ペリーのちょんまげ ペリーのちょんまげ

掲載2008年12月19日

『柳橋慕情』
たったひとつの約束が娘の運命を変える。
山本周五郎の人情と恋の物語

(やなぎばしぼじょう) 2000年

掲載2008年12月19日

早くに両親を亡くしたおせん(若村麻由美)は、祖父でとぎ師の源六(内藤武敏)に男手ひとつで育てられる。年頃になったおせんは、大工の庄吉(田中実)と生来を誓い合い、彼は修行のために大阪へ旅立つ。庄吉との約束だけを心の支えにしていたおせんに、庄吉と同期の大工幸太(吉田栄作)との見合い話が。
そんなとき、大きな火事が。おせんは、大切な人を失い、さらに庄吉からは誤解され、突き放されてしまうのだった…。
 災害や病、すれ違いなどヒロインに襲い掛かる不幸はただごとではない。また、彼女の親友で大店の娘おもん(井上晴美)にもつらい運命が。
 なにもここまで、というくらいの展開だが、どんな境遇でも人と人が支えあう、下町の人情が救いになる。人々の人生を見つめる語り手・居酒屋の女主人お鶴(藤村志保)の言葉があたたかい。
原作は山本周五郎の「柳橋物語」を中心に「人情裏長屋」「ちゃん」など複数の作品が織り込まれている。「ちゃん」の主人公・重吉(左とん平)、「人情裏長屋」の主人公・松村信兵衛(滝田栄)も柳橋の住人として登場。松村信兵衛?と聞けば、ピンとくる方も多いはず。当チャンネルで人気となった高橋英樹主演「ぶらり信兵衛道場破り」の信兵衛さんです!見比べもお楽しみのひとつに。

掲載2008年06月06日

『山田風太郎 からくり事件帖−警視庁草紙より−』
ざんぎり頭?の田辺誠一が悩める元同心に。
森鴎外、樋口一葉、明治期の有名人も登場。

(やまだふうたろう からくりじけんちょう けいしちょうぞうしより) 2001年

掲載2008年06月06日

ときは明治初期。維新によって新政府が誕生したものの、あまりに早い西洋化と仕事を失った士族たちによる反乱も相次ぎ、まだまだ世の中が混沌としていた。そんな世の中を少しでもよくしたいと願うひとりの老人・隅のご隠居こと、駒井相模守信興(小林桂樹、第五話より佐野浅夫)。かつて町奉行として江戸の治安を担ったご隠居は、権力を使い、厳しく人々をおさえつける大警視・川路利良(近藤正臣)らに一泡ふかせようと、元同心の千羽兵四郎(田辺誠一)らに、奇想天外な作戦を提案、川路らをぎゃふんといわせる。
 第一話に坂本龍馬の妻おりょうと高杉晋作の恋人おうのが登場。ほかにも第六話には三歳の樋口一葉、第七話には14歳、医学生だった森鴎外も出てきて、時代らしさを伝える。さらに画面には、牛鍋屋やガス灯、人力車、のぞきからくりなど当時の風俗を再現。兵四郎のざんぎり頭(ちょっと天然パーマ?)、油絵や眼鏡、オルゴールなど小道具類にも心配りが行き届いている。
 田辺誠一は、芸者小蝶(原田知世)に世話になりっぱなしのフリーター。着流し姿で新聞記者を名乗るなど、怪しまれることもしばしばだが、時代に翻弄される若者のモラトリアムな雰囲気を出している。すりの名人坊屋一郎の渋い存在感も素晴らしい。講談師神田陽子による名調子ナレーションも心地いい。

掲載2008年05月30日

『柳生十兵衛あばれ旅』
JJサニー千葉、十八番の十兵衛が大暴れ!
志穂美悦子、真田広之など充実の顔ぶれ。

(やぎゅうじゅうべいあばれたび) 1982年

掲載2008年05月30日

天下の柳生家に生まれながら、一風変わった・十兵衛(千葉真一、現・JJサニー千葉)が旅に出た。実は、街道整備のために三代将軍家光(森次晃嗣)の命を受け、公儀巡検使となった柳生茜(志穂美悦子)一行を密かに警護するのが目的だった。茜は「柳生縫之介」として任務に就くが、一行を薩摩藩ら外様の反徳川勢力がつけ狙う。そこには、謎の白髪の老人“権兵衛爺さん”が関わるのだが…。男性ファンを意識してか、タイトルは「やわ肌は殺しのワナ」といったセクシー路線も目立つ。ちなみにその回は、いきなりの入浴シーンで肩口に傷のあるあやしげな美女が登場。ハードタッチのアクションと、杖の先から火炎を放射する祈祷師(藤木敬士)など予想外の必殺技を持つ敵のキャラクターも濃厚だ。
 千葉は十八番の「十兵衛」をいきいきと演じている。また、志穂美悦子は、得意の男装できりりとした雰囲気を出し、主題歌「明日よ、風に舞え」も熱唱する。特撮シリーズでも活躍した黒崎輝らJACのメンバー、真田広之、長門勇、山村聰、樹木希林ら「影の軍団」でおなじみの顔ぶれも揃い、キャストは充実。ユニークなのは、十兵衛が潜り込む「夢之一座」太夫の宮崎美子。いつもみんなに置いてきぼりにされ、「どこに行ったのよ!!」と激怒。近年、クイズ女王としてブレイクしている才女美子のお茶目な芝居にも注目。

