ペリーのちょんまげ ペリーのちょんまげ

掲載2010年05月14日

『仕掛人・藤枝梅安 梅安迷い箸』
仕掛けを目撃された梅安。黙る目撃者。
「女を殺したら地獄」仕掛人の暗い決意

(しかけにん・ふじえだばいあん ばいあんまよいばし) 1982年

掲載2010年05月14日

品川台町の“お助け先生”こと鍼医者の藤枝梅安(小林桂樹)は、裏では凄腕の仕掛人として、金ずくの殺しを請け負っていた。その梅安のところに、大坂の裏の元締・白子屋菊衛門のもとに逃がしたはずの剣客・小杉十五郎(柴俊夫)が舞い戻ってきた。十五郎は、白子屋から、「仕掛け」を引き受けてきたという。しかも、狙う相手は紀伊家金看板の料理屋橘屋の女房・お梶(池波志乃)。自ら望んだと語る十五郎に、彼を仕掛けの世界に引き入れたくない梅安は「女を殺したら地獄だ」と怒る。
その梅安は、音羽の半右衛門(中村又五郎)から、橘屋に出入りする紀伊家用人の仕掛けを頼まれる。無事仕掛けたつもりだったが、その現場を女中のおとき(石田えり)が目撃。しかし、なぜか、おときは訴えようとはしなかった。
 近年、俳優・中尾彬の妻として、気のいい女将さんというイメージの池波志乃が、ここでは妖艶にして非情な悪女に。その悪女に翻弄され、殺しを続ける浪人室井に、藤田まこと版「剣客商売」で「不二楼」の板前役で渋い存在感を出している木村元が扮している。石田えりは、お梶の強烈さとは対照的に薄幸な女をしとやかに好演。
 十五郎を思いながら、梅安と仕掛人仲間の彦次郎(田村高廣)が、大根などつまみながらしみじみ話す場面に池波作品らしさがにじむ。

掲載2010年04月30日

『新・木枯し紋次郎』
孤独な紋次郎が数多くの名監督により復活
大林宣彦のオープニング映像も新鮮。

(しん こがらしもんじろう) 1977年

掲載2010年04月30日

人気作「木枯し紋次郎」が、新バージョンで登場したシリーズ。天涯孤独な紋次郎(中村敦夫)が旅をする設定は不動だが、監督には、森一生、藤田敏八、神代辰巳、安田公義、黒田義之、太田昭和らが名を連ね、中村敦夫自身も三本演出に参加している。また、紋次郎が歩く道に蝶が舞い、海が割れたりするモーゼの「十戒」もびっくりのCGを駆使したオープニングは、当時CM監督として注目されていた大林宣彦が担当。主題歌のやしきたかじんも、切ない歌声を響かせる。
めったに過去を語らない紋次郎だが、「命は一度捨てるもの」の回には、幼なじみが登場。その女おつる(新谷のり子)は、奈良井宿の問屋場大徳屋の後妻として幸せに暮らしているはずだった。しかし、老齢の夫に子ができず、おつるは、夫公認で他の男に抱かれ、身ごもった。そして、その宿場には紋次郎のもうひとつの幼なじみ長兵衛(竜崎勝)がいた。長兵衛は、こどものころ、腹が減ってへたりこんでいた紋次郎を助けたことがあるという。複雑な事情の中で起こる殺人事件。常田富士男が、偏屈な医師で、事件の謎をとく名探偵のような役割を果たすのが面白い。
竜崎勝(ちなみにフジテレビの高島彩アナウンサーの父)、小松方正、菅貫太郎など惜しまれつつ世を去った俳優も数多く出演しているシリーズ。原作者笹沢佐保も顔を出す。

掲載2010年04月23日

『聖徳太子』
若き皇太子を本木雅弘がまっすぐに熱演。
蘇我馬子の緒形拳は、善悪を超えた不気味さ

(しょうとくたいし) 2001年

掲載2010年04月23日

幼いころから聡明で、仏典を一読しただけで暗記するほどの賢さを持つ厩戸(うまやど)皇子(後の聖徳太子・本木雅弘)は、いまだ混沌とした国の行く末を案じていた。585年、倭国へ新羅から、伊真(ソル・ギョング)が送り込まれる。鍛冶部と偽って、豪族蘇我馬子(緒形拳)に近づいた伊真は、厩戸皇子の誠実な人柄に惹かれる。平和な国づくりを願う皇子だったが、物部守屋との対立は決定的となり、戦が始まった。悲惨な戦をやめ、仏教に基づく理想の国を目指す、皇子は、推古天皇(松坂慶子)の勧めで、摂政となり、隋との交流も深めていくが、武力で国を治めようとする馬子とは、溝ができていく。
 最新の研究をもとに、登場人物の装束、武器、食物などが再現され、興味深い。リアリティのある描写の一方、目を閉じて音を聞くだけで、遠方の敵がどこにいるか見通すなど、聖徳太子の力も描かれ、古代らしい不思議なムードは、本木雅弘にぴったり。特筆すべきは、蘇我馬子の緒形拳と、伊真のソル・ギョング。緒形は、よりよき国を目指して戦っていたはずが、やがて自分の権力欲のため、ぎらぎらし始める。聖徳太子との対決シーンのどろどろした演技は、さすが。また、韓国の実力派ギョングは、深い悲しみを秘めた伊真の心情を豊かに表現。泣かせます。子役で、現在大活躍の戸田恵梨香、浅利陽介も出演。

