ペリーのちょんまげ ペリーのちょんまげ

掲載2009年02月20日

『侠客 幡隨院長兵衛』
池波正太郎が描く侠客一代!
村上弘明VS渡瀬恒彦 熱い男の友情と戦い

(きょうかく ばんずいいんちょうべえ) 1995年

掲載2009年02月20日

歌舞伎や講談などでおなじみの侠客の元祖・幡随院長兵衛と旗本・水野十郎左衛門。ふたりの出会いと運命の結末を、池波正太郎がじっくり描いた原作を、村上弘明と渡瀬恒彦が体当たりで演じる。
 塚本伊太郎(村上)は、ある晩、目の前で父を斬殺される。恐ろしい刺客に囲まれて、危機一髪のところを助けに入ったのが、水野十郎左衛門(渡瀬)だった。父が殺されたわけもわからず、困惑する伊太郎は、人入れ屋山脇宗右衛門に助けられ、孫娘お金(野村真美)と恋に落ちる。しかし、父の死に唐津八万石の悪殿様・寺沢兵庫が関わっていると知り、敵討ちを決意した。彼を見守る水野と後に侠客として頭角を現す伊太郎改め長兵衛。しかし、彼らは、対立する運命にあった。
 村上弘明は、困惑する若者から、親分的貫禄まで変化しつつ、さまざまな顔を見せる。敵討ちのシーンでは、やりを振り回し、豪快な立ち回りも披露。ご本人のインタビューでは、大技も楽しんで撮影していたとか。一方、近年、刑事ドラマなどでは渋い上司役が多い渡瀬恒彦も歌舞伎もびっくりのゴージャス衣装と派手な髪型で登場。やんちゃ旗本のリーダーになりきっている。
結末は明るくはないのに、どこかスカッとする。男の友情と意地を見せる、ふたりのぶつかりあいに拍手したい。

掲載2008年11月14日

『剣と風と子守唄』
三船敏郎が天才子役斉藤こず恵と苦難の旅
ダイナミックな殺陣と心優しき父の顔が見物

(けんとかぜとこもりうた) 1975年

掲載2008年11月14日

お庭番支配・砦十三郎(三船敏郎)は、「将軍家に申し上げる!内憂にして外患のこのとき、徳川の威信すでに地に墜ち、信ずるに足りず。恐れ多くもあえて申し上げる。徳川の幕政、不要なり!!」と、とんでもない発言をして姿を消す。彼のひとり娘小雪(斉藤こず恵)は、元配下あかねの左源太(中村敦夫)に預けられていたが、幕府はお庭番たちに十三郎を討つように命令を下す。
 第一話「ひとり戦争」では、圧政と飢饉に耐えかねた百姓の一揆の指導をする謎の鬼面男が出てくるところから話が始まる。幕府側の裏をかき、勢いをつけた農民たちは、鉄砲にまで手を出してしまう。一方、十三郎を慕いながら、命狙うことになったお庭番たち(伊吹吾郎、尾藤イサオ、丹古母鬼馬二ら)の苦悩。小雪を人質にされた十三郎の決意とは。第二話「ふたり父さま」では公儀隠密一派と戦うなど、戦いは苛烈さを増していく。
 脚本は杉山義法、小川英(『太陽にほえろ』でもおなじみ)、監督に池広一夫、降旗康雄、田中徳三など気合の入った顔ぶれ。三船敏郎時代劇といえば、荒野がつきもの。初回から荒涼とした風景の中で、ダイナミックな立ち回りを見せまくる。また、当時八歳の天才子役・斉藤こず恵は、小林亜星による「小雪のわらべ唄」を披露。かなげで可憐な可愛らしさを見せる。

掲載2008年10月10日

『剣客商売 春の嵐』
大治郎が辻斬りを疑われ投獄?
ゲストに松方弘樹も登場するスペシャル

(けんかくしょうばいすぺしゃる はるのあらし) 2008年

掲載2008年10月10日

松平定信(福士誠治)の家臣が「あきやまだいじろう」と名乗る辻斬りに一太刀で殺される。頭巾で顔を隠した下手人をまさか秋山大治郎(山口馬木也)ではないと知りつつ、北町奉行所の同心・永山精之助(梨本謙次郎)は、四谷の弥七(三浦浩一)に探りを命ずる。そんな中、またも松平家中の者が同じ辻斬りに襲われ、ついに大治郎は、評定所へと連行される。これは何者かの陰謀と確信した小兵衛(藤田まこと)だが、真犯人の手がかりはない。弥七、傘徳(山内としお)、太次郎(蟹江一平)らは、必死に張り込みを続ける。
 大治郎の危機に、小兵衛、妻の三冬(寺島しのぶ)らも懸命に動く。いつもは明るいおはる(小林綾子)も、「たったひとりの息子だから」と肩を落とす。その願いが通じて、事件は動きだすが、そこにも哀しい父と子が。
 ゲストに登場した松方弘樹は、このドラマのファンで、超ベテランの小野田嘉幹監督ということもあり、撮影を楽しみにしていたと語っている。男手ひとつで育てた息子を案ずる父という役柄に「子育ては難しい」との本音も見せた。
 また、緊迫した展開の中、ドラマにほのほのとした雰囲気をもたらすのが、大治郎・三冬の息子の小太郎くん。ずっと同じ子役が演じていて、番組の歴史とともに成長。現場のアイドル的存在だという。

