ペリーのちょんまげ ペリーのちょんまげ

掲載2011年06月17日

『国盗り物語』
波乱万丈の斎藤道三(北大路欣也)はじめ、
信長(伊藤英明)、光秀(渡部篤郎)の生涯

(くにとりものがたり) 2005年

掲載2011年06月17日

戦国時代。武将たちはさまざまな野望を抱いて、戦いを繰り広げていた。中でも注目され始めていたのが、美濃の国の“蝮”こと斎藤道三(北大路欣也)だった。もともと妙覚寺の僧だった道三は、油問屋の後家・お万阿(高島礼子)の入り婿となり、勢力を拡大していく。そして愛娘・濃姫(菊川怜)の結婚相手として選んだのは、“うつけ者”と言われた織田信長(伊藤英明)。やがて、信長は天才的な戦略で強敵を倒し、天下を狙う男になっていく。しかし、道三自身は、愛妾の産んだ斎藤義竜に討たれる運命に…。
 下克上も当たり前の戦国時代、僧から商家の入り婿として経済感覚と人間の心理を知り尽くして武将になった斎藤道三の生き方は、まさに波乱万丈。彼の妻、妾、娘もその波乱に巻き込まれ、数奇な運命をたどることになる。まだまだ戦国にはドラマが多いと実感できる大作。「海猿」などで、現代の若者青年を演じている伊藤英明は、野性味あふれるイケメン信長に。そして彼を討つことになる明智光秀の渡部篤郎は、苦悩するインテリ武将を演じてうまい。政治家・作家から、本作で本格的に俳優復帰した武田信玄役の中村敦夫は、たった一日の撮影のために剃髪して登場。俳優魂を見せ付けている。炎上する本能寺で、お濃を逃がそうとする信長に「私は蝮の娘です」と果敢に薙刀を手にする姫の強さは見物。

掲載2011年04月22日

『髪結い伊三次』
意地を張り合うふたりの恋物語と事件探索
中村橋之助・涼風真世のキレのいい演技が光る

(かみゆいいさじ) 1999年

掲載2011年04月22日

「廻り髪結い」の伊三次(中村橋之助)は、若いが腕はいいと評判で、ご贔屓に可愛がられていた。その伊三次には、北町奉行所同心・不破友之進(村上弘明)のお手先というもうひとつの顔があった。仕事で聞きつける数々のうわさや仲間(山田純大)とともに、事件を追う伊三次。彼には、恋人で芸者文吉(涼風真世)がおり、いつか自分の店を持ち、所帯を持ちたいという夢がある。しかし、深川育ちで威勢がいい伊三次は、プライドの高い文吉とは、売り言葉に買い言葉の喧嘩もしばしば。事件とともに、二人の恋の行方も気にかかる。
 原作は宇江佐真理の人気小説。人間としてまだ未完成の伊三次と、苦労しながら芸者となり、プライドで生きるおとなの文吉の意地の張り合いと、やっぱり惹かれあう心情描写などはさすが。風物、言葉など江戸情緒たっぷりの作品を書く原作者は北海道在住。先般、某出版社の会でペリーがお会いした宇江左先生は、まさに文吉のごとく、しゃきっとした気風のよい方とお見受けした。
 時に伊三次を殴り飛ばすほど、厳しい一面を見せる友之進は、後に村上弘明の当たり役となる「八丁堀の七人」の青山久三とも重なる。監督に「鬼平外伝 夜兎の角右衛門」の井上昭、美術に「鬼平犯科帳」の西岡善信とベテランが参加。葉加瀬太郎の主題歌も秀逸。

掲載2011年03月25日

『国士無双』
中井貴一のすっとぼけた演技が痛快!
笠智衆、フランキー堺、岡本信人らも怪演

(こくしむそう) 1986年

掲載2011年03月25日

オリジナルは、伊丹万作監督のサイレント映画の名作。「国士無双」は、今ではすっかり麻雀用語のようだが、そもそもは「無双」並ぶ者がいないほど、「国士」国の優れた人材という意味で、それを含め、この作品全体にパロディ心があふれているのがわかる。
そもそもの始まりは、食い詰めた浪人ふたり組・瀬高(岡本信人)と、小鹿(火野正平)が、将軍家御指南番の伊勢伊勢守のにせ者をでっちあげ、自分たちはちゃっかりその付き人としていい目をしようと企んだことに始まる。ふたりはちょいと品のいい若者(中井貴一)をにせ者に仕立て上げ、予定通りに豪遊。その後、偶然道場破りに成功したにには、次々道場を破る。しかし、本物の伊勢守(フランキー堺)が怒って、決闘を申し込む。
「どこから来た」と問われて、天を指差し、その毎日は「起きたり寝たり」。身投げの娘(原日出子)に理由を聞いて「浮いた話じゃございません」と言われると「じゃ、沈んだ話か」と、平然と答える。こらこら。とにかく中井貴一(デビューしたばかり)のおとぼけぶりは、ただものではない。
にせのおかげで人生がひっくり返る本物伊勢守のフランキー堺、その師匠でまたまた意味不明な雰囲気の笠智衆など、怪演炸裂。芸者が洋楽で踊り、木枯し紋次郎?のそっくりさんまで登場。細かいところも笑える異色作。

