ペリーのちょんまげ ペリーのちょんまげ

掲載2008年06月20日

『上意討ち 拝領妻始末』
理不尽なお家のやり方に父三船敏郎が怒る!
小林正樹監督・橋本忍脚本の骨太映画作品

(じょういうち はいりょうづましまつ) 1967年

掲載2008年06月20日

会津藩士・笹原伊三郎(三船敏郎)は、口うるさい妻すが(大塚道子)に閉口しながらも、実直に勤めに励んでいた。ある日、伊三郎は、上司から長男・与五郎(加藤剛)の妻に主君の側室おちの方(司葉子)を拝領せよと命じられて仰天する。大それたことと辞退するが、藩は半ば強引にことをすすめ、また、与五郎もおいちを迎えると言い出し、おいちは笹原家に入る。しかし、うわさでは、おいちは殿に殴りかかるという騒ぎを起こしたという。何かとおいちに辛くあたるすがをかばいながら、ひとり娘をも生まれて仲むつまじい夫婦となった与五郎らを見守る伊三郎。ところが、おいちの産んだ藩主の子が世継ぎになったことから、再びおいちは城へ上がるように命じられる。
「生木を裂く」と理不尽な藩のやり方に怒る父子、命がけで決断をするいち。
小林正樹監督が封建的な武士の世界の非情を描き、ヴェネチア映画祭国際批評家連盟賞を受賞した作品。
 伊三郎の親友・浅野帯刀(仲代達矢)は、事情をすべて知りながら、藩との間に入り、苦悩する。また、手伝いに入った娘(市原悦子)が、武士の家に降りかかった悲劇を見つめる語り部のような存在として光っている。
なお、加藤剛は後年、テレビ長編で伊三郎役を演じ、本チャンネルでも放送されている。

掲載2008年05月23日

『雑兵物語』
寄せ集め雑兵たちのタフな戦い。
勝新太郎と仲間たちのずっこけ人情戦国話

(ぞうひょうものがたり) 1963年

掲載2008年05月23日

戦国時代。田畑を荒らされ、ただでさえ困っている農村に、突如「足軽徴兵」のお達しが来る。人数不足を補うため、流れものの茂平(勝新太郎)はじめ、女丈夫だが臨月のおたつ(太平洋子)と亭主の仙太(堺駿二)、男のふりをしている於菟(藤村志保)まで駆り出され、全体にやる気はなし。もともと給料目当てで、どっちが勝ってもかまわない連中は、早速勝敗を博打にする体たらくだ。いざ、戦場でもわいわいがやがやで役に立たないばかりか、なんとおたつは戦場の真中で出産!?
金がいるとなれば、適当に戦場を走り回って、金目ものを盗品買いのおばば(ミヤコ蝶々)に売りつけたりする。
 しかし、その要領のよさを見込まれ、小田信長(小林勝彦)から、「大砲の弾丸運搬」というでかい仕事を任された。ところがブツが何か知らない連中は、「火気厳禁、取り扱い注意」と弾丸を「南蛮渡来の竜の目玉」などと言い出して、またまた大騒動。
 もともと市川崑監督の企画だったこの作品。メガホンをとったのは、市川監督の愛弟子ともいわれる池広一夫だった。脚本は黒澤映画などでも活躍した小国英雄。勝新太郎は、持ち前のパワーと人懐こさで、コミカルさと明るさを発揮。少年のような藤村志保のチャーミング。音楽も浜口庫之助が担当し、モダンな印象に仕上がっている。

掲載2008年03月07日

『刺客請負人』
森村誠一が描く江戸の闇の世界。
村上弘明が陰と陽、ふたつの魅力を見せる。

(しかくうけおいにん) 2007年

掲載2008年03月07日

元六郷藩徒士頭・松葉刑部(村上弘明)は、ある事情で藩を追われ、今は得意の剣の技を活かして大道芸で生計をたてている。が、裏では、「助っ人屋」の徳松(柄本明)から依頼されて人を斬る刺客であった。やみくもに人を斬るわけではなく、「義」を重んずる刑部の存在に一目置いているのは、同じ「助っ人屋」稼業の闇猫のお吉(若村麻由美)。また、六郷藩は、国家老(西田健)を中心に刑部暗殺がしばしば協議されていた。わざわざ困難な殺しを刑部指名で依頼したり、ワナを仕掛けたりと策略を練る藩幹部。最終的に刑部抹殺を命じられたのは、かつて同じ道場で「竜虎」と評された葛又五郎(永島敏行)だった。刑部と又五郎の男の友情も背景となっている。
 村上弘明が、表ではおっちょこちょいの浪人、裏では凄腕の刺客というふたつの顔を使い分ける。彼にからむ徳松も白首のおろく(小沢真珠)も明るいのに暗い、不思議な闇を感じさせて面白い。一方、ダーク一色なのがドスのきいた声の闇猫様。手下のお役者信次(西村和彦)とともに異様な存在感をかもし出す。
 原作は「人間の証明」などで知られる森村誠一。保身に走る藩の人間たちのエゴと、藩のために生きるしかない男、藩を捨てた男。それぞれの生き方を交錯させる手腕はさすが。
村上弘明のダイナミックな殺陣にも注目したい。遠藤憲一のナレーションもいい味を出す。