掲載2008年10月03日

『剣客商売 辻斬り』
中村又五郎の小兵衛と加藤剛の大治郎
眉墨の金ちゃんの地井武男にも注目!

(けんかくしょうばい つじぎり) 1982年

掲載2008年10月03日

若い女房と悠々自適に暮らす父・秋山小兵衛(中村又五郎)から道場を譲られたものの、堅物すぎて入門者が集まらない大治郎(加藤剛)。ある夜、大治郎は、三人組の辻斬りに襲われた。その正体は幕府御目付衆永井十太夫(武内亨)の息子右京(伊藤高)とその家来だった。翌日、大治郎のもとに見知らぬ武士が「名前もわけも聞かず、ある人物の腕を折ってくれ」と十両を差し出す。その裏には、老中・田沼意次(小沢栄太郎)の娘三冬(新井春美)と右京の縁談がからんでいるらしい。
 このドラマで光っているのは、加藤剛の持ち味である「堅物」ぶり。せっかく入門者がいたのに指導が厳しすぎて「またも逃げたか…」と残念がる息子に、父は「何本かに一本は打たせてやって弟子の機嫌をとるものだ」などとにこにこする。さらに「ある日、剣術よりも女のほうが好きになった」と告白する父に、困惑する大治郎。親子の場面が実に味わい深い。
 また、大治郎を狙う一派に加担するのかしないのか。顔を白塗りにして眉墨を塗ったか不思議な剣客“眉墨の金ちゃん”こと三浦金太郎役で地井武男が出演していることにも注目。身を持ち崩しながらも、剣客ゆえに捨てられない闘争心。こうしたユニークかつ哀しさを秘めたキャラクターが登場するのが池波作品の人気の秘密といえる。

掲載2008年08月01日

『金さんVS女ねずみ』
松方金さんと古手川女ねずみが手を組む?
嫁とパワフルママに困惑の金さんにも注目

(きんさん たい おんなねずみ) 1998年

掲載2008年08月01日

遊び人の金さんこと北町奉行の遠山金四郎(松方弘樹)もついに年貢を治めて(?)結婚。その相手は美人の奈津(水野真紀)だった。しかし、ふたりを心配して、しばしば母(草笛光子)も登場して、嫁姑の間にはさまった金さんはおろおろ。おまけに死んだはずのねずみ小僧まで現れ、調べてみれば、父である先代の遺志を継いだ女ねずみ(古手川祐子)と判明。なんと彼女はいきつけの飯屋の女将お小夜だった。あっちを向いてもこっちを向いてもパワフルな女たちに囲まれて困惑する金さん。さらには、お小夜に気があるくせに、女ねずみ捕縛に執念を燃やす岡っ引きの勘平(前田吟)の面倒を見なければならない。これで事件はどうなっちゃうのか!?
 このシリーズの特長は「おさわり茶屋殺人事件」「恐怖の三味線通り魔」など事件に現代性と複雑さがあること。「笑う真犯人裏切られた金四郎」の回では、仮面の盗賊「櫓の九蔵」一味を追う目明しが殺され、狙われた店を奉行所総動員で警戒するが、まんまと一味に裏をかかれる。内通者か?一方、あこぎな商売をする駿河屋を懲らしめようとした女ねずみは、そこに先客の盗賊がいることを知って驚く。いよいよ悪を追い詰めたはずの金四郎だが、相手は予想以上の強敵だった。
「悪の限りの仮面の下が…」五七調の金四郎の名調子が気持ちいい!

