ペリーのちょんまげ ペリーのちょんまげ

掲載2002年06月14日

「お命頂戴!」クールなのにどこか上品な片岡孝夫。あの懐かしアイドルの和服姿もお見逃しなく!

(おいのちちょうだい!) 1981年

掲載2002年06月14日

天保初期。徳川12代将軍家慶は、はびこる悪を成敗するため、“奥祐筆”という重要ポジションにある男を抜擢した。その名も、内藤左門(片岡孝夫・現片岡仁左衛門)。この左門、アタマは切れるし、剣の腕の天下一品。おまけに超二枚目!世俗のことにも通じていて、女心だけでなく、男も惚れ込むいい男なのだ。
将軍は左門に、鞘に葵のご紋を入れた刀を授け、密かに悪の粛清を命ずる。左門は浮雲の七兵衛(ハナ肇)と村雨お紺(新藤恵美)とともに、潜入捜査を開始する。
襲名以来、貫禄のある演技が全面に出る仁左衛門だが、この番組当時は元気いっぱい。毎回、板前、新内流し、盗賊、浪人、渡世人と、得意の七変化で敵を欺く。しかし、どんなに暴れん坊な役柄でも、どこか品を感じさせるのは、さすがという感じ。その変装姿から一転、悪と戦う時には、サラリとした黒の着流し姿。これがまたよく似合う。
さらに配役でユニークなのは、将軍家慶役の伊吹吾郎。将軍というと城に座りっぱなしのひ弱なイメージだったが、この将軍は、史上まれにみるほどのガッチリ体格だ。もうひとり、当時、「陽あたり良好!」など青春ドラマで活躍していたアイドル伊藤さやかも可憐な和服姿を披露。こちらもちょっとしたお宝影像ですな。

掲載2002年03月29日

「江戸中町奉行所」近藤正臣と丹波哲郎。ゴーイングマイウェイ俳優の激突と田中健のアクションにも注目。

(えどなかまちぶぎょうしょ) 

掲載2002年03月29日

 町奉行所といえば、北町か南町、と思っていたら、なんと「中町」ってのもあったのだ。しかも、その責任者が丹波哲郎...こりゃ、タダの奉行所ではないのである。
 元長崎奉行所の丹波遠江守(哲郎)は、新しい町奉行として江戸に呼ばれる。しかし、その奉行所は、正義のためでもなんでもなく、御用商人からの上納金目当てに作られた、腐敗政治の象徴のようなものだった。
「わざわざ長崎から呼んでおいて、腐敗政治の片棒を担がせるとはなにごとか!!」というつもの調子で怒った丹波奉行。こうなったら、密かに正義の裁きをしてやると決心。まずは信頼できる部下が欲しいと、暴れん坊の魚屋(清水健太郎)と、南町同心(近藤正臣)、北町同心(田中健)を対決させて実力を試す。南町、北町ではどちらもうだつの上がらないふたりだったが、実は健は凄腕。見事、丹波奉行のお眼鏡にかなったふたりは中町奉行所にスカウトされた...。
 哲郎と正臣の共通点は、役に成りきるというよりは「自分そのものを前面に出す」ゴーイングマイウェイな演技法というところ。どんなにキザでもカッコつけても許される不思議な魅力があるふたりである。
 正臣の相棒、田中健も珍しくアクションで活躍。密偵役の神埼愛と浜圭介のデュエットというムード歌謡調の主題歌も耳に残る個性派大集合のシリーズ。

掲載2002年03月22日

「岡っ引きどぶ」飲む、打つ、買うのドロ臭い岡っ引きを田中邦衛が熱演。江戸の町を邦衛が走る!

(おかっぴきどぶ) 

掲載2002年03月22日

 時代劇の岡っ引きというと、たいてい「品行方正」「庶民の味方」「美人にモテモテ」である。銭形平次、人形佐七、半七・・・みんなこの条件にぴったりだ。
 しかし、「眠狂四郎」で希代のアウトローヒーローを生み出した柴田練三郎の岡っ引きとなると、ちと味が違う。岡っ引きどぶは、飲む、打つ、買うの三拍子。ひとつ間違えば、どっちが捕まる側だかわからないような男だ。しかし、悪に対する爆発力は人一倍。反抗心旺盛、長いモノに巻かれる感覚などサラサラ持ち合わせないパワフルな男なのだ。
 ユニークなのは、その岡っ引きを田中邦衛が演じていること。田中邦衛といえば、その独特なボソボソしゃべりを聞いただけで、バックに「あ〜あああああ〜♪」とさだまさしの主題歌が流れているような気分になる、「北の国から」の親父役でおなじみだ。「岡っ引きどぶ」は「北の国から」とはうってかわって、江戸の町をとにかく走り回り、仕込み十手で大立ち回りを演ずる邦衛どぶ。当時五十代後半だと思うと、元気いっぱいぶりに感心する。美女にはモテないが、樹木希林からは熱烈ラブコールを送られ、芸達者同士のアドリブっぽいやりとりは可笑しい。
 それにしても、「もう許せねえ!」と啖呵を切るセリフもやっぱり、田中邦衛オリジナルの独特な口調なんだよなあ。モノマネ心をくすぐる人だ。つくづく。

