ペリーのちょんまげ ペリーのちょんまげ

掲載2010年01月01日

『幕末』
「日本を救う道はただひとつ!!」
錦之助が熱血龍馬、愛妻に吉永小百合も

(ばくまつ) 1970年

掲載2010年01月01日

坂本龍馬にほれ込んだ中村錦之助が、自ら率いる中村プロで製作。監督・脚本に伊藤大輔を招いて創り上げた意欲作。まずは、キャストを紹介したい。龍馬には錦之助、後藤象二郎に三船敏郎、中岡慎太郎に仲代達矢、お良に吉永小百合、武智半平太に仲谷昇、近藤長次郎に中村賀津雄、勝海舟に神山繁、西郷吉之助に小林桂樹、他にも江利チエミ、野坂昭如、江原真二郎など、日本を代表する俳優たちがこぞって参加している。
 土佐では、武智半平太らが「土佐勤王党」を結成し、風雲の時代に立ち向かおうとしていたが、上士と下士という独特の身分制度のあり、動きがとれない。そんな土佐を飛び出した龍馬は、勝海舟に出会い、長崎亀山社中を結成。やがて薩摩と長州を結びつけようと働く。「もっともでごわす」と了承した西郷だが、肝心の話がなかなか進まない。
「藩の面目がなんじゃ!長州がなんじゃ!滅びたければ滅べ。だが日本はどうなる!」
 錦之助は得意の豪快さを見せて、骨太の龍馬になる。一方で、愛妻お良に対しては、とても優しい。「日本を救う道はただひとつ」と後藤象二郎と船中で語り合うシーンは、錦之助、三船敏郎の貫禄たっぷり。
 近江屋で暗殺されるシーンは、仲代達矢の熱演がさえる。龍馬の生き方とともに、錦之助の生き方も感じさせる大作。

掲載2009年12月18日

『ひとり狼』
おれにドスを抜かせるな!
人斬りやくざの市川雷蔵、本格股旅映画

(ひとりおおかみ) 1968年

掲載2009年12月18日

信州塩尻宿で、上松の孫八(長門勇)がであったのは、追分の伊三蔵(市川雷蔵)。助っ人もなしに用心棒とふたりのやくざを倒す伊三蔵は、まさしく人斬りの迫力だった。その伊三蔵は、木曽福島の宿外れで運命的な再会をする。かつて愛した由乃(小川眞由美)が生んだ男の子だった。郷士の娘との身分違いの恋に悩んだ末に、女が心変わりをしたと信じて出奔した伊三蔵。しかし、そこには、意外な事実が…。
「俺にドスを持たせるな。無駄な死人がまた増える」市川雷蔵、久しぶりの本格股旅もの。「縁と命があったら、まち会おうぜ!」とサラリと言いながら、どこかに影を漂わせるのは、雷蔵ならでは。長門勇が軽妙な味を添えて、全体にいいテンポを生み出している。
原作は村上元三。昭和31年に小説が発表されてから、各社から映画化の依頼が殺到。しかし、作者は「従来の股旅ものにしてほしくない」と承諾を保留し続けたという逸話が残る。それだけに原作に忠実に、物語は孫八が「本物のやくざ、伊三蔵」の激しい生き方を回想するという形をとっている。
他の共演は、由乃の母に丹阿弥谷津子、悪役、荒神の岩松に遠藤辰雄、平沢清市郎に小池朝雄など。
当時の人気歌手・ウイリー沖山の歌う主題歌と、ラストシーンも印象的。

掲載2009年12月04日

『花よりもなほ』
仇討ちだよ、全員集合! 忠臣蔵も関連物件!?
へたれ侍岡田准一と愉快すぎる長屋の面々

(はなよりもなお) 2006年

掲載2009年12月04日

シリアスタッチの映画「誰も知らない」で世界的に注目を集めた是枝裕和監督が、「次は楽しい嘘をついてみたい」と選んだのは、「自分が観客として観たい時代劇」。それも若い侍の「仇討ち」がからむという実に時代劇っぽい設定だ。が、そこは一筋縄ではいかない是枝作品。主人公の青木宗左衛門は、剣はからきしダメなへっぴり侍で、長屋でちまちま暮らす好青年。隣には魅力的な未亡人・おさえ(宮沢りえ)がいて、気になって仕方ない。他にも、長屋には思いつきでハラキリする次郎左衛門(香川照之)、そそのかしやの貞四郎(古田新太)、ふんどし出してぴょんぴょんしている孫三郎(木村祐一)などヘンな連中が大集合。
おまけに、身分を隠した赤穂浪士(寺坂吉右衛門に寺島進など)まで現れて、どうなっちゃうの?という二層、三層構造になっている。
が、二層になっているのに複雑かといえば、場面はそれぞれキレがあって、笑える。長屋の連中が、仇討ちの茶番劇を仕掛ける辺りは、ほんわかした中に庶民のたくましさがあふれて、楽しい。
長屋セットは、わざと傾斜をつけた坂道に撮影よりかなり早期に建てられ、わざと雑草やコケを生やした本格的なもの。この作品のために作られた人工池にはなぜか蛙が大発生して、捕獲が大変だったとか。肝心の仇討ちはどうなるのか? それは作品のラストで。

