ペリーのちょんまげ ペリーのちょんまげ

掲載2008年08月29日

『女次郎長ワクワク道中』
時代劇に二丁拳銃のガンマン登場!?
笠置シヅ子が、歌って笑わせる痛快劇

(おんなじろちょうわくわくどうちゅう) 1951年

掲載2008年08月29日

大阪一の侠客・布袋の仙右ェ門のひとり娘おしづ(笠置シヅ子)は、船場の大商人阿波屋の次男勝次郎(キドシン)と見合いすることに。しかし、気に入らないおしづは、そこから逃げ出して、大騒動。勝次郎も江戸へと旅に出てしまう。ふたりは、偶然、同じ船に乗り合わせるが、お互いが誰かは気がつかない。船でのど自慢が始まると、おしづは早速歌いだす。夜道でやくざの三次(伴淳三郎)に脅されると、逆に脅し返し、賭場に案内させて大勝負に出るおしづ。勝ちまくって、女次郎長とおだてられるが、そこに本物の次郎長と、なぜかカウボーイハットに二丁拳銃の白人ガンマンが現れて?
 笠置シヅ子が暴れん坊のお嬢様に。愛嬌たっぷりに得意のブギを歌ったかと思えば、宿屋ではどんぶり飯をペロリ。「わてはこれでも次郎長のめいで!」とすごんでみせる。賭場がルーレットで、「おっさん、景気よう回してや!」とコメディエンヌとしてはノリノリの時期だということがよくわかる。
 二丁拳銃の俳優は、当時ハリウッドで人気者だったケニー・ダンカン。投げ縄も披露して、「ヨウ言ワンワ」とオチまでつける大活躍。
本物の次郎長が、おしづに人としての生き方を悟らせる場面も見物のひとつ。
 笑って泣いて、楽しんで。カラッと楽しめる痛快編。

掲載2008年08月08日

『あばれ医者嵐山』
時代劇界で「あばれ」といえば西郷輝彦!
愛妻家にして悪には鬼になる名医を熱演

(あばれいしゃ らんざん) 1995年

掲載2008年08月08日

西郷輝彦の時代劇作品といえば、「江戸を斬る」の遠山金四郎を思い浮かべるファンも多いはず。が、「あばれ八州御用旅」(9月放送予定)と本作「あばれ医者嵐山」の「あばれ」シリーズもまた、代表作のひとつといえる。
 林嵐山(西郷)は、将軍家御典医という名家の生まれにして、長崎でシーボルトの鳴滝塾で修行したという超エリート。しかし、自ら弟に家督を譲り、町医者の林家に養子に入って、愛妻・美沙(渡部梓)とともに小さな診療所で町の人々の治療に当る。医師ながら、剣の腕もある嵐山だが、人の命を救うのが仕事と、刀は、元盗賊の覚兵衛(長門勇)とお駒(佳那晃子)に預けている。しかし、飯屋を営む覚兵衛が聞きつけるうわさや、駆け込み寺の庵主月光院(野川由美子)の話から、許せぬ悪を断つために、剣をとる。
 西郷輝彦ご本人にインタビューした際、こども時代は、チャンバラごっこに夢中で、時代劇に出演することは、とてもうれしかったという。長門勇といえば西郷も出演した「影の軍団」にも出演。時代劇のベテランとしていい味を出す。でも「江戸を斬る」では、愛妻おゆき(松坂慶子)が紫頭巾に扮してともに戦ったが、今回、妻にはかなり気を使っている様子。そんな嵐山の「入り婿」ぶりも面白い。主題歌「時に抱かれて」は、もちろん西郷輝彦本人の歌で、なかなかの名曲。

掲載2008年07月25日

『エノケン・笠置のお染久松』
二大スターと喜劇人たちの共演。
暴れん坊お染、わてほんまによい言わんわ!

(えのけん・かさぎのおそめひさまつ) 1949年

掲載2008年07月25日

おっちょこちょいの油屋の丁稚・久松(エノケン)は、トン吉(益田喜頓)、久助(山茶花究)、与七(坊屋三郎)ら先輩にしかられてばかり。ただひとりかばってくれるのは、店のお嬢さんお染(笠置シヅ子)だけだった。お嬢さんが好きな先輩たちは、ますます面白くなく、久松をいじめ、とうとう久松は、店を辞めることに。久松には、親の決めた許婚もいて、お染とは永遠の別れになりそうな展開だったが…。
 こどものころから歌が上手いと評判で、大阪松竹少女歌劇で活躍した笠置シヅ子は、後に歌手デビュー。1947年、服部良一が作曲した「東京ブギウギ」が大ヒット、続いて「ヘイヘイブギ」「ジャングルブギ」「買物ブギ」などをヒットさせ、“ブギの女王”と呼ばれた。敗戦直後の日本に明るさを振りまく彼女に喜劇の才能を見出したのは、エノケン本人で、コンビを組んだ映画は、おおいに人気を博すことになった。
 もちろん、映画には歌も満載。「お染久松」にも、「丁稚ブギ」「お染久松ルムバ」「お祭りブギ」など楽しい曲が揃う。芝居でおなじみのお染は、可憐なお嬢様だが、笠置お染は「お口がパクパク」とからかわれつつも、「うるさいな!はよせんと怒りまっせ!!」と、暴れまくり、ついに思いをかなえる。元気のよさと多くの喜劇人とのからみも見物のひとつ。

