ペリーのちょんまげ ペリーのちょんまげ

掲載2009年09月04日

『尻啖え孫市』
錦之助が、戦国のスナイパー雑賀孫市に!
勝新太郎の織田信長の敵か味方か?

(しりくらえまごいち) 1969年

掲載2009年09月04日

元亀元年二月。織田信長の城下に不思議な男が現れる。真っ赤な袖無羽織に白い革袴、黄金作りの大小、さらには背丈ほどもある鉄砲を担いだ超派手スタイルのその男こそ、三千人という最強の鉄砲集団“雑賀衆”を率いる頭領・雑賀孫市(中村錦之助)だった。
「戦は銭じゃ銭じゃ」と価値観がはっきりしている傭兵集団のリーダー孫市は、自分たちを少しでも高く売ろうと町を歩く。実は彼は、京で足の美しい女を「うまそうな女子じゃな」と見初めて、追っているのだった。そのことを知った木下藤吉郎(中村嘉津雄)は、にせものの姫をその女だと思わせて、まんまと味方に引き入れたつもりだったが、スナイパー一流の眼力を持つ足フェチ孫市をだませるはずもなかった。
原作は司馬遼太郎。
錦之助は、得意の豪快な演技を見せる一方、手紙を読んだだけで女の人相を言い当てるなど、ユニークな男を楽しげに演じている。孫市のことを「ええ男じゃが、やっかいなやつじゃ」という藤吉郎との友情の場面は、弟嘉津雄との共演だけにのびのびと見せる。
対照的なのは、勝新太郎で、冷徹な信長を抑え目に演じて、なかなかの貫禄。
監督は三隅研次。戦国を一気に突っ走るようなスピーディーな演出と、どこかもの哀しく、美しいラストシーンが心に残る。

掲載2009年07月17日

『十手無用〜九丁堀事件帖』
高橋英樹が豪快に悪を斬る!
千恵蔵、桜木健一、栗田ひろみも活躍

(じってむよう-きゅうちょうぼりじけんちょう-) 1975年

掲載2009年07月17日

九丁堀端の稲荷に依頼文と頼み料が投げ入れられると、人知れず事件解決に動き出す。その中心人物は、元南町奉行所同心・榊夢之介(高橋英樹)。彼は寺に居候して、金魚の飼育をして生計をたてているが、剣の腕は一流で独自の人間観察力を持っている。仲間は、元大泥棒の頭で今は植木屋の棟梁仁左衛門(片岡千恵蔵)と屋根職人の鉄平(桜木健一)、妹のおくみ(栗田ひろみ)、老いた女形の菊造(木田三千雄)。彼らは弱いものの訴えを聞き届け、巨悪にもひるまない。
 高橋英樹は得意の飄々とした浪人の味を出しつつ、いざ悪を前にすると、鬼のような強さを発揮。「貴様らごとき、悪党には十手無用!」のキメセリフも鮮やかだ。「八百八町連続爆破」の回では、爆弾事件で幼子を失った母から依頼がくる。いつもは温厚な仁左衛門までが「だんな、たまには乱暴なことをやりやしょう」と怒りをあらわにする。ちなみに当時は、企業連続爆破事件で世間が騒然としたころ。70年代は、世相を繁栄した時代劇が多かったとつくづく実感できる。「十手無用」の中には、テロを企てる学者とその一派が出てくるが、その裏には汚い犯罪が仕掛けられていたのだ。その一味?と思われる若い侍(河原崎建三)と親しくなったおくみが、哀しい決断を。アイドル栗田ひろみの熱演に注目。
 独特ムードの主題歌「都忘れ」も耳に残る。

掲載2009年07月10日

『戦国武士の有給休暇』
ジェームス三木の笑い&シビアな戦国物語
忍びルックの小林薫のとほほ演技はお見事!

(せんごくぶしのゆうきゅうきゅうか) 1994年

掲載2009年07月10日

戦国末期。信長の天下統一が目前に迫ったころ。主人公の榊信久(小林薫)は、戦続きの日々につくづく嫌気がさしていた。忍びの術に通じ、人付き合いもそこそこの信久は、愛する妻夕紀(若村麻由美)とゆっくり過ごすことも出来ない。結婚5年にして、子どもも授からないのではたまないと、ある日、信久は「辞表」を提出。しかし、受理されないばかりか、それを知った義父(佐藤慶)から、きつく叱られてしまう。
 戦国武士の世界にも、家庭第一主義の男がいた!? そんな視点から戦国を見てみると、深夜残業、長期出張、厳罰主義に強引な上司など労働という面では、戦国はとっても大変なことがわかる。脚本は軽妙にしてシビアな作品では定評のあるジェームス三木。主演の小林薫は、忍び姿や立ち回り、情けない武士のとほほ顔など、現代劇とは一味違う顔を見せて、楽しませる。特に「わしには男の哀愁がある」などととぼけた義父佐藤慶と信久の会話は見物のひとつ。他にも中村梅雀、阿部寛、斎藤晴彦ら達者な面々が人間臭い戦国武将で登場。彼らのわがままにキレた信久が「いい加減にしろ!」と叫ぶシーンには共感する人も多いはず。終盤は、信長が本能寺の変で急死して、事態が一変。天下をとった明智光秀に味方した信久の一族の運命は…。