掲載2009年10月23日

『薄桜記』
「忠臣蔵」ヒーロー中山安兵衛・勝新太郎、
彼と関わる美男丹下典膳・市川雷蔵の明と暗

(はくおうき) 1959年

掲載2009年10月23日

中山安兵衛(勝新太郎)は、高田の馬場での決闘で一躍江戸の人気者となった。たまたまその場に出くわした旗本丹下典膳(市川雷蔵)は、相手が同門知心流のものであることを知って、その場から立ち去った。後日、典膳は、同門の者に立ち去ったことを責められ、道場を破門されてしまう。その後、典膳は野犬に襲われた娘千春(真城千都世)を救い、その縁でふたりは夫婦に。幸せな日々を過ごすが、ある日、道場の五人組に千春は乱暴されたのだった。復讐を誓った典膳は、千春を離縁。千春の兄は激怒し、典膳の片腕を斬りおとす。
一年後、かつて千春を思いながらも、堀部家の婿となっていた安兵衛は、浅野家の遺臣として討ち入りを願っていた。そして、運命の吉良家茶会の日取りを千春が知っていた…。
からみあうふたりの男の運命。隻腕となった典膳をなおも襲う悲劇。いくらなんでも、そこまですることはないだろうというくらい、知心流道場の連中の悪辣ぶりはひどい。
原作は五味康祐。脚本の伊藤大輔、監督の森一生はともにふたりの個性を知り尽くした名匠。勝新太郎は、思い込んだら一直線の安兵衛を持ち前の明るさで見せ、雷蔵は、愛と苦悩の美男を演じきる。ふたりがどちらも持ち味を存分に活かしたことで、明と暗がくっきりと現れる。

掲載2009年10月09日

『弁天小僧』
市川雷蔵が初めて挑んだ歌舞伎題材作品
西岡善信による豪華な美術を背景に名場面!

(べんてんこぞう) 1958年

掲載2009年10月09日

三十二万石の雲州公の隠居が、屋敷奉公にあがったばかりの小娘に狼藉疑惑? そこに現れた美男の寺小姓。小姓は巧みに隠居たちを言いくるめ、娘と金を奪って逃げた。その寺小姓こそ、弁天小僧菊之助(市川雷蔵)だった。女好きの上に知恵も働く菊之助は、悪旗本の鯉沼伊織(河津清三郎)が、呉服屋浜松屋に無理難題を押し付けて、娘のお鈴(近藤美惠子)までわがものにしようと企んでいると知り、一計を案ずる。そして、浜松屋には美しい町娘が。娘は懐に鹿の子を入れて、万引きを疑われるが…。
ご存知、「弁天小僧」の名場面。伊藤大輔監督によるテンポよい演出と、大映の美術の名匠・西岡善信による豪華なセットで、歌舞伎題材に初挑戦する、元歌舞伎俳優・雷蔵は「おいら、しっぽを出しちまうぜ!」「どなたさまもまっぴらごめんなさいよ」と、キレのいいセリフを見せる。バッチリ芝居の鳴り物も入っている。
無頼である弁天が、「おいら、まつとうな人間じゃあねえ」と純粋な娘にほだされて、義侠心を出す。「おめえもてえした向こう見ずだな」と弁天をたしなめる遠山金四郎(勝新太郎)、弁天を助ける盗賊・日本左衛門(黒川弥太郎)の存在感はさすが。終盤、屋根の上でたくさんの御用提灯に囲まれた弁天がどうするのか? 時代劇の醍醐味たっぷりの痛快編。

掲載2009年08月14日

『牡丹燈籠』
赤座美代子のお露と本郷功次郎の新三郎
でも一番怖いのは、生きた悪女眞由美様?