掲載2007年11月15日

『よろずや平四郎活人剣』めざせ自立!旗本の四男・平四郎の奮闘
映画スター佐田啓二テレビ初出演も話題に。

(よろずやへいしろうかつじんけん) 2007年

掲載2007年11月15日

世間知らずで楽天家の旗本の四男坊・神名平四郎(中村俊介)は、自立を目指して仲間と道場を開こうと決意。ところが仲間のひとりで調子のいい明石(益岡徹)に資金を持ち逃げされてしまう。困った平四郎は仕方なく長屋で「よろずもめごと仲裁」を商売にして、剣の腕と達者な口でやっかいなもめごとに体当たりしていく。一方、目付の兄(内藤剛志)からは、幕府の重大事を密かに探索するよう命令が。かつて別れた恋人早苗(北川弘美)は、高利貸しであやしい人物の嫁になり、それも気になる。町の事件と幕府の一大事、男の友情や純粋な恋心まで。悩みつつ成長する平四郎のさわやかな姿が印象的なシリーズだ。
 私は「時代劇は七年ぶりだった」という主演の中村俊介ご本人にインタビューした際、「京都には音楽やゲームを持ち込まず、作品に集中した」「前向きで楽天家なところは自分に似ている」「人も物の一度好きになるとずっと大切にしたい方なので、昔の許婚を思い続ける気持ちはよくわかる」などと話を聞いた。現場では、道場開きを志す仲間の、益岡・山田純大が兄貴的存在で主役を盛りたて、いい雰囲気だったという。
 なお、平四郎を付け狙う刺客は、東映で40年斬られ役として活躍を続ける福本清三。人を活かす剣を遣う平四郎とどう決着をつけるか。迫力の対決シーンは見逃せない。

掲載2007年09月06日

『闇を斬れ』三国連太郎&原田大二郎の悪役親子と対決!天知茂の十八番「顔ベリベリ」シーンも。

(やみをきれ) 1981年

掲載2007年09月06日

徳川十代将軍家治の治世。政治の実権を握っていたのは、老中・田沼意次(三国連太郎)だった。ワイロ政治が横行し、さらに意次の息子・意知(原田大二郎)が若年寄になって、権力を欲しいままにする。彼らの悪政を阻止するため、奥州白河藩主・松平定信(沖雅也)の公用人・兼子八郎衛門(尾上松緑)は、密かに三人の男女と一匹の犬を招集する。
 田沼一派と対決することになったのは、長屋に住む剣の達人・鳥飼新次郎(天知茂)、火薬と仕込み槍を遣う按摩の安斉(山城新伍)、忍び込みなどを担当する金魚売りのテツ(三浦浩一)、表の顔は小唄の師匠だが、武田流の女忍者・渚(坂口良子)、そして隠密犬・火山だった。悪の証拠をつかむため、潜入、変装なんでもアリの四人と一匹。天井から毒薬をたらしたり、悪人の口に爆薬を入れた爆発させるなど朝飯前。「死んだはずの殿が生き返った」と驚く悪人たちを精巧に作った「ニセ顔」をベリベリとはがして、「今の世の中、真っ暗闇」と啖呵を切ることも。これこそ、天知茂の「明智小五郎」の得意技!
 夜10時台に放送されただけに、タイトルも「女体に響くオルゴール」など、アダルトムード。お色気シーンを山城新伍が担当するのは珍しくないが、原田大二郎が女好きの悪役というのは珍しい。純粋日本犬で天然記念物の甲斐犬・火山の活躍にも注目。

掲載2007年06月28日

『闇を斬る!大江戸犯科帳』大目付・里見浩太朗が闇奉行に!堅物町奉行・西郷輝彦はどう出る!?