掲載2002年03月15日

「網笠十兵衛」「忠臣蔵」裏舞台を描く池波作品。村上弘明の渋さとお茶目さが同時に楽しめる一本。

(あみがさじゅうべい) 

掲載2002年03月15日

 「生類憐れみの令」で世の中大混乱の将軍綱吉の時代。代々将軍家のご意見番をつとめる中根平十郎(津川雅彦)は、浪人月森十兵衛(村上弘明)に、下々の動きを探らせていた。そこに起こった吉良家と浅野家の確執。十兵衛は、公儀方の人間ながら、密かに赤穂浪士の討ち入りを助けることに...。
 池波正太郎作品だけに男気の描き方は天下一品。十兵衛と堀部安兵衛(三浦浩一)との友情、女密偵の悲しい女心(大沢逸美)、大石内蔵助役の中尾彬が、「歴代大石の中でも最もこってりした内蔵助」を見せてるのにも注目だ。さらに柳生新陰流の使い手、十兵衛が実は、柳生十兵衛の孫だった、なんていう「隠し玉」も登場して、物語はさらに複雑に。「忠臣蔵」ともうひとつの活劇が同時に楽しめる、お得な一本とも言える。
 このドラマがユニークなのは、主人公が妻子持ちというところ。一応、菓子屋の亭主で妻(藤真利子)と娘には全然頭があがらない。亭主のお役目がよくわからない妻は、「いつもお出かけばかり」と愚痴を言い、しょっちゅう夫に菓子の味見をさせるので、十兵衛は虫歯になってしまう。焼いた梅干しを手拭いに巻いて、頬に貼りつける十兵衛。なんか全然強くなさそうだよ...。ちなみに村上弘明ご本人はいたってお茶目な人で、実は駄洒落もかなりお得意。別枠の独占インタビューでも、その人柄をチェックしてほしい。

掲載2002年02月22日

「大奥」岸田今日子のナレーションと森山良子の「愛のセフィニ」にクラクラな妖艶絵巻。

(おおおく) 

掲載2002年02月22日

「思えば大奥とは女人たちの運命の坩堝(るつぼ)でございました...」
 背骨をちょっと硬めの刷毛でなぞられたようなオゾゾ感で、ハッとふりむくとそこにすわっている岸田今日子が!?と、思わず錯覚してしまいそうなオープニングで、目がくぎづけ。
 なにしろ将軍以外の男子禁制の空間に美女が何百人もひしめいていたんだから、聞いただけで艶めかしい想像をしてしまいそうだ。
二代将軍秀忠の頃に創設された「大奥」は、以来260余年、江戸城が開城するまであったという。たったひとりの男の愛を奪い合い、嫉妬と欲望が渦巻く。
 「ほほほ、皮肉なものでございますなぁ」と厭味攻撃があれば、「なんと、おはげしい。上様もさぞご満足でござろう」とお色気攻撃で応酬。とうとう上様の子を宿した女の腹を棒で突いて流産までさせる。怪しい僧侶や腰元スパイもそこここに登場。なんてまあ、恐いんでしょう。
 レギュラーを置かず、毎回、栗原小巻、山田五十鈴、司葉子など豪華メンバーによる読み切り式のめくるめく「大奥絵巻」。もちろん、上様の寝室の濡れ場も出てきてドキドキ感もある。ラストは、森山良子が高いキーで♪サフィニ〜と歌い上げる主題歌「愛のセフィニ」で愛の不確かさに酔いしれる。当時のアイドル女優のお姫様ぶりも隠れた楽しみ。

掲載2002年02月21日

「江戸特捜指令」敦夫太鼓の乱れうちに、山城新伍、竜雷太、五十嵐淳子ら、隠し目付が大集合!