(ぼたんどうろう) 1968年

掲載2009年08月14日

町屋でこどもたちに読み書きを教える旗本の三男坊萩原新三郎(本郷功次郎)は、盆の燈籠流しの場で、美しい娘・お露(赤座美代子)と知り合う。武家の娘でありながら、吉原に売られたお露の身の上を、おつきの女中お米(大塚道子)から聞いた新三郎は、せめて盆の間だけでも、祝言の真似事をして過ごしたいという彼女の希望を聞き届けることに。しかし、次第に新三郎に死相が現れ、調べてみると、恐ろしい真実が明らかになる。
 カランコロンの駒下駄の音とともに夜毎現れる亡霊。70年代には体当たり演技でパワフルな女優魂を見せた赤座美代子もここでは楚々とした武家娘に。怖いのは、やっぱりお米の大塚道子。お米に思いつめた目で「むごいお仕打ちを。恨めしゅうございます」と言われたら、どんな願いも断ることは不可能だ。
 が、実は一番怖いのは、長屋の女房おみね役の小川眞由美様だった!遊び人の亭主・伴蔵(西村晃)から事情を聞くと、なんと幽霊から金をとろうと企むのである!
「いいじゃないか、死んでおもらいよ」
 おみねの価値観はすっきりはっきり。しかし、彼女らが手にした金の出所は…。
 人のよい新三郎のために力を尽くす白翁堂(志村喬)の優しさがいい。製作は大映で、美術を現在の「鬼平」や映画「たそがれ清兵衛」の西岡善信が担当していることも注目。

掲載2009年07月03日

『ひばりの三役競艶雪之丞変化 前編・後編』
ひばりが人気役者と義賊、悲劇の女の三役に
豪華セットと歌踊り、あでやかさ満開映画

(ひばりのさんやく きょうえんゆきのじょうへんげ ぜんぺん・こうへん) 1957年

掲載2009年07月03日

非業の死をとげた両親の敵討ちを心に秘めた人気役者・雪之丞の物語に美空ひばりが挑んだ意欲作。冒頭には、「私は懸命に、ただひたすら懸命に…」と雪之丞を持ち役にした長谷川一夫を称えたひばりの口上もついていて、当時のスター同士の心配りも伺える。江戸中村座。評判の人気役者・花村屋雪之丞(美空ひばり)の江戸初舞台お目見えでわきたっている。舞台花道の桟敷には、土部三斎(阿部九州男)と娘浪路(北沢典子)の姿もある。実は土部こそ、雪之丞が親の仇と狙う相手のひとりだった。長崎の海産物問屋松浦屋を陥れた悪党たちを追い詰めよとする雪之丞。しかし、その前に剣の免許を巡って邪魔をする門倉平馬(丹波哲郎)なども現れて、容易にはいかない。そんな雪之丞の強い味方になったのが、近頃評判の義賊・闇太郎(ひばり)だった。
原寸大に作られた芝居小屋の豪華セットで弁天小僧の名場面を演じたり、歌い踊るひばり。華麗な雪之丞と江戸の裏社会に生きる闇太郎を、声のトーンを使い分けて演じるひばりには、天性の「声の演技」の力を感じる。単純な敵討ち物語でなく、経済的な制裁や女心の哀しさ、クライマックスには少々ホラーのような展開(ひばりが『化粧をしてもしても…』という場面はお見逃しなく)も用意されて、長時間飽きさせない。

掲載2009年04月24日

『舞台「座頭市」』
師匠勝新太郎に捧げた居あい抜き!
松平健芸能生活35周年に挑戦した舞台

(ぶたい ざとういち) 2009年

掲載2009年04月24日

芸能生活35周年を迎えた松平健が念願の「座頭市」の舞台に立った。十代のころ、石原裕次郎に憧れて上京。劇団で修行中に彼を見込んだのは、裕次郎の親友勝新太郎だった。「お前は目がいい。京都に来い」と言われて半年。ひたすら「座頭市」を演じる師匠の姿を見て勉強し、あるとき「お前のための話が出来た」と言われのが、テレビデビュー作「座頭市物語」。師匠は愛弟子のために大スター浅丘ルリ子の相手役という大役を用意。大雪の中の熱演に満足げだったという。
 今回の舞台では、師匠が創り上げた「座頭市」の世界の原点を大切にしようと心がけたという。さらに闇社会に生きながら、心に清潔感のある市のキャラクターを重視。ユーモアとほろりとさせる人情場面もきっちり盛り込む。物語は、かつて市が養母(中村玉緒)に育てられた故郷門毛村が舞台。御影石採掘の利権を巡り、悪徳商人やヤクザが暗躍する。そこに現れた謎めいた女渡世人おれい(若村麻由美)。どこか品格のあるおれいには大きな秘密が。さらに市は賭場の用心棒(山口馬木也)と親しくなるが、思わぬ悲劇が村を襲う。村の青年役で出演している勝の息子鴈龍太郎は「背中がオヤジにそっくり」と松平座頭市に感心したという。本当に目をつぶったままの居あい抜きはとにかく速い!!映像とは一味違う迫力を楽しめる。

