ペリーのちょんまげ ペリーのちょんまげ

掲載2004年12月03日

「黄金の日日」松本幸四郎が南方貿易の商人を熱演、石川五右衛門の根津甚八、善住坊の川谷拓三も人気。

(おうごんのひび) 1978年

掲載2004年12月03日

時は織田信長がその才気を発揮しはじめた頃、堺の豪商・今井宗久の奉公人で、見るからに元気のいい青年・助左は、船乗りになって、異国に出ることが夢。やがて、彼は後に日本と南海を股にかける貿易商人・呂宋(るそん)助左衛門になるのだった。
 NHK大河ドラマ16作目となった「黄金の日日」は、とにかく型破りだった。まず、武将でも政治家でもない人物にスポットを当て、戦や陰謀よりも、経済や流通といった面から歴史の流れを描く、原作の城山三郎と脚本の市川森一・長坂秀佳が協力してドラマを作り上げるというのも初の試みだった。
その主役は、先代の市川染五郎(現・松本幸四郎)。私は以前、歌舞伎座の楽屋で、ご本人にこの作品について話を伺った。歌舞伎俳優にとって、一年舞台を休み、ドラマに賭けるというのは大きな決心のいること。それを決意させたのはチャレンジ精神と、魅力的なストーリーであった。やるからには凝り性で、自ら衣装に使う異国風の布を用意するなど、意気込みは大きかったという。
スケールの大きな展開と斬新な視点。石川五右衛門役の根津甚八、善住坊役の川谷拓三も人気で、五右衛門にはファンから助命の願いが出たほどだった。栗原小巻、名取裕子、夏目雅子らきれいどころも揃い、今も大河ドラマ史上屈指の名作といわれるのも納得。

掲載2004年11月19日

「鬼平犯科帳 『犬神の権三郎』」鞍馬天狗から変身ヒーローまで守備範囲は宇宙サイズ!みんな気になる目黒祐樹大研究。

(おにへいはんかちょう) 1994年

掲載2004年11月19日

先日、「丹下左膳」の舞台化などで今、ノリにノッてる中村獅童さんにインタビューし「気になる時代劇は?」と伺ったところ、なんとそのお答えは「参上!天空剣士」であった。天空剣士といえば、昼は長屋の傘張り浪人。しかし、夜は月の力で白い頭巾姿に変身し、悪を懲らしめるというすごいヒーロー。その主人こそ、目黒祐樹その人だ!
 目黒祐樹といえば、もちろん、剣豪スター近衛十四郎の息子であり、松方弘樹の弟。奥方は女優の江夏夕子という芸能ファミリーの一員である。時代劇系ではあるが、英語も堪能。三船敏郎、島田陽子、リチャード・チェンバレンらの出演で大ヒットした「SHOGUN」に出演した際には、得意の英語で三船の通訳もこなしたという。主演作には尾上菊五郎とコンビを組んだ「弥次喜多隠密道中」、30分で事件を解決した「鞍馬天狗」、父近衛十四郎と共演し、自ら主題歌も熱唱した「いただき勘兵衛旅を行く」などがある。正統派主役から海外の大作、さらには月の剣士まで。まさに活躍は宇宙サイズだ。
 この「鬼平犯科帳」では、元盗賊で密偵になった雨引の文五郎を好演。出すぎない存在感は、やはり強烈な父と兄に囲まれた祐樹ならではの心遣いなのか?今回の「犬神の権三郎」は文五郎二回目の登場。渋くいい男っぷりを見せている。

掲載2004年11月12日

「鬼の棲む館」閉ざされた山寺で男と妻と愛人が同居!谷崎の濃厚ドラマに三千代が恐怖の微笑みを。

(おにのすむやかた) 1969年

掲載2004年11月12日

 南北朝時代。帝の地位を巡って世の中は不安定になり、治安も悪化。それに乗じて暴れていたのが「無名の太郎」こと大盗賊・太郎(勝新太郎)だった。しかし、今の太郎は、白拍子あがりだが、若くて美しい女・愛染(新珠三千代)に夢中。山奥の荒れ寺で愛欲に溺れる生活を続けるふたりのもとをある日、太郎の妻・楓(高峰秀子)が尋ねてくる…。
 夫の居場所をすごい執念で捜し当てた知性的な秀子VS妖艶な美しさを誇る三千代。女子の好みがバラバラとしか思えない太郎だが、なんとなく勝新太郎だと納得してしまうのが不思議。しかも、楓は、そのまま山寺に居ついてしまうのである。ただでさえ息苦しい環境なのに、さらにどんより&ピリピリした空気が漂う三人の奇妙な生活が始まって半年。高野の寺院の上人(佐藤慶)が、山寺に一夜の宿を頼んだところから、物語はまたひとつ進展していく。このまま無事にすむわけがない。破滅の予感。
 文豪・谷崎潤一郎の濃厚な世界を、新藤兼人が脚色、時代劇の名匠・三隅研次が監督。名カメラマン宮川一郎がねっとりと撮る。最近話題の昼ドラマもびっくりの設定だが、両女優が持ち味を存分に発揮。「座頭市」シリーズなどで油が乗っている勝新太郎の盗賊ぶりもいい。タイトル「鬼」とはいったい誰のことなのか。考えさせられる。