掲載2011年03月04日

『影の軍団Ⅳ』
幕末の混乱の最中、影の軍団が走る!
最終回「大老暗殺」くノ一集団と対決

(かげのぐんだん4) 1985年

掲載2011年03月04日

黒船来航以後、混乱が続く幕府上層部。中でも開国派と攘夷派との対立は日に日に激しさを増す。そんな最中、勝麟太郎(真田広之)が命を狙われた。彼を助けたのは、「影の軍団」のひとり、さつき(池上季実子)。これをきっかけに勝は、軍団の頭領で15代服部半蔵(千葉真一、現・JJサニー千葉)と交流を深めることになる。勝を狙ったのは、井伊直弼(成田三樹夫)の一派。それは決して表ざたにはならない日本の未来を賭けた戦いに発展していく。
多くの「演技派忍者」が誕生した「影の軍団」シリーズ。中でも、このシリーズⅣには、今も人気が高いお蓮(志穂美悦子)、あやめ(美保純)、お蝶(MIE)と美人どころが揃う。また、瓢斉(橋爪功)や善九(伊原剛志)に加え、後に「愛と平成の色男」に出演する石田純一も一員に。女にモテる軍団員というのが、彼の将来を暗示しているようだった。
最終回は、万延元年3月3日。とくれば、井伊直弼暗殺の当日! 朝から不穏な空気が流れる中、大名行列に従う腰元の歩き方を見ただけで「むっ、くノ一」と見破る半蔵はすごすぎる。島津斉彬(西沢利明)も抹殺され、いよいよ過激な一味と戦うことになる軍団。薩摩武士の妻女で敵討ちを志す女(野際陽子)を助けた半蔵は、決死の作戦を。当時夫婦だった千葉・野際の息のあった演技も見物。

掲載2011年01月28日

『風と雲と砦』
勝新太郎が戦国を駆け抜ける熱い雑兵に。
水谷良重の「おだまり!!」強気お姫様も魅力

(かぜとくもととりで) 1961年

掲載2011年01月28日

世は戦国乱世。武田軍におしつぶされそうになった三河徳川軍に、左近八郎(勝新太郎)、山名鬼頭太(小林勝彦)、俵三蔵(三田村元)の三人の若き雑兵がいた。彼ら三人のマドンナ的存在の腰元みゆき(近藤美恵子)は、なんとか城を脱出。自軍の危機に、最後まで抵抗した八郎だったが、武田軍に捕まり、危機一髪。しかし、彼は、怪しい雰囲気の安良里姫(水谷良重、現・八重子)に助けられた。一方、農民出身の三蔵は、落城前に脱出。彼は野生的な野武士集団の首領の情婦ひめ(江波杏子)に助けられ、「野武士になるのもいいだろう」と、首領を倒し、自ら集団を率いることになる。そして、鬼頭太は、みゆきが八郎を慕っていることを知るが、八郎は安良里姫に命令されるまま、隠密行動をすることになった。その裏には、意外な事実が。
原作は、井上靖。戦国では武将が主人公になるケースが多いが、本作では明日をもしれない若き雑兵たちの生き様をいきいきと描いている。光っているのは、それぞれのキャラクター。中でも、水谷演じる安良里姫は、何かといえば「おだまり!!」「あたしのために働くんだね」「得なほうをおとり」などと、強気発言炸裂で強い印象を残す。現在では、ベテラン女優の江波杏子は、時代劇初出演。男たちの本音と、女たちの愛がからみあい、戦国の人間模様が心を打つ。

