ペリーのちょんまげ ペリーのちょんまげ

掲載2005年02月17日

「ひらり又四郎危機一髪!」高橋英樹の痛快&お茶目路線時代劇。水野真紀のおとぼけぶりも可愛い。

(ひらりまたしろうききいっぱつ) 1995年

掲載2005年02月17日

時代劇のヒーローには、潔癖症的正義の味方もいるが、この主人公は、その反対。甘いものが大好きで、酒にも女にも弱いという人間味あふれる(?)男の物語。
 松平和泉守の弟・源三郎。人柄は悪くはないが、気ままな性格が災いし、なかなか婿養子の先が決まらない。そこに跡継ぎがない陸奥・磐城平藩の姫との縁組という願ってもない話が舞い込む。しかし、先方には、先代藩主の娘・多恵姫(水野真紀)と、現藩主の姫と年頃の娘がふたり。どちらが源三郎の妻となるかで、お家騒動が勃発していた。とうとう多恵姫暗殺という計画が持ち上がり、事態は深刻に。姫を救いに現れたなぞの浪人・笹井又四郎(実は源三郎・高橋英樹)は、決死の脱出を試みるが…。
 飄々としつつもどこか品格のある浪人は、高橋英樹の十八番! 制作は95年で、当時の英樹は、どんどんバラエティ寄りになり、時代劇の演技にもお茶目さが増していた時期であった。
 一方、姫様役の水野真紀も、農婦に変装するなど、かなりのおとぼけぶりを発揮。英樹と名コンビを見せる。また、共演に船越栄一郎を迎えているのも本作の特徴。二時間ドラマ「船長シリーズ」でも英樹と息の合った演技を見せた船越の時代劇としても楽しめる。

掲載2005年01月19日

「姫四郎流れ旅」元医者で手術もする渡世人!?古谷一行が笹沢左保作品に挑む。

(ひめしろうながれたび) 1982年

掲載2005年01月19日

姫四郎(古谷一行)は、その道では名を知られた渡世人。あるとき、悪者に襲われた娘(岡田奈々)を助けた姫四郎と二枚目の浪人(谷隼人)は、娘が「あちらでひとりずつお礼を…」と言い出して驚く。娘はその体で礼をしようというのである。死んだ妹の面影のある娘にとてもそんなことはできない姫四郎だが、浪人はその気になってしまう。しかも、「この娘と添い遂げたい」と言い出すのだった。身を投げ出してまでふたりに助けを求める娘には、桑名の貸し元である病床の父(小松方正)を助けてほしいという願いがあった。姫四郎と浪人は桑名に向かうが、その父こそ、浪人が長年捜し求めた仇討ちの相手だった。
 名医の息子で、一家惨殺という悲劇に見舞われた姫四郎。右手には数珠が巻かれている。時にはその右手で外科手術までして人を生かすが、逆に左手で持った剣では人を殺すこともある。善と悪、生と死。原作は「木枯し紋次郎」で渡世人の非情な世界を描いた笹沢左保。貧農の生まれの紋次郎と名医の家の出である姫四郎。その違いも面白い。
 姫四郎の活躍もすごいが、岡田奈々の清楚にして積極的なお色気はなかなか。あの大きな瞳で迫られて、谷隼人浪人もついフラフラと…。男と女の悲しい運命を描くのも、笹沢作品の味のひとつ。異色の股旅時代劇。

掲載2004年11月26日

「花の白虎隊」維新に揺れた会津の若者たちの悲劇!美男俳優市川雷蔵と勝新太郎運命のデビュー作。

(はなのびゃっこたい) 1954年

掲載2004年11月26日

明治維新の嵐が吹いた時代。旧徳川幕府に忠誠を貫いた会津藩には、新政府の板垣退助らの軍が迫っていた。多くの若者が学ぶ会津の日新館では、16歳、17歳の少年たちを中心に「白虎隊」が結成され、戦う意思を固めつつあった。しかし、それは朝廷に刃を向けることになる。白虎隊の篠原準之助(市川雷蔵)は苦悩するが、大切な兄を戦いで失い、立ち上がるのだった。家族や仲間とも別れ、追い詰められた白虎隊は、やがて悲劇的な選択をすることに…。
 04年に「俳優デビュー50年」「没後35年」となる市川雷蔵の22歳のデビュー作。青春群像ともいえる内容だけに、この作品では多くの新人がデビューしている。かの勝新太郎(雷蔵とは同年生まれ)もそのひとり。当時は勝新太郎もアイラインバッチリ、肌の白いいわゆる美男系のメイクをしていた。しかし、歌舞伎界でも評判の美男子で、華々しく主役デビューした市川雷蔵に対して、勝は、この後、代表作に出会うまで、試行錯誤ともいえる時期が続く。
 ともあれ、今も会津では知らない者はいないというほど有名な白虎隊の活躍と足跡は、坂本竜馬や新選組とはまたひとつ違った角度から見た幕末と維新の姿。美少年たちの真摯な姿、武士の世界の矛盾、何より若々しい雷さまの存在感…じっくり楽しめる作品といえる。

掲載2004年10月08日

「炎立つ」大河ドラマが描く奥州藤原氏の栄枯盛衰。渡辺謙の二役と、時任三郎の弁慶もいい味!

