ペリーのちょんまげ ペリーのちょんまげ

掲載2011年04月08日

『編笠十兵衛』
隠密高橋英樹の目から見た「忠臣蔵」
池波正太郎の人気作を名監督陣が演出

(あみがさじゅうべえ) 1974年

掲載2011年04月08日

編笠十兵衛こと月森十兵衛(高橋英樹)は、父子二代に渡って、将軍家より密命を受ける家系。父は柳生十兵衛の庶子として母方の姓を名乗った。十六歳で祖父の名前を受け継いだ月森十兵衛は、剣の腕は天才的。浪人として愛妻と暮らすが、葵のご紋の入った公儀御用の手形を所持する隠密であった。その十兵衛を手足のごとく動かして世情を探索させるのが、中根平十郎(片岡千恵蔵)。彼らはやがて、浅野内匠頭の松の廊下の刃傷事件から、家臣四十七士の仇討ちを密かに見守ることになる。
 高橋英樹×千恵蔵、さらに十兵衛と交流する奥田孫太夫に大友柳太朗と聞いただけで、「役者は揃った!!」という感じだが、目が離せないのが、伊藤雄之助の吉良上野介。好色にして貪欲な上野介で、憎いはずなのに、どこか愛嬌すら感じられるのは、この人ならではの味といえる。十兵衛と宿命的な対決をする舟津弥九郎(成田三樹夫)の不気味さや、気風のいい女賊お俊(葉山葉子)、上杉家を守るために命をかける小林平八郎(露口茂)の人物描写の面白さは、さすが池波正太郎原作作品。さらに、演出陣がまたすごい。田中徳三、松尾正武、池広一夫、三隅研次など、時代劇を知り尽くした面々。市川雷蔵の「眠狂四郎」などで腕をふるった監督たちだけに、十兵衛の剣は華麗に決まる。

掲載2011年04月01日

『鬼平外伝 夜兎の角右衛門』
中村梅雀、石橋蓮司、平泉成らの熱演で
「鬼平」の原点、盗賊の生き様の描く

(おにへいがいでん ようさぎのかくえもん) 2011年

掲載2011年04月01日

盗賊・夜兎の角右衛門(中村梅雀)は、父角五郎(中村敦夫)の跡目を継ぎ、頭となった。夜兎の一党は「盗まれて難儀をするものへは手を出すまじきこと」「つとめをする時、人を殺傷せぬこと」「女を手ごめにせぬこと」の三か条を堅く守っていた。しかし、偶然知り合った女おこう(荻野目慶子)が、自分のした盗みのせいで、右腕を失ったと知った角右衛門は、家族も仲間も捨てて、自ら火付盗賊改方に名乗り出る。そこから、彼の運命は思わぬ方向に動き出す。作家・池波正太郎が「鬼平犯科帳」を書く前に手がけた盗賊たちの物語「にっぽん怪盗伝」の中の「白波看板」をベースにした作品。盗賊の「看板」の意味から、人間にとって何が一番大切かというところまで踏み込む深い味わいがある。
「京都の現場は気持ちいい」と語る梅雀演じる角右衛門が、先代からの仲間・捨蔵(石橋蓮司)と別れる場面などは、鬼気迫る迫力。火盗の一員である平泉成、盗人くちなわの平十郎の本田博太郎など、京都時代劇を知り尽くした面々の熱演にも注目。一方で、不幸な目に遭いながら心に清らかなところを持ち続けたおこうは、荻野目慶子しか出せない雰囲気。私はおこうが角右衛門とうなぎを食べるシーンに立ち会ったが、休み時間もおこうになりきる彼女の集中力には脱帽。寒い中の撮影でも、現場は熱気にあふれていた。

掲載2011年02月25日

『おろしや国酔夢譚』
「ここは地獄」から日本を目指した漂流民
女帝エカテリーナに謁見した日本人の真実

(おろしやこくすいむたん) 1992年

掲載2011年02月25日

1782年、大黒屋光太夫(緒形拳)ら17名は嵐で難破し、伊勢白子から、9ヵ月漂流後、はるか北の果てカムチャッカに漂着。原住民や毛皮を獲りにきたロシア人に拉致された一行は、言葉を覚えながら、脱出の方法を探るが、極寒の環境で張るまで生き残れたのはわずか6人。便乗してオホーツクに行くはずの船も難破。光太夫らは、流木などで二年掛かりで船を手作りし、オホーツクにたどり着く。しかし、ここでも日本へ帰る許可を与えるイルクーツクの総督は一年以上先にしか来ないといわれる。今度はイルクーツクを目指し、犬ぞりを出す一行。ついに女帝エカテリーナに直訴までして帰国を望む彼らを待ち受けていたのは、さらに過酷な運命。なんてこと!
原作は史実を基にした井上靖の同名小説。凍りつく雪原を出発する際、光太夫は言う。「これからは人に頼るな。頼られた者が危ない」つまり、脱落したら助け合ってはいけないということだった。途中、そりから落ちた庄蔵(西田敏行)は「ここは地獄だ…」。庄蔵は凍傷がもとで片足を斬りおとす。
どんな環境にいても「親方」と光太夫を中心に結束する面々の心意気がいい。若き船員沖田浩之の熱演もみどころ。光太夫の心を知り、助けを出す自然学者のラックスマンの友情にもぐっとくる。「望郷」とはどんな心なのか。しみじみとする歴史ロマン。

