ペリーのちょんまげ ペリーのちょんまげ

掲載2014年06月13日

「桃太郎侍」
♪ひとつ人の世生き血をすすり~の数え唄が強烈!
高橋英樹の代表作、秘話満載で見るほどに味が出る。

(ももたろうざむらい ) 出演者:高橋英樹/野川由美子/植木等/西川峰子/吉本真由美/茶川一郎/深江章喜 1976

掲載2014年06月13日

 時代劇スター高橋英樹の代表作「桃太郎侍」は、1976年から五年間、全258話が放送された人気シリーズ。将軍家のご落胤というすごい身分でありながら、江戸の裏長屋暮らしを選んだ桃太郎(高橋)が、庶民を泣かす鬼退治をするという痛快な物語だ。注目点は、なんといっても、桃太郎の華やかさ。花鳥風月、キンキラ系の着物を見にまとい、悪人屋敷に乗り込むときには、般若の面とスケスケのかつぎを被って現れる。悪者に「何者!?」と聞かれれば、「桃から生まれた桃太郎」と、しれっと答える。そして、おなじみの「♪ひとつ人の世生き血をすすり~」と、数え唄を歌いながら、豪快な殺陣で、悪人たちを退治していく。

 勧善懲悪、時代劇様式美の集大成ともいえるドラマだが、実はこの名場面、シリーズスタート当初には、ほとんどなかったのである。第一話の桃太郎は、黒い着流しで、人も斬らない。しかし、主題歌「桃太郎音頭」を歌い、ゲスト出演もした三波春夫に「お地味ですね」と言われたことをきっかけに、モードチェンジ。衣装は、三波のステージ衣装を意識して華やかさを取り入れ、かつぎを被ってくるくる回るシーンは高橋自らが提案。撮影には三時間を要して、目が回ったという。こうした工夫だけでなく、植木等(猿の伊之助)、藤岡琢也、山城新伍ら共演者、歴代名悪役の巧みな芝居にも注目したい。一度見るとクセになる名シリーズ。

掲載2014年03月21日

「宮城野【ディレクターズカット版】」<PG-12>
大ブレイク中の片岡愛之助の鬼気迫る絵師姿
矢代誠一の傑作戯曲を作者の実娘毬谷友子が熱演。

(みやぎの【でぃれくたーずかっとばん】〈PG-12〉) 出演者:毬谷友子/片岡愛之助/樹木希林/國村隼/佐津川愛美 2010

掲載2014年03月21日

わずか十か月ほどの間に傑作浮世絵百数十点を描き、忽然と姿を消した天才絵師東洲斎写楽。彼はいったい誰なのか? ミステリアスなこの絵師を「殺害」したとして、ひとりの女郎宮城野(毬谷友子)が処刑されようとしている。写楽の役者大首絵にも同じ名前「宮城野」がある。これなのか偶然か、それとも…。

 すべてが謎に包まれたこの事件。始まりは、写楽と思しきベテラン絵師(國村隼)と、弟子の矢太郎(片岡愛之助)との確執だった。弟子とは名ばかりで、ニセ絵ばかり描かされる日々に鬱々とした矢太郎を励ましたのが、女将(樹木希林)から「煙管女郎」と煙たがられる年増女郎の宮城野。「お前の絵を描いてやる」と言われた宮城野は、「崩れちまってるよ、あたしの裸なんて」と言いながら、ほほを染める。そんな女の命を賭けた戦いが始まったのだ。

 原作は、昭和の代表的劇作家矢代静一。毬谷はその娘で、この二人芝居を劇場で演じた。宮城野が乗り移ったような妖艶な姿は、他の女優には出せそうにない迫力。また、ドラマ「半沢直樹」で、銀行マン(堺雅人)に「あななたちは汚い金貸しじゃないの!」と甲高いオネエ言葉を放って、一躍注目された片岡愛之助は、絵の世界に没頭しながら愛憎を抱く男を鬼気迫る演技で魅せる。二人の熱演は脳裏に焼き付くはず。濃厚!

掲載2013年11月08日

「魔境 殺生谷の秘密」
三船敏郎が握り飯ひとつの恩義で命をかける!
荒涼とした谷を舞台に財津一郎ら名優も熱演

(まきょう せっしょうだにのひみつ) 出演者:三船敏郎/財津一郎/佳那晃子/赤座美代子/峰岸徹/今福将雄/南利明 ほか 1983

掲載2013年11月08日

甲州路で、空腹の浪人(三船敏郎)は、老武士から握り飯を分けてもらう。聞けば、武士の息子・弥一郎は、幕府検察使として甲府金山の不正を調査中、罠にはめられて無実の罪を着せられたまま、切腹させられたという。そのころ、甲府山中には、姿を見せない謎の集団「かまいたち」が暗躍。山に人を近づけないようにしていた。浪人は、ふもとの飯屋で事情を聴くと、店のおやじ(財津一郎)は、山に隠し金があるという。「おれは隠された場所を知っている。だんな、山分けでもいいんだよ」と、持ち前の山っ気を出したおやじに対して、娘のおごう(佳那晃子)は、「何言ってんだよ!山に行ったら死ぬよ」と冷たいが「おやじの最期を嘲笑ってやる」と山についてきた。やがて、現れる「かまいたち」、さらに、金のありかを探る代官所と幕府の一団も加わり、壮絶な争奪戦が繰り広げられるが…。