掲載2008年02月22日

『水滸伝』
いよいよ大詰め!梁山泊の未来は!?
73年当時で総制作費六億円の大作

(すいこでん) 1973年

掲載2008年02月22日

「今を去ること900年前。中国が太宗と呼ばれていたころ」と、芥川隆行の名調子で始まる「水滸伝」。大宗国の皇帝から疫病平癒のために、霊山に派遣された高求(佐藤慶)は、伏魔殿の封印を強引に破る。すると、大音響とともに地の底から百八つの流星が飛び出す。それはやがて、悪政を思うがままにする高求と戦う梁山泊の百八人の豪傑となるのだった。
 梁山泊の首領は、元近衛軍刑部の宋江(大林丈史)。彼を助けるまとめ役が元近衛軍師範の林中(中村敦夫)だ。梁山泊には虎退治の大男武松(ハナ肇)や若く威勢のいい史進(あおい輝彦)、潜入が得意の三兄弟(品川隆二、常田富士男、渡辺篤史)らが続々と集結。彼らは「義」によってつながり、結束は固い。しかし、高求は、陰謀、脅迫、拷問などあらゆる手を使って、揺さぶりをかける。
 主役クラスのキャストだけで30名、中国の町並みオープンセットを当時(73年)の費用で5000万円で製作、衣装・小道具まですべて特注。総制作費が実に6億円というテレビドラマでは空前のスケールで描かれた英雄ロマン。日本の時代劇とは一味違う中国武芸の殺陣と岩山で繰り広げられるチャイニーズ・ウエスタン調の武器・脱出劇も斬新。最終回のタイトルは「野望砂漠に果つ」いよいよ大詰めで高求との直接対決はなるか。林中の颯爽とした戦いぶりが光る。

掲載2008年01月10日

『新鞍馬天狗 夕立の武士』
小堀明男のまじめ&シリアス天狗様
宝田明、左卜全の悪役ぶりにもご注目。

(しんくらまてんぐ ゆうだちのぶし) 1955年

掲載2008年01月10日

正義の志士鞍馬天狗(小堀明男)は、二条城から千両箱が運び出されるという不穏な動きを目撃。あやしい山伏を追跡するが、邪魔が入って見失う。その翌日、古井戸から空っぽの千両箱と御金蔵番・手代木(沢村宗之介)の死体が発見される。この裏には、水戸家の御落胤・松平善三郎(土屋嘉男)を担ぎ出して、金を奪おうとする陰謀があったのだ。
 鞍馬天狗といえば、嵐寛寿郎の当り役として知られるが、原作者・大仏次郎は「人を斬りすぎ」とアラカン版に不満を抱き、自ら制作に関わって、本作を発表したのであった。よって、雰囲気はかなりシリアス。アラカンが「天狗のおじさん」として親しみを見せたのに対して、小堀天狗は、正義のヒーローに徹しようとしたイメージ。
 共演者は吉兵衛の藤原鎌足が渋い盗賊ぶりを見せれば、事件を見守る老武士の志村喬は貫禄を見せる。面白いのは、悪役陣で、最近ではミュージカルなどでもユニークな存在感を出す宝田明が嫌味かつ陰険な二枚目に。黒澤映画でも活躍した土屋嘉男が困ったわがまま殿様に。あやしい山伏のひとり左卜全の最後のセリフはたまらない。また、天狗と知り合う謎の女・おさん(北川弘子)、桂小五郎の恋人幾松(塩沢登代路)の美しさも光る。塩沢登代路が後にあけすけトークおばさま塩沢ときになるとは、とても信じられませんよ!

