ペリーのちょんまげ ペリーのちょんまげ

掲載2010年06月18日

『影武者 織田信長』
藤田まことが天才武将と農民の二役に。
寧々の沢田亜矢子、濃姫の名取裕子もいい味

(かげむしゃ おだのぶなが) 1996年

掲載2010年06月18日

天正9年、織田信長(藤田まこと)は、三河の徳川家康と同盟を結び、着々と天下統一の準備を進めていた。しかし、敵は多く、秀吉(片岡鶴太郎)は、信長に影武者を勧める。そこで選ばれたのは、農民の左平(藤田二役)。多額の報酬と妻子を人質にとられた脅迫により無理やり影武者にされた左平には、過酷な運命が待ち受けていた。
仏像の首を落とし、「坊主どもは皆殺しじゃ!!」と比叡山焼き討ちなどを命ずる狂気じみた信長と、「ウリ買うて~」とお調子者の左平。この二役をできるのは、「必殺シリーズ」で中村主水という“ふたつの顔を持つ男”以外にいない。
左平は、秀吉の妻寧々(沢田亜矢子)に、武将としての作法を仕込まれる。「食べ物はまず、山のもの、ついで海のものを食す!!」とばしばしたたかれ、信長が得意の♪人間五十年~の能までこなさなければならない。逃げ出したくても、怖い顔をした甲賀の忍び黒蜘蛛(根津甚八)がしっかり監視しているのだ。しかし、外見はごまかせても、夫婦の間ではとても無理。左平は、信長の妻濃姫(名取裕子)と顔を合わせることになり、緊張する。しかも、信長は毒殺、射殺と次々命を狙われ、ついには明智光秀(夏八木勳)の謀反が。
ラストは、思わぬ展開に。戦国の裏側を笑いと涙で描く、大型時代劇。

掲載2010年04月16日

『幻十郎必殺剣』
北大路欣也が、死んだはずの男に!
尾美としのり、中村敦夫もいい味を出す

(げんじゅうろうひっさつけん) 2008年

掲載2010年04月16日

元南町同心・神山源十郎(北大路欣也)は、同僚を斬った罪で五年間投獄され、死罪となった。しかし、実際に処刑されたのは別の罪人。深い眠りからさめた源十郎は、市田孫兵衛(笹野高史)から、五年前の事件の真相を探るよう言われる。すでに死んだ者となった源十郎は、「死神幻十郎」となり、悪と対峙する。
初回、五年間牢獄にいたため、北大路欣也は頭もひげもぼーぼーのすごい姿。それが死神となって、再び二枚目になっていく過程も描かれ、興味深い。ちなみに北大路欣也は、市川崑監督と組んだ「赤西蛎太」では思いっきりあばたメイクをし、「はんなり菊太郎」でも老人メイクでカメオ出演するなど、凝ったメイクはお手の物(というか好き?)である。
幻十郎が事件探索をするための強い相棒が、彼の世話役の伊佐次(尾美としのり)。無口に幻十郎と愛嬌ある伊佐次のバランスがいい。
また、彼が生き残った事情の裏にいる謎の老人・楽翁(中村敦夫)も渋くていい味。ゲストには、北原佐和子、高橋和也、平泉成、上杉祥三、鶴田忍などが登場。
「死神幻十郎が地獄へ送ってやる!」
幻十郎の鋭い推理と、剣で追い詰められるのは誰か。
誰にも縛られない立場の幻十郎は、どんな権力者も恐れない。死神だからこそ、できる正義の剣を堪能したい。

掲載2010年02月12日

『草燃える』
時代劇チャンネルがきっかけで全話放送実現
北条政子と源頼朝の恋から波乱の鎌倉を描く

(くさもえる) 1979年

掲載2010年02月12日

豪族の娘・北条政子(岩下志麻)は、伊豆に流されていた源氏の御曹司・源頼朝(石坂浩二)と出会い、惹かれあう。しかし、政子には、親(金田龍之介)が決めた許婚がいた。婚礼が迫り、政子は思い切った行動に出る。自分に思いを寄せる伊東好之(滝田栄)に自分をさらわせ、頼朝のところに脱出しようとしたのだ。純粋だった好之は、だまされたと知って、復讐を誓い、あらゆる場面で妨害行為に出る。
平家を打ち破り鎌倉に幕府を開いた源頼朝と、頼家、実朝の三代に渡る栄華とその裏の骨肉の争い。近年は、ドロドロ路線の昼ドラマでも活躍する脚本家・中島丈博の濃厚で、現代口調のセリフは当時から話題に。原作者の永井路子は、「原作を越えた」とドラマを絶賛したという。顔に斜めの大きな傷を負う好之の滝田栄は、大河ドラマデビュー作。プロデューサーから「顔にもうひとつ傷をつけてバッテンにしたい」といわれて驚いたとか。好之は、ラストシーンまで、存分の活躍を見せる。
なお、この作品のオリジナルVTRは、NHKにも保存されていなかったが、当チャンネルの「大河ドラマ・アーカイブス」をきっかけに、一般視聴者の方からの映像提供を受け、さらに関係者のテープも合わせて、全話の放送が実現することに。多くの人たちに愛された作品の醍醐味をゆっくり堪能してください。