掲載2008年05月16日

『怪談雪女郎』
「この姿を見た以上、命はないぞえ」
田中徳三監督が大映特撮技術を駆使した階段

(かいだんゆきじょろう) 1968年

掲載2008年05月16日

あるとき、仏師の師匠と弟子の与作(石浜朗)が、雪深い山で道に迷ってしまう。その前に現れた美しい雪女郎。透き通るような白い肌と金色の目を持つ雪女郎は、師匠にそっと白い息を吹きかけ、凍てつかせてしまう。しかし、与作を見つめた雪女郎は、「お前は若く美しい。お前を殺さないかわりに、今日見たことはただの一言ももらしてはならぬ…」
 時を経て、ゆき(藤村志保)という女と夫婦になり、太郎というひとり息子も得て、幸せに暮らす与作。だが、ゆきの美貌に目をつけた悪地頭が、与作に無理難題を押し付ける。やがてそれが恐ろしく悲しい結末に…。
 有名な「雪女伝説」を題材にしながら、人間の欲望と純粋な愛をテーマにした作品。光と影、吹雪のすさまじさ、金色に光る目など、CGのない時代にていねいに撮られた映像は美しい。市川雷蔵の「眠狂四郎」シリーズを手がけた田中徳三大映映画の特撮技術を駆使して、怪しく悲しい雪女郎の姿を描いている。
清純な美人役が多かった藤村志保は、独特の低音で「命はないぞえ」と凄みを出す。「ぞえ」の「え」が怖い。さらにベテラン女優原泉が巫女役で出演。ゆきが恐れる「炎」を前に一心不乱に祈祷する原泉巫女は、人間なのに雪女郎よりも迫力あるかも。「都で女を漁りつくしたが、ゆきほどの女はいない」という悪地頭(須賀不二男)の悪人ぶりにも注目。
役・市川かつじがいい表情を見せる。ラストシーンの余韻は、股旅ものならでは。

掲載2008年04月18日

『風と雲と虹と』
加藤剛演ずる平安の風雲児・平将門
瀬戸内の暴れん坊藤原純友の緒形拳も大暴れ

(かぜとくもとにじと) 1976年

掲載2008年04月18日

平安前期。坂東の武士・平将門(加藤剛)は、朝廷からしかるべき身分を得るべく、京都に出る。しかし、田舎者扱いされて屈辱の日々。思い人の貴子(吉永小百合)も、いとこの太郎(山口崇)に奪われ、失意の将門は坂東へ帰る。しかし、そこで彼を待っていたのは、一族間の争いであった。憤った将門は、ついに武力で立ち上がる。
 大河ドラマ史上、初の古代をテーマにしたこの作品。原作者の海音寺潮五郎は、ドラマ化にあたり「娘を嫁に出すよう」と語ったという。オンエアは1976年で、長らく放送素材が保管されていないといわれてきたが、奇跡的に発見され、ワンカットずつの修復という大変な作業を経て、今回全52話が放送される運びとなった。この時代のドラマが始めてということで、衣装はすべて新調。当時の金額で100万円単位が費やされた。また、時代考証にも時間をかけ、衣装では、貴子と侍女の着物が当時の復元となっている。
 キャストでは、将門と心を通じ、西海で朝廷に立ち向かう藤原純友(緒形拳)、くぐつの女(太地喜和子)、謎めいた玄明(草刈正雄)なども大暴れをする。が、本当に怖いのは、影で戦をあおる女(星由里子)や貴子を少しでもいい身分の男に添わそうと企む侍女(奈良岡朋子)かも?名優たちの熱演が楽しめるぜいたくな作品。

掲載2008年04月11日

『疵千両』
二枚目長谷川一夫はじめ、皆が傷だらけ!
人の運命の不思議さとはかなさを描く文芸作

(きずせんりょう) 1960年

掲載2008年04月11日

ささいなことから、所領没収となった会津加藤家。その家臣である高倉長右エ門(長谷川一夫)は、その原因について、竹馬の友である東郷茂兵ェ(河津清三郎)と口論となる。口だけで決着がつかないふたりは、ついに剣を交えることに。雷鳴の中、その戦いは壮絶で、三度立ち、三度倒れるというすさまじさ。やがてついに茂兵ェが倒れ、長右エ門は、彼の弟又八郎(小林勝彦)の仇となるが、その又八郎は、すでに高倉家の侍女すが(香川京子)と出奔していた。そのすがこそ、長年、長右ェ門が密かに恋した相手だった。
 誰のせいで藩が取り潰されたかという、いまさら口論しても仕方ない?ことで親友と命のやりとりをするのもすごいが、ここでは、その敵討ちでまたまた皆が傷だらけになるという、まさに「疵千両」と言いたいほどの戦いが繰り広げられる。又八郎と因縁の戦いでは、満身創痍になりながら、「又八郎、オレは立ったぞ!」と相手を挑発。天下の二枚目・長谷川一夫が血みどろの姿を熱演する。また、悲劇の女性を演ずる香川京子の凛とした美しさも際立っている。
 なぜ、これほどまでに戦わなければならないのか?人の運命の不思議さとはかなさが伝わる。こどもの笑顔が救いになるが、それにしても、これほどの不幸がなぜ?と問いたくなるような余韻が残る。

