ペリーのちょんまげ ペリーのちょんまげ

掲載2011年03月18日

『舞台「天璋院篤姫」』
「女の道は前に進むしかない!」波乱の幕末
内山理名主演の明治座舞台作品

(ぶたい てんしょういんあつひめ) 2011年

掲載2011年03月18日

薩摩島津家の一門に生まれた於一(おかつ)は、島津斉彬に見込まれて養女となり「篤」姫として、第十三代将軍徳川家定の正室となる。実家から旅立つ日、実母お幸の方から「女の道は前に進むしかない。引き返すのは恥」と教えられた篤姫は、波乱に満ちた人生を突き進む。内山は、若き女傑を熱演する。
大奥では、総取締の瀧山(高橋かおり)が君臨。女の園のしきたりに驚く篤姫。夫家定とはやっと心を通わせたものの、たった19ヶ月の短い結婚生活で死別。十四代将軍家茂のもとに嫁いだ和宮(遠野あすか)との確執…。篤姫の苦労は尽きない。そして、ついに、故郷の薩摩が先鋒となって倒幕の嵐が!
絶妙なのは、キャスティング。篤姫の心の支えとなる実母お幸と家定の実母本寿院を秋野暢子が二役で登場し、母としての優しさを見せる。いつもちゃきちゃきイメージの秋野の穏やかな母親ぶりは見物。また、実家から篤姫を見守り続ける重野に小林綾子。瀧山の高橋かおりとともに、名子役として活躍し、女優として成長したふたりが、大奥で対峙するのも興味深い場面。島津斉彬の西岡徳馬、勝海舟の国広富之も貫禄を見せる。
もうひとつの楽しみは、朝倉摂による華麗な大奥のセット。大胆でモダンな柄の屏風、江戸城のテラスのようなスペースなど、映像作品とは一味違うアート感覚が楽しめる。

掲載2011年03月11日

『半七捕物帳』
六代目菊五郎の当たり役に七代目が挑戦
現在の坂東三津五郎の下っ引きで共演

(はんしちとりものちょう) 1979年

掲載2011年03月11日

「神田三河町の親分」こと半七(尾上菊五郎)は、文政6年江戸日本橋生まれ。13歳のとき、父を亡くし、一度は道楽を覚えて家出したが、神田の吉五郎親分の子分となった。今は、吉五郎の一人娘のお仙(名取裕子)と恋仲で、子分たちと難事件に立ち向かう。
六代目菊五郎が舞台で演じて当り役のひとつとした半七に七代目が挑戦。すっきりした二枚目の親分を、「あたしゃ、あんたのたったひとりの姉なんだからね!!」とちゃきちゃきした姉の文字房(常磐津の師匠)の浜木綿子、江戸の町を突っ走る元気のいい子分・善八(森川正太)、源次(小島三児)、ベテラン子分熊蔵(下川辰平)らがもりたてる。子分のひとりに現在の坂東三津五郎が、若々しい姿を見せているのも注目。
第一話の「異人の首」に始まり、「唐人飴」「怪談津の国屋」「お化け半鐘」「化け銀杏」「怪談おいてけ堀の女」など、岡本綺堂の原作らしいオカルトテイストがしっかり入っているのも、半七シリーズの大きな特長。第23話「むらさき鯉」では、ご禁制のお堀の鯉を密漁していた男が殺され、その晩、その女房のところには「むらさき鯉の使い」という奇怪な女が現れる。罪の意識に沈む女房に半七が「白い黒いはお上が決めること。お前さんは自分を大事にしねえといけねえ」ときっぱり言う清清しさは、七代目の味になっている。

掲載2011年01月21日

『風林火山(主演:三船敏郎)』
三船敏郎が山本勘助を熱演!信玄は錦之介。
謙信に裕次郎、由布姫に佐久間良子の豪華版

(ふうりんかざん) 1969年

掲載2011年01月21日

戦国時代。山本勘助(三船敏郎)は、武田家に仕官をと夢見るが、簡単にはいかない。そこで武田家の板垣信方に刺客を差し向け、信方を助けて恩を売る作戦を考える。この“暗殺劇”は成功し、勘助は武田晴信(後の信玄・萬屋錦之介)の家臣となった。やがて、武田は縁戚でもあった諏訪攻めを決行。一度は和議を結んだが、諏訪頼茂(平田昭彦)が武田家に来訪し、能を鑑賞しているときに暗殺してしまった。その冷徹な判断をしたのは、やはり勘助。晴信は、諏訪の由布姫(佐久間良子)を側室にする。姫から「そちが父を欺し討ちにした。人でなし!!」と憎まれる勘助もまた、彼女を思うようになる。晴信の子、勝頼を産んだ姫は、葛藤の中で世を去った。そして、いよいよ武田軍は、宿敵・上杉謙信(石原裕次郎)との川中島の決戦に向う。
三船プロが製作し、監督・稲垣浩、脚本・橋本忍、国弘威雄、東映の萬屋錦之介、佐久間良子、日活の石原裕次郎と映画界のスターを登場させた豪華版。殺陣は、三船作品には欠かせない久世竜。多くの騎馬を駆使した戦場シーンは迫力だが、武田家を巡る人間ドラマとしての面白さは、井上靖の原作ならではといえる。面白いのは、勘助を慕い、戦場を走り回る畑中武平(緒形拳)。泥臭く、人懐こい武平との本音の会話で、勘助の人間性が浮き出てくる。

