ペリーのちょんまげ ペリーのちょんまげ

掲載2007年08月30日

『剣豪相馬武勇伝 桧山大騒動』講談でも人気の剣豪・相馬大作の大活躍。嵐寛寿郎が新東宝で大暴れした一本。

(けんごうそうまぶゆうでん ひのきやまだいそうどう) 1956年

掲載2007年08月30日

徳川十一代将軍が治める、文化4年。国境の桧山を巡って対立していた南部藩と津軽藩の間で、事件が起こる。山に立てられた南部藩の標識が棄てられ、「津軽藩」になっていたのだ。検地でその事実を見つけた南部藩家老・尾崎富右衛門(武村新)は、現地の津軽藩士に抗議するが、津軽藩は富右衛門を銃で撃ち殺してしまう。ところが、老中にワイロを贈っていた津軽藩は、事件を都合のいいように処置させてしまう。富右衛門の子である秀之助(嵐寛寿郎)は、父の仇を討つため、名前を相馬大作を改め、津軽藩主の馬丁として潜入し、敵討ちに機会を狙うが…。
 水戸家指南役平山士竜の師範代を務める剣豪でもある大作は、背筋がピンと伸びたまじめ人間。「卑劣極まる、津軽の非道!」など、セリフも講談の人気者らしい調子だが、それがアラカンにはよく似合う。ただし、あまりにピンとしているために、馬丁仲間からは「あいつは、ただ者とは思えません」とかえって怪しまれてしまうのだった。
 殿の馬ら薬を盛ったり、得意の剣で戦ったり、ついには大砲まで自分で作ろうという、執念の復讐劇。短筒を構えた姿はやっぱり、天狗のおじさんに似ているか?
 新東宝のアラカンは、低予算の悪条件の中、主役として力を尽くしている。沼田曜一、天知茂、御木本伸介ら新東宝の個性派も集結。

掲載2007年07月26日

『源氏物語 浮舟』長谷川一夫の薫の君とワイルド美女の恋模様 理不尽皇子・匂宮役市川雷蔵にも注目!

(げんじものがたり うきふね) 1957年

掲載2007年07月26日

光源氏の嫡男・薫の君(長谷川一夫)は、父譲りの美貌の持ち主。しかし、愛する大君は亡くなり、失意の底にいた。その大君の弔いの場で、薫の前に飛び出したのは、無邪気な姫・浮舟(山本富士子)だった。野うさぎを追いまわし、素手で耳をつかんでブラブラさせる浮舟。実は浮舟は、大君の異母妹で、大君の弔いのために母(三益愛子)に伴われて、入洛したのだった。翌日、浮舟は、帝の皇子・匂宮(市川雷蔵)の館にもうひとりの姉・中の君(乙羽信子)を訪ねる。次々美女と浮名を流す匂宮は、たちまち浮舟を見初め、館に住むように勧める。一方、薫も浮舟に愛を告げ、微妙な三角関係が生まれる。
 厳かな火葬シーンから、突如飛び出すワイルドな浮舟の態度にも驚くが、もっと驚くのは、匂宮の大胆な行動。ねっとり浮舟を見つめたかと思えば、目の前にジェラシー光線を発する中の君がいる館の中で、着替えを手伝う侍女にまで抱きつく始末。
 「波のおもむくままに…さては多情の女とみゆる」と勝手に浮舟の性格診断をし、すきを見ていきなり押し倒す。迫りながら「そちはもう男を知っておるのか。悪いことをするのではない。ふふふ」って、それはあんまりやりすぎですよ、皇子! 藤間紫、中村玉緒ら女優陣も充実。雅な中にも愛憎のにおいを漂わせる人間ドラマを味わえる。

掲載2007年07月20日

『快傑ライオン丸』悪の合言葉は「デボ」「ノバ」! 「忍法獅子変化」でライオン丸に変身だ!!

(かいけつらいおんまる) 1972年

掲載2007年07月20日

戦国時代。孤児となった獅子丸(潮哲也)、沙織(九条亜希子)、小助(梅地勝彦)は、偉大なる忍者果心居士(徳大寺伸)に育てられていた。そんな折、ヒマラヤ山中で邪悪な妖術を身につけた大魔王ゴースンが、日本征服を目指して乗り込んでくる。居士の存在を危険視したゴースンは、手下のオロチを人間に化けさせて送り込み、抹殺を図る。居士は絶命寸前、三人の教え子に形見を残す。獅子丸には「金砂地の太刀」、沙織には小太刀、小助には天馬ヒカリ丸を呼ぶ笛…そして、獅子丸は「忍法獅子変化」でライオン丸に変身する!
 こども心にも戦国時代にマントを羽織ったライオンとはすごいヒーローを見たと思っていたが、おとなになって改めてみてみると、やっぱり目が離せない。出でくる怪人も、はじめは「オロチ」「ムササビアン」など和風だったが、途中から「フラワンダー」「ゾンビー」「ジェロニモ」など洋風も登場。この和洋折衷加減も面白い。また、シリーズ途中から投じようするゴースン側の戦士「タイガージョー」は、ライオン丸に片目をつぶされながらもあくまで正当な闘いを挑む憎いやつ。ライオン丸VSタイガージョーの戦いにも注目だ。
 ゴースンの手下の合言葉「デボ」「ノバ」も一度聞くと耳から離れない。♪ライオン丸はやってくるーの主題歌とともに、いっしょに口ずさみましょう。デボ、ノバー!!