掲載2011年01月14日

『陽炎の辻〜居眠り磐音 江戸双紙〜』
佐伯泰英のベストセラーに山本耕史が主演
心に傷を負う剣士が江戸の長屋で生き直す

(かげろうのつじ いねむりいわね えどぞうし) 2007年

掲載2011年01月14日

九州豊後関前藩の中老・坂崎正睦(平泉成)の長男・坂崎磐音(山本耕史)は、誠実で穏やかな青年だが、剣の腕は師匠(榎木孝明)も一目置く存在。力を抜き、静かに剣を構えた様は、「春先の縁側で年寄り猫が居眠りをしているよう」と「居眠り剣法」と呼ばれている。その磐音が、上意で親友を斬ってしまう。許婚奈緒(笛木優子)とも別れ、ひとり江戸へ。傷心の磐音は、深川の両替商今津屋に勤める町娘おこん(中越典子)と知り合ったことから、おこんの父(小松政夫)が大家をする長屋に暮らし、市井のさまざまな事件と関わる。
原作は、佐伯泰英の累計1200万部という大ベストセラー。映画「最後の忠臣蔵」はじめ、時代劇で大きな存在感を示す山本耕史は、物静かな青年剣士をまっすぐに演じる。磐音は、鰻をさばく仕事を得、剣士だけに包丁さばきもよく、職人たちに感心され、今津屋の用心棒になれば、頼りにされる。傷ついた磐音が生き直す様が伝わってくる。おこんは、一途に彼を思うようになるが、彼の心にある奈緒の存在が気になって仕方ない。そんな娘を思う父、小松政夫の名演技には泣ける。
ペリーは、佐伯先生宅でインタビューをしたが、先生自身、長くスペインの長屋のようなところで生活し、人情に触れたという。闘牛を撮る写真家だった先生にちなんで?ドラマのギター音楽もスペインの香りがする。

掲載2010年12月17日

『影の軍団Ⅲ』
打倒、紀州!!千葉・真田・志穂美ら影の軍団。
石橋蓮司も女装の刺客で登場。

(かげのぐんだん) 1982年

掲載2010年12月17日

殺陣、潜入、火薬、馬術、あらゆるアクションを駆使し、時には、どう見ても現代のスキーじゃん!と突っ込みたくなるような、サービス満点の画面作りでファンを楽しませてきた「影の軍団」シリーズ。パートⅢは、リーダーの多羅尾半蔵(千葉真一)以下、志穂美悦子、役の真田広之など、軍団メンバーも充実。
時は、四代将軍家綱のころ。裏では、紀州大納言徳川光貞(小沢栄太郎)が、わが子を将軍にと画策していた。三代将軍家光の正室だった本理院孝子(岸田今日子)は、尼となっていたが、光貞の陰謀を阻止するため、半蔵を雇う。かつて徳川に使い捨てにされた伊賀の忍者の怨みは消えていなかったが、半蔵と仲間たちは、打倒紀州に向けて、動き出す。
ゲストには、若山富三郎、天知茂ら大物が登場。懐妊した家綱の側室を暗殺するために、大奥に潜入した巫女姿の刺客を女装した石橋蓮司が怪演しているのも見逃せない。眉毛を細く、声は女性が葺き替え「女とばかり思っていた」とみんなが驚くのだが…やっぱり顔は石橋蓮司です。終盤、下帯一枚で戦う巫女刺客。監督には、松尾昭典、関本郁夫、小野田嘉幹ら、時代劇を知り尽くした面々が参加。半蔵の仕事場が風呂屋で女湯シーンも。湯屋ののんびりムードと、敵に向って「我が身すでに鉄なり。我が心すでに空なり。天魔覆滅!!」と決めセリフを言う半蔵のギャップが見事。

掲載2010年11月05日

『快刀!夢一座七変化』
庶民を泣かせるやつは許さない!
世直し旅芸人一座の七変化。女装も当然!?

(かいとう!ゆめいちざしちへんげ) 1996年

掲載2010年11月05日

花村夢十郎(宇津井健)が率いる「花村一座」は、勧善懲悪、拍手喝采で人気の旅芸人の一座。その花形は花村夢之丞(三田村邦彦)。彼を守り立てるのは、元大工で悪役の月見龍之介(地井武男)、元女スリの女役者雪村揚羽(池上季実子)、追っかけから一座に加わった花村小町(山口香緒里)、元火消しで威勢のいい花村申太郎(渡辺裕之)。一座の会計係でマネージャーの遁兵衛(城後光義)も欠かせないメンバーだ。
彼らは各地で華やかな舞台を見せる一方、裏では人の道=倫理にはずれた悪を成敗する世直しチームの顔も持っていた。たとえば「秀吉の埋蔵金の謎」では、悪役に嫌気がさした龍之介が、美女に頼まれ、「小判のニオイがする!!」と奇怪なおばばに変装して悪に挑む。もちろん、主役の夢之丞は、旗本、高僧、さらには毘沙門天(ちなみに一座全員が七福神になって登場)にまで変幻自在。地井武男も別の女装で援護する…って、いくらなんでもバレてるでしょ!! 突っ込みどころも爽快感も満載の痛快時代劇。
「手のリンドウに事寄せて 花のからくり七変化 浮世に咲いた悪の花 人喰い花を切花に…」と続く名セリフも覚えると楽しい。
小椋桂の主題歌「夢芝居」はしっとりおとなの雰囲気。