掲載2004年10月29日

「おらんだ左近事件帖」長崎帰りの美男外科医は殿様の弟で正義の味方!柴田錬三郎が企画参加した痛快編。

(おらんださこんじけんちょう) 1971年

掲載2004年10月29日

長崎でオランダ医学を学んだハンサム侍・左近は、実は尾張大納言の次男という由緒正しい家柄の生まれ。しかも、剣の達人で、困った人を見過ごしにできないナイスガイだ。
深川八幡の月心寺に、孤児たちと暮らす彼は、得意の医術と剣でもって、さまざまな事件を解決していく。
 原作は柴田錬三郎。この番組については、企画段階から参加。原作と脚本(大野靖子)が同時進行するというスタイルだった。柴田作品といえば、「眠狂四郎」が著名だが、この左近とは、「家柄よし、剣の腕よし、なのに寺暮らし」という共通点があるものの、キャラクターは、むしろ正反対。生きるのにうんざりし、女子とも刹那的な関わりしか持たない狂四郎に対して、左近は元気溌剌。前向きな人物だ。
左近を演じたのは高橋英樹。現在放送中のNHK「慶次郎縁側日記」ではすっかりご隠居になっているのが、初老の顔の中にふとした瞬間、左近のような剣豪っぽさがのぞくのも、また英樹の味。また、左近の衣装では、徳川の出自にとらわれず?黒い着流しの紋が「丸に左」つまり「左近」となっているのが面白い。共演には星由里子、松村達雄、後に英樹夫人となる小林亜紀子、孤児のひとりとして長谷川一夫の孫の長谷川裕二も登場。左近とこどもたちの関わりもみどころのひとつ。

掲載2004年09月10日

「仇討選手」元禄に突如「仇討ちブーム」が!堺正章が笑って泣かせる得意技で、名作を復活。

(あだうちせんしゅ) 1981年

掲載2004年09月10日

元禄の大事件といえば、もちろん赤穂浪士の討ち入り。その大評判にすっかり心を奪われた殿様のおかげで、とんでもない事件に巻き込まれたのが、植木職人の由松(堺正章)だった。足軽又助(秋野太作)に父親を斬られたばっかりに「では、仇討ちを」と、無理やり武士にされ、剣術修行に江戸まで派遣されることになったのだ。おっちょこちょいの由松に、もとより仇討ちできる力などなさそうなものなのに、周囲の面目やら見栄やらでどんどん引っ込みがつかなくなる。おまけに江戸へ向かう道中で知り合った女・お鳶(山口果林)と、又助の思い人・お花(音無真喜子)は姉妹という複雑な事態に。
 かつて大河内伝次郎が演じた名作を、堺正章が体当たりで熱演。ラビット関根、小堺一機ら、当時の若手を相手に、得意のコミカルな演技で笑わせながらも、武士の世界の矛盾や見栄を痛烈に描きだす。必殺シリーズなどでも知られる秋野太作だが、思わぬ仇討ちに困惑しつつ、いい味を見せる。共演には、現在、不思議な存在感で再び脚光を浴びている森下愛子も登場。初々しい娘姿を見せる。
 この長編は、役者としての堺正章にとって大きなものとなり、後に舞台でも上演。悲劇の部分も多い原作を、舞台では、からっと明るく仕上げた展開は、マチャアキ座長ならではかも。

掲載2004年08月27日

「アニメ赤銅鈴之助」昭和のこどもたちに大人気のお茶目な少年剣士。アニメだから必殺技も自由自在!

