎる。
 14日の「怪談死神」は、異色作。死神に恩を売って、医者になった大工。死神のおかげで次々病人を完治させ、地位と金を手に入れるが...。中村鴈次郎の名演技に注目。
 15日「怪談鰍沢」鰍沢で毒殺された男の死霊が現れる。清水章吾、ピーターらが出演。
 16日「怪談奥州安達ヶ原」応仁の乱の頃。
盗賊に襲われた母娘が、やがて鬼女と化して、盗賊に復讐をとげる。藤巻潤、梅津栄ら、曲者俳優が登場。
 17日「怪談高野聖」魔物が出ると言われる峠にさしかかった修行僧が、人を動物に変えてしまう魔性の女に出会う。泉鏡花の名作に市川左団次、田中真理(一部男性ファンには懐かしいはず)が挑む。
 蚊取り線香、花火、怪談。帰省先でみんなで楽しむのも、一奥かも。

ペリー荻野プロフィール
ペリー荻野

1962年愛知県生まれ。大学在学中よりラジオのパーソナリティ兼原稿書きを始める。 「週刊ポスト」「月刊サーカス」「中日新聞」「時事通信」などでテレビコラム、「ナンクロ」「時代劇マガジン」では時代劇コラムを連載中。さらに史上初の時代劇主題歌CD「ちょんまげ天国」シリーズ全三作(ソニーミュージックダイレクト)をプロデュース。時代劇ブームの仕掛け人となる。

映像のほか、舞台の時代劇も毎月チェック。時代劇を愛する女子で結成した「チョンマゲ愛好女子部」の活動を展開しつつ、劇評・書評もてがける。中身は"ペリーテイスト"を効かせた、笑える内容。ほかに、著書「チョンマゲ天国」(ベネッセ)、「コモチのキモチ」(ベネッセ)、「みんなのテレビ時代劇」(共著・アスペクト)。「ペリーが来りてほら貝を吹く」(朝日ソノラマ)。ちょんまげ八百八町」(玄光社MOOK)「ナゴヤ帝国の逆襲」(洋泉社)「チョンマゲ江戸むらさ記」(辰己出版)当チャンネルのインタビュアーとしても活躍中。