掲載2007年10月11日

『心中宵庚申』義理の息子を溺愛する母の鬼気迫る姿!近松女優喜和子VS信子の芸術祭大賞作品。

(しんじゅうよいごうしん) 1984年

掲載2007年10月11日

宵庚申とは、庚申待ちをする日の宵のこと。庚申待ちは、庚申(かのえさる)の日の夜、「この日に眠ると三戸の虫が災いして命を短くする」という迷信があり、仏家では帝釈天や青面金剛を、神道では猿田彦の神を祭って、徹夜で語り明かす風習があった。作者の近松門左衛門は、大坂の八百屋の養子・半兵衛が妻のお千代と心中した実際の事件を題材に脚色。作者最後の世話浄瑠璃となった。
 舞台は大坂の八百屋。半兵衛(滝田栄)は、伊右エ門(佐藤慶)おつや(乙羽信子)夫婦の養子となり、妻のお千代(太地喜和子)との仲もよく、商売に励むまじめ人間だ。しかし、愛嬌がよく明るいお千代に、おつやは何かとつらく当る。お千代が集金先でたまたま前夫(林与一)と再会したことを聞いたおつやは、半兵衛の留守にお千代を実家へ帰してしまう。その裏には、女として半兵衛を思うすさまじいおつやのゆがんだ愛情が…。
 険しい顔で「あれ(お千代)は店へ出さん方がよろし」「顔も見とうない」と言いながら、半兵衛には「私はもういっそ狂った方が!!」と迫ってくるおつやは怖すぎ!! 苦しむに決まっているお千代を再び半兵衛に預ける老父(辰巳柳太郎)の「娘ひとり死んだと思い…」という言葉には泣かされる。
 名脚本家・秋元松代の磨かれたセリフと鬼才和田勉演出による芸術祭大賞受賞作。

掲載2007年09月13日

『清左衛門残日録 仇討ち!播磨屋の決闘』清左衛門のもとに親友から果たし状が。気になる美人女将みさの消息は…。

(せいざえもんざんじつろく あだうち はりまやのけっとう) 1995年

掲載2007年09月13日

家督を息子に譲り、悠々自適の隠居生活かと思われた、元側用人の三屋清左衛門(仲代達矢)だったが、実際は、現役を離れたさびしさを実感し、藩内の争いごとや人間関係から生じるささいな事件にしばしば悩まされることになった。楽しみは親友の奉行・佐伯熊太(財津一郎)と、美人女将みさ(かたせ梨乃)の店で酒をくみかわすことだったが、みさは嫁ぐことになり、町を離れた。
 ある日、清左衛門のもとに友人の安富源太夫(室田日出男)から果たし状が届く。わけもわからず斬り合いになるが、それを救ったのは、みさと縁続きの類(浅丘ルリ子)だった。その数日後、源太夫は高札場で切腹して果てる。彼は何を訴えたかったのか。
 藤沢周平が初老の武士の暮らしとほろ苦い心を描いて人気になったシリーズ。このSP版では、清左衛門と友人たちの過去と武士として生きるしかない切なさが伝わってくる。浅丘ルリ子は独特の謎めいた雰囲気で、最後まで秘密を明かさない。清左衛門と互いに憎からず思いあっていたみさの消息は…。
 冒頭、激しい立ち回りで息を切らす清左衛門と源太夫。仲代達矢ご本人は「本当に息が切れるほど大変だった」という。室田日出男は、白いものがまじったヒゲ顔で、愛憎と哀愁を表現。大ベテラン森繁久弥の渋い演技もお見逃しなく。

掲載2007年08月23日

『将軍家光忍び旅』明朗時代劇キャラの代表選手・三田村邦彦!影武者にあの人物をすえての世直し旅。

(しょうぐんいえみつしのびたび) 1990〜91年

掲載2007年08月23日

将軍家光(三田村邦彦)は、江戸から京都への道中を抜け出し、浪人徳山竹之進となって、「世の中を広く知りたい」と宣言する。これにあわてたのは、上様に近い大久保彦左衛門(神山繁)と春日局(三ツ矢歌子)。仕方なく、一心太助(三波豊和)らの手を借りて、家光の影武者を探すが、まったく適任者が現れない。「こんなあたしでよかったら」などと女形のへんな役者まで面接にくる始末だった。ところが、その女形が男姿になると、「イケるかも?」そして見事採用になったのが、新吉(コロッケ)だった。どこを見て判断したのやら…。しかし、彼らの旅には「道中で家光を消す」と、怖い顔で言い放つ都築安房守(中条きよし)の魔の手が。柳生十兵衛(勝野洋)、春日局の侍女(高島礼子)、「竹之進さまぁ〜」とつきまとう女スリ(萬田久子)も巻き込んで、家光の世直し旅が始まる。
 必殺シリーズの三田村VS中条という構図ではあるが、三田村邦彦は、明るい時代劇キャラの顔が一気に定着。葵の御紋が入った横笛を吹きながら、牛若丸のような羽衣を被って、敵の前に登場するなど、華やかさ(どこにそんな衣装を持ち歩いているのかなど、突っ込みどころも含みつつ)を振りまき、悪人たちを退治した。なお、三田村は♪あ〜男は〜と主題歌「男のふるさと」も熱唱。ナレーション熊倉一雄の名調子もお楽しみに。

掲載2007年06月07日

『さむらい探偵事件簿』江戸の探偵・高橋英樹がふんどしで疾走!?