掲載2010年01月29日

『帰って来た木枯し紋次郎』
市川崑監督、中村敦夫主演で15年ぶり長編
堅気の紋次郎に、再び、過酷な運命が。

(かえってきたこがらしもんじろう) 1994年

掲載2010年01月29日

始まりは峠の小さな茶屋。そのおやじ(日下武史)が「紋次郎という渡世人は…」五年前に死んだと語りだす。しかし、紋次郎は木曽で木こりとなり、生きていた。少しずつ腕前を上げて、頭の伝吉(加藤武)からも認められ、堅気として日々を送っていたのだ。そんなとき、仕事を嫌って飛び出した頭の息子・小平次(金山一彦)が、貸元・木崎の五郎蔵(岸部一徳)の身内になって、悪事に加担しそうであるとわかる。頭への恩義に報いるため、紋次郎は、小平次を連れ戻すため、再び、渡世人の世界に足を踏み入れることになった。
15年ぶりに市川・中村の顔合わせが実現。原作者・笹沢佐保が書き下ろしたストーリーは、年月を重ねた中村敦夫の渋みをそのまま活かし、「あっしはどうやら、堅気になれない定めのようで…」という紋次郎の切なさを表現している。
粋がってはいるが、紋次郎の貫禄の前には歯が立たない小平次を金山一彦がやんちゃに演じ、彼を心配する鈴木京香もやわらかい女らしさをよく出している。ポーカーフェイスの岸部、腹黒い八州廻り石橋蓮司、紋次郎を恨む女おまち(坂口良子)も、独特の水占いをしながら、「あたしには見えるんです。紋次郎の姿が」と、独特の雰囲気をかもし出す。懐かしい主題歌を歌う上篠恒彦が、老いた浪人で登場するのも、ファンには楽しい。

掲載2010年01月08日

『風光る剣−八嶽党秘聞−』
中井貴一が剣に生きるカッコイイ男に!
原作・藤沢周平。謎の「八嶽党」の正体とは

(かぜひかるけん−はちがくとうひぶん−) 1997年

掲載2010年01月08日

元御家人の跡取りだった鶴見源次郎(中井貴一)は、無限流免許皆伝の腕前だが、今は弟に家督を譲り、筆耕仕事で細々と暮らしていた。偶然、公儀隠密と謎の集団の戦いに出くわし、密書を預かったことから、彼の運命は大きく変わる。親友で五百石とりの旗本ながら浮世絵を描く変わり者の細田(渡辺徹)とともに源次郎は、徳川に遺恨のある八嶽党と戦うことになる。
原作は藤沢周平の「闇の傀儡師」。地味な生きる剣の達人が戦いに直面したり、彼がなぜ家督を譲ったのかなどは、藤沢作品らしい味。「草燃える」「八代将軍吉宗」など多くの大河ドラマを手がけた演出の大原誠は「剣が強くて女にベタベタしない。お金に汚くなく、ガツガツとものを食わない。カッコイイ男を再現したかった」と語っている。源次郎は、まさにそのカッコイイ男に仕上がっている。
脚本は大野靖子、音楽は富田勲。キャストも豪華で、津川雅彦、丹波哲郎、里見浩太朗、八千草薫、田村高廣らベテランは、貫禄たっぷり。中でも、江守徹は、老練な剣士に扮して、源次郎を翻弄する。宿敵となる羽賀研二の悪辣ぶりも見物のひとつ。また、源次郎と深く関わることになるお芳(高岡早紀)の妖艶さにも注目したい。「ベタベタしない男」源次郎もさすがにお芳の色香には…。どうする、源次郎?八嶽党との決着ととものお楽しみ。

掲載2009年11月13日

『かげろう絵図』
松本清張の時代推理小説に雷蔵が挑む。
山本富士子の艶やか二役。大奥の秘密!?

