ペリーのちょんまげ ペリーのちょんまげ

掲載2008年05月09日

『旅路』
原案・長谷川伸、脚本・監督稲垣浩。
股旅初挑戦の池部良はスタイル抜群の渡り鳥

(たびじ) 1955年

掲載2008年05月09日

旅がらす三日月直次郎(池部良)は、義理のために見殺しにしてしまった代貸政吉の妻おたか(岡田 莉子)と金之助(市川かつじ)を故郷に送り届けようとする。しかし、やくざと駆け落ちしたおたかを実家は受け入れてくれない。仕方なく、直次郎の故郷・信州に向う三人。そのうち、金之助は「おじちゃん」と直次郎を慕うようになり、直次郎もおたかに惹かれていく。そんな折、金之助が思い病にかかり、金がいる。直次郎は、自分の体を喧嘩場に売るしか、金を得る方法を思いつかなかった…。
 「直次郎というバカ野郎は、唄と博打と喧嘩のほかは何もできねえ」
原案は長谷川伸。得意のやくざと母子ものだが、脚本・監督の稲垣浩は、べたべたした書き方はせず、さらりと男の心情を描いてみせた。
 主演の池部良は、これが股旅映画初挑戦。すらりとした長い足で実に姿のいい渡り鳥ぶりを見せている。また、お調子者のちんぴらだんどり三太を加東大介が好演。「そばへ寄るな、油虫め!」と直次郎にののしられても、「そらひどい」とめげずについていく。親子を見守る居酒屋の親父・藤原鎌足、零落した親分・小沢栄も味がある。また、稲垣監督に見出された子役・市川かつじがいい表情を見せる。ラストシーンの余韻は、股旅ものならでは。

掲載2008年01月17日

『翔ぶが如く』
西郷吉之助の西田敏行はまさにはまり役!
篤姫教育係の幾島(樹木希林)も熱演。

(とぶがごとく) 1990年

掲載2008年01月17日

外国船がたびたび来航するなど、幕末の日本の行く末を憂う薩摩藩主島津斉彬(加山雄三)は、活動の最中に病に倒れる。斉彬に引き立てられた西郷吉之助(西田敏行)は、その本復を願い、庭先で祈り続ける。願いが通じたのか、斉彬はやっと回復。吉之助は涙わ流して喜ぶ。そして、再び動き出した斉彬が提案したのは、自分の養女・篤姫(富司純子)を十三代将軍家定に嫁がせることだった。
 私は先日、篤姫ゆかりの地を鹿児島に訪ねたが、現地では「西田さんの西郷さんはよかった」と今でも語り継がれている。確かにはまり役。また、市内には巨大な島津斉彬公の像があり、よくみると、それはちょっと太めの加山雄三にそっくり!! ちょいとキザに決めた大久保利通像もよく見れば、このドラマの鹿賀丈史に似ている気もする。そっくりさん大集合ドラマといえるのである。
 斉彬から「篤姫輿入れの物品を整えよ」と命じられて、「なんとわしが」と困惑する西郷と、篤姫の教育家係・幾島(樹木希林)のやりとりはとぼけているのか真剣なのかわからないほど面白い。
 一方で、結婚相手である家定との間にこどもが授かることが絶望的だと知りつつ、斉彬の「上様に次期将軍を徳川慶喜と推薦するように」と厳命を受けた篤姫。その哀しみと決意の表情が美しい。

掲載2007年12月26日

『天下騒乱 徳川三代の陰謀』
西田敏行がシリアスな土井利勝に!
荒木又衛門(村上弘明)の苦悩と決断とは

(てんかそうらん とくがわさんだいのいんぼう) 2006年

掲載2007年12月26日

病に倒れた大御所家康(山崎努)は、病床に将軍秀忠(山下真司)と老中・土井利勝(西田敏行)を呼び、衝撃の告白をする。
「利勝は家康の隠し子だ…」
 その言葉を受けた利勝は、徳川の天下を守るためなら鬼になると決意する。
 三代将軍には家光(池内博之)が就いたが、彼には「母から疎まれている」という屈折があった。彼を心から心配するのは春日局(片平なぎさ)と柳生十兵衛(中村獅童)だった。
 そんな折、河合又五郎が大名家の家臣を斬り出奔。旗本衆の庇護を受けて逃亡する。この敵討ちは「外様大名」と「旗本衆」の天下を揺るがす大事件になりかねない。鬼の利勝は、決着をつけるため、荒木又右衛門(村上弘明)に「命をくれ」と切り出す。
 有名な決闘が、実は利勝による陰謀だったという新解釈で展開。西田敏行が一切笑いなし、シリアスな顔を見せる。愛妻家の又右衛門が仇討ちに巻き込まれる苦悩、彼を救いたい十兵衛(丹下左膳に続き、獅童にとって再び隻眼の剣士役)の葛藤など、男の生き方が描かれて行く。私は現場を取材したが、女装などしてふざける家光と十兵衛を「何をしておる!!」と一喝する家光の母(かたせ梨乃様)は大迫力。家光を守ろうとする春日局(なぎさ様)との火花がスタジオに飛んでるようだった。女のバトルもすごい。