掲載2010年11月26日

『八丁堀捕物ばなし』
民家の屋根に男の手首!?奇怪な事件の真相
役所広司が男気ある同心として活躍

(はっちょうぼりとりものばなし) 1993年

掲載2010年11月26日

民家の軒端に斬られた男の手首が引っかかっているという奇怪な事件が発生。しかし、誰の手首なのか、届出もなく、探索は手詰まりになっていた。そんな折、同心・狩谷新八郎(役所広司)は、あやしげな武士にからまれている美しい女お島(山本みどり)を助ける。なぜ、からまれたのか理由がわからないというお島だが、何かいわくありげな様子。そこに狩谷が捕らえた盗人(赤塚真人)が、手首の事件を目撃したと名乗り出た。
狩谷を中心に、リーダー格の古株(いかりや長介)や同僚たち(火野正平、渡辺哲、田中実など)が活躍する人情シリーズ。江戸の七不思議といわれる「女湯の刀掛け」の解説など、いかりやのナレーションで町の暮らしぶりがわかるのも面白い。特にこの回は、推理劇とともに情報を集めるキーマンとして、髪結いの藤吉(田中邦衛)が登場。たくみに武家屋敷に潜入して手かがりをつかみ、
「どーもこの辺がむずむずすらあ」
と、独特の邦衛節で事件に迫るのも見どころのひとつ。
スタッフは、「御家人斬九郎」シリーズなどをてがけた面々が集結。役所広司は、2010年公開の映画「十三人の刺客」で見せた豪快な殺陣と、「最後の忠臣蔵」で見せた男の哀愁を、すでにこの作品で披露していたことがよくわかる

掲載2010年08月27日

『必殺渡し人』
本物の水晶がキラリ!レントゲンもバッチリ!
高峰三枝子・中村雅俊・渡辺篤史が渡します。

(ひっさつわたしにん) 1983年

掲載2010年08月27日

晴らせぬ怨みを晴らす「渡し人」。鏡磨きの職人・惣太(中村雅俊)は、近所で評判の蘭方医鳴滝忍(高峰三枝子)が、鮮やかな技で男を葬る場面を目撃。「鏡」の異名を持つ渡し人である惣太は、やがて「カマイタチの姐さん」と呼ばれた忍、さらに強力で“必殺腸ねん転”の技を使う大吉(渡辺篤史)とともに、裏の仕事を始めることになった。
このシリーズのみどころは、まず、当時「フルムーン」CMなどで、変わらぬ美しさを見せる高峰の華麗な殺し技。右の小指にはめた水晶の指輪の先端で相手の頚動脈を斬るという早業だが、当初、水晶の部分をプラスチックで作ったところ、どうしても輝きと鋭さが足りず、急遽、本物の水晶を東京まで発注したという。忍が、裏の仕事に出るまえ、湯船で身を清める「入浴シーン」にも注目。
一方、青春ドラマ時代の若々しさそのままの惣太は、トレードマークの赤フンドシをちらつかせ、女性にもてる。愛妻お直(藤山直美)にやきもちを焼かれるのがお約束だ。当時、中村は東京で外科医の役をやっており、睡眠時間二時間程度で、京都と往復。その上、コンサートツアーも行うという超過密スケジュール。撮影所内の移動用に赤い折りたたみ自転車を愛用しているが、ファンが集まり、なかなかすいすいと走れなかったというエピソードも。