(ほむらたつ) 1993年

掲載2004年10月08日

奥州で権力をふるう安倍頼良(里見浩太朗)の次男の婚礼に出席した奥州藤原氏の祖・経清(渡辺謙)は、頼良の長女・結有(古手川祐子)と出会う。一方、その婚礼で安倍氏が金の盃を贈り物にしていたことから、陸奥の国郡司は、安倍氏に年貢倍増を通達。拒否されたことで安倍氏討伐が開始される。戦乱となった奥州で生きた藤原経清、その子・清衡(村上弘明)、三代目秀衡(渡瀬恒彦)らが築いた華やかな時代。が、四代目・泰衡(渡辺謙の二役)の時、源義経(野村宏伸)の登場で、奥州の平和は再び脅かされる。
 渡辺謙の子が村上、さらに渡瀬と、全然似てない親子関係ではあるが、奥州に強大な勢力を誇った藤原氏の時代を大河ドラマらしいスケールで見せる。出演者も病から本格復帰した渡辺謙、NHK初出演の里見浩太朗はじめ、坂本冬美、鈴木京香、財前直見、紺野美沙子ら女優陣も豪華。時任三郎のワイルド武蔵坊弁慶も話題になった。
 脚本は、「真珠夫人」「牡丹と薔薇」など昼ドラマでも人気を博し、人間ドラマを描かせたらこの人、ともいえる中島丈博。
 みちのくの黄金の都、とも言われた藤原氏の地元を存分に取材。本格的な雪上合戦シーンもこの作品ならでは。降りしきる雪の中、馬を繰る渡辺謙は、他の作品とはまた違う表情を見せる。

掲載2004年07月09日

「二人の武蔵」藤岡“隊長”武蔵VS江守 “ギロリ”武蔵。東千代之介の佐々木小次郎も光る異色作。

(ふたりのむさし) 1981年

掲載2004年07月09日

武蔵がふたりいた!?五味康祐原作、このあまりに大胆な設定にどんどん引き込まれてしまう。しかも、その武蔵が、江守徹と藤岡弘で、全然似てないところもポイント。
 作州宮本村浪人・平田武蔵(江守)と、播州宮本村浪人・岡本武蔵(藤岡)は、お互いの存在を知ることもなく、それぞれ各地で武者修行を経験。名高い吉岡道場へと向かう。同じ名前を持つ剣術使いが出会ったからには、タダではすまない。「手合わせを」と早速、斬り合いになる。ふたりを止めた優男こそ、剣豪・佐々木小次郎(東千代之介)。奇しくも武蔵を助けた小次郎だが、やっぱりふたりの目標は吉岡道場。とうとう、平田武蔵は、吉岡清十郎(大林丈史)を果たし合いで破ってしまう。一方の岡本武蔵は、清十郎には恩のある身。こうなっては、武蔵と武蔵の決闘を避けられないのであった…。
 いまだに謎の多い、武蔵の人生。この番組制作当時は、演技派俳優・江守VSアクション俳優・藤岡という構図だったのが、現在では、バラエティ番組の怒り役VS秘境探検隊長となっているのも時代の流れか。また、江守武蔵が冷静沈着剣豪で、藤岡武蔵がワイルド剣豪という個性も出ていて面白い。果たして、二人武蔵の勝敗と佐々木小次郎との因縁は、どうなるのか。ナレーターの小池朝雄の低音も物語にぴったりでいい味。

掲載2004年05月07日

「秘剣揚羽蝶-源氏久郎颯爽記」華麗な美剣士と遠山の金さん。ひとりでもすごいのにふた役やっちゃう里見に拍手!!