掲載2008年07月18日

『唄祭り 佐太郎三度笠』
高田浩吉“奇跡のカムバック”の記念作品
どんなピンチにも歌が飛び出す明るさがいい。

(うたまつりさたろうさんどがさ) 1957年

掲載2008年07月18日

伊豆の佐太郎(高田浩吉)は、村祭りの夜に地元の貸元と悶着を起こして、姿を消す。旅がらすを続けていた佐太郎だが、三島の宿で男装の女武芸者宇津木数馬(久保菜穂子)と関わりあいになり、謎の追っ手の存在を知る。実は彼女は井伊家ゆかりの者で、大切な密書を届ける役だったのだ。しかし、佐太郎のおっちょこちょいの道連れが、密書を宿の仲居に渡してしまい、さらに仲居は別の人の手に。佐太郎は、必死に後を追う。
 戦前から活躍しながら、一時劇団活動のために映画界を離れ、復帰のチャンスがなかなかなかった高田浩吉が、得意の歌で「伊豆の佐太郎」をヒットさせ、見事にスクリーンに戻ってきた。“奇跡のカムバック”といわれた記念すべき作品。
 関所では、♪太鼓はドンドンと歌って突破、旅芸人おつなと知り合えば、さっそく即興で舞台に上がって歌と踊りで追っ手の目をくらますなど、「そんなのアリ?」な場面も多いが、そこは「唄う映画スター第一号」の貫禄だ。
 芸熱心で、この作品の次に撮影された「天馬往来」(内出好吉監督)では、高い塀から飛び降りて骨折。三週間絶対安静といわれながら、数日後には「アップだけでも」と撮影所に出かけ、松葉杖で奮闘したという。映画に出る喜びを全身で表現しているような「唄祭り佐太郎三度笠」の爽快感を味わいたい。

掲載2008年06月27日

『大江戸出世双六』 
歌う映画スター高田浩吉の一心太助。 
とぼけた大久保彦左衛門の伴淳三郎が最高!

(おおえどしゅっせすごろく) 1955年

掲載2008年06月27日

腰元が家宝の皿の一枚を割り、お手討ちかと大騒ぎになったところに現れた奉公人の太助(高田浩吉)。「人間の命より皿が大事か」と、残りの皿も木っ端微塵にした太助は、つくづく武家奉公が嫌になり、長屋で魚屋を開業する。
一方、江戸城では、将軍家光(北上弥太郎)が、ため息をついていた。何をするにも人に管理される将軍生活よりも、気ままな暮らしに憧れる家光は「あの鳥のようにどこへでも飛んでいきたい」などとつぶやく、お坊ちゃんなのだった。そんな上様を見兼ねたのが、「天下のご意見番」大久保彦左衛門(伴淳三郎)。彦左は、「おこげの握り飯が食したい」という上様の願いをかなえるため、密かに仲間の太助の長屋に案内してきた。ゴボウを見て「これこれ、これはなんと申す」などという上様の登場で長屋は大騒ぎ。しかも、上様は長屋の娘おちかちゃん(水原真智子)が好きになってしまい…。
 高田浩吉は、持ち前の明るさで元気のいい太助に。もちろん、お得意の歌もたっぷり。また、「これこれ、この長屋におこげを作る名人はおらんか」などととぼけた伴淳彦左は、いつものぼそぼそ口調で最高の味を出す。また、大目付(須賀不二男)の悪人ぶりもなかなかだが、不気味な存在感を漂わせる浪人役で、近衛十四郎が出ているのも面白い。