掲載2010年08月20日

『春姿ふたり鼠小僧』
杉良太郎が義賊と目明しのひとり二役!
とぼけた面白さと人情味あふれる長編

(はるすがたふたりねずみこぞう) 1982年

掲載2010年08月20日

江戸の町は、鼠小僧の話題でもちきり。悪どい金持ちから奪った小判を貧しい者のところにばらまく「義賊」と評判で、一般庶民だけでなく、岡っ引きの清吉(鈴木ヤスシ)や銀次(岡本信人)まで、鼠の小判を期待する始末だった。そんな折、ならず者にからまれた辰巳芸者のお駒(名取裕子)を助けた駒形の新五(杉良太郎)は、自分とうり二つの弥平次(杉二役)の存在を知る。弥平次は、紅白粉の行商人で、お駒とほれあう仲。しかし、悪徳商人の大黒屋(安部徹)が、お駒を自分のものにしようと悪巧みを巡らせていた。
杉良太郎が当たり役のひとつ、新五と、鼠小僧の二役に。追う側と追われる側をひとりでこなすというすごい展開。まじめで思慮深い新五と、お調子者で素顔を見せない弥平次。ふたつの顔の使い分けが面白いが、親切そうに女の化粧を手伝いながら、女の口の悪さが気に入らないと、おかめのような顔に仕上げてしまう弥平次のとぼけた三枚目ぶりを、杉本人は楽しんでいるようにも見える。名取裕子は、持ち前のきっぷのよさを発揮して、威勢がよくて可愛い女を熱演。おなじみ、新五のいきつけの店では、桜井センリと一谷伸江の名コンビの元気がいい。ラスト、義賊への裁きをどうするか。新五の決断が見物。

掲載2010年08月06日

『旗本退屈男(主演:市川右太衛門)』
市川右太衛門が、当たり役をテレビシリーズで
品川隆二、十朱久雄も笑わせる痛快決定版!

(はたもとたいくつおとこ) 1973年

掲載2010年08月06日

昭和5年から昭和38年まで、30作の「旗本退屈男」映画作品に主演した市川太右衛門。その魅力は、おおらかな存在感と、豪快な立ち回り。少々不合理なストーリーでも、観客に「待ってました!!」と言わせる華やかさだ。
そもそも主人公の早乙女主水之介は、無役の旗本ながら、正義感は人一倍。かつて上様の危機を救うために、額に傷を受け、以来、日本全国どこへ出かけようとOKのお許しをいただいた人物。事件あるところに、必ず現れては悪を斬る。遣うは、必殺剣・諸羽流正眼崩し。ただでさえ、カッコいいのに、そのサムライ・ファッションたるや、時代劇でもまず右に出るものがいないほどのきらびやかさ。映画版では、金糸・銀糸をふんだんに使った豪華着流しを平均15着は用意したという。このテレビ版でも、毎回、「退屈男ならでは」の衣装が披露されている。
今回放送されるシリーズで、面白いのは、まず、早乙女家の用人・笹尾喜内役の十朱久雄。どこかへフラフラと旅に出てしまう殿を思うまじめ用人は、いつもハラハラ。また、殿が大切にしている妹・菊路にデビューしたての竹下景子も登場する。その殿をそそのかして(?)旅に誘うのが、威勢のいい町人・三平(品川隆二)。三平は映画にはなかったキャラだが、殿を慕う加茂さくらとともに、物語をテンポよく運ぶムードメーカーになっている。

掲載2010年07月09日

『秘太刀 馬の骨』
藤沢周平原作をCGを駆使して大胆に映像化。
謎の秘剣「馬の骨」がついに出るのか!?

(ひだち うまのほね) 2005年

掲載2010年07月09日

疾走する馬の首の骨を一刀両断したという謎の秘剣「馬の骨」。その唯一の遣い手はいったい誰なのか。その秘密を探るため、江戸から北国の小藩にひとりの剣士・石橋銀次郎(内野聖陽)が現れる。銀次郎は、六人の剣士と立ち会うことになる。その六人とは、「馬の骨」を編み出した初代が作り上げた道場の三代目(小市慢太郎)、徹底的に相手の剣を受けてスキを狙う「受けの沖山」(六平直政)、バカ力の「豪腕」内藤(本田博太郎)、籠手打ち名人の長坂(尾美としのり)など、特徴のある面々。果たして、その中に「馬の骨」の遣い手はいるのか。それはどんな剣なのか。
面白いのは、銀次郎のキャラクター。何事にもとことんのめりこみ、人の迷惑かえりみず、強引に立会いを仕掛けて体当たり。おまけにマザコン!? 同じ藤沢作品の名作「蝉しぐれ」で折り目正しい青年武士を演じた内野がまったく違うキャラに挑んでいるのもみどころのひとつ。また、戦いのたびに、CGを駆使して真横から見せるなど、それぞれの剣を今までにない映像で表現するのも面白い。
脚本はNHK朝ドラマ「ゲゲゲの女房」でしみじみと懐かしい世界を描く山本むつみ。
終盤、銀次郎が「馬の骨」を探す本当の意味が見えてくる。この剣で、六年前に家老が暗殺された事件の真相とは。銀次郎の伯父で、藩筆頭家老(近藤正臣)の怪演にも注目。