(あかどうすずのすけ) 1972年

掲載2004年08月27日

赤銅鈴之助といえば、もともと「少年画報」に連載された人気マンガ。今年はその連載開始から50年。♪剣をとっては日本一に、夢は大きな少年剣士〜という主題歌とともに、半世紀が過ぎても、多くの人の心に残っているのは、そのオリジナリティとストーリーの面白さからだと思う。
 まず、主人公が「剣術修行をしている少年」という設定。テレビの歴史の中では、他に例がほとんどない主人公のライフスタイルである。そして、赤銅鈴之助という名前。
 「赤い銅」の真ん中に「鈴のマーク」という名前まんまのいでたちも、鈴之助の太い眉毛とともに、一度見たら忘れられない。わかりやすさもこどもの心をとらえた。敵が「鬼面党」で、みんな本当に鬼の面をしているというのも、これまたわかりやすい。
 ひとつだけ「謎」だったのは、鈴之助の必殺技が「真空斬り」で、両手をぐるりと動かすと、一瞬嵐のようになり、敵を倒すという技。理屈はさっぱりわからなかったが、アニメでは理屈抜き、主人公が自由自在に画面で大暴れできるのがよかった。初のアニメ版は人気で、当時プラモも発売されたらしい。
 かの坂本竜馬も学んだという、名門千葉道場の周作先生の冷静さ、少女さゆりの可憐さ(声・小鳩くるみ)とともに、懐かしさでいっぱいの人も多いはず。

掲載2004年06月04日

「大奥犯科帳」愛憎渦巻く大奥殺人事件。女探索隊長・星野知子。でも、他のメンバーは心配な顔ぶれ・・・

(おおおくはんかちょう) 1983年

掲載2004年06月04日

大奥といえば、男子禁制の女園。美女がひしめき、愛憎が渦巻いていた。とうとう、お世継ぎの竹千代君が行方不明になり、殺されるという大事件が発生した。
 探索を命じられたのは、「御使番」と言われる奥女中三人、美和(星野知子)、お春(高見知佳)、お里(早坂あきよ)だった。
彼女らは、文字通り「お使い」として自由に働ける上に、実は忍びの心得もあるのだった。これで事件解決かと思ったが、リーダー格の星野はともかく、高見&早坂は本当に敏捷な忍びの女なのか。心配だ・・・。心配した通り、警護に回れば、居眠りし、怪しい人影にひっくり返りそうになるふたり。探索メンパーの人選を間違ったためか、事件はどんどん混乱状態になり、ついに将軍の側室が逼塞させられることに。悩んだ美和は、幼なじみの美男医師(沖雅也)に弱音を言ったりする。
 藤巻潤、小池朝雄ら渋い男もいい味出しているが、やっぱり、これは女のドラマ。最近、明石家さんまのトーク番組などでも不思議ムードを醸しだすベテラン・田島令子が、美和たちの上司として例の低音を響かせる。いい役なのになぜ、令子ボイスには妖気が漂うのか?また、上様の側室だらけでうんざりしている正室(岩井友見)、目を三角にした鬼お局(野際陽子)の存在も気になる。連続殺人の真犯人は!?まさかの結末に注目。

掲載2004年05月28日

「狼無頼控」村野武範のギラギラ不良侍!六人の無頼アクションと二転三転のスピーディ時代活劇。

(おおかみぶらいひかえ) 1973年

掲載2004年05月28日

 江戸時代末期。盗賊や無宿人はもとより、腐敗役人も増えていた。関東一円を取り締まるはずの特別警察“八州廻り”も機能せず。管轄奉行・跡目和泉守(山村聰)は、独自に無頼六人を集めた私設警察「忍び八州」を結成。密かに悪人どもを葬っていた。
 そのメンバーは、一刀流の使い手・剣篠之介(村野武範)、あやしげな医者にして拳法の達人玄庵(長門勇)、殺人剣法の九鬼大紋(佐藤允)、花札で相手の喉笛を搔っ切る色男・菊次(田村亮)、花火師で爆薬遣いの仙三(なべおさみ)、変装の名手で色気で相手を翻弄する・南美(渥美マリ)。
 彼らは命がけで巨悪に挑むが、チームワークがいいかというと、かなりあやしい。なにしろリーダー格の村野からして「信用できないなら仕事など頼むな」などと言いだすスネたやつ。頼まれた仕事に裏があると知れば、平気で御用金強奪を考えてしまうような、アウトロー六人組だから、暴れ方は尋常ではない。どしゃぶりの中、倒れてる相手に何度も刀を突き刺したりする村野はとても正義の味方と程遠い。さすが、「座頭市」の殺人師・楠本鋭一のリアルな世界である。
 それにしても、今はすっかり「食いしん坊おじさん」の印象の村野武範がギラギラしててカッコいい!無口な二枚目田村亮も美男だし、みなさんはどの狼が好きですか!?