掲載2011年02月18日

『悪役列伝』
悪徳商人に悪代官!この貫禄はマネできない。
時代劇のもうひとのり主役「悪役」大集合

(あくやくれつでん) 

掲載2011年02月18日

『悪役列伝』この企画に「待ってました!」と声をかけた方も多いのでは?
憎々しげな存在感、主役を食うほどの貫禄。でかい悪役がいなければ、時代劇は面白くない。その大物悪役大集合企画の幕開けを飾るのが、川合伸旺(1932~2006)。「暴れん坊将軍」など数多くの作品で活躍した本格派。ファンの間では「ミスター悪代官」とも呼ばれるほど。「悪代官」フィギュアのモデルにもなったといわれる。アクションも厭わず挑戦する人で、萬屋錦之介の「子連れ狼」では、太い杖に鎖を仕込んだ「振杖」で拝一刀に襲い掛かり、名場面のひとつになっている。
今回放送される「大江戸捜査網」の左文字右京役の松方弘樹とは、しばしば共演しているが、放送された81年当時は川合伸旺がちょうど50代にさしかかる頃で、心身ともに円熟期にさしかかった時代。番組は、岡江久美子、南条弘二、大山勝巳が新レギュラーになった時期にあたる。
ペリーがもっとも多く取材した悪役さんのひとりで、素顔はとても優しい紳士。童画を描くのが得意で個展も開く腕前であった。同郷(愛知県豊橋市)の松平健公演の常連で、フィナーレのマツケンサンバでは、きらりと光る浴衣姿でにこにこと登場した姿が忘れられない。やってみたい役はの質問に「引退した雲霧仁左門」と答えておられたのも印象的。

掲載2010年12月03日

『運命峠』
徳川家康の子でありながら孤高に生きる男
田村正和にしかできないクールな存在感。

(うんめいとうげ) 1974年

掲載2010年12月03日

徳川家康の子として生まれながら、孤高に生きる運命を背負った秋月六郎太(田村正和)。
天草で静かに暮らしていた彼には、やがて激しい戦いの日々が待ち受けていた。
原作は「眠狂四郎」で知られる柴田錬三郎。作者は、田村版の眠狂四郎がお気に入りで、この作品も応援していたという。
派手な着流しにクールな表情。田村正和がもっとも得意とするキャラクターの六郎太は、当然のごとく、美女と次々関わることになる。炎の中で崩れ去った大坂城の主・豊臣秀頼の寵愛を受け、子を産んだ桂宮蓮子、家康のために毒殺された織田信次の娘・漢家千草など、ワケありセレブ女性ばかりなのも彼らしさ。
「百万両の遺産」の回では、落城した大坂城に莫大な軍用金があったとのうわさから、あやしげな人間たちが動き出す。金のありかを示した絵図面があるのか。六郎太は、「比丘尼屋敷」と呼ばれる邸宅にひっそりと暮らす妖艶な女(磯村みどり)の存在に注目。「そなたは粗暴な男じゃの」と言いながら、六郎太に迫る女。このままからめとられるのか…。
一方、彼に手料理などを届ける可憐な娘・月江(岡田可愛)。しかし、彼の父は、軍用金を狙う者たちに殺されてしまった。
「戦というものが人を狂わした」
世の無情を知り尽くした六郎太の生き方は、現代にも響くものがある。

掲載2010年11月19日

『大奥スペシャル もうひとつの物語』
記録から消し去られた悲しい事件。
深田恭子・貫地谷しほりが“女の牢獄”に!