(やみをきる!おおえどはんかちょう) 1993年

掲載2007年06月28日

幕末に近い文化・文政の時代。江戸には世の腐敗を見逃せないふたりの男がいた。
 ひとりは大目付・一色由良之助(里見浩太朗)。あとひとりは着た町奉行・小笠原能登守(西郷輝彦)である。三千石の旗本ながら庶民的で市井のものとも親しくつきあう由良之助に対して、法の遵守第一の堅物人間小笠原。キャラクターの違いは、当然、悪と戦う術も大きく違う。部下に指示を出し、きっちり捜査を心がける小笠原の横で、なんと、由良之助は自ら「闇奉行」となって、法では裁けぬ悪を成敗してしまうのである!
 闇奉行の活動を表立っては認められないものの、内心は命がけの単独活動を見守っている小笠原。一方、由良之助は、ふだんは年下の愛妻きよ(田中好子)とにこにこ暮らし、夜は華麗な闇奉行に。この対照的なふたりの姿が面白い。火野正平、今福将雄ら達者な共演者が脇を固めるのもうれしい。
 もちろん、このふたりは「江戸を斬る」シリーズでともに主役を務めたキャリアの持ち主。二大スターの共演が実現した作品だ。私は最近、西郷輝彦ご本人にインタビューする機会があった。こどものころからチャンバラと音楽が大好きで、「江戸を斬る」で時代劇の基本を徹底的に身に着けられたのは、後の俳優活動の大きな宝だったとか。
 何気なく鼻歌で「江戸を斬る」のテーマを口ずさんでいただいて、一同感激!であった。

掲載2006年09月22日

『夢と承知で 鼠小僧大江戸青春絵図』正義の大泥棒風間杜夫VS凶賊萩原流行!マシンガン?極秘テロ活動?江戸の大事件

(ゆめとしょうちで) 1988

掲載2006年09月22日

悪いやつには一泡吹かせることで庶民に大人気の大泥棒・鼠小僧次郎吉(風間杜夫)は、あるとき、派手な着流しの若者と知り合う。彼は後に名奉行と慕われる遠山金四郎(松村雄基)だった。そんなとき、上方を荒らしまわった凶悪な盗賊団・葵小僧一味が江戸に潜入。盗人だった父を処刑されたことで徳川幕府に恨みを抱く葵小僧は、恐ろしいテロ計画をたてているのだった。
 屋根の上に大の字になり、「さっそくのお控えありがとうござんす」「今宵もチューと鳴いてみるかい」などと面白すぎるひとりごとをつぶやく鼠小僧。風間杜夫は近年、落語の高座でも活躍するだけに、そのセリフの調子は抜群。その彼を助けるために集合したのが、葵小僧を追って江戸にやってきた大塩平八郎(村田雄浩)、売れない浮世絵師・安藤広重(森川正太)、頼りないが人柄のいい渡辺華山(木場勝巳)ら。不気味なスマイルを浮かべるキザな葵小僧(萩原流行)もはまり役。それにしても、盗みを働くためにマシンガンや、手まり爆弾を使うって、ちょっと派手すぎ。葵小僧の頭の中にはさらに凶悪な計画が…。
 ブラック鼠VSパープル葵の死闘。そこまでして江戸の人々を守ろうとした鼠小僧だが、意外な結末が。物事をシビアに見つめる原作者笹沢佐保の魂が「夢と承知で」という言葉に秘められている。

掲載2006年08月10日

『夜桜お染』若村麻由美渾身の十七変化と立ち回り!片岡愛之助のアクションにも注目。

(よざくらおそめ) 2003〜2004年

掲載2006年08月10日

両国で踊りの師匠をしているお染(若村麻由美)は、美貌と度胸と芸を兼ね備えたいい女。六歳のときに、火事で両親を失い、兄とも生き別れになった過去を持つ。元江戸大神楽の芸人だったお染は、「夜桜お染」と呼ばれ、菊川座の看板で、今も一座とは親しい。あるとき、謎の一団に誘拐されたお染は、吉川帯刀(古谷一行)という謎めいた男から、自分の父親が吉川配下の隠密だったと知らされる。父を殺した下手人を探し、兄の行方を知りたいお染は、帯刀に協力することを決意する。
 お染は潜入捜査のため、武家妻女から、女壷振り、花魁など計十七変化を披露。どれもピタリと決めて見せるのは、さすがといえる。しかも、毎回、立ち回りがあり、得物も刀から手ぬぐいまで多種多様。さらにエンディングでは得意の日本舞踊、芸人としての芸まで見せ、大車輪の活躍ぶり。なお、芸は本当に特訓して、番組の制作発表記者会見でも披露し、拍手喝采を浴びたのである。
 もうひとつ、注目したいのが、盗賊?のようにしばしば現れる謎の男・片岡愛之助。熱狂的なファンを持つ彼が、黒装束で江戸の夜を飛び回る。ご本人にインタビューした際、屋根の上を走るのも、トンボを切るのも、自らの演技だと聞いて、驚いてしまった。映画「シベリア超特急」など味のある活躍を見せる愛之助のアクションにも注目したい。