掲載2010年10月15日

『喧嘩屋右近』
超ラブラブな夫婦が江戸の騒動を斬る。
杉良太郎が企画から参加!裏話もいろいろ

(けんかやうこん) 1992年

掲載2010年10月15日

「よろず喧嘩買入れ申候」と看板を掲げる茨右近(杉良太郎)は、恋女房お弦(萬田久子)とともに、もめごととなれば、いの一番で駆けつける陽気な男。しかし、ひとたび悪人を前にすれば、恐ろしい顔で剣を抜く。
「顔のない依頼人」の回では、蕎麦屋伊之松(下川辰平)の娘おはつ(立原麻衣)が、二万七千石の藤林家の殿様に見初められて、奉公に召し上げられる。右近は「めでてえ!」と喜ぶが、身分違いを両親は心配する。その心配は的中し、殿の縁談の邪魔になるおはつに、悲劇が。おはつを思う亀吉(赤塚真人)の純情が悲しい。怒った右近は「おめえは、身分が高いから、斬ったときには黄金の血が流れるんだろうな…」と敵に迫る。
夫婦喧嘩の仲裁から、大名家のもめごとまで、幅広く仕事を引き受ける割には、なぜか金が手元に残らないこの夫婦。それでも、超ラブラブで、仲がいい。「自分は喜劇俳優」と実はコメディが得意の杉良太郎が、でれでれした三枚目の顔を見せるのも楽しい。
杉良太郎は、林不忘の「魔像」に登場する脇役の右近を主人公にと考え企画段階から参加。予算が限られていたため、エキストラの手配から、弁当の予算まで、自らきっちり管理し、赤字を一切出さなかったという。プロデューサー、経営者、さらには監督もこなした杉良太郎の意欲作なのだ。

掲載2010年07月16日

『元禄名槍伝 豪快一代男』
酒と博打、借金に女癖。豪快すぎて困った奴。
俵星玄蕃を近衛十四郎が豪快すぎる熱演。

(げんろくめいそうでん ごうかいいちだいおとこ) 1955年

掲載2010年07月16日

俵星玄蕃といえば、三波春夫の浪曲歌謡でもおなじみ。槍名人で、赤穂浪士の討ち入りの際には、体を張って、彼らを邪魔するやつらを追い払ったという豪傑だ。
しかし、この作品で描かれる玄蕃は、正義の味方というよりは、人生の迷った一匹狼。そもそも膳所藩にいた玄蕃は、主君から藩内きっての美女との縁談を勧められたが、拒否する変わり者。しかも、酒で不祥事を起こして、藩から飛び出し、江戸で道場を開く。しかし、生来の酒飲みで門人に酒屋への使いまで頼み、道場はどんどん不人気に。ついには、門人がゼロになり、やくざ者に賭博場として貸し出す始末だ。おまけに美人の姐さんにもてもて。そこに故郷から、嫁さん候補の美人が現れて、ほとほと困ったことになる。
豪快すぎてダメな男・玄蕃を、近衛十四郎は、適当に応援しながらも深入りはしない。
そして、ついに赤穂浪士討ち入り日。玄蕃は、雪の中に飛び出した!
近衛十四郎は、マネのできない豪快な立ち回りを披露。「毎日酒一升!」と言って、暴れまわる。千鳥足の演技も抜群。それにしても、玄蕃は、剣の腕は一流だが、生活態度は悪役の面々並みに荒れ放題。しかし、どこか憎めないのは、近衛十四郎らしさともいえる。
なお、主君・本多内膳正役は、先ごろ亡くなった藤田まことさんの父・藤間林太郎。

ペリー荻野プロフィール
ペリー荻野

1962年愛知県生まれ。大学在学中よりラジオのパーソナリティ兼原稿書きを始める。 「週刊ポスト」「月刊サーカス」「中日新聞」「時事通信」などでテレビコラム、「ナンクロ」「時代劇マガジン」では時代劇コラムを連載中。さらに史上初の時代劇主題歌CD「ちょんまげ天国」シリーズ全三作(ソニーミュージックダイレクト)をプロデュース。時代劇ブームの仕掛け人となる。

映像のほか、舞台の時代劇も毎月チェック。時代劇を愛する女子で結成した「チョンマゲ愛好女子部」の活動を展開しつつ、劇評・書評もてがける。中身は"ペリーテイスト"を効かせた、笑える内容。ほかに、著書「チョンマゲ天国」(ベネッセ)、「コモチのキモチ」(ベネッセ)、「みんなのテレビ時代劇」(共著・アスペクト)。「ペリーが来りてほら貝を吹く」(朝日ソノラマ)。ちょんまげ八百八町」(玄光社MOOK)「ナゴヤ帝国の逆襲」(洋泉社)「チョンマゲ江戸むらさ記」(辰己出版)当チャンネルのインタビュアーとしても活躍中。