掲載2008年06月13日

『あかね空』
山本一力の直木賞小説の初映画化。
内野聖陽の正反対キャラの違うふた役に注目。

(あかねぞら) 2007年

掲載2008年06月13日

京で修行を積んだ栄吉(内野聖陽)は、京風豆腐の味を広めようと単身江戸にやってくる。右も左もわからない栄吉を何かと手助けしたのは、同じ長屋の娘おふみ(中谷美紀)だった。硬い江戸の豆腐になれた人々になかなか栄吉の豆腐は受け入れられず、苦心の日々が続く。しかし、明るく気丈なおふみの支えで、なんとか光が差してきた。夫婦になったふたりは、三人の子にも恵まれ、小さな店には幸せが満ちていたが、あるときから、おふみはなぜか長男の栄太郎ばかりを可愛がるようになる。そして、一家にやがて暗い影が。ふたりは、家族が、危機をどう乗り越えて行くのか。
 原作は時代小説の第一人者として人気の山本一力。「あかね空」は第126回直木賞受賞作であり、山本作品の初映画化となった。
 この作品では、最新のCG技術による斬新な映像美にも。物語の重要な現場となる「永代橋」のシーンは、早稲田大学の本庄情報通信研究開発センターの協力となり、橋の全景とにぎわう風景までも精密に描かれ、まるで空から江戸の町を眺めている気分になる。
 また、後半、重要なカギを握る人物として登場する傳蔵を内野聖陽が二役で演じるのも話題に。中村梅雀の憎憎しげな演技と、栄吉とは正反対に不気味な雰囲気を漂わせる傳蔵の存在感は強い印象を残す。

掲載2008年04月25日

『おしどり喧嘩笠』
二度と抜くまいと誓った剣をどうする!?
美空ひばりと鶴田浩二の長谷川伸の痛快編。

(おしどりけんかがさ) 1957年

掲載2008年04月25日

いなせな旅人、いろはの伊四郎(鶴田浩二)が安宿でうどんをすすろうとしたとき、なんと天井からぽたれぽたりと鮮血が。
 「薬味にしちゃ赤すぎる」
 と二階へ上がってみれば、そこには侍が事切れていた。横には、曰くありげな娘お才(美空ひばり)が。そこに飛び込んできたのが、斬られた侍の同僚・笠松(小堀明男)。笠松は伊四郎を下手人と勘違い。勤王志士を追う岡っ引きらと、お才を狙う源太郎一家。追いつ追われつの最中、伊四郎は、二度と抜くまいと誓った刀に手をかける。どうする伊四郎!?
 「あっしは悪いせがれなんですよ」
 伊四郎は思わず本音をもらす。
 原作は長谷川伸の「蹴手繰り音頭」。映画では6年ぶり、時代劇では初顔合わせとなった美空ひばりと鶴田浩二が息の合ったところを見せる。ひばりは鳥追い姿で流しをするなど、得意の歌と七変化で大サービス。オリジナル曲「おしどり喧嘩笠」「むすめ旅唄」も楽しげに響く。二大スターの貫禄とユーモアあふれる言葉のやりとりに、映画全盛期ならではの楽しさも感じられる。小堀明男の男気あふれる武士、伊四郎と入浴シーン(?)もある、どんぐり安の堺駿二の軽妙な演技にも味がある。
 大詰め。別れ道にさしかかった伊四郎とお才は、このまま別れてしまうのか? 
 可愛いひばりの表情にも注目を。

掲載2008年04月04日

『青空浪人』
川崎敬三主演のユーモラス人情時代劇
のんき浪人の秘剣せきれい崩しにも注目

(あおぞらろうにん) 1971年

掲載2008年04月04日

元南町奉行所の内与力・大川忠介(川崎敬三)は、奉行の密命で御側用人堀大和守の不正を探っていたが、それを察知されたことから、職を辞し、浪人となる。はだか長屋の飯屋に居候し、店を手伝ってのんきに暮らす忠介だが、新奉行鳥居耀三は、過去の不正を暴かれる恐れありと彼を執拗に狙うのだった。
 原作は「桃太郎侍」の山手樹一郎。一見、のほほんとしながら、実は鋭い観察力と行動力で庶民の味方をする忠介。彼の秘剣せきれい崩しも冴え渡る。
 「アフタヌーンショー」の司会者としても知られる川崎敬三は、元大映のスターで、これが始めての時代劇。当時この役について「主人公の大川忠介は、これまでの時代劇に出てくるような強くて凛々しい浪人とは違い、町人のような気さくな人物。それだけに自分の持ち味に似ているので、初めての時代劇でも地のままでやれる」と張り切っていた。
 第八話「深川なみだ橋」では、忠介を監視するずが、次第に人柄に心酔している若手同心向井作兵衛(渡辺篤史)の親友が大坂で大塩平八郎の一派に加わり、江戸で騒動を起こすかという物語。役人として親友を捕らえられるか。悩む後輩に対する忠さんの思いやりがあたたかい。ほかに吉田義夫、佐藤友美、玉川良一など、ユニークな顔ぶれが忠さんを盛り立てる。