掲載2004年05月14日

「暗殺指令」高橋英樹と工藤栄一がぶつかる。武家社会の矛盾に体当たりする浪人の王道痛快編。

(あんさつしれい) 1984年

掲載2004年05月14日

 近年、バラエティ番組を中心に活躍し、すっかり「笑いのわかるおじさま」として定着しつつある高橋英樹だが、なんといっても十八番は素浪人役。浪人といえば、かなりビンボーだったはずだが、この人の浪人は、どこか品があり、何もしなくても「剣はすご腕」の風格を漂わせる。
 「三匹が斬る!」シリーズのようにコミカル路線でも味を出せるのが、英樹の強みだが、シリアス演技も忘れてはいけない。この「暗殺指令」は、沼田藩のお家騒動をきっかけに、武家社会の矛盾と戦いつつ、自分の生き方を見つめる浪人に扮する。
「俺はおのれ自身のために剣を磨く」と宣言しつつも、お家大事の事件に巻き込まれ、藩そのものと対決する男。男たちが苦悩するわりには、渦中のお姫様(宮崎美子)は「わらわをいったいどうするつもりじゃ!」と結構強気だ。宮崎美子の健康的なお姫様…80年代ならではの配役といえる。
 時代劇ヒーローの王道を歩んだ高橋英樹の持ち味はなんといっても豪快な立ち回り。共演には夏八木勲、牧冬吉、伊吹剛、さらに東映時代劇には欠かせない日本一の斬られ役・福本清三と、手練が揃う。この面々を仕切る監督が、工藤栄一とくれば、その迫力のアクションは、期待通り。単発ドラマらしいキレのよさもいい。

掲載2004年04月30日

「命捧げ候〜夢追い坂の決闘〜」藤沢周平作品を昼ドラヒット作家・中島丈博が脚色。南野陽子の悲しい女と緒形の男気。

(いのちささげそうろう〜ゆめおいざかのけっとう〜) 1996年

掲載2004年04月30日

 木曽福島藩吟味役・塚本伊織(緒形拳)は、藩にはびこる不正を暴くが、逆上し襲いかかってきた相手を咄嗟に斬ってしまった。江戸に逃れた伊織だが、まともな暮らしは望むことはできない。一方、伊織の妻・佐江(南野陽子)もまた、苦しみを抱えている。病の娘おくみのために、夫に隠して夜の商売に身を落としていたのだった。伊織の行方がわからなくなって長い年月を経たころ、「弔い伊之吉」という用心棒の噂がたつ。すべてを捨て去ったような男だが、その腕は恐ろしいほど。その男がやがて宿命的な戦いをすることになる。
 人気の高い藤沢周平作品の中でも、特に支持される「帰郷」「穴熊」を、中島丈博が脚色。中島脚本といえば、今年話題の昼ドラマ「牡丹と薔薇」でもドロドロした人間の性をこれでもかと描き、大ヒット。それだけに、「命捧げ候」も、女の悲しみと、修羅に行きる男の無念さがにじみ出る。主演の緒形拳は、無駄な動きも言葉も一切しない分、枯れた男の心情を静かに表現。母と娘、ふた役に挑戦した南野陽子もがんばっている。共演には高松英郎、西岡徳馬、八名信夫など手練りが揃う。特に注目したいのは、浅野忠信。緒形の渋い味と、浅野の若さが、物語に陰影を感じさせる。新国劇出身の緒形拳の鮮やかな立ち回りを久しぶりにじっくり見られる長編。

ペリー荻野プロフィール
ペリー荻野

1962年愛知県生まれ。大学在学中よりラジオのパーソナリティ兼原稿書きを始める。 「週刊ポスト」「月刊サーカス」「中日新聞」「時事通信」などでテレビコラム、「ナンクロ」「時代劇マガジン」では時代劇コラムを連載中。さらに史上初の時代劇主題歌CD「ちょんまげ天国」シリーズ全三作(ソニーミュージックダイレクト)をプロデュース。時代劇ブームの仕掛け人となる。

映像のほか、舞台の時代劇も毎月チェック。時代劇を愛する女子で結成した「チョンマゲ愛好女子部」の活動を展開しつつ、劇評・書評もてがける。中身は"ペリーテイスト"を効かせた、笑える内容。ほかに、著書「チョンマゲ天国」(ベネッセ)、「コモチのキモチ」(ベネッセ)、「みんなのテレビ時代劇」(共著・アスペクト)。「ペリーが来りてほら貝を吹く」(朝日ソノラマ)。ちょんまげ八百八町」(玄光社MOOK)「ナゴヤ帝国の逆襲」(洋泉社)「チョンマゲ江戸むらさ記」(辰己出版)当チャンネルのインタビュアーとしても活躍中。