(ひけんあげはちょう-げんじくろうさっそうき) 1983年

掲載2004年05月07日

ワケありの剣士・源氏九郎(里見浩太朗)は、歩いているだけで人が振り返るほどの華麗な存在。ある日、九郎はこれまたワケありの娘・千春(根本りつ子)と出会う。思い詰めた娘の事情を聞けば、無実の罪で切腹した元長崎奉行の父の恨みを晴らすため、父を陥れた相馬内膳正の命を狙っているという。
 一方、遠山金四郎(里見のふた役)も不穏な空気を敏感に察知。動きだす。
 長崎の一件には、相馬の上にさらに大きな黒幕がいる様子。娘ひとりではとても太刀打ちできないと悟った九郎は、破邪顕正の秘剣揚羽蝶を氏手に、黒幕の正体を突き止めようとする。金田龍之介のねっとり演技にも注目。柴田錬三郎が生み出した源九郎は、映画でも人気のイケメン美剣士。密かに探索するには、ピカピカ系白衣装で目立ちすぎるのが困りものだが、意外な押しの強さで真相に迫る。さらには「源氏の紋所は笹りんどう。さらばこうしてりんどうの花を愛でておる」とキザなセリフも忘れない。ただのナルシスト?と思えるが、りんどうは倫道とひっかけて時代劇にはしばしば登場する花。掛け詞までも駆使するとは、さすが九郎さま。
 もちろん、金さんは背中の桜吹雪でもって大暴れ。それにしても、華麗な九郎と、金さん、ひとりでもすごいのにこれをふた役って…時代劇スター里見の底力を見る長編。

掲載2004年02月27日

「幕末純情伝」めざせオスカー!渡辺謙の豪快坂本竜馬が幕末の歴史を変える?牧瀬の沖田総司…。

(ばくまつじゅんじょうでん) 1991年

掲載2004年02月27日

 近頃、注目の「新選組」に、こんな異色作もあったのだ!発見できる作品。
 剣の腕は天才肌。体は小さいが、スラリとした剣さばきで評判の沖田総司(牧瀬里穂)は、実は女だった!とんでもない秘密を抱えたまま、近藤勇(伊武雅刀)、土方歳三(杉本哲太)のいる新選組に参加した沖田だが、ついに女だとバレる瞬間が…。そのきっかけを作ったのが、誰あろう坂本竜馬(渡辺謙)だった。
 大通りの真ん中で、いきなり抱きつくという大胆不敵な竜馬。渡辺謙の肺活量いっぱいの土佐弁で口説かれては、秘密も何もない。総司は別の生き方をするしかないのか。思わぬ方向へ突っ走りつつ、幕末の大事件の気配も漂う。結末もこの作品らしい。
 つかこうへい原作のコメディーをスピード感あふれるタッチで映像化。素顔が牧瀬じゃ、一目見て女とバレバレじゃん!と突っ込むのもいいが、「ラストサムライ」近年シリアス演技の続く渡辺謙の喜劇俳優ぶりに注目したい。また、近藤役の伊武と土方役の杉本、いつも怖い顔のふたりの困惑顔が面白い。共演はほかに、木村一八、財前直見、榎木孝明、柄本明、津川雅彦など。
 新選組、坂本竜馬など幕末の主人公たちを描いた作品は数多いが、これほど大胆な設定のコメディは希少。おおらかにお楽しみを。

掲載2004年01月30日

「ひとごろし」松田優作のへなちょこ侍VS剣豪・丹波哲郎。山本周五郎の名作が、異色顔合わせで実現。

(ひとごろし) 1976年

掲載2004年01月30日

 松田優作と時代劇。あまりなじみがないが、これは数少ない主演作である。
 腕はたつが、剣の指導は厳しいし、居丈高でみんなに嫌われる仁藤昴軒(丹波哲郎)。殿様に信頼される昴軒を、福井藩の武士たちは「よそ者」と憎んでいた。ついに何人かが昴軒を襲撃。しかし、あっさり斬られて、昴軒は藩を出奔する。怒った殿様は、上意討ちを命ずるが、誰もやりたがらない。そんな時、手をあげたのは、なんと藩一番の臆病者・双子六兵衛(松田優作)だった…。
 実は「兄上が臆病だから、嫁にもいけない」とグチる妹(五十嵐淳子。初々しい!)のために手をあげたはいいが、剣でかなうわけがない六兵衛。昴軒ににらまれ、思わず「人殺し!!」と叫ぶと、周囲のみんなが逃げだすのを見て、「この手でいこう」と決意。昴軒が立ち寄る宿屋、飯屋、茶店、すべてで「この侍は人殺しだ!」と叫ぶ。六兵衛のあまりのしつこさに辟易した昴軒。川原で決着をつけようとするが、結末は意外な方向に…。
 大きな体を折り曲げ、臆病者を熱演する優作は、アクションスターとは別の演技者としての味がある。また、たいしたことはしてないのに、剣豪に見えてしまう丹波哲郎の貫禄は、どこかユーモラスでさえある。シュールでシニカル。優作ファンにも山本周五郎ファンにも新鮮に感じるはず。面白い!

