ペリーのちょんまげ ペリーのちょんまげ

掲載2001年12月22日

藤十郎の恋 原作・菊池寛、監督・山本嘉次郎、助監督・黒澤明、そして主演が長谷川一夫の名作。

(とうじゅうろうのこい) 

掲載2001年12月22日

町人文化が華開いた元禄の京都。
南座の役者・坂田藤十郎は、芸に悩んだ末、師である近松門左衛門に相談する。近松は友人でもある藤十郎のために実話を基にした新作狂言「大経史昔暦」を書き上げるが、その写実的な濡れ場をどう演ずるか、藤十郎は苦悩する。その最中、かつて祇園一の歌奴と呼ばれたお梶に再会。藤十郎は、お梶に恋を打ち明け、演技のきっかけをつかむ。しかし、お梶は藤十郎の心が偽りであると悟り、悲劇が起こる・・・。
天下の二枚目・長谷川一夫が、華麗なしつらえで役者に扮し、やわらかい京風ことばで女(後に化け猫映画で一世を風靡する入江たか子)を口説く。これで落ちない女はいないでしょう・・・。とろけるような甘さでメロドラマの形をとりながら、一方ですべてを芸のためと割り切る冷徹な男の表情は、サスペンスさえ感じさせる。さすが菊池寛作品。
当時、林長二郎こと長谷川一夫は、暴漢に襲われ、顔を斬られるという“顔斬り事件”(松竹から東宝への移籍問題がきっかけといわれるが、真相はなぞのままである)に巻き込まれるが、この作品で見事復帰した。
チャンバラのない文芸時代劇もこんなに面白い、と感心する人も多いはず。原作、監督、助監督、それに主演まですべて揃ったロイヤルストレートフラッシュな名作時代劇として、一度は見ておきたい一本。

掲載2001年12月08日

「忠臣蔵祭り〜オールスター揃い踏み〜」日活、大映、東映、東宝各社総力結集のオールスター忠臣蔵で年越しだ!

(ちゅしんぐらまつり〜おーるすたーそろいぶみ〜) 

掲載2001年12月08日

時は元禄。華やかな町人文化の時代。例の「生類憐れみの令」で、人間よりお犬様の方が偉い!?と世の中に鬱憤もたまった時代。仇討ちに命をなげうった四十七士の物語は、庶民に拍手喝采で迎えられた。時は巡って、文明開化、高度成長、構造改革と言葉ばっかり元気でも、世の鬱憤は今も同じ。今年、地上波では、かの木村拓哉主演で「忠臣蔵」が作られるという。こんな時代だからこそ、「忠臣蔵」を見たくなるのも、当然というものか。
今回は、各映画会社が総力を結集したオールスター「忠臣蔵」を一挙放送。特に戦前に作られた阪東妻三郎の大石内蔵助に、片岡千恵蔵(浅野内匠頭)はじめ嵐寛寿郎、月形龍之介、志村喬らで送る日活版は、貴重な一本。マキノ正博演出の「松の廊下」は見物だ。一方、長谷川一夫の内蔵助に市川雷蔵の内匠頭という、“美男コンビ”はさすが大映。滝沢修、鶴田浩二、勝新太郎、京マチ子も出演し、興行収入4億1千万円という大ヒット作だ。仇討ちだけでなく、政治そのものが問題、と社会面も打ち出した東映は、片岡千恵蔵の内蔵助。中村錦之助の内匠頭と嫌みたっぷりの進藤栄太郎の吉良上野介、東千代之介、北王子欣也、美空ひばりも華を添える。東宝は稲垣浩監督が、先代松本幸四郎、加山雄三、三船敏郎らと男のドラマを盛り上げる。
どれをとっても百花繚乱。豪勢な年越しができること間違いなし。

掲載2001年11月30日

「忠臣蔵祭り〜オールスター揃い踏み〜」年末といったら、忠臣蔵!映画会社競作で豪華スター勢ぞろい。

(ちゅうしんぐらまつり〜おーるすたーそろいぶみ〜) 