掲載2008年02月15日

『阿波の踊子』
阿波を舞台にした男の豪快な復讐劇。
可憐な高峰秀子も活躍。

(あわのおどりこ) 1941年

掲載2008年02月15日

阿波・徳島。この地では、毎年阿波踊りの日が近づくと、あるウワサが流れていた。それは、七年前、家老広幡平左衛門の陰謀で、無実の罪を着せられて阿波踊り当日に処刑された廻船問屋の十郎兵衛(清川荘司)の弟が、復讐に戻ってくるといものだった。そして、ついにその日が。船宿に怪しげな男たちが泊まり、十郎兵衛の許婚者だった豪農の娘も戻ってくる。ある夜、平左衛門の屋敷の門に「十郎兵衛不日参上」という張り紙が。復讐の男(長谷川一夫)は兄の汚名を晴らすため、海賊になり、いよいよ行動を起こす。決めセリフは「七年前の踊りの晩を覚えていますか」
 浄瑠璃で知られる「阿波の鳴門」に監督がヒントを得たという作品。長谷川一夫のまっすぐな二枚目ぶりと、ひたすら男を思う許婚者・入江たか子の美しさ、船宿で男を応援する可憐な娘・高峰秀子のアイドル的な明るさ、髭先生こと黒川弥太郎の存在感もなかなか。「おーい、明日踊ろうぜ」という合言葉が飛び交い、クライマックスへと突き進む。
 公開は41年。戦争の暗雲が日本中を覆い、実際は、阿波踊りは中止されていたという。しかし、マキノ監督は地元に呼びかけ、徳島市と協力して盛大な踊りシーンを実現。監督の心意気が覗える作品といえる。
 同年生まれの監督と長谷川一夫だが、時代劇作品は五本のみで、本作はその二本目。

掲載2008年02月08日

『家光と彦左』
マキノ雅弘・長谷川一夫ともに生誕100年!
家光長谷川と頑固彦左の古川緑波の競演。

(いえみつとひこざ) 1941年

掲載2008年02月08日

大坂冬の陣、夏の陣と活躍した大久保彦左衛門(古川緑波)は、徳川幕府が安泰し、竹千代こと家光(長谷川一夫)が将軍になることをひたすら祈っていた。しかし、幕府上層部には反対も多かった。そんなとき、「しばらく!!」と彦左が天下のご意見番として登場。自分の意見が通らないとみるや「では、神君のもとへ」といきなり切腹しようとする彦左衛門。その押しもあって、家光は無事に将軍となり、りっぱに成長をとげる。
 しかし、彦左には、自分の力がいらないほどになった家光を見て、淋しいのも事実。「上出来でござります。上出来じゃ」「名君におなりあそばせよ…」とひとりとぼとぼ廊下を去って行く彦左の姿には胸を打たれる。
 そんなとき、日光東照宮が完成し、家光は参拝することに。途中、宇都宮城に滞在かることになったが、そこには恐ろしい陰謀が。
 有名な「宇都宮吊天井事件」を描きつつも、そこはマキノ監督。日劇ダンサーチームの華やかな踊りや、長谷川一夫のふた役と悲しみの舞シーンなど娯楽的要素もたっぷり。宇都宮城の豪華なセットには、映画全盛期ならではの貫禄さえ感じられる。
「天下の一大事がそうそうあってたまるか!」頑固な彦左衛門と「じいが死んだら、この家光は誰に孝行すればよいのじゃ」という家光の優しさが心に残る。

ペリー荻野プロフィール
ペリー荻野

1962年愛知県生まれ。大学在学中よりラジオのパーソナリティ兼原稿書きを始める。 「週刊ポスト」「月刊サーカス」「中日新聞」「時事通信」などでテレビコラム、「ナンクロ」「時代劇マガジン」では時代劇コラムを連載中。さらに史上初の時代劇主題歌CD「ちょんまげ天国」シリーズ全三作(ソニーミュージックダイレクト)をプロデュース。時代劇ブームの仕掛け人となる。

映像のほか、舞台の時代劇も毎月チェック。時代劇を愛する女子で結成した「チョンマゲ愛好女子部」の活動を展開しつつ、劇評・書評もてがける。中身は"ペリーテイスト"を効かせた、笑える内容。ほかに、著書「チョンマゲ天国」(ベネッセ)、「コモチのキモチ」(ベネッセ)、「みんなのテレビ時代劇」(共著・アスペクト)。「ペリーが来りてほら貝を吹く」(朝日ソノラマ)。ちょんまげ八百八町」(玄光社MOOK)「ナゴヤ帝国の逆襲」(洋泉社)「チョンマゲ江戸むらさ記」(辰己出版)当チャンネルのインタビュアーとしても活躍中。