(さむらいたんていじけんぼ) 1996年

掲載2007年06月07日

腕利きの同心だった本間五月(高橋英樹)は、上役に逆らい失業。よろず請け負いの探偵業を始めるが、仕事がない上に、遊び人で女好きだから、金とは縁がない。そんなとき、美人浮世絵師・山風堂涼花(萬田久子)から、「私の贋の春画探し」を依頼される。探索を進めるうち、どうも涼花の話に裏がありそうだと知った五月は、あやしい浪人(西岡徳馬)と別れた妻(神保美喜)と関わりを持つ。彼らは、本間の元同僚でお調子者の新城半兵衛(石橋蓮司)と岡っ引きの文六(有薗芳記)が追う事件にも関係がありそうだった。
「本間ちゃーん、お金があるときに来てねー」と飛び跳ねてる遊女(洞口依子)はミニスカートにアクセサリーがじゃらじゃら。
「この痛さは…愛だ!!」と、半平衛は、何かにつけて文六の頭を十手でポカポカ。(撮影では文六のカツラの傷みが激しく床山さん泣かせだったらしい)さらに肝心の五月はふんどし姿で銭湯を脱走して町を走り回る、などなど第一回監督の村川透はじめ、監督も俳優陣もリアルを突き抜けて、徹底的に遊んだ超ユニーク作品。当時、高橋英樹は「江戸の『探偵物語』に」と意気込んでいた。
 事件解決後、五月は涼花の家の前に浮かぶ小舟で生活することに。持ち込まれる珍事件を五月はどう解決するのか。宇崎竜堂のパワフルな主題歌もいい感じに仕上がっている。

掲載2007年05月10日

『仕掛人・藤枝梅安 梅安乱れ雲』大坂の元締め・白子屋菊右衛門との決戦!小林桂樹の円熟梅安の生き様が描かれる。

(しかけにん・ふじえだばいあん ばいあんみだれぐも) 1982年

掲載2007年05月10日

仕掛人稼業を続ける鍼医・藤枝梅安(小林)は、江戸の元締め・音羽屋半右衛門(中村又五郎)から、大坂の暗黒街を牛耳る白子屋菊右衛門(島田正吾)の仕掛を依頼された。腕のたつ浪人・小杉十五郎(柴俊夫)を裏社会に引き入れようとする菊右衛門と、それを阻止しようとする梅安の深い対立に、決着をつけるときが来たのであった。菊右衛門をおびき寄せるために、江戸で囲っていた妾のお八重(風間舞子)を誘拐した半右衛門だが、菊右衛門も簡単には引っかかってこない。菊右衛門の身辺には、サディスティックな浪人(真田健一郎)、なぞの美剣士(藤堂新二)も護衛についていた。互いを探りあい、抹殺の機会を狙う緊迫した時間が過ぎていく…。
 梅安は、なじみの女おもん(神崎愛)に「いつかは自分の思うさまに生きなければ」と諭す。ただごとではないと悟った女の悲しい表情。また、裏の仕事の相棒、彦次郎(田村高廣)も「梅安さんは死ぬ気だ」と感じ取る。
 ときに変装なども披露した小林梅安だが、今回は派手な演出はなく、闇の男たちの生き様を描くことが中心。江戸の役人を抱きこみ、一喝する島田正吾の貫禄はさすが。ポーカーフェイスながら、周到に相手の急所をつく半右衛門の又五郎もいい味を出す。「仕掛人の寿命は5年」と悟りきった梅安を渋く演じきる小林桂樹に注目を。

ペリー荻野プロフィール
ペリー荻野

1962年愛知県生まれ。大学在学中よりラジオのパーソナリティ兼原稿書きを始める。 「週刊ポスト」「月刊サーカス」「中日新聞」「時事通信」などでテレビコラム、「ナンクロ」「時代劇マガジン」では時代劇コラムを連載中。さらに史上初の時代劇主題歌CD「ちょんまげ天国」シリーズ全三作(ソニーミュージックダイレクト)をプロデュース。時代劇ブームの仕掛け人となる。

映像のほか、舞台の時代劇も毎月チェック。時代劇を愛する女子で結成した「チョンマゲ愛好女子部」の活動を展開しつつ、劇評・書評もてがける。中身は"ペリーテイスト"を効かせた、笑える内容。ほかに、著書「チョンマゲ天国」(ベネッセ)、「コモチのキモチ」(ベネッセ)、「みんなのテレビ時代劇」(共著・アスペクト)。「ペリーが来りてほら貝を吹く」(朝日ソノラマ)。ちょんまげ八百八町」(玄光社MOOK)「ナゴヤ帝国の逆襲」(洋泉社)「チョンマゲ江戸むらさ記」(辰己出版)当チャンネルのインタビュアーとしても活躍中。