掲載2009年05月01日

『座頭市物語(TVシリーズ)』
北大路欣也、太地喜和子、石原裕次郎・・・
豪華ゲストの熱演と勝新太郎がぶつかる!

(ざとういちものがたり) 1974年

掲載2009年05月01日

天保年間。盲目の渡世人の座頭市(勝新太郎)は、揉み療治をしながら博打三昧の旅を続けていた。映画で大ヒットしたシリーズのテレビ化で、森一生、三隅研次、田中徳三、井上昭、安田公義ら大映時代の名監督、勝自身も演出を手がけた。豪華ゲストも話題で、今週は北大路欣也、太地喜和子、勝の親友・石原裕次郎の貴重なテレビ時代劇出演作も。
 北大路欣也がゲストの「祥月命日いのちの鐘」では、冒頭、市が老女の肩をもむシーンから始まる。実は老女は地元の親分の女房だったが、夫亡き後、強欲な隣町の中森一家と決死の一戦の直前だったのだ。老女の味方は弱虫の跡取り息子(青山良彦)ひとり。殴りこまれた瞬間、市は敵方の浪人を斬る。しかし、そのとき明け六つの鐘が。市は母親の祥月命日だけは明け六つから暮れ六つまで仕込みを抜かないと誓っていたのだ。抵抗できず中森一家に簀巻きにされて川に放り込まれた市を助けたのは、渡世人の紋次(北大路)。「お前さんの居あい抜きが見てえ」とどこまでも追いかけてくる紋次に閉口しながら、市は悪党一家と向き合う。近頃CMで犬役などユニークな活躍をする北大路の無鉄砲ぶりが面白い。川でぷかぷか浮きながら平気な顔をする市と紋次の珍妙なやりとりなどユーモアと裏社会に生きる悲しみがあふれる一編。ラストの寂しさも心残る。

掲載2009年04月17日

『新選組(主演:鶴田浩二)』
鶴田浩二の近藤勇と栗塚旭の土方歳三。
名監督内出好吉の人情味ある「新選組」

(しんせんぐみ) 1973年

掲載2009年04月17日

幕末の京都。幕府の治安部隊となった新選組。そのドラマは伝説的な人気を誇る「新選組血風録」はじめ、数多く描かれてきた。今回放送される「新選組」は、土方歳三といえばこの人!栗塚旭に、映画界のスター鶴田浩二の近藤勇という顔合わせ。脚本は東映の名シリーズを手がけてきた結束信二らが手がけ、監督は内出好吉。このシリーズは大きな特長は、血なまぐさい事件が多い史実だけでなく、新選組の中に人間のあたたかさを盛り込んでいる点である。規律重視で粛清も致し方なしという“非情”な土方に対して、「歳さん、それでいいのか」と考える近藤が対照的だ。
形が整いつつある新選組だが、内部抗争は続く。幹部の芹沢一派が無謀な振る舞いをして庶民を困らせ、やがて近藤勇(鶴田浩二)らと対立することになる。うどん屋の小娘に乱暴を働こうとした芹沢の鉄扇を止めたのは、沖田総司(有川博)と近藤らだった。「芹沢さん、乱暴はやめたほうがいい」あくまで紳士的。しかし、後半、伊東甲子太郎一派との油小路の対決あたりは、さすがに人間の業を感じさせる。「池田屋では刀を折るまで戦った藤堂くんが」とかつての仲間を斬ったことを悔やむ近藤。倒幕・佐幕関係なく薬を出す太っ腹薬種問屋女将に中村玉緒らゲストも豪華。左右田一平の斉藤一、島田順司も顔を出す。森光子のナレーションも味わい深い。