(えどとくそうしれい) 

掲載2002年02月21日

 黒船は来るわ、幕閣のお偉いさんたちは政治より賄賂の集金に忙しいわ、なにやら不穏な世の中。その闇にズバッと正義の白羽を射るのは、六人の隠し目付たちなのである!
 「隠し目付」であるからには、みんな表の家業を持っており、それぞれの得意技を駆使した捜査が行われるのだ。
 リーダー中村敦夫は戯作者で全体の筋書き担当。山城新伍は時計職人でからくり人形を操作して敵を攬乱、原田大二郎は手先を活かして錠前破り、五十嵐淳子はなんと「理系の芸者」で科学や爆弾担当、竜雷太の大工は建物全部にからくりを作ってしまう、秋野暢子は町飛脚で忍びの術もあり、である。
 事件を察知し、「これは出番だ」と考えた敦夫は、隠し目付に招集をかける。その合図は自宅二階で自ら打つ太鼓の音だ。ドンドコドンドコドンドコドンドコ...。ふつう、こんなことをしたら、「隠し」どころではないのだが、近所の人は「あら!また一斎先生(敦夫)が芝居が書かけなくて暴れてるよ」と気にもしないのだ。しかも、先生、毎回、変装して捜査しているのに、「どう見ても敦夫だよ!!」とバレバレで心配になってくる。
 こんなユニークなリーダーと、わざわざからくりまで仕込んで敵をやっつける隠し目付。その「わざわざ感」が一度見るとハマってしまう。ペリーも含め「隠しファン」が多いシリーズなのだ。

掲載2002年01月25日

「暴れん坊将軍Ⅱ」若き松平健がいよいよ波に乗ってきた第二シリーズ。青春上様に春は来るか?

(あばれんぼうしょうぐん) 

掲載2002年01月25日

ご存じ、「暴れん坊将軍」(通の間では、『アバショ~』と言われている)、待望の第二シリーズ。第一シリーズでは、まだまだ動きに緊張感が見られた松平健が、この辺りから波に乗り、殺陣にセリフも若さいっぱい。まさに「青春上様」である。
青春てことは、当然、甘酸っぱい話も出てくる。江戸城の中では、大奥の美女集団が手ぐすねを引き、徳田新之助として町へ出ても「新さーん」と町娘が放っておかない。特にこのシリーズはモテモテで、上様が風呂場で「むっ、曲者?」と振り向くと、「お背中を流しましょう」とお手つき志願の娘が潜入しているという有り様。油断もスキもない。
こういう場面で気づくのは、松平健は「女に迫られて困惑した顔をしたら日本一」の俳優ということだ。私は長年松平健ウォッチャーとして陰密活動を続けているが、この人が「女好き」の役をしているところを見たことがない。現代ドラマで推理好きの和尚様をやっていた時も、死体を見ても驚かないのに、寺回り好きの女性観光客にはおおいに困惑していた。
もともと照れ屋で困惑しやすかったのか、それともアバショーで芸を確立したのか。それは定かではないが、「成敗!」と悪人を退治する時と、女子に追いかけられて困惑する時のギャップが、この番組の隠れた人気の秘密だと私はにらんでいる。

掲載2002年01月18日

『お助け同心が行く!』気弱同心の裏の顔は、庶民の味方のスーパー同心。小林稔侍の早変わりに注目!

(おたすけどうしんがゆく!』〜) 1993年

掲載2002年01月18日

 尾形左門次(小林稔侍)は、北町奉行所高積見廻り同心という下級役人。地味な役割をひたすらコツコツこなし、存在感も希薄で、周囲からはまったく相手にされない。が、実は左門次には、弱い者を陰ながら救う“お助け同心”というもうひとつの顔があるのであった・・・。
 原作は、『木枯し紋次郎』でもおなじみの笹沢左保の『お助け同心巡回録』。
 現代劇では冴えない中年サラリーマンをコミカルに演じる小林稔侍が、時代劇でも本領発揮。大柄な体をちぢめて「ハイハイハイハ」と上司に気をつかいながら役目をこなす小役人の表の顔と、本来の大柄に戻って、悪人と戦う早変わりはこの人ならでは。
 共演は、エリートの定廻同心で左門次の友人でもある辺見勇助に田中健、左門次の母に中村玉緒。息子の裏の顔を知らない母は、冴えない息子にいい嫁が来るよういつも奮闘するが、成果はさっぱり。玉緒と稔侍のかけあいはベテラン同士の味と笑いがある。
 ふたつの顔をもつヒーローというのはよくあるが、左門次の場合、報酬を要求するでもなく、名誉を欲するでもなく、衣装が派手でもない異色の“ふたつ顔ヒーロー”。そのちょっと地味な感じが、また小林稔侍の雰囲気にぴったりするのが面白い。