(かげろうえず) 1959年

掲載2009年11月13日

徳川十二代家慶は、将軍ではあるものの、実権は大御所家斉(柳永二郎)に握られていた。家斉の愛妾お美代の方(木暮実千代)の養父中野石翁(滝沢修)は、幕府内で大きな勢力を誇っている。あるとき、城内吹上の庭で不幸な事故が起こった。お美代の方以上に家斉の寵愛を受け始めていた若いお多喜の方が、観桜の宴で自筆の短冊を桜の枝に結ぼうとして、台から転落。流産した上に自身も命を落としてしまったのだ。それが事故でなく、陰謀ではないかと疑った旗本・島田又左衛門(黒川弥太郎)は、登美(山本富士子)を大奥に潜入させる。登美の妹・豊春(山本二役)と同居する又左衛門の甥・新之助(市川雷蔵)も、事件に巻き込まれて行く。
原作は昭和30年代、第一次ブームとなっていた松本清張。作者は「現代の下山事件にも似ている」と語り、権力者を精密に描いている。飄々とした雷蔵の新之助と、「あたしゃ下賎の暮らしが身についているんだよ」と艶っぽい豊春と清楚な登美の二役を演ずる山本富士子のコンビは、スターの輝きでピカピカ。対する滝沢修は、不気味な大悪を悠々と演じているが、注目は木暮実千代。現代にも流行している「目が二倍に見えるくっきりメイク」で、家斉に流し目を送る妖艶さが素晴らしい。悪側のねっとりした雰囲気が、物語を盛り上げる。

掲載2009年08月28日

『転がしお銀〜父娘あだ討ち江戸日記〜』
人生はローリング・ストーン!
内館牧子脚本。父娘の面白哀しいあだ討ち譚

(ころがしおぎん〜おやこあだうちえどにっき〜) 2003

掲載2009年08月28日

時は文政。奥州高代藩の元家老・山岡網右衛門(伊東四朗)は、嫡男孝左衛門が部下の不始末の責任を負って切腹。お家断絶となり、悲嘆にくれる。しかし、娘菊(田中美里)は、「人生前向きに転がってないとお終いだよ!」とふたりで江戸へ出て、孝左衛門を切腹に追い込み、身を隠した部下を探して仇討ちしようと提案。町人に姿を変えて、八十吉、銀父娘として長屋に暮らし始めたふたり。お銀は、長屋で長患いの母を世話する美貌の青年宗太郎(武田真治)に一目ぼれするが、彼にはいろいろと事情があるようだった…。
お化け長屋には“豆腐小僧”はじめ、なぜか不思議な妖怪?たちが現れ、笑わせる。が、NHKドラマ「ひらり」「私の青空」などで、まっすぐに生きるヒロインを描きながら、現実的な毒も巧みに盛り込む名脚本家・内館牧子の作品だけに、笑えるだけで終わっていない。お銀がほれた宗太郎には、辰己芸者の梅弥(風吹ジュン)という年上の恋人がいた。やがて明かされる孝左衛門切腹の真相、悲しい別れ。最終回では、長屋のメンバー総出で恐ろしい刺客と戦うことに。舞の海がしこを踏んだり、小泉孝太郎がおっちょこちょいのお坊ちゃんで出ているのも注目。「もはや、わしは生きでいだくね」とがっくりする父に「転がり続ければ生きていける」と励ますお銀。その言葉に元気が出る。

掲載2009年08月21日

『怪談鏡ケ渕』
金と嫉妬と商品偽装が悲劇の引き金に!
じっとり湿った三遊亭圓朝六十周忌記念映画

(かいだんかがみがふち) 1959年

掲載2009年08月21日

代官の怒りを蒙り、父とともに江戸へ出てきた浪人・安次郎(伊達正三郎)は、運よく呉服商の江島屋治右衛門(林寛)に引き取られ、許婚のお菊(北沢典子)ともども夫婦養子になることになった。自分が江島屋の跡取りになれると思っていた古参番頭の金兵衛(大原譲二)と妾のお仲(浜野桂子)は深く嫉妬し、安次郎追い出しを図る。
そんな折、金兵衛に騙されて粗悪に生地で花嫁衣裳を作って、披露宴で大恥をかかされたお里(瀬戸麗子)が、「よくもこんな姿にしてくれた」と髪を振り乱して鏡ケ渕に現れる。
金兵衛はお里を殺害。鏡ケ渕に沈める。これ以降、金兵衛は、お仲の色香で治右衛門を惑わせ、残酷な殺しを続けていく。そのすべてを飲み込んだ鏡ケ渕で、ついに身の毛もよだつ出来事が…。
色と欲。複雑にからみあった人間たちが憎みあい、殺しあう。この構成力はさすが圓朝。
花嫁という幸せの絶頂から絶望したお里の表情が恐ろしい。また、金のために男をたらしこむお仲のパワフルな悪女ぶり。やはり怪談は女性の力が重要といえそう。
障子に映る女の黒髪、短刀からしたたる血潮、ゆれる火の玉、どろりとした沼の妖気。CGのない時代、じっとり湿った空気がモノクロの画面から漂ってくる雰囲気作りは、映画人たちの力の見せ所。じっとり怖いです。

