ペリーのちょんまげ ペリーのちょんまげ

掲載2001年06月09日

地獄の辰捕物控

(じごくのたつとりものひかえ) 1972年

掲載2001年06月09日

岡っ引きの親分というと、たいていは品行方正、愛妻家でまじめなイメージ(この元祖はかの「銭形平次」かも?)だが、この地獄の辰はちょっと違う。
なんてったって、名前に「地獄」がつく岡っ引き。今でこそ、「堀川町の親分」などと言われるが、世間の裏街道を歩き、地獄を見てきたからこそのニックネームだ。その風貌も着流しに雪駄履き、頭もボサボサっとして、目つきも鋭い。しかし、だからこそ、悪の道を探りやすく、事件探索には腕っぷしがモノをいうのである。
原作は「木枯らし紋次郎」という素晴らしいアウトローヒーローを生み出した笹沢左保。物語では、ただでさえ辛い境遇の辰に、「新妻失踪」という重たい荷物を背負わせる。新婚3日目の晩、突然、姿を消した恋女房お玉(大原麗子)はいったいどこへ…。
主演の辰には、北大路欣也。欣也は、近年は、テレビ3代目の「銭形平次」としてシブメの演技を見せたり、父・市川右太衛門の跡をついだ「旗本退屈男」であでやかな姿を見せている(今月は東京明治座で退屈男を公演中)が、この当時(72年)は、まだまだ若手のアクション系。正義感はあるが、捜査は脅迫スレスレ。体当たり岡っ引きを熱演している。暴れん坊欣也の魅力を再認識させてくれる作品。共演が田中邦衛、五十嵐じゅん(淳子)というのも通にはうれしい。

掲載2001年06月02日

銭形平次

(ぜにがたへいじ) 1966年

掲載2001年06月02日

 時代劇専門チャンネルが開局以来、3年間、ずっと放送を続けてきた『銭形平次』がいよいよフィナーレまであとわずか。
そこでここでは、主役の大川橋蔵という役者を改めて見直しておこうと思う。
1929年、東京に生まれ、4歳にして市川男女丸として歌舞伎座初舞台。尾上菊五郎夫人の養子となり、二世大川橋蔵を襲名。(ということは、初代大川橋蔵も存在してたってわけですね。勉強不足でした)1955年に東映に入り、映画界へ進出。当初は美空ひばりの相手役が多かった。やがて『若さま侍捕物帖』シリーズが当たり、スターの座を射止める。世の中がテレビ全盛へと移るなか、口説かれて『銭形平次』に主演。一代の当たり役となる…。
テレビに移って活躍した映画スターは、ふつう、若い頃にはアクションや立ち回りの多い役、年を経て、殿様や黒幕系の役になっていくのが常道だ。そのなかで、とにかく『銭形平次』に打ち込み続けた大川橋蔵は、異色の存在だった。仕事以外でも、好きなものには徹底的に凝りまくり、気に入った食事を毎日とりつづけても平気だったという逸話も伝わっている。う〜ん、橋蔵親分らしい。
番組後期、レギュラーのひとりだった京本政樹は、橋蔵にメイクを教わったという。そういえば、あの目元は…。橋蔵親分の心意気を意外な人も継承しているってことだ。
フィナーレまでに蟹江敬三、三波豊和、火野正平とゲストも憎い人選。最後までお楽しみに。

掲載2001年05月19日

銭形平次

(ぜにがたへいじ) 

掲載2001年05月19日

 なんたって、大川橋蔵がたったひとりで888回もの連続ドラマの主役を務めた、世界的大記録を樹立したこの番組。その人気の秘密はどこにあるのか。ここで検証してみよう。
 まず挙げられるのが、原作の面白さ。作者、野村胡堂は、岡っ引きが銭を投げるアイディアを、原稿締め切りのギリギリに思いついたというエピソードが残っている。果たして、その小説は大人気。以後、383編もシリーズを執筆した。謎解きと、江戸の風情や庶民の生活がにじむ原作は、今も捕物帳のお手本のように愛されている。
 しかし、原作とドラマでは、登場人物のイメージが少し違う。たとえば、原作の平次親分は結構ビンボーで、たまに長屋の家賃も滞納していたらしい。まだまだ青臭さの残るキャラクターとして描れている。恋女房のお静も、原作では花街の出身。今風に言えば、『お水の花道』を歩いた経験を持つってところ。でしゃばりはしないが、うら若いわりに酸いも甘いも噛み分けた女性なのだ。そして、ガラッ八こと、八五郎も、原作ではアゴが長い長身の怪力男。なんとなくもっさりしたアントニオ猪木ってカンジなのだ。
 そこへいくとドラマの方は、シリアスな事件も明朗会計じゃなかった、明朗解決。親分には青臭さよりも貫禄が、お静には、花街の艶っぽさよりも、しっとりとした母性を感じさせる。八五郎は愛すべきお茶目さんで、ファミリードラマのようなやり取りも多い。また、レギュラー陣に女流漫才師、海原千里万里の千里(今の上沼恵美子ね)が入ったり、今いくよくるよがゲスト出演したり、お笑い系キャラの投入も目立つ。
 ペリーが思うに、全体に漂う明るさと安定感。これが超長寿のヒミツに違いないのだ。