掲載2009年01月30日

『素浪人 花山大吉』
近衛十四郎と品川隆二の名コンビが登場!
とぼけた会話と立ち回りでスカッと痛快。

(すろうにん はなやまだいきち) 1969年

掲載2009年01月30日

氏素性は定かではないが、どこか貫禄のある素浪人・花山大吉(近衛十四郎)と、お調子者だが曲がったことは煙管の雁首でも許せない焼津の半次(品川隆二)が、旅先で悪をやっつける痛快時代劇。この花山大吉。剣の腕は素晴らしいが、酒が大好きでどこの宿場でもまずは一杯。しかも、肴は「おからが一番」。酒が切れると弱くなって落ち着きがなくなるばかりか、品も悪くなり、しゃっくりが止まらなくなる困った人。一方、半次はクモが大の苦手で、威勢がよかったのがクモ一匹でひっくり返る始末。このズッコケぶりに、おとなもこどもも大笑いしながら、ふたりの旅を応援するのでる。
 第六話「若様はおからが好きだった」では、半次が「二日酔いのたぬき」のような顔をした女子に追いかけられ、ひと騒動。なんとか宿に逃げ込むと、妙な渡世人と相部屋に。「下々では左様あいなるか」など言い出すおかしな渡世人(沢本忠雄)は、実は若様。高慢ちきな姫君との見合いが嫌で城を逃げ出したのであった。そんな若様に大吉は「くよくよ考えるより、おからで一杯やったほうがいい知恵が浮かぶ」とまたまた酒を薦めるが…。
「だんな〜」「バカたれが!」と絶妙なふたりの掛け合いと、剣戟スターらしい近衛の豪快な立ち回りで、スカッと事件解決。この楽しさは、何度見ても飽きない。

掲載2009年01月23日

『すっとび仁義』
橋幸夫がやくざ者と若様の二役で歌いまくり
中村玉緒の豪腕&上品腰元にもご注目

(すっとびじんぎ) 1961年

掲載2009年01月23日

浅草観音の境内。やくざ姿のすっとびの新三(橋幸夫)は、柄の悪い地回りと喧嘩三昧。幼なじみのお雪(姿美千子)はハラハラする毎日だった。そんな折、奥州松平家では、若殿新之助(橋)が重病で大騒動。跡継ぎを巡って、御家騒動にも発展しそうになっていた。そこで忠臣たちが思いついたのは、赤子のころに乳母に託した新之助の双子の弟。その弟こそ、新三であった。出生の秘密を聞かされ、兄の危機を救うためならと屋敷で殿様修行を始めたはいいが、堅苦しくてうんざり。その新三のお目付け兼師匠となったのが、用人甚兵衛(益田キートン)の娘・八重(中村玉緒)だった。腰元を集めて丁半やりだす新三を居合いでひっくり返し「失礼仕りました」と平然としている八重。やがて新三は、御家にまつわる陰謀に立ち向かう。
映画デビュー当時、大映のスター市川雷蔵に似ていると言われてうれしかったと語る橋幸夫にとって、初めての主演カラー作品。カラッと爽やかな青年やくざは、名曲「潮来笠」のイメージと重なる。主題歌「すっとび仁義」はじめ、歌に立ち回りに痛快な活躍ぶりだ。
また、相手役の姿美千子は、相手役公募で1万6000人から選ばれ、この作品でデビューした“シンデレラ娘”。下町育ちの新三の行状に呆れて「あー、もう切腹する!!」と大騒ぎする益田キートンも見物。

掲載2009年01月16日

「SABU〜さぶ〜」
大河ドラマ「天地人」の妻夫木聡主演。
山本周五郎の人情味あふれる名作

(さぶ) 2002年

掲載2009年01月16日

2009年の大河ドラマ「天地人」が初回高視聴率を獲得。時代劇でも大物ぶりを発揮しはじめた妻夫木聡。(ちなみに大河ドラマは初出演)その主演映画として若い世代にも人気となったのが、「SABU〜さぶ〜」である。
江戸の下町で、兄弟のように育った栄二(藤原竜也)とさぶ(妻夫木)。二枚目で仕事もできる栄二は、弱虫のさぶをいつもかばい、ふたりは信頼しあっていた。しかし、ある日、栄二に盗みの疑いがかかり、仕事を失ったばかりか、寄場送りになってしまう。事情を知らないさぶは必死に栄二を探すが、そこにいたのは「復讐」を誓った栄二だった。
小さな行き違いが若者の運命を狂わせる。ひたすら栄二を思うさぶの真心が通じる日はくるのか。妻夫木は、心優しい弟分を好演。田畑智子、吹石一恵ら若手女優が重要な役割を果たす。寄場で荒れ狂う栄二に淡々と人生の奥深さを知らせる役人役で出演している沢田研二もしみじみとした味を出して光る。
それにしても、妻夫木聡は、「泣き」のシーンが多い男優だ。先日、ご本人にインタビューした際、「特別こう泣こうと思ったことはない。スタッフ、共演者みなさんが雰囲気を作ってくれるので、脚本の泣きでないシーンで泣けることもある」と語っていた。「SABU」の監督は、パワフルな撮影で知られる三池崇史。泣きのシーンにも独特の強さがある。

掲載2008年10月24日

『笹沢左保「峠」シリーズ』
「木枯し紋次郎」の危機を救った佳作四篇。
高橋悦史、河津祐介、天知茂、松橋登登場!