(おおおくすぺしゃる もうひとつのものがたり) 2006年

掲載2010年11月19日

六代将軍家宣のころ。大奥に武家娘ゆき(深田恭子)が奉公にあがる。貧しさから、思いを寄せる男のことをあきらめて、ここへ来たのだった。右も左もわからないゆきは、ドジをしては周囲を呆れさせるが、総取締りの滝川(浅野ゆう子)から、「おまん」という名前を与えられ、心を許せる友人おしの(貫地谷しほり)や奥の女たちの雑用を引き受ける「ごさい」の伸吉(吉沢悠)らと、厳しいながらも楽しい日々を送っていた。
そんな折、大奥では毒騒ぎが。その騒動で走り回ったおしのは、偶然にも上様と遭遇。気に入られたおしのは、そのまま側室となることに。異例の出世を喜ぶはずが、おしのは悲しげ。心配するおまんは、大奥で将軍暗殺計画があることを知る。
恋しい男のために命を投げ出す女。深田恭子は、可愛いながらもしたたかに生きていく女の子を好演。貫地谷しほりは、心に秘めた思いをほんわかと表現して、こちらも可愛い。
悲しみを経験しながら、成長していくおまん。「大奥」は女の牢獄であると同時に、女の成長の場でもあることを思い出させる。
今回は、毒殺騒ぎもあって、大奥の名物ガールズ、葛岡(鷲尾真知子)、吉野(山口香緒里)、浦尾(久保田磨希)が大活躍。「美味でございますぅ~」と言いながら、浦尾は毒は大丈夫なのか? このあたりもお楽しみに。

掲載2010年10月29日

『大奥スペシャル〜幕末の女たち〜』
毒!毒!毒!陰謀と女たちの悲しい過去
瀧山・浅野ゆう子にあるのは悪意か善意か!?

(おおおくすぺしゃる〜ばくまつのおんなたち〜) 2004年

掲載2010年10月29日

外国からの圧力で、世情に不穏な空気が漂う中、江戸城では、将軍徳川家定(北村一輝)と薩摩出身の篤子(菅野美穂)の婚礼が執り行われた。家定にとっては、これが三度目の婚礼。過去の二人の正室は早く亡くなり、世継ぎはいない。ところが、篤子は、家定との寝所に刀を持ち込み、大騒動に。大奥総取締の瀧山(浅野ゆう子)の指示で、篤子の道具は洗いざらいチェックされ、篤子と瀧山の対立は激化する。女たちの戦いの外で、奇抜な言動を繰り返す家定は、自らカステーリャを作って家臣にふるまうのが、唯一の楽しみ。家臣には嫌がられてはいたが、毒見役の松之介(金子貴俊)とだけは気が合い、ふたりはしばしばカステーリァを作る。しかし、その手作りのカステーリァを食べた次期将軍候補・紀州徳川家の徳川慶福が苦しみだし、毒が入っていたことが発覚。松之介は自害して果てる。
次々発覚する毒殺の陰謀!! 罪人の子であった若き瀧山の苦しい過去、「大儀のためとは人が死ぬのは嫌じゃ」と泣く将軍家定の深い孤独、将軍暗殺をささやかれた篤子の決心など、さまざまな事情が明らかになるスペシャル版。「たとえ絹をまとっていても、腹の中は真っ黒な泥だらけ」など、瀧山の名言も多数飛び出すので要チェック。慶福の母役で野際陽子が出演。少年の慶福の母として、若々しくもすごい貫禄を見せる。

掲載2010年10月22日

『鬼平犯科帳スペシャル 一本眉』
宇津井健が、筋の通った盗賊「一本眉」に
大路恵美の女盗賊も見逃せない。彦十も復活

(おにへいはんかちょうすぺしゃる いっぽんまゆ) 2007年

掲載2010年10月22日

江戸で急ぎ働きの兇悪な盗賊が暗躍。錠前がきれいに切断されており、その手口から、火盗改め方は捜査をするが、なかなか手がかりがつかめない。そんな折、同心木村忠吾(尾美としのり)は、料理屋で眉毛のつながった男と親しくなり、密かに「一本眉」と呼んでいた。その男こそ、清洲の甚五郎(宇津井健)という盗賊の首領。甚五郎は、密偵と知らず、おまさ(梶芽衣子)に「一世一代の仕事をする。手伝ってくれ」と頼む。甚五郎には、倉淵の佐喜蔵(遠藤憲一)という手下がいたが、分裂。急ぎ働きは、佐喜蔵の仕業だった。二組の盗賊の対立は、悲劇を呼ぶ。
鬼平を演じる中村吉右衛門と宇津井健は、実に38年ぶりの共演。宇津井は「50年間役者をやってきてアウトロー役は初めて。わくわくしている」と感想を述べている。往年の名ドラマ「ガードマン」のキャップ時代と同じく、ここでも名リーダーとして若い者を引っ張っている。また、「剣客商売」で女剣士・佐々木三冬を演じた大路恵美が、筋を通す女盗賊として登場。池波時代劇ファンとしては、うれしいところ。最近はNHKの朝ドラマなどで「いいお父さん」にもなる遠藤憲一は、やっぱり凶賊がうまい! 
江戸家猫八さん亡き後、六年間空席だった「彦十」の役をこの回から、長門裕之が継承。軽妙な味を出している。