掲載2001年05月12日

銭形平次

(ぜにがたへいじ) 1966年

掲載2001年05月12日

 毎週水曜夜8時といえば『銭形平次』で育った人も多いのではないだろうか。なんたって、放送開始以来18年間も休まず続いた長寿番組中の長寿番組だ。『水戸黄門』もすごいけど、ひとりの役者が主演し続けたことを考えると、そのすごさがわかろうというものだ。
 しかし、おおくの名番組がそうであるように、本作もスタート当時(66年)はなかなか苦労もあった。
 まず、主役。昭和30年代から40年代というのは、娯楽の主役が映画からテレビに移った転換期。はじめは、映画スターがテレビに出演するなんてことは考えられなかった。64年のNHK大河ドラマ『赤穂浪士』に、映画『銭形平次』で人気だった長谷川一夫が主演するなど、少しずつ映画スターのテレビ進出が目立ってきた時期ではあったが、大川橋蔵の出演を口説くのも、簡単ではなかったはず。テレビの連続ドラマ初出演の橋蔵は、年に3ヶ月の舞台公演を確約して、出演にこぎつけたと伝えられている。
 橋蔵にとっては、初の町人役。初代お静(恋女房ね)の八千草薫とのコンビ時代には、映画での橋蔵の当り役“若さま”の雰囲気が残る色っぽい平次だったが、年々貫禄がつき、三代目お静の香山美子との頃になると、いかにも“親分”という風情だった。
 ペリー的に印象深かったのは、平次の顔。キリッとした眉毛や濃い目のアイライン入りの睫毛。庶民のなかの典型的な二枚目だ。たまに『スター千一夜』(フジテレビ系で放送してたトーク番組ね。フジ開局の翌日から始まる。第一回のゲストは、長門裕之、津川雅彦兄弟。夜9時から15分間。“スタ千に出なければスターじゃない”とまで言われた。最多出場は吉永小百合の90回。ふっー)などに大川橋蔵が出演すると、その素顔は意外にもの静か、かつ穏やかで驚いた。
 映画の遺作も『銭形平次』になるなど、大川橋蔵はいまも永遠に“平次親分”なにだ。

掲載2001年05月12日

素浪人天下太平

(すろうにんてんかたいへい) 1973年

掲載2001年05月12日

 ペリーは、会う人には必ず
“あなたの心の時代劇はなに?”
と、問い掛けてしまうクセがある。
 知人、友人、編集者、カメラマン、インタビューした俳優…。その“心の時代劇”アンケートのベスト3に入るのが、この近衛十四郎作品なのだ。
 1916年生れの近衛十四郎は、もともと日活京都などから、松竹、東映という足跡をたどった剣劇スター。代表作には『柳生十兵衛』シリーズなどがある。後に大映に移って『座頭市血煙街道』(67年)なんかにも出演。豪快できれいな殺陣が売り物であった。
 しかし、ペリーをはじめテレビ世代にとっては、『素浪人』シリーズこそ、近衛十四郎なのである。
『素浪人月影兵庫』、『素浪人花山大吉』。とぼけた渡世人、焼津の半次(品川隆二)と旅をしながら悪人退治。半次との絶妙なやりとりは、近衛十四郎の意外な?コメディー的センスを光らせた。近衛に負けず劣らず品川隆二もいい味を出していて、主役の近衛十四郎じゃなくて
“焼津の半次が出ていた時代劇が見たい”
という名指しのリクエストを寄せてくるファンもいるとかで、その人気がうかがい知れようというもの。
 ところで本作は、『素浪人』シリーズの第3弾。近衛十四郎扮する太平は、オープニングと本編中に登場するアニメの小鳥と言葉を交わしたりして、なかなかメルヘンチックな素浪人として描かれている。相棒の渡世人は品川隆二から“仮面ライダー2号”の佐々木剛にバトンタッチ。太平が苦手とする女借金取りに加茂さくらというのもナイス。細かいことは気にしない、ダーッと解決、すっきり旅立ちという時代劇ロードムービーの王道。子供でも安心して見られる明るさが、今も人気のある秘密だろう。
 ちなみに近衛十四郎が、松方弘樹、目黒佑樹兄弟の実父であることは有名。目黒はこのシリーズにゲスト出演も果たしている。