掲載2001年10月19日

「雨あがる」 山本周五郎の名作を、黒澤明の心を受け継ぐスタッフが見事に映像化。

(あめあがる) 2000

掲載2001年10月19日

1999年第56回ヴェネチア国際映画祭において、“未来を担う映画”緑の獅子賞を受賞。
さらに第24回日本アカデミー賞で驚異の8冠獲得。国内外問わず評価された作品として記憶に新しい。
剣の腕は立つが、世渡りの巧くない三沢伊兵衛(寺尾聰)とその妻たよ(宮崎美子)の物語。夫は貧しい生活が妻を不幸にしていると思い、出世してもっと楽な生活を送らせてあげたいと齷齪する。妻はそのままの生活に満足しており、むしろ無理をする夫を見ていることのほうが辛い。仕官の口を求める旅の途中、雨に降られ川が氾濫したために木賃宿に逗留することになる。宿は、やはり雨に降りこめられた貧しい旅人でいっぱいであった。長雨のため、逗留費がかさみ、次第に心が荒んでゆく旅人達を元気づけようと、伊兵衛は禁じられた賭け試合をして得たお金で皆に振舞う。翌日、とある喧嘩を仲裁したことから、それを見ていた和泉守に呼ばれ、御前試合をすることになる。伊兵衛、念願の仕官は果たして成就するのか。
原作は山本周五郎の同名短編小説。伊兵衛はじめ妻のたよの凛とした生き方、素朴でひたむきな旅人たちなど、人物造形は山本周五郎ならでは。また、久々の晴れ間に解き放たれた人々の開放感は見ているものにも伝わってくるようであった。黒澤監督が遺した未完のシナリオを、その遺志を継いだ黒澤組が総力をあげ監督の創作ノートをもとに完成させた。「見終わって、晴々とした気持ちになるような作品にすること。」という巨匠の遺した言葉どおり、見ているものを幸せにする近年まれに見る秀作。

掲載2001年09月21日

「江戸の渦潮」 息子・古谷一行を見守る、小林桂樹大活躍。

(えどのうず) 1978

掲載2001年09月21日

 時代劇には、よく「父と息子」モノが出てくる。有名なところでは、勝海舟とその父の「父子鷹」や、人気の池波作品「剣客商売」、「子連れ狼」だって、父と息子が主人公。この「江戸の渦潮」は、同心親子を中心にした、いわば痛快親子捕物帳だ。
 江戸北町奉行所の元同心(小林桂樹)は、推理力も剣の腕もたつ、快老人。その父を募うのが、現役若手同心の古谷一行だ。暴走しがちな息子を案じながら、自慢の剣と人脈を駆使して、何気なく手助けする父。親子は、岡っ引きチームとの協力で、江戸の難事件に挑む。露口茂の渋い岡っ引きや左とん平、小野ヤスシ、小松政夫といった手練のお笑い系役者がレギュラーなのも楽しい。植木等、横内正、小林千登勢、緑魔子らゲストも個性派が揃っている。
 「江戸の渦潮」は、加山雄三を中心にヒットした「江戸の疾風」から始まった「江戸シリーズ」の一本で、やがて「江戸の疾風」の続編や「江戸の朝焼け」に続いていく。
 小林桂樹は、後にNHKの「宝引の辰捕者帳」で、今度は引退した岡っ引きとして登場。その跡をついだ息子は小林薫であった。役の上とはいえ、時代劇で古谷一行と小林薫を息子にした俳優は、まずいないはず。最近、体調を崩してNHKの新時代劇を途中降板したという。タフな快老人として、一日も早い時代劇復帰を願いたい。

ペリー荻野プロフィール
ペリー荻野

1962年愛知県生まれ。大学在学中よりラジオのパーソナリティ兼原稿書きを始める。 「週刊ポスト」「月刊サーカス」「中日新聞」「時事通信」などでテレビコラム、「ナンクロ」「時代劇マガジン」では時代劇コラムを連載中。さらに史上初の時代劇主題歌CD「ちょんまげ天国」シリーズ全三作(ソニーミュージックダイレクト)をプロデュース。時代劇ブームの仕掛け人となる。

映像のほか、舞台の時代劇も毎月チェック。時代劇を愛する女子で結成した「チョンマゲ愛好女子部」の活動を展開しつつ、劇評・書評もてがける。中身は"ペリーテイスト"を効かせた、笑える内容。ほかに、著書「チョンマゲ天国」(ベネッセ)、「コモチのキモチ」(ベネッセ)、「みんなのテレビ時代劇」(共著・アスペクト)。「ペリーが来りてほら貝を吹く」(朝日ソノラマ)。ちょんまげ八百八町」(玄光社MOOK)「ナゴヤ帝国の逆襲」(洋泉社)「チョンマゲ江戸むらさ記」(辰己出版)当チャンネルのインタビュアーとしても活躍中。