掲載2009年04月03日

『弁慶』
松平健の当たり役!熱血弁慶と義経主従
愛する女性玉虫とのエピソードにも涙

(べんけい) 1997年

掲載2009年04月03日

幼名「鬼若」は、五歳のときから比叡山に入って勉学に励んできたが、生来体が大きく、怪力だったために次第に人々に恐れられる存在になっていく。さらに柳斉という老武者が、鬼若に叡山の山中で歩行術、棒術、忍びの技までも指導したため、いつのまにか暴れん坊山法師・弁慶(松平健)として知られる存在になった。彼はやがて有り余る力を京都・五条大橋で平家の侍たちから刀を奪うことで憂さ晴らしをしていた。その刀が千本になろうとしたとき、弁慶は、妖しいまでの力を持つ若者・牛若丸(西村和彦)と出会い、打倒平家の戦いに乗り出していく。暴れん坊といえば、松平健!弁慶の豪快な存在感をしっかり出している。後に大河ドラマでも同じ役を演じているが、この作品は当たり役との出会いといえる。また、平家方の娘・玉虫(有森也実)との出会いでは、男の純情ぶりを見せるが、このあたりも松平流といえる。ちなみに玉虫は小玉虫という弁慶のこどもを生むが、松平健にとって、本格的な父親役はこれが初めてとなった。愛する妻子との別れは涙を誘う静かなエピソード。頼朝のために命がけで働きながら、義経主従、追われることに。有名な“弁慶の立ち往生”は大迫力。彼らの運命を見定め、語り部的な存在の常陸坊(若林豪)のしみじみとした表情がいい。

掲載2009年02月06日

『陽はまた昇る』
明治に生き残った豪放な新撰組隊士の生き方。
村上弘明VS京本政樹のお宝作品。

(ひはまたのぼる) 1996年

掲載2009年02月06日

明治5年。東海道浜松宿では、新しい流れに乗ろうとする清水次郎長(中尾彬)と昔ながらの渡世人小政(桜金造)が一触即発状態で、町の人々は困っていた。そのとき、ひとりの大柄な男が喧嘩を中断させる。その男こそ、元新撰組隊士で、土方とともに函館で戦い、生き残った中島登(村上弘明)だった。浜松で偶然、戦友の大島(川野太郎)と再会した中島は、浜松の用心棒を頼まれる。
そこに江戸への旅の途中という元隊士(清水アキラ)も加わり、再び生きる道を見つけたかに見えた登だが、そこに「新撰組隊士連続暗殺」のうわさが届く。
 新撰組として生きた男が、新たな道を見つけられるのか。剣の腕を見物にするなど、明治初期の風俗も興味深い。村上弘明作品のレギュラーともいえる西田健の怪演技も見逃せない。墨田ユキのはかなげな女の姿、安永亜衣の芯の強い娘ぶりも見物。
 原作は、男の生き方を描く名手・津本陽。「ママはアイドル!」「もう誰も愛さない」で知られる脚本の吉本昌弘はじめ、スタッフは時代劇初挑戦のメンバーが揃い、現代の浜松の映像を交えるなど、エンタテイメント色の強い作品に仕上がっている。クライマックスでは、「必殺仕事人」の盟友ともいえる京本政樹が登場。必殺時代を思わせる濃厚なメークと衣装で、ファンを喜ばせる。

ペリー荻野プロフィール
ペリー荻野

1962年愛知県生まれ。大学在学中よりラジオのパーソナリティ兼原稿書きを始める。 「週刊ポスト」「月刊サーカス」「中日新聞」「時事通信」などでテレビコラム、「ナンクロ」「時代劇マガジン」では時代劇コラムを連載中。さらに史上初の時代劇主題歌CD「ちょんまげ天国」シリーズ全三作(ソニーミュージックダイレクト)をプロデュース。時代劇ブームの仕掛け人となる。

映像のほか、舞台の時代劇も毎月チェック。時代劇を愛する女子で結成した「チョンマゲ愛好女子部」の活動を展開しつつ、劇評・書評もてがける。中身は"ペリーテイスト"を効かせた、笑える内容。ほかに、著書「チョンマゲ天国」(ベネッセ)、「コモチのキモチ」(ベネッセ)、「みんなのテレビ時代劇」(共著・アスペクト)。「ペリーが来りてほら貝を吹く」(朝日ソノラマ)。ちょんまげ八百八町」(玄光社MOOK)「ナゴヤ帝国の逆襲」(洋泉社)「チョンマゲ江戸むらさ記」(辰己出版)当チャンネルのインタビュアーとしても活躍中。