掲載2007年05月31日

『斬り抜ける』愛のために故郷を捨てたふたりラブストーリー&冒険活劇の隠れた名作

(きりぬける) 1974年

掲載2007年05月31日

藩の命令により、親友森千之助を斬った美作藩士・楢井俊平(近藤正臣)は、この裏に藩主・松平丹波守(菅貫太郎)が、千之助の妻・菊(和泉雅子)を妾にしようとしたいきさつを知る。俊平は藩主の非道を幕府に訴えようと、菊と幼い息子太一郎を連れて、藩を出奔。しかし、藩主は俊平と菊の不義密通をでっち上げて、千之助の父・嘉兵衛(佐藤慶)と弟・伝八郎(岸田森)に追い討ちを命ずる。ふたりは、よろず屋の弥吉(火野正平)や仕官を夢見る暴れん坊の道家鋭三郎(志垣太郎)らに助けられ、逃亡の旅を続けるが…。
「不義と呼ぶなら呼ぶがいい!!」
 いわれのない罪を着せられ、男と女であることを忘れようとしても、お互いを思いあう俊平と菊。やがて、心をひとつにしたふたりには大きな試練が。俊平は、逃亡資金を得るため、ある宿場では悪人を斬り、ある宿場では陰謀を命がけで阻止する。そのカッコよさは、ただものではない。密かにふたりを抹殺しようと迫る思いつめた表情の岸田森の怪演もみもの。また、近藤正臣の衣装がデニム生地で、現代調なのも、数々の異色ヒーローを世に送り出した「必殺スタッフ」による作品ならではの味といえる。
ふたりの純愛とギリギリに追い詰められるサスペンスが多くの視聴者をひきつけた名作。哀愁漂う主題歌も忘れられません!

掲載2007年04月06日

『風の隼人』呪いの泥人形で暗殺!?薩摩藩お家騒動。サスペンスタッチの展開に目が離せない。

(かぜのはやと) 1979年

掲載2007年04月06日

嘉永年間。薩摩77万石はお家騒動に揺れていた。現藩主・島津斉興(中村俊一)の側室お由羅(南田洋子)を中心とする保守派武士層と、次期藩主候補で斬新な改革を目指す島津斉彬(津川雅彦)を支持する下級武士一派が対立していたのだ。ある日、斉彬の子が怪死。お由羅の命を受けた牧仲太郎(柳生博)が呪殺の術を使ったらしい。江戸の薩摩藩邸に住む下級武士団の仙波小太郎(勝野洋)は、相棒の益満休之助(西田敏行)と、お由羅の屋敷に潜入、呪いの証拠である泥人形を床下から発見するが、事態は収まらなかった。仙波一家は藩を脱出。母は居酒屋で働きながら情報収拾、妹綱手(夏目雅子)は、お由羅一派の薩摩屋に下女として潜入して敵の動きを探る。もうひとりの妹・深雪(名取裕子)は、お由羅の側近となって、彼女を襲った下級武士を手にかけてしまう。密偵家族と成り果てた仙波一家の哀愁。小太郎の心の支えは、「留学させる」という斉彬の口約束だが…。
 変装、密書、呪いの人形とサスペンスいっぱいの展開。西田敏行の冷静なスパイや柳生博の野心家術師、村野武範のインテリな策略家など、芸達者たちの競演もみもの。敵に偽情報を出され、翻弄される夏目雅子の美しいスパイも忘れられない。やっぱり下女としては目立ちすぎ!?原作は直木賞でおなじみの直木三十五「南国太平記」、脚本は市川森一。