掲載2008年03月21日

『和宮様御留』
将軍家に嫁ぐ皇女和宮はにせモノ!?
有吉佐和子の大胆な推理と人間ドラマ

(かずのみやさまおとめ) 1991年

掲載2008年03月21日

幕末。国中が揺れ動く中、幕府は「公武合体」政策の切り札として、将軍家に皇女の降家を御所に願い出ていた。最終的に候補になった和宮(藤谷美紀)にはすでに許婚があったが、再三の幕府の申し出についに江戸への降家が決まる。納得できない和宮の母(司葉子)は、密かに和宮の替え玉を探させる。そこで選ばれたのは、公家屋敷・橋本中将(財津一郎)宅で下働きをする捨て子のフキ(斉藤由貴)だった。想いを寄せる大工の四郎(的場浩司)と祇園祭にいくのを楽しみにしていたフキはある日突然、和宮邸に呼び出され、公家の作法を仕込まれる。自由に口をきくことも、外へ出ることも許されぬまま、江戸への出立の日が近づくが、フキの表情には尋常ではない疲労が表れ始めていた…。
 私は昨年、和宮一行が旅した中山道を歩いたが、総勢三千人を越える大行列を受け入れるため、宿場は丸ごと大改造をするほどの大騒動だったという。和宮は各地で落ち葉を自分に見立てた歌を残すなど、江戸へは「落ち行く」心境だったことが覗える。このドラマでは、その和宮が替え玉だったという大胆な推理と、公家方、武家方双方の思惑から運命を変えられる少女の不幸を描く。斉藤由貴はチキチキトントンと祇園祭の歌を歌いながら、不安定になっていく娘を熱演。若き堤真一が非情の決断をする男を演じているのも見物。

掲載2008年03月14日

『神谷玄次郎捕物控』
ぐうたら同心は実は洞察力と剣の腕の持ち主
藤沢周平原作。唐沢寿明の若手同心も活躍

(かみやげんじろうとりものひかえ) 1990年

掲載2008年03月14日

北町奉行所同心・神谷玄次郎(古谷一行)は、奉行所でも評判のぐうたら者。浅草小料理屋の女将で子持ちの未亡人お津世(藤真利子)といい仲になっている。しかし、玄次郎には家族を何者かに殺されたという暗い過去があった。顔には出さないが、悪を憎む心は人一倍。鋭い洞察力と剣の腕で難事件に挑む。
 「神隠し」の回では、町で乱暴を働く旗本のひとりが殺され、以前、彼らに注意したことでケガをさせられ、妹おしな(小林かおり)も神隠しにあったという大工の庄七(平泉成)が疑われる。小間物屋の女房として夫とこどもと幸せに暮らしていたおしなに何があったのか。事件は意外な展開を見せる。
 やる気はあるが推理力はいまいちの若い同心(唐沢寿明)に「町人の暮らしを守るのが俺たちの仕事だ」と何気なく仕事の意味を教える玄次郎。旗本相手でも「うす汚ねえ野郎だ!!」と闘志満々で気持ちいい。それなのに、一件落着してお津世に会えば、途端にでれでれになるのが面白い。
 原作藤沢周平。「いい加減こぶ付き女と手を切れ!!」と口やかましい上司(加藤武)、古い資料をめくりながら「その一件は確か…」と生き字引ぶりを見せる老同心(今福将雄)、人情派の岡っ引き銀蔵(芦屋雁之助)ら、達者な脇役が玄次郎の活躍を盛り上げる。江守徹のナレーション、憂歌団の主題歌も渋い。

ペリー荻野プロフィール
ペリー荻野

1962年愛知県生まれ。大学在学中よりラジオのパーソナリティ兼原稿書きを始める。 「週刊ポスト」「月刊サーカス」「中日新聞」「時事通信」などでテレビコラム、「ナンクロ」「時代劇マガジン」では時代劇コラムを連載中。さらに史上初の時代劇主題歌CD「ちょんまげ天国」シリーズ全三作(ソニーミュージックダイレクト)をプロデュース。時代劇ブームの仕掛け人となる。

映像のほか、舞台の時代劇も毎月チェック。時代劇を愛する女子で結成した「チョンマゲ愛好女子部」の活動を展開しつつ、劇評・書評もてがける。中身は"ペリーテイスト"を効かせた、笑える内容。ほかに、著書「チョンマゲ天国」(ベネッセ)、「コモチのキモチ」(ベネッセ)、「みんなのテレビ時代劇」(共著・アスペクト)。「ペリーが来りてほら貝を吹く」(朝日ソノラマ)。ちょんまげ八百八町」(玄光社MOOK)「ナゴヤ帝国の逆襲」(洋泉社)「チョンマゲ江戸むらさ記」(辰己出版)当チャンネルのインタビュアーとしても活躍中。