掲載2003年12月19日

「白虎隊」維新の嵐の中、悲劇的に散った会津の若き獅子たち。名曲「愛しき日々」が鳴り響く!

(びゃっこたい) 1986年

掲載2003年12月19日

 江戸時代末期の文久2年。会津藩主・松平容保(風間杜夫)は、京都守護職を拝命。名君と慕われた容保だが、攘夷派と幕府方との対立は決定的で、藩としては、京都に集合する不逞浪士を厳しく取り締まる必要に迫られた。容保の側近野村左兵衛(竹脇無我)は、土方歳三(近藤正臣)らの新選組を配下置き、沈静化を図るが、ついに戦争状態に。
 いよいよ薩・長・土佐を敵に回し、全面対決というとき、会津で結成されたのが、15歳から17歳の少年剣士たちの「白虎隊」だった。戦争を避けたいと願っていた国家老・西郷頼母(里見浩太朗)の思いも虚しく、白虎隊は大軍と戦う。やがて、愛する鶴ヶ城炎上を見て取り、飯盛山で全員自決する運命に・・・
 親兄弟と別れ、国のために命を捨てる若者たち。自決シーンで互いに見つめあい、うなづきながら刺し違える様は、哀れひとしお。
そこに堀内孝雄の名曲「愛しき日々」が流れるのだから、もう、たまらない。
 幕末ブームの昨今、「新選組より泣ける」と今も一部ファンから人気の大型作品。
 坂上忍、宮川一朗太、西川弘志ら白虎隊役はオーディションで選ばれ、会津で歴史を学び、合宿状態で剣を鍛えたという。その鍛錬には、主役の里見浩太朗も参加。「見ているうちに彼らが本物の白虎隊に見えた」というほどの新人たちの熱演に注目したい。

掲載2003年10月10日

「八幡鳩九郎」華麗すぎてまぶしいほどの美剣士・鳩九郎。松平健のひとり三役&二刀流に注目!

(はちまんはとくろう) 1981年

掲載2003年10月10日

 白い鳩とともにどこからともなく現れる謎の剣士・八幡鳩九郎(松平健)。純白の着流しに二刀流を操るという華麗な鳩九郎こそ、実は彦根の若殿様、現藩主の井伊直忠その人だった。「そなたには双子の兄が・・・」今際の際に母が言い残した言葉に衝撃を受けた直忠は、江戸に赴き、密かに兄の行方を追っていた。そんなある日、富が岡八幡の境内で、娘を助ける鳩九郎。その娘お久が、凶悪集団「紫組」に十手持ちの父を殺されたと知った鳩九郎は、紫組の頭領・紫公方と対決することに。その紫公方の正体とは?
 かの「桃太郎侍」を生み出した山手樹一郎原作だけに、その華麗さはピカイチの美剣士・鳩九郎。八幡と鳩に縁があるからとはいえねそのまんまのネーミングというところも、印象的。背後に白鳩が飛んでも絵になるなんて、少女マンガの世界にも通じるほどのまぶしいキャラクターだが、それをサラリと演じられる人といえば、やっぱり松平健だけ。しかも、ひとり三役をこなし、二刀流で活躍するという奮闘ぶり。いつもの「上様」とは一味違う若さまぶりが楽しめる。
 共演は、色っぽい朝丘雪路、可憐な吉沢京子、「暴れん坊将軍」では吉宗の母を演ずる中村玉緒など。時代劇の世界らしい颯爽とした正統派ヒーローの活躍で、スカッとできる長編。

ペリー荻野プロフィール
ペリー荻野

1962年愛知県生まれ。大学在学中よりラジオのパーソナリティ兼原稿書きを始める。 「週刊ポスト」「月刊サーカス」「中日新聞」「時事通信」などでテレビコラム、「ナンクロ」「時代劇マガジン」では時代劇コラムを連載中。さらに史上初の時代劇主題歌CD「ちょんまげ天国」シリーズ全三作(ソニーミュージックダイレクト)をプロデュース。時代劇ブームの仕掛け人となる。

映像のほか、舞台の時代劇も毎月チェック。時代劇を愛する女子で結成した「チョンマゲ愛好女子部」の活動を展開しつつ、劇評・書評もてがける。中身は"ペリーテイスト"を効かせた、笑える内容。ほかに、著書「チョンマゲ天国」(ベネッセ)、「コモチのキモチ」(ベネッセ)、「みんなのテレビ時代劇」(共著・アスペクト)。「ペリーが来りてほら貝を吹く」(朝日ソノラマ)。ちょんまげ八百八町」(玄光社MOOK)「ナゴヤ帝国の逆襲」(洋泉社)「チョンマゲ江戸むらさ記」(辰己出版)当チャンネルのインタビュアーとしても活躍中。