掲載2001年03月26日

新・座頭市3

(しん・ざとういち さん) 1979年

掲載2001年03月26日

 勝新太郎一世一代のあたり役、盲目の渡世人、座頭市。
 賞金首となった市に、汚い手口で襲いかかる刺客と弱い者を必死でかばう市。人生の裏街道で命をさらして生きる市の非情さと優しさが胸を打つ。わが子と詐欺を働く哀しい女(藤村志保)、義理のために市をつけ狙う若い渡世人(にしきのあきら)、ほかに中村玉緒、原田芳雄、郷ひろみ、緒形拳ら豪華なゲストが次々登場するのも本作ならでは。
 見るたびに、これほど密度の濃い番組が毎週放送されていたことに感心する。シリーズも3作目となり市は白髪頭になったが、ゲスト出演者も前述のとおり豪華なまま。けど、“スターにしきの”も出演していたとはちょっと意外な感じも。
 ちょっと渋みをました市は、自分を渡世人(にしきの)の刃からかばって傷を負った犬を、豪気な獣医(小野進也)に預ける。敵を討ち果たした市は、自分をかばった犬の幸せは獣医の飼い犬といっしょになって、子供を産むことだと悟りひとり去っていく。時折、流れる勝新が自ら唄う挿入歌「カラスの子守唄」の切ない歌声も泣かせる。

掲載2001年02月21日

銭形平次

(ぜにがたへいじ) 

掲載2001年02月21日

 抜群の推理力と行動力。百発百中の投げ銭で、天下の名親分と今もファンの多い大川橋蔵の平次。今週は、凶悪盗賊とお上を恨む越中富山の薬売りに扮した坂上二郎が関わる殺人事件がおきる「人情渡り鳥」。父親を殺したのは、北村総一朗扮する許婚では?と苦悩する女を、いしだあゆが演じる「鶴が殺した」など、豪華ゲストが続く。橋蔵を師と慕う京本政樹がレギュラー出演しているのも注目。
 坂上二郎出演の「人情渡り鳥」は、スパルタ同心役に森次晃嗣(「ウルトラセブン」のダンね)、殺されるチンピラ役に黒部進(「ウルトラセブン」のハヤタね)、つまり歴代ウルトラマン役者が共演。そこにウルトラマンマニアの京本政樹までもが出演していたという珍しい回。
 また、いしだあゆみの「鶴が殺した」では、清楚というより、年増女の哀しさが出ている。大ブレイクした「踊る大捜査線」の湾岸署署長役で、一気に若い世代にも認知された北村総一朗は時代劇にも欠かせない存在で、当時は女をだます役など、結構いろいろやっていた。
 本作のように長く放送していると、こんな楽しみ方もあるから時代劇っておもしろいのだ。

掲載2001年02月08日

不知火検校

(しらぬいけんぎょう) 1960年

掲載2001年02月08日

 盲目の鍼医杉の市は、強請、乱暴、人殺しと悪の限りを尽くして金を貯め、ついには師匠をも殺害して検校の地位まで上りつめる。
 勝新太郎が二枚目から脱皮し、後に「座頭市」へと発展させたダーティー・ヒーローの原点がこの作品なのだ。名伯楽の森一生がモノクロ画面いっぱいに悪のムードを漂わせる。可憐な中村玉緒、苦みばしった阿部徹ら共演陣にも注目。
 本作は、勝新にとって73本目の出演作。それまでいわゆる“白塗りの二枚目”(見ればそれなりにきれいなのだが、『座頭市』を見慣れた者には、やっぱ違和感があるのよね〜。ペリー的にもそうなのだ)で、今ひとつ伸び悩んでいたのが、このギラギラした悪漢役で思い切った演技と役柄に開眼。宇野信夫の原作の面白さもあいまって、欲に溺れ、悲劇を迎える男から目が離せない。勝新も、この作品はお気に入りで、晩年、自ら脚本、演出をこなし舞台で上演しているほどなのだ。