掲載2005年03月24日

「雪之丞変化」いまや美の伝道師・美輪明宏主演!五社英雄の妖艶にして華麗な復讐劇を。

(ゆきのじょうへんげ) 1970年

掲載2005年03月24日

肥前長崎の豪商・松浦屋清左衛門は、二十年前、当時の長崎奉行(金田龍之介)の陰謀で、無実の罪に陥れられ、一家全員が死罪となっていた。一族で唯一生き残ったのが、清左衛門の隠し子であった雪太郎(美輪明宏)。生前、清左衛門が愛した芸妓の息子である彼は、非常な美貌の持ち主で、歌舞伎役者・中村菊之丞(市川小太夫)のもとで、女形・中村雪之丞として人気を得ていた。
 いつか父の仇を討とうと決心の固い雪之丞は、やがて、敵が娘の浪路(珠めぐみ)を大奥に参内させ、さらに大きな権力を得ようとたくらんでいることを知る。浪路と雪之丞、さらに彼を助ける義賊・闇太郎、そして大きな敵。華麗な舞台と闇にうごめく悪がしだいに絡み合っていく…。
 映画では長谷川一夫の代表作しても知られる「雪之丞変化」のテレビシリーズ。妖艶な女形とキリリとした義賊・闇太郎を二役で演じられる俳優といえば、もう、美輪明宏しかいません!現在は美の伝道師として、人生相談でも大人気の美輪雪之丞(70年当時)は、かなり妖しさが光る存在。ただし、独特の啖呵は、一度聞いたら耳に残るはず。
 柴英三郎、大野靖子ら名脚本家と、常に新しい映像にこだわる五社英雄の演出。美輪二役など奇想天外な設定も、彼らにかかると、無理がなくなってしまうから、さすがだ…。

掲載2004年09月24日

「雪之丞変化」美輪明宏の妖しい美が花開く。五社英雄、深作欣二ら個性派監督の腕が冴える娯楽作。

(ゆきのじょうへんげ) 1970年

掲載2004年09月24日

近頃うわさの人気役者・中村雪之丞(美輪明宏=当時丸山明宏)には、秘密があった。
 その生家、長崎の豪商・松浦屋清佐衛門は20年前に、当時の長崎奉行・土部繁右衛門(金田龍之介)の陰謀で、一族皆殺しの刑になっていたのだ。たったひとり生き残ったのは、清佐衛門と芸妓の間に生まれた雪太郎。隠し子だった雪太郎は、歌舞伎役者となって父の仇を討つ機会を狙う。
 映画では長谷川一夫ら二枚目スターが演じて評判になった名作を、五社英雄が自ら企画。女形が主役ということで、テレビの連続ドラマではなかなか成立しなかった作品だけに、まさに美輪明宏の存在が、可能にした番組といえる。美輪明宏は艶やかな女形はもとより、男姿でも妖しい美しさを放つ。主題歌が「紫小唄」というのも、歌いこなせるのは、この人だけって感じである。
 また、雪之丞の存在感を際立たせた監督たちは、五社はじめ、深作欣二、松野宏軌、森川時久、宇留田俊夫ら個性派ばかり。脚本も柴英三郎、大野靖子と手練が揃った。
 仇の土部繁右衛門は、金田龍之介。この後、「子連れ狼」などで奇怪な毒薬使いなど恐ろしい悪役ぶりを見せるが、この番組でもかなりのもの。娘・浪路(珠めぐみ)を大奥に送り込んで、権力を握ろうなどと企む悪隠居ぶりを見せているのがいい。

ペリー荻野プロフィール
ペリー荻野

1962年愛知県生まれ。大学在学中よりラジオのパーソナリティ兼原稿書きを始める。 「週刊ポスト」「月刊サーカス」「中日新聞」「時事通信」などでテレビコラム、「ナンクロ」「時代劇マガジン」では時代劇コラムを連載中。さらに史上初の時代劇主題歌CD「ちょんまげ天国」シリーズ全三作(ソニーミュージックダイレクト)をプロデュース。時代劇ブームの仕掛け人となる。

映像のほか、舞台の時代劇も毎月チェック。時代劇を愛する女子で結成した「チョンマゲ愛好女子部」の活動を展開しつつ、劇評・書評もてがける。中身は"ペリーテイスト"を効かせた、笑える内容。ほかに、著書「チョンマゲ天国」(ベネッセ)、「コモチのキモチ」(ベネッセ)、「みんなのテレビ時代劇」(共著・アスペクト)。「ペリーが来りてほら貝を吹く」(朝日ソノラマ)。ちょんまげ八百八町」(玄光社MOOK)「ナゴヤ帝国の逆襲」(洋泉社)「チョンマゲ江戸むらさ記」(辰己出版)当チャンネルのインタビュアーとしても活躍中。