掲載2007年02月15日

『恋しとよ 君恋しとよ』身分違いの姫に恋した純情侍。若山富三郎の大久保彦左衛門の渋い味。

(こいしとよ きみこいしとよ) 1991年

掲載2007年02月15日

三代将軍家光の時代。旗本の三男坊・五橋数馬(田中実)は、武芸で名をとどろかせたいと夢見ていた。有り余る力を金の賭けての試合で紛らわせていたが、大田原(高田淳次)との試合の最中、ふと目に入った美女に心を奪われ、立会いどころではなくなってしまう。その美女こそ、十万石の大名・奥平家のちずか姫(田中美奈子)であった。
 身分違いもなんのその、猛アタックを開始した数馬は、姫の屋敷の門前の錦木に恋文を結んでの百夜通いを始める。一方で、数馬は叔父の大久保彦左衛門(若山富三郎)を担ぎ出して、なんとか身分違いの壁を破ろうと考えていた。そんなとき、ちずか姫がお家騒動に巻き込まれて、誘拐!? どうする数馬!
 原作・山本周五郎。脚本・筒井ともみ。面白いのは、天下のご意見番として知られる彦左衛門が、実は縁側でのんびり日向ぼっこをしているようなもの静かな老人として描かれていること。眉毛も垂れ下がった若山富三郎の渋い演技が楽しい。男気を見せる水野十郎左衛門(中村橋之助)、困惑する姫の父(伊東四朗)、「あー、ハシタないったらありゃしない」と物語をテンポよく進行する戯作者(室井滋)、数馬の父の再婚相手で「うふふ、数馬さん、背中を流しましょうね」と色っぽい義母(川上麻衣子)など、ユニーク顔ぶれが揃うのも見どころ。

掲載2006年11月16日

『剣客商売スペシャル 女用心棒』三冬が大店の孫娘の用心棒に。娘の恋心が凶悪な事件を呼ぶ!

(けんかくしょうばい) 2006年

掲載2006年11月16日

知る人ぞ知る剣の達人・秋山小兵衛(藤田まこと)と、40歳年下のお茶目な妻・おはる(小林綾子)、あいかわらず道場の経営はいまひとつだが、次第に貫禄がついてきた息子大治郎(山口馬木也)、その妻三冬(寺島しのぶ)、さらには可愛い孫の小太郎も加わって、ほのぼの度が増した「剣客商売」の家族。今回は、三冬が、無頼者に誘拐されそうになった娘・お雪(大西恵麻)の危機を救ったことから物語が始まる。江戸でも指折りの小間物問屋・山崎屋の跡取り娘だとわかったお雪。三冬は、そのまま彼女の用心棒代わりとなるが、肝心の娘は、頑固な祖父(大滝秀治)が勧める縁談に気が進まず、密かに誰かに恋している様子。それが再び事件を呼ぶ。
 剣術が苦手で町人になろうかという人柄のいい若侍に「あなたは剣術の腕を別にしたら、とても素晴らしい人です」と思ったことを口に出してしまう大治郎の素直さ(素直すぎ!)、恋に悩むお雪を見守る三冬の優しさも光る。また、池波作品ではおなじみの蟹江敬三の子息・一平も事件探索に活躍する。
 できちゃった結婚した婿養子の夫(江藤潤)に冷たい視線を向けるお雪の母(姿晴香)の控えめながらキツい性格表現。かつては京都で本格的に殺陣の稽古を積んだ寺島進の立ち回り、一癖ありそうな近藤芳正の怪しさなど、ゲスト陣のいつもと違う演技も見もの。

掲載2006年09月14日

『御用牙』地上波未放送渡辺謙のハードボイルド時代劇。津川雅彦の奇怪奉行にもご注目。

(ごようきば) 1994年

掲載2006年09月14日

北町奉行所の隠密廻り同心・板見半蔵(渡辺謙)は、“かみそり半蔵”と呼ばれるやり手だが、存在を疎ましく思う者も少なくない。
あるとき、過酷な幕府の倹約令に異を唱えたことから、半蔵の父は切腹、自身は左遷される。五年後、やっと奉行所に復帰した半蔵は、江戸の闇の世界に、奇怪な男の存在を知る。しかし、半蔵は、敵の手に落ちて…。
 原作は「子連れ狼」の小池一夫。劇画では、半蔵が女容疑者をすさまじい業で責めつける。エロチック&バイオレンス路線が強調されており、ペリーもびっくりだったが、本作では、渡辺謙の男ぶりが光る。94年に制作されながら、諸事情により、地上波では未放送。04年に本チャンネルで初放送され、反響を呼んだ作品でもある。
拷問、殺し、極限まで追い詰められた半蔵の激しい憎悪が、やがて爆発する。過酷な中、清らかな心を見せる女、荻野目慶子の熱演がいい。(それにしても、どうして荻野目さんは不幸の役ばかりなんでしょうか? )また、微妙な立場で登場する地井武男、織本順吉、当時、時代劇に多く出演していた沖田浩之の姿も。
 インタビューで渡辺謙ご本人も語っていた通り、この番組では、悪役津川雅彦の役作りはすさまじい。シッシッシ!!という不気味な笑い声と残忍なまなざし。久しぶりに夢に見そうな悪役に出会える長編。