 脚本は、大映京都で名監督三隅研次とともに市川雷蔵主演の「眠狂四郎」などをてがけた星川清司。音楽は「独立愚連隊」「日本沈没」などの佐藤勝。三船は、もっとも得意とする腕のたつ素浪人を余裕たっぷりに演じている。彼にからむ財津のしたたかな男っぷり、佳那の口は悪いが気のいい女っぷり、すべての秘密を知る悪女、赤座美代子がカッコいい!他に峰岸徹、南利明も出演。荒涼とした殺生谷を舞台に、名優たちの熱演が心に残る。

掲載2011年07月22日

『魔界転生』
ファイト男・渡辺裕之の柳生十兵衛参上!
清水ひとみの妖艶すぎる春日局にくらくら?

(まかいてんしょう) 1996年

掲載2011年07月22日

山田風太郎原作の「魔界転生」と言えば、多くの人が沢田研二主演作、または窪塚洋介主演作を思い浮かべるかもしれないが、本作も忘れてはいけない!前後編の長編だ。
 江戸時代、魔界からの使者・由比正雪の手によって、天草四郎、宮本武蔵、荒木又右衛門、春日局ら七人が魔界から転生した。無念の死をとげた彼らの目的は、善と悪の最終戦争=ハルマゲドン。徳川幕府の武術の指南役である柳生家の十兵衛(渡辺裕之)は、闇にうごめく彼らに決死の戦いを挑むが、敵方に父・柳生但馬守を見てしまった。ナレーターでも活躍する田口トモロヲが、目の周りを黒くした不気味な由比正雪に。全裸の美女を操り、術をかけるなど、恐ろしい技を見せ、十兵衛を苦しめる。
もうひとり特筆すべきは、清水ひとみの春日局。三代将軍家光に仕えていた彼女は、魔界ではかなり妖艶に変化したのか、まさかのお色気戦闘シーンも。96年当時最新のSFX技術を駆使し、妖しさ、アクションもパワーがある。もちろん、そのパワーの秘密は、「ファイトー!」の渡辺裕之。日光江戸村でのロケで、来援経験のある人は「ここは」と気づくシーンもあるかも。渡辺は、今月放送される「怪刀!一座七変化」などでも立ち回りを見せているが、本作ではアイパッチをしての戦いで、苦心しつつ迫力の動きを見せる。

掲載2010年07月23日

『まだら頭巾剣を抜けば 乱れ白菊』
必殺の白鞘、正義の黒鞘!二刀流にまだら頭巾
近衛十四郎の超ファッショナブルな剣士

(まだらずきんけんをぬけば みだれしらぎく) 1957年

掲載2010年07月23日

時代劇には、独自のファッション感覚のヒーローが数多く登場しているが、この「まだら頭巾」は、そのセンスといい、目立ち具合といい、トップクラスといっていい。まず、名前のまだら頭巾は、微妙に大きさの違う水玉、今流にいえばドットで、頭を覆う頭巾だけでなく、さらりと首のあたりまで長くたれ、ショールのような軽やかさ。さらに同じドット柄の帯と、よく見れば、足袋までドット!さらに、得意の「二刀流」も左手には黒鞘、右手には白鞘と、モノトーンアイテムで敵に迫る。一度見たら忘れられない正義の味方なのである。しかも、その正体は意外!
物語は、老中田沼意次が専横を極めた時代。狩りに出た将軍・家治が短筒で狙われるという事件が発生。そこに鈴の音を鳴らし、白馬にまたがった剣士が現れる。彼こそが、神出鬼没の疾風竜之介、人呼んで「まだら頭巾」。彼の念願は、田沼らを上様の側から排除することにあった。キリシタンの汚名を着せられて死んだ父君の敵討ちを狙う菊姫(山鳩くるみ)、調子のいい遊び人とんびの小太郎(中村賀津雄)らが入り乱れての大事件をまだら頭巾がどう裁くか。近衛の愛息・目黒裕樹(現・祐樹)が、ませた少年・霞小僧役で出ているのも注目。敵方の剣士・月形龍之介との大風の中の立ち回りも迫力いっぱいだ。