掲載2001年11月30日

さあ、師走といえば「忠臣蔵」。
吉良上野介に恨みを抱きつつ、切腹した主君・浅野内匠頭の仇を打つために入念な準備をして討ち入った四十七人の物語。大石内蔵助はじめ四十七士、敵方までキャラクターが豊富で、場面も江戸、赤穂、京都など多彩。討ち入りではチャンバラファンも大喜び。それゆえ、各映画会社は競って、オールスター送出演の豪華な作品に仕上げた。自分が好きなスターの晴れ姿と、数多くのスターをいっぺんに見られるお年玉的作品なのだ。
今回は、まず、38年、内蔵助を阪東妻三郎、内匠頭を若き片岡千恵蔵が演じた貴重な日活作品。長谷川一夫がうっとりするような美男内蔵助になった大映作品、かつて内匠頭を演じた千恵蔵が今度は内蔵助を演じ、美空ひばりも出演した東映作品。先代松本幸四郎が内蔵助、槍の名人で敵方の俵星玄蕃を三船敏郎が演じた東宝作品。さらに萬屋錦之助が内蔵助を演じ、36回にわたって放送されたテレビシリーズ「赤穂浪士」を送る。同じ筋でも、華麗だったり、地道だったり、味はいろいろ。現在主役級の俳優(例えば鬼平の中村吉衛門など)が、若く小さい役でチラッと出ているのを発見するのもお楽しみ。ストーリーはわかっていると思っても、一度見ると止まらない。これが日本映画界が総力を結集し、世に出した作品の実力ってもんですな。

掲載2001年11月24日

「旅がらす事件帖」マゲでもやっぱり渡り鳥!小林旭の貴重な時代劇初主演作。

(たびがらすじけんちょう) 1980

掲載2001年11月24日

小林旭が初めて主演したテレビ時代劇。
政治腐敗で乱れた天保年間。幕府の密命を受けた三千石の旗本・(小林旭)が、旅芸人の一座に同行しつつ、股旅姿の直次郎として諸国の悪を懲らしめる。
小林旭の旗本というのもすごいが、さらにその旗本がいきなり旅人になってしまう設定はすごい。が、さすがアクション&さすらいに強い小林旭。おとなの貫禄も見せつつ、バッタバッタと宿場の悪代官、悪徳商人を斬っていく。そして、きれいさっぱり次の宿場へ・・・。難しい理屈は抜き。事件を解決すると旅に出るというのは、もちろん、代表作「渡り鳥シリーズ」の流れ。懐かしいファンも多いはず。渡世人姿なのに、堂々としているところもこの人ならでは。
共演には夏純子、叶和貴子、尾藤イサオ、長門裕之、今はなき三浦洋一も若々しい活躍を見せる。小沢栄太郎の老練な武士ぶりもいい。ゲストには伊吹吾郎、市毛良枝、川谷拓三、野川由美子、中尾彬、池波志乃、あの尾崎将司の名も見える。
脚本は、「水戸黄門」シリーズの宮川一郎、「鬼平犯科帳」の安倍徹郎ほか。なお、最終回の監督はマキノ雅弘で、これが最後のテレビ作品となった。
もっともっと時代劇に出してほしい俳優のひとり、小林旭の貴重な主演作。カラッと楽しめるシリーズ。

掲載2001年06月28日

「どろろ」怖いのに哀しい。手塚治虫の隠れた人気作品。いままで見逃してた人もぜひチェック!

(どろろ) 

掲載2001年06月28日

「鉄腕アトム」「火の鳥」「ブラック・ジャック」・・・手塚作品は名作が揃うが「どろろ」も一度見たら忘れられない作品のひとつ。
乱世の室町中期。醍醐景光は、まもなく生まれるわが子を48の魔陣に捧げ、「天下を獲る」という野望を果たそうとする。その子、百鬼丸は、体の48箇所を失いながら成長し、旅の途中で魔物を退治するたびにひとつずつ体を取り戻していく。どろろという子供と連れになった百鬼丸は、苦難の末、やがて「最後の妖怪」に行き着くが・・・・。
放送は69年。こどもだった私は、初めて「どろろ」を見た衝撃を今もはっきり記憶している。盥(たらい)に乗せられて流された赤子の百鬼丸。体のほとんどを失ったその子のことを考えただけで体が震えた。しかも、乱世で焼き討ち、強奪、屍と現実の恐ろしさに妖怪たちの奇怪さが重なって、怖いのなんの。頭が小判型の金小僧という妖怪を見たときにはあんまり怖くてひっくりかえりそうになった。しかし、おとなになってみると、人間の欲深さ、反対に純粋さ、哀しみなど胸に迫るものも多い。今もこの作品だけの上映会が開かれるというのもうなづける完成度。手塚治虫は、やっぱりすごい人だった。ちなみにこの番組は「ムーミン」「アルプスの少女ハイジ」と同じ「カルピス劇場」で放送された。すごい時代だったんだなー。