掲載2010年03月26日

『梟の城』
司馬遼太郎長編第一作を篠田正浩が監督
中井貴一が秀吉暗殺を狙う天才忍者に

(ふくろうのしろ) 1999年

掲載2010年03月26日

「闇に生まれ、闇に死ぬ」忍者をフクロウの如き存在と位置づけた作家・司馬遼太郎が、初めて挑んだ長編を、篠田正浩が監督。CGを駆使した都市風景、豪華絢爛な安土桃山の芸能の再現、制作費10億円、制作期間3年というスケールの大きな作品だ。
主人公は、山奥に隠棲する忍者・葛籠重蔵(中井貴一)。天正九年、織田信長軍五万の伊賀攻めによって、肉親を目の前で惨殺された重蔵は、伊賀随一の忍者だった。そこにかつての恩師が訪れ、重蔵に驚くべき仕事を持ち込む。それは今井宋久から金で請け負った「秀吉暗殺」だった。しかし、その背後には、徳川家康の影が…。京に潜入した重蔵の仲間は、軽業師として、秀吉の動きを探る。その中には、美しい女忍者木さる(葉月里緒菜)もいた。一方、重蔵の前には、謎めいた美女小萩(鶴田真由)と、伊賀の過去を捨てた元下忍の風間五平(上川隆也)が現れる。
司馬遼太郎唯一とのメロドラマとも評されるほど、ヒロインの愛と葛藤が描かれるのも見どころのひとつ。秀吉にハリウッドで活躍したマコ・イワマツ、家康に中尾彬、重蔵の父に中村敦夫、北政所に岩下志麻とキャストも充実。また、従来の忍者映画を超える実戦的なアクションをと、監督は、スーパーバイザーに元フランス外人部隊に所属した毛利元貞を起用している。

掲載2010年01月22日

『文五捕物絵図 男坂界隈』
倉本聰による「悪人が出てこない時代劇」
法と人情の板ばさみに苦しむ文五の苦悩とは

(ぶんごとりものえず おとこざかかいわい) 1991年

掲載2010年01月22日

気が優しい魚屋の熊吉は、息子加吉(中西良太)の恋人いと(洞口依子)につきまとう浪人を止めようとして、殺された。浪人は北辰一刀流の道場主・重兵衛(丹波哲郎)の三男で、重兵衛の裏工作によって、殺しはお咎めなしとなる。納得がいかない加吉は、浪人を殺害し逃亡。その探索に当たった若い岡っ引き文五(中村橋之助)は、加吉の住む長屋に不穏な空気を感じる。
倉本聰が久しぶりに手がけた時代劇作品で、テーマは「悪人が出てこない時代劇」。しかし、加吉は、逃げれば道場の連中に追われて殺され、捕らえられれば死罪という過酷な条件であり、軽々しいストーリーではない。現在のストーカーや理不尽な法整備にも通じる重さがある。
橋之助は、加吉をかばう長屋の人情と法の手先である自分の立場に悩む優等生的存在。それに対して、影を見せてうまいのが、文五の手下の丑吉(寺尾聡)。彼がなぜ、この仕事をしているのか。暗い過去とともに、人が人を恨むことはどういうことかを見せ付ける。
また、物語をぐっと引き締めるのが、長屋の元締的存在の若林豪。物静かなうちわ貼り浪人(石橋蓮司)の存在とともに、男の心意気と哀しみが、心に残る。
「俺の十手に何が出来たんだ!」と叫ぶ文五が下した決断に注目を。

ペリー荻野プロフィール
ペリー荻野

1962年愛知県生まれ。大学在学中よりラジオのパーソナリティ兼原稿書きを始める。 「週刊ポスト」「月刊サーカス」「中日新聞」「時事通信」などでテレビコラム、「ナンクロ」「時代劇マガジン」では時代劇コラムを連載中。さらに史上初の時代劇主題歌CD「ちょんまげ天国」シリーズ全三作(ソニーミュージックダイレクト)をプロデュース。時代劇ブームの仕掛け人となる。

映像のほか、舞台の時代劇も毎月チェック。時代劇を愛する女子で結成した「チョンマゲ愛好女子部」の活動を展開しつつ、劇評・書評もてがける。中身は"ペリーテイスト"を効かせた、笑える内容。ほかに、著書「チョンマゲ天国」(ベネッセ)、「コモチのキモチ」(ベネッセ)、「みんなのテレビ時代劇」(共著・アスペクト)。「ペリーが来りてほら貝を吹く」(朝日ソノラマ)。ちょんまげ八百八町」(玄光社MOOK)「ナゴヤ帝国の逆襲」(洋泉社)「チョンマゲ江戸むらさ記」(辰己出版)当チャンネルのインタビュアーとしても活躍中。