(ささざわさほとうげしりーず) 1972年

掲載2008年10月24日

1972年、平均視聴率30パーセント強の人気作「木枯し紋次郎」に大きな危機が訪れた。主役の中村敦夫がアキレス腱を断裂するケガをしたのだ。そこで急遽制作されたのが、同じ笹沢佐保原作の「峠シリーズ」だった。
 第一話「中山峠に地獄を見た」は生きて帰れないという佐渡から逃げて12年前の許婚を探し続ける渡世人・長次郎を高橋悦史が熱演。第二話「狂女が唄う信州路」は誤って娘の右腕を切り落とした渡世人・丈八(河津祐介)の苦悩と戦い、第四話「鬼首峠に棄てた鈴」では松橋登が姉への思いを断ち切る渡世人が描かれた。
 第三話「暮坂峠への疾走」は、草津で嫌われ者の綱五郎を懲らしめた銀次(天知茂)。騙されて掛け合いにいったところ、農民たちに襲われて、相方の小三郎(倉丘伸太郎)が瀕死の状態に。渡世の暮らしに嫌気がさしたところに、処刑される国定忠治の晒し首を盗んでほしいと依頼される。
「あっしらの世界には三つの掟がある。死んだ者を思い出すな。てめえが長く生きるな。かたぎの娘さんに惚れるな」
 厳しく自分を律してきた銀次だが、一途な娘(梶芽衣子)に心が動き、「龍舞」と言われた俊足で走りだすが…。夕暮れの峠を走る男の姿は哀しく美しい。天知茂は筋の通った男を見事に演じている。見ごたえある一本。

掲載2008年10月17日

『新・御宿かわせみ』
1000万部突破の平岩弓枝の名作捕物帳
沢口靖子のるいと村上弘明の東吾の恋物語も

(しん・おんやどかわせみ) 1997年

掲載2008年10月17日

平岩弓枝原作「御宿かわせみ」は、1973年に連載が開始され、一時中断をはさみ、現在も続く大人気シリーズ。2007年からは明治時代を描く新シリーズがスタートし、江戸から時代を超える名作として話題になった。
 大川端で小さな宿屋「かわせみ」を営む女性るい(沢口靖子)には町奉行所与力・神林家の次男坊東吾(村上弘明)という恋人がいるが、身分違いという悩みがある。元同心の娘るいと八丁堀で岡っ引きをしていた番頭嘉助(笹野高史)らのいる「かわせみ」には、さまざまな事件が持ち込まれ、東吾と親友の同心・畝源三郎(平田満)が解決に乗り出す。
 第五話「美男の医者」では、かわせみに得体のしれない美男が宿泊したことからひと騒動。寒井千草と名乗るその男(橋爪淳)は、医師のようだが、どうやら偽名らしい。そんなとき、十手持ち長助(石倉三郎)の親類が倒産した呉服屋から手間賃がもらえず、難儀しているという話を持ってくる。呉服屋の母子は店を売り、つましい暮らしをしているが、一方で計画倒産だったというウワサも。東吾は美男の医者と協力して、ある仕掛けを思いつく。医者の意外な秘密とは…。
 娘らしい沢口とべらんめえの村上は、さらりとした恋仲という印象。早口の女中お吉役の藤田弓子がいい味を出す。橋爪淳は古手川祐子版「御宿かわせみ」で東吾を演じている。

ペリー荻野プロフィール
ペリー荻野

1962年愛知県生まれ。大学在学中よりラジオのパーソナリティ兼原稿書きを始める。 「週刊ポスト」「月刊サーカス」「中日新聞」「時事通信」などでテレビコラム、「ナンクロ」「時代劇マガジン」では時代劇コラムを連載中。さらに史上初の時代劇主題歌CD「ちょんまげ天国」シリーズ全三作(ソニーミュージックダイレクト)をプロデュース。時代劇ブームの仕掛け人となる。

映像のほか、舞台の時代劇も毎月チェック。時代劇を愛する女子で結成した「チョンマゲ愛好女子部」の活動を展開しつつ、劇評・書評もてがける。中身は"ペリーテイスト"を効かせた、笑える内容。ほかに、著書「チョンマゲ天国」(ベネッセ)、「コモチのキモチ」(ベネッセ)、「みんなのテレビ時代劇」(共著・アスペクト)。「ペリーが来りてほら貝を吹く」(朝日ソノラマ)。ちょんまげ八百八町」(玄光社MOOK)「ナゴヤ帝国の逆襲」(洋泉社)「チョンマゲ江戸むらさ記」(辰己出版)当チャンネルのインタビュアーとしても活躍中。