掲載2009年08月07日

『怪談<PG-12>』
「リング」の中田秀夫監督の怖すぎる映像
呪われた男女の因縁、さびた鎌の恐怖

(かいだん) 2007年

掲載2009年08月07日

日本の夏といえば、怪談!噺家・三遊亭圓朝が世に送り出した噺の数々は、人間の深い業を鋭く描く名作ばかり。ここで紹介する「怪談」は、圓朝の「真景累ケ淵」が原作。
 ある雪の夜。深見新左衛門(榎木孝明)が、借金取りに現れた皆川宗悦(六平直政)を斬殺。赤子であった深見の息子は、使用人の勘蔵(光石研)に育てられる。時がたち、煙草売の新吉(尾上菊之助)は、富元(とみもと)の師匠豊志賀(黒木瞳)に呼び止められる。このふたりこそ、深見の息子と宗悦の娘だった。ともに暮らすふたりだが、日に日に嫉妬深くなる豊志賀を新吉は「あんなに弱らせる女はいない」と重荷に思うように。顔の傷が悪化し、恐ろしい顔になった豊志賀は、「女房をもらえば、必ずやとり殺すからそう思へ」と置手紙を残して死ぬ。そして、恐ろしい因縁が巡り、新吉の周囲で惨劇が繰り返される。
 新吉をからめとるように自分のものにする豊志賀のねっとりした色気。「ひと目見て忘れられなくなりました」と長いまつ毛で告白する新吉。最近、カレーのCMでも注目される菊之助は、「どうしてこんなにきれいなの」と次々女に言い寄られ、悲劇へと突き進む。突然、手が出たり、蛇が出たりとビジュアルの怖さとともにじっとりした湿気の気持ち悪さは中田監督の得意技。さびた鎌が恐怖を駆り立てる。瀬戸朝香の悪女も秀逸。

掲載2009年03月19日

『斬り捨て御免!』
「御免!」の掛け声とともに悪を斬る。
「鬼平」以前の若きリーダー吉右衛門の活躍

(きりすてごめん) 1991年

掲載2009年03月19日

江戸の治安を独自のやり方で守る「三十六番所」頭取・花房出雲(中村吉右衛門)と部下たちの活躍を描く。「御免!」と悪を一刀両断する吉右衛門は、後に「鬼平犯科帳」でも見せる、べらんめえで粋なリーダーをぶりを発揮。好評を得たシリーズは3作まで続いた。
その第一シリーズの最終話「江戸城危機一髪」では、上様御落胤を名乗る照千代なる若者が登場。上様から配領したという証拠の品も揃い、幕府として放っておけない状況に。便宜を図ってもらおうと商人たちは照千代一派に献金を行い、一派は次第に傍若無人な振る舞いをするようになる。出雲と親しい勘兵衛(小島三児)の抱え遊女も一派にいたぶられた上に殺された。照千代の出生に疑問を抱く出雲は探索を進めるが、照千代の後見人・橋場右京(平泉成)らに阻止される。そして、裏にはさらに大きな悪が。出雲配下の熱血漢・松波蔵人(伊吹剛)は、単身敵地に乗り込むが、それはワナだった。
最終話らしく息もつかせぬ展開が続く。緊迫感の中、三十六番所の名物オヤジ関大介(長門勇)の飄々とした存在感がいい。
続いてスタートする第二シリーズには、松本白鸚が登場。さすがの貫禄を見せる。さらに清純派の岩崎良美、妖艶な妙秀尼(日向明子)、元気のいい三島ゆり子、岩井友見ら女優陣の活躍も見逃せない。

ペリー荻野プロフィール
ペリー荻野

1962年愛知県生まれ。大学在学中よりラジオのパーソナリティ兼原稿書きを始める。 「週刊ポスト」「月刊サーカス」「中日新聞」「時事通信」などでテレビコラム、「ナンクロ」「時代劇マガジン」では時代劇コラムを連載中。さらに史上初の時代劇主題歌CD「ちょんまげ天国」シリーズ全三作(ソニーミュージックダイレクト)をプロデュース。時代劇ブームの仕掛け人となる。

映像のほか、舞台の時代劇も毎月チェック。時代劇を愛する女子で結成した「チョンマゲ愛好女子部」の活動を展開しつつ、劇評・書評もてがける。中身は"ペリーテイスト"を効かせた、笑える内容。ほかに、著書「チョンマゲ天国」(ベネッセ)、「コモチのキモチ」(ベネッセ)、「みんなのテレビ時代劇」(共著・アスペクト)。「ペリーが来りてほら貝を吹く」(朝日ソノラマ)。ちょんまげ八百八町」(玄光社MOOK)「ナゴヤ帝国の逆襲」(洋泉社)「チョンマゲ江戸むらさ記」(辰己出版)当チャンネルのインタビュアーとしても活躍中。