掲載2006年08月25日

『剣客商売 誘拐』三冬の危機に堅物大治郎が動く!中村又五郎・加藤剛のコンビで描く剣客商売。

(けんかくしょうばい かどわかし) 1983年

掲載2006年08月25日

何者かに襲われた女から、いわくありげな革袋を渡された佐々木三冬(新井春美)。その中身は、南蛮渡来の麝香(じゃこう)だった。三冬から事情を打ち明けられた秋山大治郎(加藤剛)は、大掛かりな密貿易の関わりを察知して、父・秋山小兵衛(中村又五郎)に相談。岡っ引きの弥七(近藤洋介)が探索にかかった途端、三冬が行方不明に。抜け荷一味が、証拠の品を取り返すために、誘拐したのであった。三冬を救い出すべく、わずかな手かがりを頼りに、大治郎たちの必死の追跡が始まる。
 中村又五郎・加藤剛コンビによる「剣客商売」の長編。原作者・池波正太郎が、又五郎をイメージして、小兵衛のキャラクターを創作したのは、有名な話だが、素顔の又五郎本人もおしゃれで、美味しいものが大好きだとか。加藤剛は、連続シリーズでも山形勲の小兵衛と組んで、大治郎役を好演。「堅物で一本気」な大治郎を定着させた。現代ドラマのイメージが強い新井春美が、フレッシュな三冬に扮し、大治郎とほのかに心を通わせる。
 なお、当時の京都は、現在よりロケ可能な地も多く、セットもかなり大掛かり。現在の藤田まこと版は、小兵衛の隠宅の場面がメインだが、加藤剛版では、大治郎の道場も、一軒丸ごと建てて撮影していたという。現在では失われた風景も味わえるという点では、ぜいたくな「剣客」といえるかも。

掲載2006年06月01日

『五右衛門』大泥棒誕生の意外ないきさつとその顛末 鶴太郎、財前、柄本の技がぶつかる異色作

(ごえもん) 1994年

掲載2006年06月01日

信長が去り、いよいよ豊臣秀吉(中村嘉葎雄)が天下統一を目指して、動き出す。反抗勢力に徹底的な弾圧をする秀吉の軍勢は、紀州山中の伊賀の忍びの村も急襲し、焼き払ってしまう。忍びの男・土ぐも(片岡鶴太郎)は、頭の娘おさん(堀江奈々)とともに、忍びの女枯葉(財前直見)を救出して脱出するものの、瀕死の枯葉は自ら顔をつぶして死ぬ。忍びの世界に嫌気がさし、堺の町に出た土ぐもはその華やかさに驚き、おさんといっしょにおまん(木の実ナナ)の店に居つくが、そこの常連のひとりは、村を焼き払った牛島龍一郎(柄本明)だった。秀吉に見初められた枯葉にそっくりな利休の娘と通じた土ぐもは、ひょんなことから「石川五右衛門」を名乗り、忍びの技を活かした盗賊のリーダーになっていく。
 「化けているてめえのことは何にもわかりはしない」自分は誰?熱血でもなく、クールでもなく、不思議なテンションで生きた五右衛門が、釜茹でになる瀬戸際の啖呵は必見。また、「茶の湯とはなんでゃあ?」名古屋弁丸出しの秀吉と、権力に取りつかれる息子をたしなめる老いた大政所(鈴木光枝)らベテランのぶつかり合いにはさすがの迫力、柄本明、六平直政ら当時の小劇場のニオイを感じさせるキャストも目立っている。
 それにしても、なぜ「土ぐも」が「五右衛門」になったのか?意外すぎる理由にも注目を。

ペリー荻野プロフィール
ペリー荻野

1962年愛知県生まれ。大学在学中よりラジオのパーソナリティ兼原稿書きを始める。 「週刊ポスト」「月刊サーカス」「中日新聞」「時事通信」などでテレビコラム、「ナンクロ」「時代劇マガジン」では時代劇コラムを連載中。さらに史上初の時代劇主題歌CD「ちょんまげ天国」シリーズ全三作(ソニーミュージックダイレクト)をプロデュース。時代劇ブームの仕掛け人となる。

映像のほか、舞台の時代劇も毎月チェック。時代劇を愛する女子で結成した「チョンマゲ愛好女子部」の活動を展開しつつ、劇評・書評もてがける。中身は"ペリーテイスト"を効かせた、笑える内容。ほかに、著書「チョンマゲ天国」(ベネッセ)、「コモチのキモチ」(ベネッセ)、「みんなのテレビ時代劇」(共著・アスペクト)。「ペリーが来りてほら貝を吹く」(朝日ソノラマ)。ちょんまげ八百八町」(玄光社MOOK)「ナゴヤ帝国の逆襲」(洋泉社)「チョンマゲ江戸むらさ記」(辰己出版)当チャンネルのインタビュアーとしても活躍中。