掲載2007年12月21日

『大忠臣蔵』
民放初の大河ドラマにして制作費10億円!
貫禄の三船大石、渡哲也の堀部安兵衛も活躍

(だいちゅうしんぐら) 1971年

掲載2007年12月21日

「元禄14年は日食とともに明けた。それは不吉を予感させた…」
 印象的なナレーションで始まった物語は、浅野内匠頭(先代・尾上菊五郎)は勅使接待の大役を仰せつかるが、その指導役である吉良上野介(市川中車)から、たびたび嫌がらせを受けることに。その背景には「吉良殿、せいぜいいじめておやりさい」と不気味に微笑む柳沢吉保(神山繁)の思惑があった。
 やがて殿中で刃傷事件を起こした内匠頭は即日切腹。悲報は赤穂に届き、家老・大石内蔵助(三船敏郎)は大きな決断を迫られる。
 忠臣蔵の世界を一年にわたってていねいに描いた民放初の「大河ドラマ」として話題になったほか、71年の放送当時の金額で制作費が10億円!富田勲の荘厳な音楽も印象深い。
 大石がこれまで以上に剣豪(殺陣は黒澤映画作品で知られる久世竜)で、次々送り込まれる刺客と戦ったり、柳沢の密偵おらん(上月晃)らスパイとの情報戦も緻密の描かれるのも大きな特徴。血気さかんな堀部安兵衛を渡哲也、人間味あふれる義父・堀部弥兵衛を有島一郎、熱血漢の不破数右衛門を新克利、殿の最期に男泣きする片岡源五右衛門に江原真二郎、大石りくに司葉子、阿久利に佐久間良子と豪華キャストが揃う。赤穂藩士でありながら、曲者ぶりを発揮する大野九郎兵衛の伊藤雄之助もファンは見逃せないはず。

掲載2007年12月06日

『忠臣蔵』北大路欣也の大石内蔵助の正統派忠臣蔵。
平幹二朗の憎憎しい吉良上野介にも注目

(ちゅうしんぐら) 1996年

掲載2007年12月06日

勅使接待役となった若き赤穂藩主・浅野内匠頭(緒形直人)は、貢物が少ないかったことから、ご指南役の吉良上野介(平幹二朗)から嫌がらせを受ける。屏風の絵から料理にまで難癖をつけられ、たった一晩で200の畳替えをも強いられ、耐えに耐えた内匠頭だったが、勅使接待の当日、ついに殿中松の廊下で、吉良に対して刃傷に及ぶ。
 芸能生活40周年の節目に大役を演じた北大路欣也は、この作品の依頼を早速父・市川右太衛門に報告。「色気のある内蔵助」を目指し、内蔵助が色町で遊ぶシーンを写した当時の番組のポスターを大変気に入り、今も大切にしている。また、大石りく役の梶芽衣子も、女優になる際、父から「女優になるからには大石りくが演じられるような存在に」と言われたという。それだけに思い入れもたっぷり。ふたりのシーンには、言葉はなくてもわかりあうおとなの夫婦の情感がにじむ。
 また、「田舎侍が」と嫌悪感をあらわにする憎憎しい吉良役の平幹二朗、気品あふれる瑶泉院の麻乃佳世、血気盛んな堀部安兵衛の世良公則、実直な寺坂吉右衛門の寺尾聡、商人の男気を見せる丹波哲郎はじめ、渡辺謙、音無美紀子など、総勢130人の豪華キャストの競演も話題に。大石らの動きを読み、策を練る家老・石橋蓮司の厳しい演技もお見逃しなく。