掲載2001年06月18日

旅がらす事件帖

(たびがらすじけんちょう) 1980年

掲載2001年06月18日

日活アクション映画全盛を知る人にとっては、青春時代のヒーロー。知らない人にとっては「熱き心に」など歌手としても大物のスター、というイメージだろうか。とにかく等身大、自然体のタレントばかりの日本芸能界にあって、いまだにスターの風格を保ち続ける貴重な存在、それが小林旭だ。
この「旅がらす事件帖」は80年の製作。その当時ですら、「初のテレビ時代劇出演」と騒がれた。今時、出演しただけで騒がれる俳優なんてのは、高倉健とこの人くらいだ。
しかし、そこは小林旭。小難しい設定の時代劇じゃなく、あくまで痛快アクション系で勝負だ。政治が腐敗した天保年間、幕府の特命を受けた旗本・直次郎は、身分を隠し、諸国を旅しながら悪と闘う――旗本がヤクザ姿で悪を成敗というすごい設定も、旭ならではかも。夏純子、三浦洋一、小沢栄太郎、叶和貴子、尾藤イサオら曲者レギュラー陣に、伊吹吾郎、川谷拓三、池波志乃らゲストが加わる豪華な配役。特に宍戸錠をゲストに迎えたアクションスター対決は見物のひとつ。脚本は本年スタートの新しい「水戸黄門」を手掛けたことでも話題の宮川一郎、「鬼平」でもおなじみの阿部徹郎ら、手練が揃う。最終回は、時代劇の巨匠・マキノ雅弘がてがけた最後のテレビ作品になるなど、お宝的要素もいっぱいの作品。映画の「渡り鳥シリーズ」を彷彿とさせる旭の股旅姿。もちろん、衣装も派手にキメてます。

掲載2001年05月26日

徳川武芸帳 柳生三代の剣

(とくがわぶげいちょう やぎゅうさんだいのけん) 1993年

掲載2001年05月26日

 映画全盛期には、映画界、歌謡界総出演のオールスター時代劇がよく作られたものだが、本作は往時の勢いを彷彿とさせる面々がそろった、平成のオールスター時代劇なのだ。
 主演の柳生宗矩(むねのり)に松本幸四郎、柳生一族の長老、石舟斎に平幹二朗、天下無双の剣豪として知られる柳生十兵衛に村上弘明、大久保彦左衛門に扮した藤田まことは頑固オヤジを楽しそうに演じ、彦左衛門の一の子分、一心太助の坂東八十助(現・三津五郎)も、やんちゃな魚屋を熱演。加藤清正の故・芦田伸介はさすがの存在感だし、淀殿の波之久里子も貫禄。たぬきオヤジの徳川家康は、NHKの大河ドラマでもこの役を演じた津川雅彦。名君、三代将軍家光に扮した堤大二郎は、現在、TBS系で放送中の『水戸黄門』で、石坂浩二の黄門様をいびる五代将軍綱吉を演じているあたりも興味深い。結構、将軍顔ってことかな?
 ほかに、ユニークだったのは、二代将軍秀忠の蟹江敬三。以前、本人にインタビューした際に、デビュー当時は、時代劇でも現代劇でもとにかく悪役ばかりで、刑事ドラマでは一度死んだのに、双子の弟として翌週も続けて極悪人役だった実績まであると、自慢?しておられた! ペリーも長く時代劇と接しているが、まさかこの人の将軍様を見られるとは…少し、感動。
 また、いつも強いばかりで色気のない柳生十兵衛の悲恋の見もののひとつ。
 関が原の戦い、島原の乱など激動の江戸初期、徳川家に剣で仕えた柳生一族。結構、家庭環境は複雑だが、宗矩の男らしい生き方は清清しいぞ。

掲載2000年12月25日

痛快!時代劇ヒーロー列伝

(つうかい!じだいげきひーろーれつでん) 

掲載2000年12月25日

 さあさあ年末の特別企画。
阪東妻三郎の丹下左膳に、嵐寛寿郎の「むっつり右門」、市川右太衛門の「旗本退屈男」など庶民の喝采を浴びた映画から、中村敦夫の「木枯し紋次郎」、中村吉右衛門の「劇場版 鬼平犯科帳」、萬屋錦之介の「子連れ狼」など、テレビ時代劇の名作まで、20世紀を彩った天下御免のヒーローが、なんと21人も勢ぞろい!貴重な映像のてんこ盛りで、彼らに惚れ直す超豪華企画なのだ。
 と、まあそんなわけで年末も眠れません。ほかにも片岡千恵蔵の「遠山の金さん」とか、錦之介の「源義経」など、なかなか見られない作品、丹波哲郎、平幹二朗、長門勇がイイ味を出している「三匹の侍」、勝新太郎の「座頭市」、大川橋蔵の「銭形平次」など、何度でも見たい作品、「鬼平犯科帳」は劇場版で登場。などなど、いつもと違う長編が楽しめます。
 それにしても、21人のつわものたちに混じって、紅一点が小川真由美というのはすごすぎ。「女ねずみ小僧」に酔いしれる年末もまたよし。