掲載2010年04月09日

『新はんなり菊太郎』
菊さんが女を連れて帰ってきた!?
強いのに泣き虫菊さん、どう決着つけるか。

(しん はんなりきくたろう〜きょう・くじやどじけんちょう) 2007年

掲載2010年04月09日

京都東町奉行所同心頭の長男でありながら、父が祇園の女に産ませたことを考えて、弟に跡目を譲り、ふーらふーらと生きる田村菊太郎(内藤剛志)。民間の訴訟を扱う公事宿鯉屋の居候として、数々の事件に関わってきたが、三年前、ふらりと旅に出たきり、なんの音沙汰もなかった。その菊太郎が戻ってみると、彼の後を追って、娘お凛(星野真里)が登場。菊太郎には、お信(南果歩)という恋人がいる。
彼を取り巻く人々は、気をもむが…。
このシリーズから、菊太郎の父役が、宍戸錠に。浮気の過去に引け目を感じつつも、事件となると、やたら元気がよくなるのが面白い。たとえば、ある大風の日。お信が勤める料理屋に大黒様の掛け軸が飛んできた。人のいい店の主人徳兵衛(ばんばひろふみ)は、「これはおめでたい」と掛け軸の持ち主米蔵(遠藤憲一)に譲って欲しいと金を出す。しかし、菊太郎らは、この話にどこか胡散臭さを感じる。
京都の町にさわやかな風が吹くようなストーリー。菊太郎は、剣の腕は確かだが、弱い者のためによく泣くのである。
鯉屋の主人の渡辺徹、その妻多佳に東ちづる。ふたりの掛け合いも楽しい。徳兵衛が、お信に求婚したり、お凛に追っ手がいたりと目が離せない展開に。菊太郎、お信のおとなの恋行方を見守りたい。主題歌を忌野清史郎が歌っているのも印象的。

掲載2010年03月19日

『禅 ZEN』
今なお響く道元禅師の静かな教え。
彼の生涯を、中村勘太郎がじっくりと演じる。

(ぜん) 2009年

掲載2010年03月19日

乱世の鎌倉時代。八歳のときに「人々の苦しみを救う道を見つけて」と言い残して亡くなった母の言葉を守り、24歳の道元(中村勘太郎)は、海を渡って宋の国に入った。しかし、ここでも仏道は腐敗し、さまよった末に道元は、如浄禅師と出会う。彼のもとで修行を積んだ道元はやがて悟りを得て、帰国。教えを広め、共感も広がるが、比叡山からは邪教の烙印を押され、僧兵から襲撃を受ける。彼を救ったのは、幕府六波羅探題の波多野義重(勝村政信)だった。波多野の勧めで越前に移った道元は、永平寺でひたすら座禅を組み、弟子たちに仏の道を教える。
 注目すべきは、静かな道元と対象的な二人の人物。ひとりは遊女おりん(内田有紀)。子を失い、ダメ亭主に虐げられるおりんは、仏の道に目覚めていくが、彼女の美しさは、ストイックな修行を始めたばかりの若い僧には…。哀川翔のダメ亭主ぶりがいい。また、もうひとりは、時の執権・北条時頼(藤原竜也)。
権力の頂点にいながら、殺した人々の亡霊に悩まされ、道元に救いを求める。道元は、彼に「救われたいと願いながら、何ひとつ捨てる勇気がないのだ!」と時頼を一喝。
 世の中の汚れも描きながら、どこかに涼しい風が吹くような作品。悟りを開く瞬間の、ハスの花の描写など、あとからじわじわと思い出されるシーンも多い。