掲載2010年09月24日

『鬼平犯科帳スペシャル 高萩の捨五郎』
鬼平VS兇悪盗賊・妙義の團右衛門!
捨五郎と粂八ら密偵の男気が光る。

(おにへいはんかちょうすぺしゃる たかはぎのすてごろう) 2010年

掲載2010年09月24日

平成22年に放送された円熟味あふれる「鬼平」長編。
盗賊が狙う店の人数・見取り図などを性格に調べて情報を売り渡す「嘗め役」の高萩の捨五郎(塩見三省)は、妙義の團右衛門(津川雅彦)から深く信頼をされていた。その捨五郎が、こどもを助けようと侍の集団に立ち向かい、足に大怪我を負う。偶然、彼を助けたのが火盗改めの平蔵だと粂八(蟹江敬三)から、聞かされた捨五郎は、密偵になる決意をする。
三年後、江戸では悪事を働いていなかった團右衛門が、捨五郎と偶然出会い、「鬼平に一泡吹かせたい」と言い出す。そのため、平蔵の役宅にも仕掛けをしてあるという。
津川が、女好きの凶賊を妖しげに演じる。中村吉右衛門との共演は、69年の山本周五郎原作の「ながい坂」以来、実に41年ぶり!
吉右衛門は「今回はご兄弟そろってご出演いただいて(津川の兄・長門裕之は彦十役で出演)充実したキャスティング」と共演を喜び、津川も「今回は平蔵に一泡ふかせようとする大泥棒ですから、一泡吹かせるだけのたくらみを持った男にならなければならない。なおかつやられるときは見事にやられないといけない。難しい役」と意気込みを語っている。
自分の愛人や仲間までも見捨てて、凶行をたくらむ團右衛門を鬼平がどう追い詰めるか。密偵たちの絆も見所のひとつ。

掲載2010年09月17日

『右門捕物帖(TV長編)』
杉良太郎の右門と坂上二郎の伝六の名コンビ
瓦版屋の林家木久扇、妖艶夏木マリも見物

(うもんとりものちょう) 1989年

掲載2010年09月17日

「右門捕物帖」といえば、推理力抜群だが、無口な“むっつり右門”が活躍する佐々木味津三の人気大衆小説。戦前戦後を通じて、三十数本が映画化されているが、70年代以降、この「右門」役を当たり役のひとつにしているのが、杉良太郎。人情家で、時には周囲が止めるのも聞かずに、巨悪に斬りこんでいく姿は、杉のほかの主演作と共通している。一方で、どこか愛嬌も残し、相棒のおしゃべり伝六のおしゃべりにうんざりしたり、きゃーきゃー騒ぐ女子から逃げ出したりと、独自のキャラクターを作っているのも面白い。
今回の始まりは、正月の流鏑馬。大勢の見物客がいる中で、弓矢による殺人事件が発生。たまたま居合わせた伝六(坂上二郎)は、あやしげな若い侍と格闘になるが、逃げられる。そこに落ちていた印籠を手がかりに探索を始めた右門は、殺された男の家に父の帰りを待ちわびるお妙と勇吉姉弟の存在を知る。
南町奉行・神尾元勝(田村高廣)から聞いた話から、右門は事件には長崎での陰謀がからんでいると推理する。「おめえさんにはかなわねえな」べらんめえな田村お奉行はカッコいい。
瓦版屋でお茶目さを見せる林家木久扇と、あばたいっぱいメイクで笑わせる右門のライバルあばたの敬四郎役の長門勇、妖艶な夏木マリも見物。しじみ売りの勇吉から、山盛りしじみを買った右門の困惑顔もいい。

ペリー荻野プロフィール
ペリー荻野

1962年愛知県生まれ。大学在学中よりラジオのパーソナリティ兼原稿書きを始める。 「週刊ポスト」「月刊サーカス」「中日新聞」「時事通信」などでテレビコラム、「ナンクロ」「時代劇マガジン」では時代劇コラムを連載中。さらに史上初の時代劇主題歌CD「ちょんまげ天国」シリーズ全三作(ソニーミュージックダイレクト)をプロデュース。時代劇ブームの仕掛け人となる。

映像のほか、舞台の時代劇も毎月チェック。時代劇を愛する女子で結成した「チョンマゲ愛好女子部」の活動を展開しつつ、劇評・書評もてがける。中身は"ペリーテイスト"を効かせた、笑える内容。ほかに、著書「チョンマゲ天国」(ベネッセ)、「コモチのキモチ」(ベネッセ)、「みんなのテレビ時代劇」(共著・アスペクト)。「ペリーが来りてほら貝を吹く」(朝日ソノラマ)。ちょんまげ八百八町」(玄光社MOOK)「ナゴヤ帝国の逆襲」(洋泉社)「チョンマゲ江戸むらさ記」(辰己出版)当チャンネルのインタビュアーとしても活躍中。