掲載2010年02月19日

『股旅』
市川崑監督が「紋次郎」より先に企画。
萩原健一・小倉一郎・尾藤イサオの切ない旅

(またたび) 1973年

掲載2010年02月19日

「いつか股旅物をやりたかった」「若者を描きたい気持ちでいっぱいだった」という市川崑監督が思いを込めて創り上げた作品。
渡世人のなりをしているが、みすぼらしく、貫禄のかけらもない三人の若者。黙太郎(萩原健一)、源太(小倉一郎)、信太(尾藤イサオ)は、それぞれ食い詰めた百姓で、五日前に顔を合わせたばかりだった。三人は、土地の親分に仁義をきって草鞋を脱ぐが、当然、扱いは低い。喧嘩の助っ人に借り出され、乱暴な博徒らに殴られ蹴られしながら、旅を続ける。やがて、虐待される農家の女房(井上れい子)も加わるが、あてがないのに変わりはなかった。
市川監督は、ATGの製作ルールに従って、制作費600 万円を作るために、「木枯し紋次郎」の演出を引き受けたという。キャストについて、夫人の和田夏十に萩原健一や尾藤イサオを推薦され、適役だと喜んだが、監督本人は、彼らがミュージシャンであることを知らなかった。井上れい子はファッションモデルで、俳優らしくない人をという監督のリクエストで選ばれている。
脚本は、監督と詩人・谷川俊太郎によるもの。早口の仁義の応酬や、「ホトトギスの鳴く頃にゃ、迎えにくる」など、散文的なセリフも多く、切ない彼らの心情をよく表現している。美術は「紋次郎」でも組んだ監督の盟友・西岡善信が担当している。

掲載2009年11月27日

『源義経』
義経尾上菊之助(現・菊五郎)23歳で登場!
壇ノ浦シーンでは、特殊技術も駆使

(みなもとのよしつね) 1966年

掲載2009年11月27日

永禄元年(1160)、義経の父・源義明は平清盛(辰己柳太郎)に破れて死去した。わずか二歳の義経は、少年時代、鞍馬山で修行をしながら、自分の生き方を模索する。長じて、兄源頼朝(芥川比呂志)が挙兵したとし知った義経は、武蔵坊弁慶(緒形拳)らと、参戦。見事な働きを見せる。そしてついに平氏を壇ノ浦で打ち破り、滅亡させるが、兄に追われ、奥州へと苦難の旅をすることになる。
原作は昭和26年から朝日新聞に連載された村上源三の作品で、原作者が脚本も担当。武満徹の勇壮な音楽も話題に。放送された昭和41年は、3C(カラーテレビ、自動車、クーラー)の時代と呼ばれ、高度成長期の日本に、23歳の菊之助が颯爽と大河ドラマの主役として登場し、注目された。
キャストでは、静御前に藤純子、常盤御前に山田五十鈴、藤原秀衡に滝沢修など豪華な顔ぶれ。映画「次郎長三国志」シリーズでも軽妙な味を出した田中春男の伊勢三郎も元気のいいところを見せている。また、当時、「高校三年生」など青春歌謡で人気急上昇の舟木一夫が平敦盛役に抜擢。人気歌手の大河ドラマ出演は前例がなく、反対意見もあったが、女性ファンの心をつかみ、舟木は「平敦盛」の曲も歌った。「壇ノ浦」合戦シーンでは、絵巻物、実景、俳優の演技など特殊合成を駆使した名場面となっている。

掲載2009年07月24日

『密命 寒月霞斬り』
佐伯泰英の大ベストセラーを映像化!
禁断の書物を巡り、密命を帯びた剣士が戦う。

(みつめい かんげつかすみぎり) 2008年

掲載2009年07月24日

累計発行部数2200万部という大ベストセラー作家・佐伯泰英。一年365日欠かさず執筆を続け、月に一冊ペースといわれるほどのスピードで新作発表し、ファンを魅了している。その記念すべき時代小説第一作が、「密命 寒月霞斬り」だ。
豊後相良藩は小藩ながら、蔵書六万冊にも及ぶ「相良文庫」で知られていた。しかし、その中に禁断のキリシタン本が紛れ込んでいるとの疑いが浮上。万が一、幕府に知られれば、藩は取り潰される危険が。藩主から真相究明の密命を受けたのは、ぼんやりとして頼りにされない金杉惣三郎(榎木孝明)だった。字が下手で「金釘」とあだ名される彼だが、実は剣の腕は一流。脱藩した彼は、火事場始末の人足として働きながら、真相を探る。その裏には、藩を内側から腐らせる陰謀が・・・?
主演の榎木孝明は、かつて原作者と同じマンションに住み、自ら企画書を送ってこの役を演じたというエピソードがある。佐伯先生ご本人が当チャンネルの取材で、「榎木さんとは犬の散歩のときによく会いました(笑)。彼は稽古熱心で礼儀正しい。その熱意に打たれました」と語っている。終盤、惣三郎の強力なライバルとして、松方弘樹が登場。子どもを誘拐する卑劣な悪も登場し、惣三郎決死の作戦が展開する。迫力の殺陣シーンをお見逃しなく。

掲載2008年12月12日

『燃えよ剣』
栗塚旭が土方歳三を演じる映画版!
土方の女性問題にも鋭く斬り込む?