掲載2000年12月13日

忠臣蔵 花の巻き・雪の巻き

(ちゅうしんぐら はなのまき・ゆきのまき) 1962年

掲載2000年12月13日

いよいよ“忠臣蔵”シーズン! 吉良上野介の仕打ちに耐えかねた浅野内匠頭の殿中刃傷から四十七士の討ち入りまでを、稲垣浩監督が丁寧な演出で描いた東宝30周年記念作品。
 大石内蔵助を松本白鸚、内匠頭を加山雄三が演じている。ほかにも宝田明、志村喬、加東大介、フランキー堺、原節子など、オールスターが名を連ねる。三船敏郎の俵屋玄蕃にも注目。
 数ある「忠臣蔵」映画のなかでも大作感は一番!  
 やっぱり日本人なら年末は「忠臣蔵」を見ないと落ち着かない。とくにこれは豪華版です。ざっとキャストをご紹介。剣豪で人気者の堀部安兵衛に三橋達也、不破数衛門に佐藤允、色男の岡野金右衛門に夏木陽介、吉良上野介に市川中車、瑞泉院に司葉子、浮橋太夫に新玉三千代(あでやか!)などなど錚錚たるメンバー。「花の巻」では、お家断絶となって、内蔵助が赤穂城を去るまで。「雪の巻」では、苦難の末に吉良邸討ち入りまでを描く。

掲載2000年12月08日

大菩薩峠 第一部

(だいぼさつとうげ だいいちぶ) 1957年

掲載2000年12月08日

 甲源一刀流の剣豪ながら、心荒む机龍之助。大菩薩峠で巡礼の老人を意味も無く惨殺したうえに、剣術の試合相手の妻をも略奪し、自らの魔剣で地獄へと堕ちて行く。
 未完に終わった中里介山の世界最長の小説を、内田吐夢監督が片岡千恵蔵、中村錦之助、月形龍之介、大河内伝次郎ら豪華キャストの顔合わせで見事完結させる。千恵蔵の狂気は迫力満点。時代劇の醍醐味あふれ
る不朽の名作。
 ダーティーヒーローながら、人気が高い本作の主人公、机龍之助。江戸へ出奔したものの、略奪した妻の義弟からは生涯の敵と狙われ、一子をもうけた妻までも魔剣にかけてしまう。義弟との決闘で失明した龍之助は、完結篇でとうとう狂気に取り付かれるが…。
 と、もうなんだかとんでもない男なのだが、その地獄への堕ち方に、凶悪犯罪映画やホラーのような魅力があるのも事実。かの柴田錬三郎が“机に負けないキャラを”と、眠狂四郎を生み出したのは有名な話。

ペリー荻野プロフィール
ペリー荻野

1962年愛知県生まれ。大学在学中よりラジオのパーソナリティ兼原稿書きを始める。 「週刊ポスト」「月刊サーカス」「中日新聞」「時事通信」などでテレビコラム、「ナンクロ」「時代劇マガジン」では時代劇コラムを連載中。さらに史上初の時代劇主題歌CD「ちょんまげ天国」シリーズ全三作(ソニーミュージックダイレクト)をプロデュース。時代劇ブームの仕掛け人となる。

映像のほか、舞台の時代劇も毎月チェック。時代劇を愛する女子で結成した「チョンマゲ愛好女子部」の活動を展開しつつ、劇評・書評もてがける。中身は"ペリーテイスト"を効かせた、笑える内容。ほかに、著書「チョンマゲ天国」(ベネッセ)、「コモチのキモチ」(ベネッセ)、「みんなのテレビ時代劇」(共著・アスペクト)。「ペリーが来りてほら貝を吹く」(朝日ソノラマ)。ちょんまげ八百八町」(玄光社MOOK)「ナゴヤ帝国の逆襲」(洋泉社)「チョンマゲ江戸むらさ記」(辰己出版)当チャンネルのインタビュアーとしても活躍中。