掲載2007年10月18日

『但馬屋のお夏』太地喜和子×秋元松代×和田勉の近松ドラマ 女の純情と強さ、怖さを詰め込んだ秀作

(たじまやのおなつ) 1986年

掲載2007年10月18日

享保12年5月、播磨国宝津(兵庫県御津町)は、恒例のあやめ祭で賑わっていた。加茂神社の舞殿では、華やかな金糸仕立ての衣装を身にまとったお夏(太地喜和子)が。突風に飛ばされたお夏の扇子に、とっさに自分の白扇子を投げて救った水野与一郎(名高達郎)は、以来、彼女のことが気になって仕方ない。本来、遊女が踊る舞をピンチヒッターとはいえ、商家の娘が踊ったことで、お夏は母お志津(渡辺美佐子)から小言を言われるが、もともと京都の公家に奉公して、里帰り中のお夏はケロリとしている。お夏の眼中には、義理の兄十兵衛(中村嘉葎雄)しかなかった。兄が嫁お菊(いしだあゆみ)をもらうのが辛くて奉公に出たお夏。しかし、兄はお菊と別れていた。その事情とは…。
 お夏にいきさつを聞かれたいしだあゆみが恐ろしい顔で「兄様にたんねてみなはれ!!」と言う姿には、すでに悲劇の予感が。「よう帰った」とお夏を迎えるもの柔らかな兄は、淋しげな背中だけで男の哀しみを表現。名手・秋元松代は近松門左衛門の原作を大胆に脚色。ラストシーンの意外さも見逃せない。
 加茂神社で完全に再現された祭り風景の美しさや、剣一筋の与一郎を見守る父織部役の植木等、物語の語り部的存在でもある清六役の佐藤慶など、和田勉ドラマらしい絶妙なキャスティングでつづられる人間ドラマ。

掲載2007年08月02日

『丹下左膳餘話 百萬兩の壺』愛すべきチャンバラキャラクター左膳見参! 山中貞雄監督のセンスが光る名作

(たんげさぜんよわ ひゃくまんりょうのつぼ) 1935年

掲載2007年08月02日

伊賀の柳生家では有事に備え、百萬両もの隠し金を蓄え、そのありかを家宝「コケ猿の壷」に潜ませていた。しかし、当代当主は、事実を知らず、コケ猿の壷を弟・源三郎の婿入り道具として送りつけてしまう。貧相な壷を見た源三郎は、「こんなものを」とくず屋に売り払う。そのくず屋が、金魚の入れ物にと少年チョビ安に渡されて…。一方、矢場の女主おふじ(喜代三)の亭主兼用心棒といえば、隻眼隻手の剣の達人・丹下左膳(大河内傳次郎)。不思議な縁でチョビ安の面倒を見ているうちに、壷の争奪戦に巻き込まれていく。
 柳生家では強欲な家臣が「百萬両といえば、殿は日本一の大金持ちですぞ」「ここはひとつ源三郎様をうまくだまして」などと密談。その弟の源三郎は「あのケチな兄上が壷を返せというのはおかしい」などと怪しむ。腹の探りあいのおかしさはほとんど喜劇。
 また、「腹のへったこどもを泣かせるとは」と亭主らしくおふじに強気に出るものの、「こんな子を連れてきて!」と言い返されて口ごもるなど、“怒りっぽいが根はいいおじさん”左膳のキャラクターも味がある。あまりに原作者の意図に反したキャラゆえに「餘話」と付いたというのもこの時代らしい。林家木久蔵のモノマネでもおなじみの大河内傳次郎独特のセリフ回しが、夫婦喧嘩にのって、軽妙にさえ聞こえるから面白い。

掲載2007年07月12日

『天を斬る』栗塚旭・島田順司・左右田一平の極秘捜査 人の心を大切にする結束脚本が光る。

(てんをきる) 1969年

掲載2007年07月12日

幕末動乱の京都。幕府の密命を受けた江戸講武所頭取の牟礼重蔵(栗塚旭)、京都西町奉行所与力の権田半兵衛(左右田一平)、京都東町奉行所の桜井四郎(島田順司)。彼らの仕事は京に潜む不逞の輩の探索、取り締まりだが、幕府の命令を公に出さないのが条件だった。三人は、京都無宿の浪人に身をやつし、女好きで謹慎中の京都西町奉行所同心・大沢孫兵衛(香月涼二)、大工棟梁の万五郎(小田部通麿)、百太郎(多くの時代劇で悪役を演じている西田良。若い!)と協力して、京の闇にうごめく悪を追い詰める。
 栗塚・左右田・島田はご存知、「新選組血風録」で人気を得た三人組。ここでは、初めて「幕府直属」として活躍することになる。もっとも、栗塚さんご本人は、「それまで武士になりたいと願った新選組や浪人などを演じてきたので、もともと幕府側である人間を演じるのには少し戸惑いがあった」と語っている。
 三人とその協力メンバーがずらりと並ぶと、いかにも「男のドラマ」。「血風録」でもキレのいい脚本を書いた結束信二のオリジナル世界だが、大きな特徴は、ただ男たちが戦うだけでなく、その妻や娘、奉公する女中など周囲の女性たちの心も大切にしていること。
時代のうねりの中で、「俺たちは正しいことをしているのか」重蔵の問いかけがドラマを深くする。