掲載2001年01月30日

新座頭市・破れ唐人剣

(しんざとういち・やぶれとうじんけん) 1971年

掲載2001年01月30日

 勝新太郎一代のあたり役「座頭市」のなかの異色作。
 瀕死の唐人から子供を預かった市は、子供の知り合いをたずねるうちに唐人剣士、王剛と知り合う。金目当てに王を狙う一味と戦った市だが、誤解から王と対決することに…。
 王を演じるのは「片腕ドラゴン」などで知られる香港のアクションスター、ジミ―・ウォング。迫力たっぷりの殺陣に息を飲む。
 因みに、本作は香港でも公開されたのだが、なんと香港公開バージョンは結末が違っている。ジミ―・ウォングがいかに香港で人気があるか、窺い知れるエピソードだ。香港に行けば見れるかも。
 さて、「座頭市シリーズ」は、映画が26本、テレビが100本以上制作されて、今も多くのファンを魅了している。逆手の居合斬り、独特の下駄さばきなどは、勝新太郎のアイディアによるところが大きい。まさに勝新そのもののキャラが「座頭市」だったのだ。往年のファンなら、なんといっても第一作「座頭市物語」(1962年)の、天知茂との決闘シーンがいいという人が多い。しかし、本作で異種格闘技戦みたいなことをやっちゃうところに、エンターテイメントとしての「座頭市」の偉さがある!とペリーは思うのですが、いかがでしょ? 

掲載2001年01月29日

銭形平次

(ぜにがたへいじ) 

掲載2001年01月29日

 ご存じ大川橋蔵主演「銭形平次」。全888話中、今週は脂の乗り切った770話代の作品が登場。
 二年続けて同じ日に悪徳医者の屋敷に押し入った盗人は、平次の子分、八五郎の友人だった。医者に陥れられて死んだ女房に瓜ふたつの女に出会った男の運命はいかに。
 ゲストの桜木健一(元祖スポ根ドラマ「柔道一直線」とか、放送時間の30分内で必ず事件を解決する敏腕刑事ドラマ「刑事くん」が懐かしい)が一途な男を熱演すれば、友を信じる八五郎の純粋さにもほろっとさせられる。はてさて平次親分の十手は、この事件をどう裁く?
 大川橋蔵の平次に、香山美子のお静、林家珍平の八五郎、遠藤太津朗の三輪の万七と不動のレギュラー陣はもちろん、居酒屋の女将に市毛良枝(当時、お嫁さんにしたい女優ナンバー1!)、小女に桂木文(元祖グラビアアイドル的存在)、若き同心に森田健作(いまや国会議員のセンセイ)など、若手レギュラーがチームワークのいいところを見せる。大川橋蔵主演「銭形平次」後期の作品群。ペリー的には、三浦布美子となべおさみの悲しい出会いの物語がオススメ。けっこう泣けます。

ペリー荻野プロフィール
ペリー荻野

1962年愛知県生まれ。大学在学中よりラジオのパーソナリティ兼原稿書きを始める。 「週刊ポスト」「月刊サーカス」「中日新聞」「時事通信」などでテレビコラム、「ナンクロ」「時代劇マガジン」では時代劇コラムを連載中。さらに史上初の時代劇主題歌CD「ちょんまげ天国」シリーズ全三作(ソニーミュージックダイレクト)をプロデュース。時代劇ブームの仕掛け人となる。

映像のほか、舞台の時代劇も毎月チェック。時代劇を愛する女子で結成した「チョンマゲ愛好女子部」の活動を展開しつつ、劇評・書評もてがける。中身は"ペリーテイスト"を効かせた、笑える内容。ほかに、著書「チョンマゲ天国」(ベネッセ)、「コモチのキモチ」(ベネッセ)、「みんなのテレビ時代劇」(共著・アスペクト)。「ペリーが来りてほら貝を吹く」(朝日ソノラマ)。ちょんまげ八百八町」(玄光社MOOK)「ナゴヤ帝国の逆襲」(洋泉社)「チョンマゲ江戸むらさ記」(辰己出版)当チャンネルのインタビュアーとしても活躍中。