掲載2010年02月05日

『最後の忠臣蔵』
赤穂浪士のただひとり生き残り寺坂吉右衛門
彼の過酷な運命を追った、感動の名舞台。

(さいごのちゅうしんぐら) 2010年

掲載2010年02月05日

苦難の日々を乗り越えて、見事、主君・浅野内匠頭の仇討ち本懐を遂げた、赤穂の四十七士。ところが、寺坂吉右衛門(中村梅雀)は、大石内蔵助(西郷輝彦)に呼ばれ、これから皆と別れ、残された家族のもとを廻り、事の次第を話し、相談に乗ってくれと命じられる。身分が低いから、皆と切腹が許されないのか。つらい思いで、その場を離れた吉右衛門。臆病者とそしられ、ときに命まで狙われながらも、内蔵助に対する忠義の心で、ひたすら遺族のもとを歩きまわる彼に、心優しい女(櫻井淳子)が声をかける。しかし、彼にはさらに過酷な運命が待ち受けていた。
09年末、東京明治座で上演された舞台作品。梅雀は、明治座初座長を務めた。ペリーは、梅雀ご本人にこの作品についてインタビューしたが、そこで知ったのは、「脚本の徹底した研究」と「座長としての責任感」だった。吉右衛門は、足軽ゆえに、舞台では中腰、平伏の姿勢でのセリフが多く、体力的にはきついが、梅雀は、早着替えも含め、タフに走り回り、疲れを見せない。稽古では、若手の自主稽古を皆で応援するなど、とてもいい雰囲気だったという。後半は、ともに討ち入るはずだった吉右衛門の盟友・孫左衛門(原田龍二)が失踪した理由が明らかに。観客から、すすり泣きの声が絶えなかった名舞台。田村亮、長谷川悕世、青山良彦ら名優の演技の見もの。

掲載2009年12月11日

『四十七人の刺客』
追悼!森繁さん。上杉家家老を渋く見せた。
高倉健が大石内蔵助を演じた武闘派「忠臣蔵」

(しじゅうしちにんのしかく) 1994年

掲載2009年12月11日

元禄14年3月。赤穂藩主浅野内匠頭(橋爪淳)が高家筆頭吉良上野介(西村晃)に殿中で刃傷におよんだ。柳沢吉保(石坂浩二)は、事件の理由を問わないまま、内匠頭の即日切腹を決める。藩の筆頭家老・大石内蔵助(高倉健)は、城明け渡しなど従順な姿勢を見せる一方で、幕府、吉良、柳沢、上杉家家老色部又四郎(中井貴一)に対して、周到な情報戦を仕掛ける。対する吉良方も屋敷を城塞のような堅牢な造りにするなど、守りを固める。
“昼行灯”的人物として描かれることが多い大石内蔵助を、「悪というなら、悪に徹しよう」「全員斬って捨てろ!」「真実など知りとうない!!」と号令をかける軍人のようなキャラクターにしている。吉良屋敷の仕掛けを打ち破りつつ進む討ち入りシーンは迫力。
本作には、森繁久彌さんが、上杉家累代の筆頭家老・千坂兵部役で出演。吉良・上杉陣を陰で支える人物として、渋いところを見せる。市川崑監督のイメージでは色部又四郎ついては、「色白で目が吊り上った官僚タイプ」だったが、森繁の千坂は、ひげもそのままの老練な印象。多くの時代劇に出演した森繁さんが贔屓にした店は京都にも数多い。筆者もそのうちの一軒に案内それたことがあったが、大将が黙々と腕を振るう小さな和食店で、森繁さんは楽しげに食していたという。

掲載2009年11月06日

『続・木枯し紋次郎』
ハイビジョンで素晴らしい映像が蘇った!
故・大原麗子のすごい悪女ぶりにも感動

(ぞく・こがらしもんじろう) 1972年

掲載2009年11月06日

72年に放送された「木枯し紋次郎」がハイビジョンに!と話題のシリーズ。その作業は、軍手でフィルムの汚れをひとつひとつ落とすという手間のかかる仕事から始まった。ラッキーだったのは、当時の撮影監督ご本人による監修が実現したことで、それによって、画面の比率が変わっても、撮影意図やフォーカスがずれることなく、新しい画面が作り出されたのだった。その結果、それまで暗くてはっきりしなかった建物の影の人物などもクリアに見え、画面に奥行きが出る結果に。その映像を観た主演の中村敦夫さんの感想は「まるで撮れたて!俺も若いなあ」…って、若いのはハイビジョンの効果ではありません!
今回、放送されるシリーズにも、元気のいい馬子の娘役で出演する新藤恵美、剛腹の母親北林谷栄はじめ、市原悦子、緑魔子、吉田日出子ら個性的な女優陣が出演。中でも印象的なのは、「水車は夕映に軋んだ」の大原麗子。
農民の水争いをきっかけに、次々人が殺される村。酒乱女に茶店でからまれた紋次郎。女の妹(大原)は謝罪するが、その姉妹には裏があった。殺しの現場に遭遇しても、「あっしには…」と通り過ぎようとするが、相手が見逃さない。否応なく長脇差を抜くはめになる。女子どもにも容赦ない人殺しが横行する裏には、恐ろしい女の業が。悪女は美女に限る!大原麗子の悪女が光ってます。