(もえよけん) 1966年

掲載2008年12月12日

武州三多摩で喧嘩剣法に明け暮れる土方歳三(栗塚旭)は、実は女にも手が早かった。それも高貴な香りが漂う女性が好み。府中六所明神の夜祭で、理想にぴったりの美女・佐絵(小林哲子)に出会った歳三は、夜毎彼女の屋敷に忍びこみ、情事を重ねる。その結果、歳三は人を斬ることに。
 栗塚旭映画本格主演と話題になった本作は、テレビ版をさらにシビアにした内容で、土方歳三の人間像に鋭く斬り込む展開。特に女性に対しては、沖田総司(石倉英彦)にからかわれるほど。その一方で、清河八郎の呼びかけに応じて京にのぼり、新選組を結成してからの「鬼」の顔も見せる。
「なあ、トシ、お前がわかりましたと言うもんで、わしもついその気になったが、どういうことだ?」
 和崎俊哉演じる近藤勇は、もっさりと田舎武士の雰囲気を出してうまい。また、土方の宿敵として登場する七里剣之助の内田良平のニヒルな存在感。清河八郎の天津敏の堂々とした悪漢ぶりもみどころのひとつ。
 哀愁漂うギター音楽も心に残る。捨てたはずの女と京都で再会する土方。それは彼にとって、恋愛感情とは別物だった。未来の見えないこの男女の結末は。
 新選組の顛末まで一気に駆け抜けるこの映画の中に、栗塚旭の新たな魅力を発見できる。

掲載2008年07月11日

『物書同心 いねむり紋蔵』
舘ひろしがさえないお父さん同心に。
心がほっとする事件解決の秘訣とは?

(ものかきどうしん いねむりもんぞう) 1998年

掲載2008年07月11日

藤木紋蔵は43歳。町奉行所例繰方(れいくりかた)で書記として、過去の判例などを整理する地味なお役目を30年も務めている。同じ同心でも外回りならば、「付け届け」などで実入りがあるが、内勤の紋蔵にはそれがない。家には恋女房お里(風吹ジュン)と五人のこどもがいるから、家計は楽ではなのだ。とはいえ、マイペースな紋蔵さん、奉行所でもいびきをかいて、ついたあだ名が「いねむり紋蔵」…。
 そんな紋蔵のところにも、いろいろな事件が持ち込まれることがある。旗本の息子が奪われた刀を取り返せとか、記憶を失った男の身元を調べろなどなど、調べていくうちに意外な「裏」が出てきて、紋蔵を悩ませる。第七話では、見習い同心になった息子(山本耕史)が、将軍御側御用取次(竜雷太)の嫡男ともめごとを起こす。相手に非があると怒る息子をなだめ、ひたすら謝罪のために先方に出向く紋蔵。その真摯な態度こそ、彼の事件解決の秘訣ではと思わせる。
 連続時代劇初主演の舘ひろしは、刑事ドラマでおなじみのアクションを控え、普通のお父さんに徹しているのが面白い。臨時収入があれば、こどもたちと魚を食べて「ほんの少し、ツイてたというか」と含み笑い。ただし、紋蔵は実は剣の達人!?というシーンもちらりと出てくるので、お見逃しなく。

ペリー荻野プロフィール
ペリー荻野

1962年愛知県生まれ。大学在学中よりラジオのパーソナリティ兼原稿書きを始める。 「週刊ポスト」「月刊サーカス」「中日新聞」「時事通信」などでテレビコラム、「ナンクロ」「時代劇マガジン」では時代劇コラムを連載中。さらに史上初の時代劇主題歌CD「ちょんまげ天国」シリーズ全三作(ソニーミュージックダイレクト)をプロデュース。時代劇ブームの仕掛け人となる。

映像のほか、舞台の時代劇も毎月チェック。時代劇を愛する女子で結成した「チョンマゲ愛好女子部」の活動を展開しつつ、劇評・書評もてがける。中身は"ペリーテイスト"を効かせた、笑える内容。ほかに、著書「チョンマゲ天国」(ベネッセ)、「コモチのキモチ」(ベネッセ)、「みんなのテレビ時代劇」(共著・アスペクト)。「ペリーが来りてほら貝を吹く」(朝日ソノラマ)。ちょんまげ八百八町」(玄光社MOOK)「ナゴヤ帝国の逆襲」(洋泉社)「チョンマゲ江戸むらさ記」(辰己出版)当チャンネルのインタビュアーとしても活躍中。