掲載2007年06月15日

『忠臣蔵−いのち燃ゆるとき− 前後編』超豪華キャストが揃った明治座公演 石井ふく子の演出で「命」が描かれる

(ちゅうしんぐら-いのちもゆるとき-) 2007年

掲載2007年06月15日

明治座会長・三田政吉氏の追善興行として、劇場ゆかりの名優たちが集結した舞台劇。今も人気を誇るテレビシリーズ「水戸黄門」第一部を手がけたことでも知られるベテラン宮川一郎の脚本、石井ふく子の演出で、四十七士の忠義はもとより、その家族の思い、吉良方の人々の願いも描き、「命」の重さを伝える。
 江戸で吉良方の動きを探る、堀部安兵衛(西郷輝彦)、前原伊助(松山政路)、杉野十平次(堤大二郎)、神崎予五郎(丹羽貞仁)らは、芝浜の波打ち際で、吉良上野介(林与一)の顔を確かめようと、待機していた。しかし、吉良方もたくみにその計略を阻止。焦る赤穂浪士たちは、大石内蔵助(松平健)の江戸入りをじりじりと待つ。大石の妻りく(三田佳子)は、夫と長男主税を心配しつつも、武家の女として、その思いを口に出せない。
 ある日、安兵衛の道場に美しい三輪(野村真美)が現れる。三輪は清水一学(松村雄基)とも親しい吉良方の女。一方、吉良邸には上野介にうりふたつの男が姿を見せていた…。
 赤穂浪士の装束を用意するひょう六(藤田まこと)と女房のお嶋(波乃久里子)が、笑わせながらもじんとさせる。忠義に生きたのは男だけではなく、かなわぬ恋、夫や子どもとの別れ、兄を見送る妹、石井演出らしい女たちのドラマに、劇場ですすり泣きが起こった。感動の舞台。

掲載2007年03月30日

『長七郎江戸日記スペシャル 怨霊見参!長七郎、弟と対決』老中暗殺の怨霊の正体は弟!?迷わず地獄へ落としていいのか、長七郎!

(ちょうしちろうえどにっき) 1985年

掲載2007年03月30日

冒頭、いきなり現れた異形の大男。不気味なその男は、老中を暗殺して去っていく。なんとその正体は、家光と将軍の座を争い、非業の死を遂げた長七郎の亡父・忠長の怨霊だという。次々、老中が襲われ、瓦版でも怨霊の話で大騒ぎ。長七郎の仲間である、辰三郎(火野正平)、五郎太(篠塚勝)も、怨霊と遭遇して危機一髪の目に遭う。
 そんな折、長七郎は、旅の母娘、あや(馬淵晴子)とちか(斉藤慶子)から、怨霊の正体が、自分の腹違いの弟にあたる平九郎(中幸次)ではないかと知らされる。苦悩する長七郎。怨霊を追う同心、さらに柳生宗冬(丹波哲郎)の策略も重なって事態は深刻に。平九郎を操る影の存在もちらつき、「なぜ、まっとうな夢を見なかった平九郎」と、長七郎は悲しい決断を下すのであった。
 決めセリフ「俺の名前は引導代わりだ!迷わず地獄へ落ちるがよい」も、弟に言えるのか。そんな気持ちも知らず、「腕が長い分、柳生とでも一対一なら勝てる」と自信満々の平九郎。中幸次は、能面をつけた大男を熱演。どこか華麗な雰囲気なのも長七郎の弟らしい。
 のんきな瓦版屋の牛吉(高品格)が、「長さんも(瓦版の文の)腕を上げましたね。昔は直訴状か果たし状だった」などとぼけた味を出すシーンなど、ファミリー的な和気あいあい場面も見逃せないスペシャルバージョン。

ペリー荻野プロフィール
ペリー荻野

1962年愛知県生まれ。大学在学中よりラジオのパーソナリティ兼原稿書きを始める。 「週刊ポスト」「月刊サーカス」「中日新聞」「時事通信」などでテレビコラム、「ナンクロ」「時代劇マガジン」では時代劇コラムを連載中。さらに史上初の時代劇主題歌CD「ちょんまげ天国」シリーズ全三作(ソニーミュージックダイレクト)をプロデュース。時代劇ブームの仕掛け人となる。

映像のほか、舞台の時代劇も毎月チェック。時代劇を愛する女子で結成した「チョンマゲ愛好女子部」の活動を展開しつつ、劇評・書評もてがける。中身は"ペリーテイスト"を効かせた、笑える内容。ほかに、著書「チョンマゲ天国」(ベネッセ)、「コモチのキモチ」(ベネッセ)、「みんなのテレビ時代劇」(共著・アスペクト)。「ペリーが来りてほら貝を吹く」(朝日ソノラマ)。ちょんまげ八百八町」(玄光社MOOK)「ナゴヤ帝国の逆襲」(洋泉社)「チョンマゲ江戸むらさ記」(辰己出版)当チャンネルのインタビュアーとしても活躍中。