掲載2009年10月30日

『続・道場破り 問答無用』
若殿長門勇がご乱心!? その意外な真相とは
山本周五郎原作。若き日の菅原文太も出演。

(ぞく・どうじょうやぶり もんどうむよう) 1964年

掲載2009年10月30日

田宮神剣流道場の跡取り、大炊介高央(長門勇)は、心技ともに優れ、心優しい人柄で、門弟からも慕われる青年だった。ところが、父高茂の還暦祝いの夜、高央は、妹みぎわ(鰐淵晴子)の許婚・吉岡進之助(菅原文太)を斬殺する。いくら理由を問われても「無礼討ち」と言うだけの高央は、人が変わったように乱暴を働き、父や家中のものを悩ませる。苦悩の末、父は息子を紀州の田宮家に蟄居させる。しかし、そこでも有力な町人の手足を斬るなど、恐ろしい事件を起こし、家中はいよいよ騒然となる。
「三匹の侍」でとぼけた槍の遣い手の浪人・桜京十郎役で人気となった長門勇の主演第二作。異常な行動を起こしながら、村娘を相手ににこにこと川魚を食べる姿には、やっぱりどこか飄々としており、それだけに剣をとって人を斬る様子には恐怖が漂う。
そんな若殿をついに成敗することになり、その討ち手を引き受けたのが、征木兵衛(丹波哲郎)。諸国修行から帰り、親友高央を斬ることになった兵衛は、なぜ、こんな乱行を働くのか調査を開始。剣豪でありながら、どこか大物探偵のような風格があるのは、さすがボス! 山本周五郎は、高央乱行に意外な真相を用意していた。男たちの悲しみと、道場乗っ取り騒動の始末。若き日の菅原文太の立ち回りにも注目。

掲載2009年10月16日

『新選組血風録』
いよいよ最終回!舞台は五稜郭。
土方が出あった「京の女」とは

(しんせんぐみけっぷうろく) 1965年

掲載2009年10月16日

明治期。土方歳三(栗塚旭)の実家をひとりの男が訪ねてくる。土方家では、維新後も新選組に恨みがあると称する者の来訪が続き、警戒していた。しかし、その日、やってきたのは、歳三のかつての盟友・斎藤一(左右田一平)であった。苦しい時代を生き抜いた斎藤。そこから、歳三の回想が始まる。
鳥羽伏見の戦いなど、敗戦が続き、散り散りになった新選組の中でも、土方歳三は、函館五稜郭で戦いを続けていた。しかし、圧倒的な戦力を持つ官軍は次第に包囲網を狭め、五稜郭の軍は追い詰められて行く。作戦もたてられず、息詰まった幹部から意見が求められた土方は「戦いあるのみ」と、敵の軍艦を奪うというゲリラ作戦を実行するが…。
洋装の土方の姿がカッコイイ。その彼の前に現れたひとりの女。京から来たという女(森光子)が、函館に流れてきた真意とは。
土方と沖田総司(島田順司)との物言わぬ再会は感動的。時代を駆け抜けた土方の命運が決まる最終回。
この作品の根底には、脚本の結束信二、監督の河野寿一、プロデューサーの上月信二ら、戦争経験のあるスタッフの「戦いとは何か」「生きるとは、死ぬとは」という問いかけがある。厳しい時代に翻弄され、進むしかなかった男たちの生き方を、亡き戦友たちに捧げたとしたら、思いの深さは計り知れない。

ペリー荻野プロフィール
ペリー荻野

1962年愛知県生まれ。大学在学中よりラジオのパーソナリティ兼原稿書きを始める。 「週刊ポスト」「月刊サーカス」「中日新聞」「時事通信」などでテレビコラム、「ナンクロ」「時代劇マガジン」では時代劇コラムを連載中。さらに史上初の時代劇主題歌CD「ちょんまげ天国」シリーズ全三作(ソニーミュージックダイレクト)をプロデュース。時代劇ブームの仕掛け人となる。

映像のほか、舞台の時代劇も毎月チェック。時代劇を愛する女子で結成した「チョンマゲ愛好女子部」の活動を展開しつつ、劇評・書評もてがける。中身は"ペリーテイスト"を効かせた、笑える内容。ほかに、著書「チョンマゲ天国」(ベネッセ)、「コモチのキモチ」(ベネッセ)、「みんなのテレビ時代劇」(共著・アスペクト)。「ペリーが来りてほら貝を吹く」(朝日ソノラマ)。ちょんまげ八百八町」(玄光社MOOK)「ナゴヤ帝国の逆襲」(洋泉社)「チョンマゲ江戸むらさ記」(辰己出版)当チャンネルのインタビュアーとしても活躍中。